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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
7章 組織を作ろう
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86話 おっさん少女

 秋葉原。昭和時代は電気街であった。PCのパーツや電気製品が多種多様に並んでおり、それらを買い求める人たちが大勢集まっていた。平成に移り始める頃にはオタクの街と言われアニメやゲームのメッカ。メイドの街となっていた。やはり人々がそれらを求めて大勢集まっていた。そして最近では観光の街である。電気街の名残とオタクのメッカに多くの飲食店が開店しており、多くの人が東京にきたら観光する街となり集まっていた。


 崩壊後、その秋葉原に集まっているのは人々ではなく異形のミュータントとなっていた。皮肉なことに常に大勢が集まる場所であるということは変わりがないらしい。


 秋葉原駅電気街口前の小さい広場にグールの群れが集まっていた、押し合いへし合い、仲間のグールの頭上をジャンプして越えていき、建物にへばりつきながら移動して、上空から見たらイナゴの群れか津波かと勘違いするだろう多さである。


 グールたちは一点を目指していた。その小さい広場にいる人間を目指して、食い殺さんとぎょろりと白目を剥き、唇は剝がれ歯茎から生えている牙のみでできている口からよだれを垂れ流し、腐臭を漂わせて欠けた肉体の代わりにミュータントの筋肉に覆われ、人外の力にて車両を踏み抜いて、アスファルトに亀裂を入れながら目指していた。


 グールたちが目指す一点のみは少しだけ空間が空いていた。周りはグールでいっぱいであり、その津波のようなグールの流れは空間を簡単に埋めることができると思われた。


 しかし、決してその空間は埋まらず、常にグールの死骸で積み重なり、ある程度死骸が重なると他に移動し始める。まるで芝刈り機のようにグールを狩りながら移動していた。


 その一点にいるのは少女であった。黒髪黒目の眠たそうな目で庇護欲を喚起させる子猫のような愛らしい小柄な体躯をしている人がみたら、確実に可愛い美少女と思うだろう少女である。


 中身は凶悪なチートの塊、その名前は朝倉レキ。ちょっと戦闘民族な少女であった。


 くるくると舞うように次から次へと襲い掛かってくるグールを殴り、蹴り、頭上に飛翔して頭を潰していく。


 以前の上野と同じ状況である。だが、そこには明確に違いが存在した。口元を薄らと微笑みに変えて冷静に余裕でなぎ倒していく姿があったのだ。


 体術lv7に遥が上げて、また一歩生物の力から外れたレキである。そのレベルアップが原因かと言われば多少はあるだろうが、本質は違う。


 レキが撃ちだす右拳にはグールを倒す最低限の力が込められていた。撃ちだすたびにグールはあっさりと砕けていく。その撃ちだしは既にグールには見えておるまい。音速の壁が発生せず、しかして音速に達しているレキの拳である。遥はスピードガンでもう測れないじゃん! と思っていた。


 その拳はごく自然体であり、敵は撃ちだされたことも攻撃されたことも気づかずに倒れ伏す。


 レキが繰り出す蹴りは、踏み込むアスファルトを砕くことなく、その威力で風を巻き起こすこともなく、まるで刃のように触れた敵を切り裂いていく。まるで、その少女が軽く蹴ったような力が感じられない蹴りである。しかして滑らかな切り口で敵はバラバラに切り裂かれていく。遥はもう剣術系のスキルいらないよね! と思っていた。


 そしてその移動は高速であるが、羽毛が浮いているような綺麗な舞であった。その高速移動を見ることができれば、美しいと見た者が呟くだろう。遥はもう短距離瞬間移動スキルはいらないよね! と思った。


 この間の騎士との戦いにて、遂にレキは壁を越えた。この身体は指先一本から足のつま先まで力に満ちて十全に使え、宿ったスキルは使いこなすのではなく、極限まで極めた使用を行えるようになった。


 戦闘民族のレキはそこで思ったのだ。リベンジをしようと! この間の上野での撤退は屈辱であったのだ。自分が下がることなど許されないのだ。私は最強なのだと。


 戦車での戦闘による勝利など、嬉しくない。必要ないのだ。私に必要なのは私が戦い打ち勝つことなのだ。あの敵はリベンジせねばなるまいと。


 そして壁を越えた今ならできると確信していたレキである。

 

