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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
7章 組織を作ろう
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85話 おっさん少女と宝物庫

 広大な畳敷きの部屋での攻防が終わった面々は負傷が無いかお互いに確認をして話し合っていた。畳敷きの部屋に横たわるのは敵の死骸のみ。からくり侍の木の歯車が死骸から転がり落ち、機械仕掛けの頭が吹き飛ばされて畳の上に落ちている。騎士は砕かれ倒されており、ただ鉄くずが辺りに散らばっているだけである。


 その中でナナや爺さんが話しているのを横目にレキはラジオ体操をしているみたいに身体の各所を確認していた。腕を伸ばして、ちっこいおててをふりふりとしたり、小柄な身体を屈伸させていたり、足をバレエみたいに身体にぴったりとくっつけるみたいに持ち上げていた。ちっちゃい少女がやるその行動は極めて愛らしかった。その様子をカメラドローンが撮影している。サクヤの可愛いご主人様! という声が聞こえてきそうである。


 レキのその様子に気づいたナナが近寄って心配気な表情を浮かべてレキに聞いてくる。


「どうしたの、レキちゃん? 怪我でもした?」


 先ほどの騎士はヘンテコな名前であったが、その実力は本物であった。簡単に勝てたように見えたが、いや実際に簡単であったが、あの鎧はスカイ潜水艦と同等の硬度をもっていた。前のレキならあそこまで簡単に砕けることはなかった。


 しかし今のレキには関係ないことであった。あの時とは大幅に性能が変わったのだ。性能が変わったというか性能を極限まで使えるようになったのだ。


 そのようなことを考えていたら、ナナが一層心配した表情になりレキの全身を見ている。どこか怪我でもしたと思ったのだろう。


 その様子を見て、ふわりと笑顔を浮かべてナナにレキは返答をした。


「いえ、更なる自分のパワーアップに戸惑っていただけですのでご安心ください」


 周りがほんわかするような口元を綻ばせた笑顔である。癒し系のその笑顔はナナを安心させたようだ。


「そっか、大丈夫なら良かったよ。ところで静香さんはどこかな?」


 その答えに安心して、きょろきょろと戦闘開始からすぐにいなくなった女武器商人を探すナナ。


 あの人がいる場所なんて決まっていますと思うレキであったが、その前に深く深呼吸をした。


 スーハーと自分の高揚した精神を落ち着ける。リラックスした状態に戻ったことを確認する遥。


「あぁ、あの人がいる場所なんて決まってますよ。宝物庫でしょう」


 呆れた表情になり、あの人はまったくもうぶれないなぁと思いながらナナに答える。


「前もそうだったのです。いつの間にかいなくなり、財宝がある部屋にいました」


 肩をすくめて親切に教えてあげる。あの女泥棒に心配など無用である。心配するならみんなの財宝を全てかっぱらって、おほほほと笑いながら逃げられることだけが心配である。そして次に会う時は平然とした表情で笑いながら、この間はごめんね~と両手を合わせて謝るのだろう。そうに決まっている、アニメでそんな女泥棒がいたのだと遥は固く信じている。


 そして、サクヤからオデンの騎士を倒した報酬のクリアミッションを教えてもらう。


「ご主人様、先程の戦いで湯川の森ダンジョンをクリアせよ。exp5000報酬スキルコア、湯川の平原エリアをクリアせよ。exp5000報酬スキルコア、2つのエリアの支配者老舗の騎士、オデンを撃破せよ。exp10000報酬スキルコアがクリアとなりました」


 その情報をうけて、ステータスボードを見るとレベルが22になっていた。21からのスキルポイントアップもあり、スキルコアも大量に入ることによりまたもやパワーアップができるとおっさん少女は喜ぶ。帰還後にサクヤとナインと相談してスキルを取ろうと考える。


 その後、テクテクと合流した爺さんやアインたちと共に部屋の奥に歩いていく遥一行。奥には予想通りに黄金色の襖があった。これが宝物庫なのだろうと一発でわかる扉である。


 そして予想通り扉は開いていた。はぁ~と溜息をして遥たち一行は中に入る。そして部屋の中を見て驚いた。

 

 静香がいるのは予想できたが、宝の量を見誤っていたのだ。以前に戦ったキングモンキーも財宝を集めていたが子供が作る砂山程度であった。現実的に考えて周囲から集めてもたかが知れているのだ。だから、ここもそんなに期待はしていなかった。


