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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
7章 組織を作ろう
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79話 おっさん少女と前線の人々

 上野の不忍池、東京都にあるその池を知らないという人はなかなかいないだろう有名どころである。上野公園を中心に上野動物園、上野博物館等が集中しており東京の観光名所の一つであった。


 もはや過去形である。既に観光客が来て賑わうこともなければ、花見に人々が訪れることも無いだろう。


 崩壊した世界で昔を知る人間にとっては酷く寒々しい場所となっていた。


 そんな不忍池に重低音が響き始める。キャラキャラと無限軌道を描く車輪にて近づいてくる威圧感溢れるロマンカー。その名は戦車である。


 複数台でやってきた戦車に驚き、水場にて安穏としていた小動物がわらわらと逃げていく。


「可哀想だと思うけど仕方ないね」


 強襲揚陸艦の司令席に座り、ウィンドウ越しに逃げていく小動物を見ながら遥は呟いた。皆可愛い動物なのだ。できれば触らせてもらい撫でたり餌を与えたりしてみたいと思うのだ。


「ご主人様、仕方ありません。都内がここまで厳しいとは思いませんでしたので」


 サクヤが遥にすまなそうな表情で話しかけてくる。


 随分しおらしいな?サクヤらしく無いと警戒する遥。信用無さすぎな銀髪メイドである。


「レキ様と小動物が戯れる絶景が見れるチャンスだったのですが」


 続きの言葉を聞いてハァとタメ息をつき、やっぱり変態銀髪メイドだったと安心するのだった。


「各ツヴァイたちは予定通りの行動に移ってください」


 ナインが指示を始めて、了解しましたとツヴァイたちが計画どおりに動き始めた。


 都内の敵の多さと危険性を考慮して、いくらか自分のツヴァイたちも駐留させ施設も作成することにしたおっさん少女。


 ガションと池に大型水質濾過装置付きポンプをツヴァイたちが取り付け始める。


 この装置は池の水を飲用可能レベルまで濾過できる装置である。これを取り付ければ装置から水を一日に決められた制限までは使い放題だ。勿論エネルギーは使うので補充は必要だが。


 ここで注意するのが取り付ければエネルギーの続く限り一日に決められた制限までは使い放題ということである。即ちゲーム仕様なので、池の水は使わずに謎パワーで水が生み出されるのだ。

 

 ただゲーム仕様なので水場に設置しないと使えないという縛りがあるので、池に設置しただけなのであった。もっと使いたいならばたくさん設置しましょうというシムな感じである。


 それに合わせて水力発電機も設置した。効果は水場におけば電力が一日に作り出される制限までは使い放題だ。濾過装置付きポンプと同じ設定である。


 現実になるとこの手の施設はチート過ぎだよねと思う遥。


 尚、水力発電は汚染が無いが発電量も少ない。汚染浄化装置なんて設置したくないので水場に拠点を設置することにしたのだ。


 何故ならば発電量が高い火力発電施設を大量に作って汚染の街をシムなゲームで直ぐに作るおっさんなので、現実でそれをやらないように、事前にそうならないようにナインが忠告したのである。何しろ拠点聖域化が無い拠点なのであるからして。


 優しいストッパーのナインである。この可愛い金髪ツインテールなメイドがいなければ上野はおっさん少女の手で、さらなる崩壊都市となっていたであろう。


 施設の設置が終了すれば、後はバリケードを配置するだけである。たくさんのバリケードをトラックで運び、よいしょよいしょとツヴァイたちが拠点周りを囲んでいった。勿論、おっさん少女も小柄な可愛いレキぼでぃをこき使い設置を手伝った。そろそろレキぼでぃは給与を求めても良いだろう。無論メジャーな選手と同じ高額年俸である。


 この作業を数日間かけて行ったのだった。


 そして、周辺のグールも大幅に減少したことと、エリアボス撃破によるミュータント弱体の浄化が発生したことで、ミュータントは小走りゾンビにまでランクダウンした。それに合わせてようやく新市庁舎コミュニティの兵が来たのである。


 


 上野公園を囲む小拠点の前に歩兵輸送トラックが到着する。プシューとエアブレーキの音と共に車両が停止する。そしてバラバラと兵士が降りてきた。


 その様子を拠点前に駐機してある揚陸艦からモニター越しに見ていた遥は疑問に思った。表情に疑問を浮かべサクヤに問いかける。


「ねぇ、サクヤ? 何か一般市民ぽいのが混ざってない?」


「そうですね。明らかに練度が低そうな兵がいます。新兵を入れたのでしょうか?」


 サクヤもトラックから降りる面々を見て戸惑った表情で答える。明らかに他の兵士よりも遅い動きの兵士がいるのだ。まだ武器にも慣れていないのだろう。ワタワタした感じである。