 そんなレキは遂に遥が使用しているレキぼでぃから生み出されたおっさんの用心棒、朝倉レキ。少女の人格なのである。


 二人の人格が宿るレキぼでぃ。遥とレキは人格の主導権を争うかと思われた。小説や漫画なら凄まじい戦いが精神世界であったり、主人公がもう一人の人格を説得して融合したりしていたのだろう。それかおっさんが相手なのでレキが圧勝したかと思われた。

 

 だが、もう中年のおっさんから生まれた少女である。もう酸いも甘いも嚙み分けている遥から生まれたのだ。本当に酸いも甘いも嚙み分けたかは不明であるが。そんなおっさんは主人公気質ではない。脇役である。そして適当なおっさんでもあった。


 そんなおっさんから生まれた少女も適当であった。特に争うこともせずに必要な時に呼んでね。危ない時もなにかしたいときとかも変わってね。あぁいいよ、これからよろしくね。レキちゃんと精神世界で遥がレキの頭をなでなでして話し合い終了である。おっさんらしい妥協であり、常に眠そうなレキの性格も伊達ではない。適当なのだった。


 実に盛り上がりに欠ける二人であった。これにてふたりの融合終了である。いや、力を合わせるといった表現が正しいのかもしれない。おっさんの方が頼ることが多いという不公平感が感じる内容だが、頼る際は戦闘が主である。そしてどこかの戦闘民族と同じくレキは戦闘にしか興味はないのであった。


 そして、真のおっさん少女が完成したのである。もはやおっさん少女は完全体となったのだ。天下一武道会も開けちゃうのである。


 その結果、レキは数十万のグールを全て体術にて倒すことを決心したのである。戦闘中でも遥が寝ているわけではない。同じ体で、おぉすごいぞ、映画みたいと喜んで見ていた。いつも戦闘中はレキぼでぃに頼りスキルの指し示すままの遥である。特に気にはしていない。自分でもスキルを使用できるが使いこなすレベルに落ちるだけである。


 トントンとアスファルトを軽く踏みつけるレキ。アスファルトには亀裂も起こらない。移動の際の風圧も発生しない。しかしレキの姿はアスファルトを踏みつける度に消えて移動していく。グールは既にその姿を目にすることもできなく、ただ残像が生まれた場所に襲い掛かるのみである。


 そして砕かれ切り裂かれて次々と雑草の如く積み重なっていくグールの死骸。


 ぐぉぉとオスクネーが痺れを切らし、車両を投げつけてくる。以前なら車両ごと蹴り返していたレキである。


 軽く飛翔して投げつけられる車両の横を通りすぎ、その車のタイヤを軽く蹴る。軽い蹴りなのに簡単に外れるタイヤが宙に浮く。そのままタイヤにフィッと蹴り足の残像が残るほどの威力で蹴る。

 

 蹴られたタイヤはゴムは弾け飛び、ホイールのみとなりオスクネー目掛けて飛んでいく。天然のチャクラムと化しオスクネーと周りを切り裂いていく。


 もはや最低限の力で最大限の力を出すことも余裕なレキである。こんなこと造作もない。


 その攻撃をみてレキは新たな拳の使い方を生み出した。地面に着地をしたレキは右拳をスイッと打ちだす。打ちだされた拳により風が渦巻き、真空が生み出され拳の直線上にいたグールたちがその威力で肉塊となり砕かれていく。


「これなら3千発ほどのパンチで終わりますね」


 自分の生み出した拳の威力に、うんうんと自分を褒めるレキ。これならグールたちの殲滅も短縮できる。


「では、殲滅速度を上げますか」


 ちっちゃい可愛い手をぎゅっと握って呟き、目に輝きを灯す力を込めて少女の舞は夜半まで続くのであった。





 太陽が昇り始め夜明けが来る時間、その陽光が差し始めた頃に山の頂上で一休みする少女。汗が額を伝い、疲れで多少息がきれている。だが、それだけであり傷一つ負っていない。


