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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
7章 組織を作ろう
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84話 おっさん少女とオデンの騎士

 広大な部屋である。奥行きはサッカーを2面はできるほどであり、何百畳の畳が必要かわからないぐらいである。その中央に敵の武者とからくり侍が複数名、そして西洋のプレートアーマーを装備した騎士が武器を構えていた。


 対するは小柄な体に似合わない力を持つレキぼでぃと主人公なナナと爺さん。そしてアインとツヴァイである。


 爺さんが湯川と名乗った武者を眼光鋭く睨みながら叫び問いかけた。


「湯川よ! わかるか? 儂じゃ、水無月史郎じゃ!」


 その問いに湯川と呼ばれた武者は面頬を外して顔をさらけ出す。顔は唇は無く歯茎のみであり、目は充血しており赤い目をしていた。そして皮膚は渇ききっているゾンビなお爺さんであった。


「かんらかんら、どこの田舎侍かと思うたら、水無月であったか。これは奇縁であるな」


 わざわざ笑い声をたてて、やけに芝居の入った返答をする湯川。どうやら爺さんのオタク仲間であるらしい。演技が凝っている。


「強者と戦うのは我の望み! いざ尋常に勝負じゃっ。槍の使い手は刀の使い手の3倍飯を食うのだ。貴様に我を倒すことができるかな?」


 挑発的に叫び、面頬を戻す湯川。その答えを聞いて苦笑する爺さん。


「三倍飯は冗談であったのだが、まぁ良い。そなたの無念、怨念を儂が晴らしてみせよう!」


 八双にて刀を構える爺さん。すぐに踏み足を畳に踏みつけて走り始めた。


「おう! 水無月の! 戦場にてのならいは命の取り合いのみよ!」


 行けっとからくり侍に指示をして動かすと湯川も同じく走り始める。


「私らもいくぜっ!」


 足に備えつけられているブースト装甲を起動させ、青い光を噴射させアインとツヴァイも敵に接近しようと移動を開始する。私も行きますとナナも駆けだす。


 からくり侍に真っ先に肉薄したのはアインである。パワーアーマーのブースト噴射なら当然の速さである。


 ビュゥビュゥと風がパワーアーマーに当たる抵抗感を感じながら、青い光をなびかせてアインは肉薄した目の前のからくり侍にパワーアーマーの重厚な金属の厚さを持つ手甲を輝かせて右拳で殴りかかる。その一撃はあっさりとからくり侍の頭をぐしゃりと潰し、からくり侍は肉塊になって吹き飛ばされていった。