 だが、その部屋で見たのは資産家の力を持つ宝物庫の凄さであった。


 ずらっと並んだ絵画、日本刀やツボなどの美術品。その数は100点は超えるだろう。そして静香がうはははと笑いながら小判を両手で掬っては空中に放り投げてその黄金の輝きを見て興奮している複数の千両箱。どうやら黄金に興奮していつものクールな謎の女武器商人の演技を忘れているらしい。ただの小物の女性がそこにいたのである。どこかのおっさんと同じだ。


「ほ~。こんなに集めていたのか? 湯川は」


 周囲を見渡して感心する爺さん。これは予想以上だったらしい。


 その声で正気に戻りこちらを向く静香。


「あら、ちょうど宝物庫の結界が解けて背景絵から本物にこれらがなったところよ」


 興奮していたところを見られたことなど無かったという表情で、髪をかき上げながら妖艶な微笑みをして静香がこちらに話しかけてくる。


 どうやらキングモンキーと同じような結界が張ってあった模様である。きっと背景絵を一生懸命に取ろうと、また無駄なあがきをしていたのだろうことがわかる発言である。


「それはちょうど私がオデンの騎士を倒したからですよ。そこの宝は分配しますからね、静香さん」


 呆れた口調で仕方ないなぁという残念な人を見る表情で静香に答える遥。


 その返答を聞いて静香は予想外に、うんうん、当然ねと素直にうなずいた。


「勿論よ。みんなで分配しなくちゃね。でもあなたのロボットたちは分配から外していいのでしょう?」


 冷静な表情に戻り平静な声色で確認を取る静香に、それで問題ありませんと答える遥。後でアインたちには何かご褒美がいらないか確認しようと記憶しておく。


「それじゃあ、お嬢様とナナさん、お爺さんは美術品全てでいいわ。私はこの千両箱で我慢するわね」


 肩をすくめて、私は妥協しましたという感じを出して提案してくる静香。千両箱を全てとは欲張りすぎである。どこが我慢しているのだろうか?


「ダメですよ。その千両箱も含めて分配します。適正価格で皆で分けましょう」


 そういう遥を信じられない表情で見る静香。ナナや爺さんは苦笑している。


「えええええええええええええ! 美術品全部で千両箱と釣り合うと思うわよ?」


 凄い大声で驚く静香。遥の返答を聞いて千両箱にしがみつく。提案を拒否されるとは思っていなかったようである。貴金属が絡むと途端にポンコツになる女武器商人であった。


「ふむ。たしかにこの絵画やツボなどは価値があろう。見れば全て本物だとわかる」


 顎に手を当てて頷きながら静香に言う爺さんに、そうですね。全部本物ですねと遥も頷く。頷くだけで勿論価値などわからない。価格を付けて置いてもらわないと価値などわかるわけはないおっさん少女である。たぶん子供の落書きや旅行でツボを作る体験ツアーで作成したツボがここに置いてあってもわからない。


 しかし、さすが金持ちの爺さんである。美術品を見る目があるようである。正直ほっとした遥。隣にいたナナもほっとするので、仲間であると安心する。


「しかし、貴金属が重要なのであって、絵画は二の次だ。そうではないか? ナナ殿」


 振り向いてナナに問いかける爺さん。


「あ、はい! 勿論です。静香さん貴金属としか武器取引してくれないじゃないですか!」


 爺さんの言われた内容でハッとしたようにナナは強い口調で静香に迫りながら批難する。


「いいやややあぁぁぁぁぁ、この黄金は私のなの! 誰にもわたしたくないのぉぉぉ」


 千両箱にしがみつきながらジタバタする、まるで子供な静香である。それをナナはびっくりした表情で見つめている。このポンコツモードを見るのが初めてなら、いつもの静香の態度と違いすぎて別人だと思うレベルである。驚くのも当たり前だ。


「ナナさん、静香さんは貴金属の財宝を見るとこんなものですよ。途端にポンコツになるのです」


 呆れた声音でナナに伝えて、このポンコツぶりは恐らくはダークミュータントになったエゴではないかと推測をしている遥である。あまりにも財宝を目の前にするとポンコツになりすぎるので。


「まったく、この崩壊した世界でも罪深いおなごよの」


 呆れた口調でジタバタと子供のような我儘を言う静香を見て呟く。


「そうよっ、私は罪深い愚かな女なの……。だからこれちょーだい?」


 うるうるした瞳を見せて周辺に問いかける静香。


「ダメです」


 全員の声が重なりその提案を却下するのであった。


 ちぇ~っと口を尖らせて愚痴を言い続ける静香は放置して、爺さんが適正価格を算出している。その横でウィンドウからナインも算出している。この二人の適正価格なら安心であろう。