「ふ~、すごいな、レキは。フハハハハ私はまた一歩最強の力に近づいてしまったか」


 両手を腰に当てて、ちょっと徹夜明けなのでテンションが高い遥である。二人の疲れは共有なのだ。グールの死骸でできた山の上で高笑いをしていた。勿論これまでの行動はカメラドローンが撮影済みである。レキは満足そうにお休み中である。


「ご主人様、おめでとうございます! また一歩最高の美少女に近づきましたね」


 ニコニコ笑顔のサクヤが称賛してくる。撮影したものの編集が大変だわと呟きも聞こえる。


「マスター、おめでとうございます。これでまた一歩安全に近づきましたね」


 口元を綻ばせて可愛く笑ってナインも称賛してくる。これで遥様は私のものですという呟きも聞こえる。


 二人の呟きは意味が分からないので、スルーすることにしたおっさん少女である。


「ご主人様、常時ミッションクリアです。もう常時ミッションは発生しません。カンストしましたね。そしてレベルも上がりました」


「あ~、さすがにこれだけ倒すと常時ミッションもカンストしちゃうか。仕方ないかぁ」


 残念そうにステータスボードを見るとレベル24になっていた。このゲーム仕様はレベル上げの経験値テーブルが厳しすぎると遥は思う。もしDLCを購入していなかったらまだ6とか7ぐらいではないだろうか。しかもスキルポイントがないので、まだ家の周辺をうろうろしていた可能性がある。


「さて、これからが大変だな」


 ちらりと周りを見るとグールやオスクネーの死骸、死骸である。死骸の山はそこら中に作られており片付けるのは大変そうだ。


「だが、体術がレキならば、私は超能力といきますか」


 にやりと笑って遥は溜まっていたスキルポイントを使用する。


「念動lv7取得!」


 一覧から選ぶのが面倒なので音声で取得する遥。


 念動は汎用的に使い勝手が良いと常日頃思っていたのである。だが、スキルポイントが全然足りないのだ。今も足りないがそれでもそろそろ超能力を上げるべきだろう。これで残りスキルポイントは3であるがスキルコアも9個あるし、まだ余裕があるので問題ないだろう。


 それに戦闘民族のレキが超能力に頼る姿が想像できない。物理無効の敵が来たら無効を破るまで殴り続けそうである。


 なので、後衛として動く遥である。極限までスキルは使えないが、使いこなすことはできるのだ。


 念動lv7を取得した途端に大きな力が自分に宿ることを感じた。今までとは比べ物にならない力が満ち溢れてくる。


「ふ、我はまた一歩神の領域に入ってしまったか」


 調子にのりまくるおっさん少女である。嬉しくて小躍りを始めてしまう。可愛いレキぼでぃが踊るその姿はサクヤのご主人様小躍り集に加わり、遥の黒歴史日記にも加わった。


 周辺の死骸をみやり念動lv7を使う遥。いきなり最強である。威力を確認する際には周りに影響が出ないことが望ましいのだ。


「念動雨!」


 アイスレインと同じ系統であるが、レベルが違う念動である。そして全く威力も違うのである。


 発動と同時に空が曇る。そして超常の力が周辺を覆う。


 超常の力が発動し、雨が降ってくる。ポツポツと透明な色の雨である。遥には影響はない。しかしその雨は凶悪な念動の雨であった。


 ざぁざぁと大雨の如く降り注ぎ周りの建物を、車両を、山となった死骸を雨の小粒が当たったところから、空間を歪ませてその体積を恐ろしく圧縮させ、建物も車両も死骸も全てタダの小粒のごみと化していった。


 数分後、雨が止んだので周辺の結果を見た遥はうんうんと頷く。


「そういえば、洋ゲー風味の仕様だったね。これ」


 久しぶりに思い出したよと呟く遥。洋ゲーでは上級レベルの魔法は物理で殴る前衛より全然強くなることが多いのだ。


 冷や汗をかいて周りをもう一度確認する。ただの更地となった元秋葉原駅周辺を。そこは圧縮された建物や車両、死骸がぽつりぽつりと転がるのみの更地となっていた。


「ふぅ、敵のミュータントも凶悪になってきたな! まさか一帯を更地にできる敵がいるとは!」


 驚いた表情をして、そんなことを叫び全てをミュータントのせいにするおっさん少女は家に逃げ帰るのであった。


 



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