 ツヴァイたちも同じように軽やかにブースト移動を繰り返し、風を巻き暴風のようにからくり侍へと接近して殴りかかり吹き飛ばしていく。


 数十いたからくり侍があっという間に減っていく中、湯川と爺さんとナナは戦っていた。


 むん、と爺さんが上段で勢いよく足を踏み込み、高速の振りの流水刀で斬りかかるのを湯川は槍で簡単にカチンと音をたてて弾いていく。


 ぬぅと唸り連続で、上、右、左と斬る方向を変えながら斬っていくが、ことごとく湯川の槍に防がれる。


「そんなものか? ではこちらからだ!」


 湯川は槍を手元までいったん引き、槍をブオンと爺さんに突き立てようとする。


 その一撃はかろうじて爺さんに見える程度であり、その速さに対応できない。回避することもできなく受ける事もできない絶体絶命の爺さん。


 そこにナナがサスマタを入り込ませ、突きの途中であった槍がガチンと弾かれる。


「大丈夫ですか。水無月さん!」


 ナナがとっさに繰り出したサスマタにより槍の一撃を防がれた湯川は手首を巻き返して、そのまま次の攻撃に入る。


 連続して突きが繰り出されるが、何とか爺さんは身体を捻り、流水刀を槍に合わせてその突きを弾く。


「我が水無月流の流水剣。流れる水は絶たれることなく、その飛沫は岩をも断つ。湯川、お前に受けられるかな?」


 身体をひき、構えを取り直し、爺さんが叫ぶ。以前に遥が大笑いしたセリフである。


「おぉ! 受け止めてみせよう! かかってくるがよい!」


 湯川も槍を構え直し、流水刀の一撃を受け止めんとする。ノリのいいミュータントである。やはり爺さんのオタク仲間であったのだろう。


「水無月流、流水剣!」


 超常の力を持つ日本刀から流水が湧き出してきて、その刀身を覆う。そして爺さんは刀を振りかざし、上段から全てを断ち切らんと袈裟懸けで斬りかかる。流水は刃と化し敵を切り裂かんとする。


 「ふ、湯川流、クロスジャベリン!」


 湯川の十文字槍が光り輝き超常の力を発する。ちぇぃと叫び、輝く十文字槍で爺さんに突きかかる湯川。


 もうどこから突っ込んでいいのかわからない技である。なぜ英語の技を日本の槍で行うのか、そもそもジャベリンは投げ槍であるのにとか。ツッコミも投げられた模様である。

 

 だが、爺さんはその技名を知っていたのだろう。遥が聞いたら大笑い確実で戦闘不能になる攻撃に対して流水剣を合わせる。


 二人の技が大きな音をたててぶつかる。両者の武器が弾かれる。二人の体が衝撃で体勢が流されるが、やはり人外の湯川の方が基礎ステータスが高いためだろう。すぐに立ち直り槍を構え直し、爺さんに突きを入れようとした。


「とった! 水無月破れたり!」


 湯川の攻撃に、まだ身体が泳いでおり体勢を立て直せない爺さんは苦しい表情になる。自身の負けを悟ったのである。


 だが、この戦いは一騎打ちではない。ナナがまたもや身体を滑り込ませ、槍へとサスマタを合わせようとする。


「けぇぇ! クロスジャベリン!」


 またもや湯川が超常の力を使い、光り輝く槍。その槍に触れたら通常の武器等粉々に粉砕されるだろう。


「たぁぁぁ」


 しかしナナは気合をいれて叫び力の限りサスマタを突き込む。そのサスマタの先端が超常の力にて一瞬歪む。

 