「豪族にしては珍しいな。危険な場所に新兵を送り込むなんて」


 首を傾げる遥。豪族らしく無い配置である。それに新兵など補充をいつしたのだろう? 自衛隊と警察官ではさすがに人が足りなくなったのであろうか。


 聞いてみるしかないなと、揚陸艦のハッチを開けてテクテクと外に出るおっさん少女。


「ご主人様、どうも様子がおかしいです。彼らの一部は兵装がバラバラです」


 ん〜?と彼らをよく見てみると確かに一部の兵装がバラバラだ。アサルトライフルではなくショットガンやサブマシンガンをメインにしていそうな連中がいる。それらはみんな新兵ばかりである。


「あぁ、そういうことか。多分私の予想通りなら厄介なことが発生したみたいだね」


 嘆息する遥。新市庁舎での露店、それらに伴う人々の貨幣概念の復活。自分たちの買い取りもそれに拍車をかけたのであろうと、新兵たちの正体が薄々予想できた。


「豪族でも抑えられないとなると厄介だねぇ」


 まぁ、私たちには関係ないけどねと、ある意味冷酷なことを呟き到着した新市庁舎コミュニティの面々に顔を見せるおっさん少女であった。




 華奢で庇護欲を喚起させる小柄な愛らしいレキぼでぃを利用して、フリフリと可愛く手を振って歓迎するおっさん少女。相手に見られることを考えて、今の身体を最大に活用している模様である。


 おっさんが同じことをする場合、こんなに歓迎するのは旅行案内のガイドぐらいであろう。普通なら何か裏がありそうだと警戒されるのがオチである。人々の好感度は外見が大きすぎるのである。美少女とおっさんの悲しい格差社会だった。


「到着お疲れ様です、豪族さん。お疲れでしょうから仮設住宅でひとまずお休みになられますか?お風呂も設置しておきましたよ」


 眠そうな目をしながらもニコニコ笑顔で無邪気な可愛い表情を見せて裏を感じさせない遥。美少女の身体なら朝飯前の演技である。


「いや、引き継ぎを先に済ましてしまおう。儂らの現状を話さなければならないしな」


 苦虫を噛んだような表情で答える豪族。やはり予想通りなことが進行しているのだなと確信する遥。


「ご無理をなさらない方が良いと思いますよ?豪族さんは大分お疲れの様子ですし」


 首を横に振り否定する豪族。仕方無いといった表情で言葉を重ねてくる。


「いや、移動で疲れたわけではない。取り敢えず宿舎に移動してから話そうではないか」


 疲れた顔でそう提案するので了承して、おっさん少女は宿舎に案内するのであった。


 仮設設置した宿舎にて、やっぱり前線に来ていた主人公なナナが率先してどうぞどうぞとコーヒーを配り始める。


 ありがとうございますと受け取り、ひとまずコーヒータイムである。コクコクと紅葉のようなレキぼでぃの可愛いおててでコーヒーカップを両手で包みながら飲むおっさん少女。周囲の人間をホンワカさせる効果はバツグンだ。


「こちらは水力発電機及び濾過装置付きポンプを設置、バリケードも拠点を囲み済みです。水力発電機及び濾過装置付きポンプは一ヶ月に一回のメンテナンスと燃料補給が必要ですが現状問題は無いです。ツヴァイも三名を交代制にて駐留、戦車も一台ツヴァイ専用として置いていきますね」


 水も電力も謎パワーで生み出されますとは勿論言わない遥。こちらの引き継ぎは完璧ですよと伝えて、今の発言で相手の反応を見てみる。


「そうか。大変に助かる。こちらも拠点守備のために精一杯行動すると約束しよう」


 玉虫色っぽい返答であるが、こんなものだろうと遥は了承しましたと頷こうとした。だが、そこに口出しをしてきた人間がいた。


「百地隊長。引き継ぎならばこの周辺の建物は手つかずなのか聞いてもらえませんか? それと有事の際には配置してあるロボットがこちらの命令を聞くかです」


 それはいつか見た生徒会長であった。若いのにこの部隊に混じっていたので、気にしていたのだ。映画や小説でよくあるパターンでないことを遥は祈っていたが、やはりおっさん少女の願いは神に届かないようだった。多分通知拒否されてると思われる。


 疲れた顔をして、生徒会長を注意することも無くこちらを見て返答を待つ豪族。


 それを見て、大分豪族はコイツラにやられているなと感じながら遥は返答した。


「建物が手つかずかどうかなんて私たちには関係ありません。それと有事の際には拠点の守備に徹して、危険であれば退却するようにツヴァイには命じてあります。あなたたちはその工程内でできるだけ守るように推奨はされていますが、ツヴァイの機体保全が第一となります。指揮下に入る? そのようなことは許可されていませんね」


 いつもの眠たそうな目に冷酷な光を纏わせながら言い放つ遥。強気で押していくし、ツヴァイの命はきみたちより断然高いのだ。うちの家族を使えるのは私だけなのだよと生徒会長を軽く威圧を込めて睨む。