「しかし、これだけの大判小判なんて凄いね~」


 感心したように千両箱の大判小判を触っているナナ。遥も便乗して触っている。その黄金の輝きは人を惑わせるのに十分な輝きを持っており、触るとひんやりしている。ジャラジャラ~とナナがふざけて小判をかき回している。遥もそれをやりたかったので、ジャラジャラ~と言いながら小判をかき混ぜて楽しむ。楽しむその姿はレキなので凄い愛らしい。


 おっさんがやると悪代官がジャラジャラ~とかき混ぜているおぞましい姿にしか見えないだろう。


「しかし、これだけの大判小判を集めるなんて凄い人だったんですね湯川さんって」


 価値を算出するために、目利きをしていた爺さんに問いかける。だって千両箱といいながら一箱に2000枚は入りそうである。それが3箱もあるのだ。一枚10万円としてもすごい金額である。


 そう伝えると戸惑った様子で爺さんが返答する。


「うむ…、この小判は全て正徳小判の上品だ。一枚200万はくだらんのだ」

 

 え?とナナがその価値を聞きジャラジャラと小判をかき混ぜていた手をそっと抜く。冷や汗も流れている。


「えっと、そうすると120億はするんですか! これ」


 遥も恐る恐るジャラジャラと遊んでいた小判から手を抜く。10万円とかじゃなかった。全然高かったと動揺する。ナナとお互いに顔を合わせて無かったことにしようと頷く。


「そうじゃ。それなのだが、湯川は資産家ではあってもこのような集め方はさすがにできんはずじゃ」


 周囲を見渡して爺さんが皆に言う。確かに他にも美術品まであるのだ。かなりの金持ちだったはずである。どういうことだろうと皆が疑問顔になる。いや一人は疑問顔にならなかった。


「あら、そんなの簡単な答えじゃない? 彼らは財宝を守る武士と騎士だった。それだけの話なのよ。そのためには財宝が必要だった。そうじゃない?」


 ふふと腕を組み妖艶に微笑みながら静香が語る。


「なるほど確かにそうですね。とすると倒すのはもったいなかったですかね?」


 想像通りなら、彼らは財宝作成スキルを持っていたはずである。


 それを聞いて、爺さんは首を横に振り否定して語る。


「いや、湯川はあれでよかったのじゃ。このまま財宝を守る亡霊武士になどならなくて幸せのはずじゃ」


 自分の答えに間違いは無いという表情で言い切るのだった。まぁ、静香は小声でそうからしらね? と呟いていたが、遥はそれをスルーした。


「何はともあれ、凱旋だね! これで防衛隊も武器の補充が存分にできるよ!」


 ナナが元気よく善良な人の性格のまんま言うので、遥はそれを止める。


「いえ、財宝の2割ぐらいは防衛隊に使っても良いと思いますが、全てを寄付するのは止めた方がいいと思います。後々他の人が同じように財宝を手に入れた場合にトラブルとなる可能性があります。全額寄付は防衛隊の部隊行動時だけで良いと思います」


 この忠告は大事だと思う。全てを寄付した場合、悪しき前例となり苦労した人間は報われずに前線に出ない人間に金が回るという事態になりかねない。


「うむ。儂もレキ殿の提案に賛成だ。善良さは時に残酷さにも変わるものだ。残りは保管しておくがよかろう」


 爺さんの言葉もありナナは納得する。だけどと続けて言う。


「でも、私、保管する場所無いですよ? 自分の部屋にこの小判とかを保管するのは怖いです」


「なら、私が預かって――」


「私の財団でナナさん名義でお預かりしましょう。いつでも下せるようにしておきますよ」


 静香の言葉に急いで遥が言葉をかぶせてナナに提案する。この貴金属コレクターに預けるなど、泥棒に自分の家の鍵を預けるようなものである。


「それじゃあ、よろしくね、レキちゃん」


 遥の提案に嬉しそうな表情で了承するナナ。それに対して不満そうな静香は無視である。


「さて、財宝の分配も決まりそうだし、私も終わったらまた行商に戻ろうかしら」


 その静香の呟きに皆もそれぞれに、儂は南部に戻り修業のやり直しだなとか、私はこの槍をつかいこなさないとねと語る。


「レキちゃんはこれからどうするの?」


とナナが聞いてきた。


 その問いを聞いて深呼吸を行い、ナナの目をしっかりと見ながら


「私はこの間のリベンジを行います」


と目に輝きを灯らせてレキは答えるのだった。






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