 十文字槍はそのサスマタにより弾かれる。またも衝撃で弾かれる湯川。粉々に粉砕されるサスマタ。


 だが、衝撃で弾かれたのは湯川のみであった。衝撃が来る前にサスマタを手放したナナはそのまま足を畳に強く踏み込み、湯川に肉迫する。


「ぬぅっ」


 湯川も体勢を無理やり立て直そうとして槍を振りかざす。


 しかし、先程と違い力の無い槍の振りである。ナナは槍の持ち手である腕を掴み捻って、そのまま投げ飛ばす。


 ドスンと重い音がして倒れこむ湯川。宙にくるくると回転して浮く十文字槍をサッとナナはジャンプして掴み取り湯川の首元に勢いよく叩き込んだ。


 ズンと頸垂れがその一撃に貫かれる音がして、ボキッと肉を貫いて骨が砕ける音がした。


 「見事だ、娘よ」


 倒れこんだ湯川が呟く。


 爺さんがそれを見て駆け寄り問いかける。


「湯川よ。正気があったのか?」


 その問いに首を少し横に振る湯川。


「儂は死んだ。ゾンビにやられて死んだのだ。だが、気がつけばあの騎士の眷属となり果てていた…」


 静かな声で語る湯川。救うことができなく無念そうな爺さん。


「だが、最後に念願の戦場に立てたのだ。心残りは無い。さらばだ、水無月よ…」


 ふ、と口元をまげて笑う湯川。そして自分を倒したナナを見やる。


「そして我を倒した娘よ。どうかこの爺の最後の武器、武士斬りの槍を使ってやってくれないか」


 ナナが、はいと答えると、そうかと返事を聞いて湯川はただの屍に戻るのであった。


 周りには打ち倒されたからくり侍とアイン、ツヴァイたちがいるのみである。




 お互いの力を見定めんと離れた場所で見ていたオデンの騎士と遥はあちらが決着が着いたことを確認した。


 まじかよ、ナナさん最後に超能力を使ったよね? と遥は驚愕していた。


 ほんのわずかだが、湯川との最後の攻防で超常の力をサスマタが纏ったことを感じたのだ。


 どうやら主人公覚醒イベントみたいだったようである。そして十文字槍を手に入れたナナはますます主人公となるだろう。


 天然でそれをやるとは、本当にナナは凄いなぁ、かっこいいなぁと感激する遥。もはや彼女は映画とかの登場人物である。


「ふむ、我が配下はやられたか、致し方無いが我が全てを片付ける必要となりそうだ」


 騎士が呟く。遥はそれを聞きとがめて話しかける。


「残念ながらそういうことを言う悪役は大体主人公に負けるのですよ」


 体を半身に構えて右腕を持ち上げて、戦闘準備完了の遥である。


 そして、心中で思うのだ。レキぼでぃ先生、お出番ですと。ピンチに陥ると用心棒を呼ぶただの小物のおっさんにふさわしい行動である。そういった行動もやられ役には多いのだが自分のことは棚に上げるのである。


 


 巨体である。馬も騎士もその存在感は圧倒的であり、右腕にもつ西洋槍は長大だ。その長大な槍を揺るぎもしないで持っている腕力は相当のものであろう。


 ブルルと馬が結構高そうな畳に蹄をこすり上げる。あっという間にボロボロになる畳。もったいないなぁ、なんでこいつ畳の上で戦おうと思っているわけ? と不満に思うおっさん少女。


 そう思った瞬間に馬は消えた。いや、消えたと思っただけで、一瞬で蹴り足を繰り出しおっさん少女に接近してきたのだ。


 一瞬の移動で馬は暴風を発生させレキぼでぃの目の前に現れた。


 その移動をレキぼでぃは見逃さなかった。瞬時に対応するべく右に踏み込み残像が出るほどの速さで回避する。


 騎士槍でのチャージ攻撃だったのだろう。レキぼでぃの眼前を騎士槍が通り過ぎ、一瞬で後方に移動していた。


 一般人では瞬間移動をしたとしか思えないだろう攻撃の速さである。


「なるほど、お馬さんの移動は速いみたいですね。でも獅子よりは遅いです」


 頷きながら呟いてレキぼでぃは再び構えを取る。


 再び蹄を畳にこすりつけ始める馬。そしてまたレキぼでぃへと移動せんと一瞬の蹴り足でその巨体を移動させ肉迫してくる。


 突き出される騎士槍。レキぼでぃはその槍をじっと見つめて待ち構える。


 先端がレキぼでぃに刺さる寸前、目の前に迫り1センチもないだろうところまで槍が迫ってきた時にその紅葉のような可愛い手を槍に添えて巻き上げて、体を捻り回転させ避ける。