「拠点防衛が第一? 人の命は二の次と言うわけですか?」


 その返答を聞いて詰め寄ってくる生徒会長。正直ウザい。男性のレキぼでぃへの極度な接近はNGであるのだ。


「二の次ではありません。第一がツヴァイたちの保全、第二が拠点防衛、あなたたちは三番目が良いところでしょうか。それに何か問題でも?」


 小首を可愛く傾げて不思議そうな何か問題あるのという表情で生徒会長を見るおっさん少女。


「君はそのことに疑問を覚えないのかい? 自分の命と比較してみればわかるんじゃないかな?」


 心配気に眉を寄せてこちらに続けて問いかけてくる見た目爽やかな青年である。


 遥はそれを聞いて、凄いことを聞いてくるなと感心した。勿論自分の命が一番大事である。たとえガツガツとゾンビに美味しく二回喰われていても大切なのには変わりないのだ。

 

 勿論レキぼでぃだって大切だ。最前線にて戦わせているが、それでも無駄死にするつもりも傷つくつもりもない。可愛い可愛い美少女なのだから。


 だか、それを聞いて遥は内心ほくそ笑んだ。何故ならば最近知ったのだが、レキは組織の命令を忠実に聞いて戦う孤高の美少女らしいのだ。確かにそんなような演技はした覚えがあるが、皆は生真面目に演技を本当のことだと受け止めたらしい。最近、ナナや椎菜がやけに優しいので気にしていたのだ。


 いつも眠たそうな目をしてアホっぽい発言を繰り返すレキが何故そんなことになったのか。これが遥ぼでぃなら疲れているおっさんで話は終わるのだが、美少女は色々誤解を受けるみたいである。


 ならばこの波に乗ってやろうと内心ニヤニヤしながら、生徒会長をからかうことを決心する遥。


「何を疑問に覚えれば良いのでしょうか? 合理的に考えて問題ない判断だと言われています」


 眠たそうな目を向けて、とぼけるおっさん少女。


「その考えが駄目なんだ! 自分で考えて行動しないと駄目なんだ! 君も自分で考えて自由を勝ち取ろう。僕たちと一緒に行動しようじゃないか!」


 こちらの手を握って力説しようとするので、ヒョイとかわす。何度言ったら良いのだ。レキぼでぃに男性はお触り禁止であると内心で思う遥である。


 それに気になることを言ってる青年だ。自由なんて子供時代にしか許されないセリフである。おっさんになると自由よりも、お酒と美味しい食べ物を所望します。お酌してくる可愛いメイドもいるので不満は全く無い。


 多分第三者目線なら今の会話のシーンは生徒会長が非道な組織から美少女を救おうとするように見えるのかも知れない。


「それが自分たちを守るように願う理由なのですか? 自由を求めてここに来たのですか?」


 だがそんな建前は大人には通じないのだ。ここに来た理由を考えれば裏があるに決まっている。それならば周辺の建物が手つかずだと何故聞いたのかと言うことである。


 逡巡をするかと思ったら、生徒会長は勢いこんだ顔をして普通に返答してきた。


「僕たちは軍部での支配を防ぐために対抗組織を作ったんだ! ハンターギルドを作ったんだよ!」


 まぁ、そんなところだろうなと遥は動揺しなかった。逆に遂に来たと思ったのである。後、ゲームかよとも思った。異世界なら冒険者ギルドを作ったんだとかいう感じだろうか。


 安定してきたコミュニティ、露店を始める人々。物資が満足にない状況。次に不満に思うのは現状の打開であろう。


 もっと美味しい食べ物を食べたいとか、人よりいい生活をしたいとかである。


 対抗組織? 今の兵士達は統率が取れており善良だ。無駄に混乱させる組織などいらないのだよ、若人よ。と崩壊の原因になりそうな生徒会長を見てそう思う。映画でも小説でも、正義感に溢れて間違った方向に走るやつが崩壊の原因になることが多い。


「呆れてしまいます。そして美術館やアメ横でも漁るのですね? 命を賭け金にするのであればどうぞご自由にしてください。私は豪族さんと取引するだけです」


 眠たそうな表情を変えずに呆れた口調でそう伝える遥。


「まずはお金が必要なんだ! 直ぐに君もわかるようになる!」


 理想に燃えた生徒会長はそう告げて、身体を翻して取り巻きと宿舎を出ていった。泥棒モドキをやるのかと言われて、話がまずい方向にいきそうだと悟ったのだろう。話を上手く切ったところを見るとそれなりに頭はまわるようである。


「豪族さん、ああいうのは早く対処しないと大変ですよ? きっと酷い目に遭うでしょうから」


 生徒会長が出ていったドアを指差して教えてあげる。だが善良故に豪族達では難しいだろうとも思った。


 困る豪族たちを見ながら、はてさてどうするべきかと考えるおっさん少女であった。



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