 レキぼでぃが身体を捻り回避している間に超常の力が発生して、空間の歪みが身体を覆う。


 そして通り過ぎようとする馬に体に満ち溢れる力を解放させ蹴りを入れた。


「超技サイキックロー」


 ローキックにしては凶悪な蹴りを繰り出し、蹴り足はまるで刀の振りのように鋭く速く振り抜かれる。


 その攻撃は空間を切り裂く長き刃となり、その攻撃を受けた馬の全ての脚が切り裂かれて飛んでいく。


 勢いよくレキぼでぃの横を通り過ぎんとした速度のまま横倒しになり畳を削りながら吹き飛ぶ馬。


 騎士はその攻撃に驚愕し、素早く馬から飛びあがり逃れる。


 ガシャンと金属鎧の重々しい音と一緒に着地する騎士。


「ぬぅ、なんと恐ろしい一撃よ」


 全ての脚が切り裂かれた馬を眺めて騎士が呟く。


「お馬さんは邪魔なので最初に退場していただきました」


 何でもないことのように語るレキぼでぃ。倒した高揚もなく、ただ当然の結果として受け止めている態度である。


 騎士はぬんっと槍を振り、倒れ伏した馬の頭を串刺しにした。ヒヒィンと断末魔の悲鳴を上げて死ぬ馬。


「戦えない軍馬など生きていても仕方あるまい」


 冷酷に言い放ちレキぼでぃを睨む騎士オデン。


「だが、我は馬のようには簡単にはいかんぞ?」


 にやりと自分自身に自信があるのだろうレキぼでぃに言い放つ。


「そうですか。そのプレートアーマーで、お馬さんのように移動できるのでしょうか?」


 小首を可愛く傾げて疑問を問いかけるレキぼでぃ。


「ふふふ、高速移動などできんでも問題は無い。我の鎧を貫くことなどできんのだ!」


 強気に負けフラグを言う騎士。この言葉で負けは確定であろう。


 「では、確かめてみましょうか」


 レキぼでぃは、畳をトンッと軽い音をたてて踏み込み騎士に攻撃を開始する。


「ぬぅ」


 とレキぼでぃの移動を見て、槍を構える騎士。


 しかし、その構えは遅く既に懐にレキぼでぃは入り込んでいた。


 たあっと可愛い声を上げて、踏み込みを行い軽いジャンプをして、唸る右拳を胴体に叩き込む。


 ちっこい手から生み出されるとは思えないパワーが鎧に当たる。騎士の体が後ろにズザザと下がる。攻撃を耐えるために騎士が踏み込んだ足の威力で畳がこすれて削れていき摩擦で煙が生み出される。


 しかしそれまでであり、ダメージを受けた感じは無い。


「ふはは、その程度では我の鎧は貫けないぞっ」


 多少焦った声で騎士が叫ぶ。今の一撃は大分強力だったみたいである。


「うけよっ、我が斬鉄剣を!」


 槍なのに剣技を繰り出す騎士。どうやら爺さんの仲間の可能性が微レ存である。


 騎士はその腕を振りかぶり槍を突き込みレキぼでぃを殺さんとする。超常の力が槍に集まり一本の黒鉄色の矢となり飛んでくる。どうやら斬鉄剣と言いながら斬り裂くのではなく貫く技らしい。


「獅子の手甲展開」


 カチャカチャと黄金の手甲を展開させるレキぼでぃ。展開させた右拳をぎゅっと握る。


 飛翔する一本の矢と化した槍の前に右拳を撃ちだす。


 撃ちだす右拳は光に包まれていく。


「超技レオブロー」


 レキぼでぃは超技を発動させる。黄金の光は右腕に急速に集まり眩しき光と化す。


 そして撃ちだされる一本の黄金の矢。接近してきた相手の黒鉄の矢とぶつかる。空間が歪みギギィと嫌な音が響く。

 

 だが、その歪みはすぐに消えてなくなる。黄金の力に耐えられなくなった黒鉄の矢を撃ち消しながら。


 槍を突き出したままの構えがとけていない騎士はフルフェイスの中で驚きで目を見張った。


 あっさりと自分の奥義が破られたのである。だが、我が鎧ならば防ぎきれると攻撃を受け止める。


 だが、黄金の矢はあっさりと戦車砲すら軽々と防ぐ超常の力を持つ鎧を撃ち貫いた。


「馬鹿な…」


 驚きのまま騎士は呟く。そして貫かれた部分から亀裂が広がり砕かれていく。数瞬後にはバラバラに騎士は砕かれ散るのであった。


 「なるほど、素晴らしい威力です。どうやら私も壁を越えたようです」


 ワキワキと黄金の手甲を付けた右拳を開けたり広げたりするレキ。


 あっさりと騎士を打ち砕いてイベントは大幅カットされるのであった。


「でもオデンの騎士を倒して、更なる力に目覚めるのはちょっとなぁと思うな」


 おっさん少女はやり切れない思いで呟くのであった。


「あの騎士はオデン、武者は湯川と名付けました」


 戦闘終了後にサクヤが口を尖らせてブーブーと不満そうに名付けてくるのであった。 

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