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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
7章 組織を作ろう
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71話 文明復興財団【大樹】

 百地たちは部屋に息せき切って飛び込んできた人間が伝えてきた驚愕の情報を聞き、すぐに外に駆けだして確認に向かった。


 新市庁舎前に皆と一緒に駆けていくと、人々も集まり上空を指さして騒いでいる。


「あれか! ヘリというのは!」


 百地が飛び込んできた男に確認しながら、空を見上げる。


 そこにはビルの間を縫うように飛んでいるヘリらしきものがあった。恐らくはヘリなのだろう。戦闘用と思われ先端から鋭角にフォルムが作られており、敵を殲滅するための機銃が先端両脇に備え付けられている。前部後ろにはミサイルポッドが搭載してあり凶悪さを示している。機体は戦闘用ヘリと同じくらいの大きさである。


 しかし既存のヘリと大きく違うところがあった。そのヘリには飛翔するためのヘリのローターもプロペラも存在しなかった。飛翔を支えているのは横面に長方形につけられているボックスだろう。そのボックスから青い光が輝き、キラキラと粒子を噴射していた。後部のローターも存在せず、やはり小さいボックスが備え付けてあり青い光が輝いている。


 そんなエンジンなど聞いたことがない。いや現実では聞いたことは無い。だが百地も映画などを見たことがある。その中にSF映画もあった。その中に出てきそうな、それは未来に作られるかもしれない幻想の世界で存在するヘリであった。


 ヘリ特有のローター音もせず、その機体は静かにビルの間を移動していた。目視にて気づかなければ上空を飛翔していても気づかない静かな音である。監視をしていた奴らにはよく見つけたと後で褒美をあげねばと百地は考えた。


 そして、そのヘリは2機飛翔している。真ん中で飛翔している巨大な車両を守るように。


 ヘリに守られているのは、海にて強襲揚陸艦と呼ばれるものであろう。数メートルはある巨大なタイヤを片側12個ずつつけており、地上走行が可能であることを示している。分厚そうな装甲は何十センチあるのだろうか? 縦幅は7メートル、横幅12メートル、長さは40メートルはあるであろう装甲車両である。上部甲板には砲台が4門とミサイルボックスが搭載されている。


 その車両はヘリと同じく横に長方形のボックスを取り付けてあり、青い光が輝き粒子を噴射してその巨体を空中に支えていた。


 正直、この目で見なければ信じられない車両である。見たことが無い状態で、相手から聞かされていたらその巨体が飛翔しているなど、酔ってるのか、からかおうとしているのだろうと相手に聞いていたところだ。


 しかし、今、目の前にその車両は存在している。そしてそのような技術を使用している集団にも思い当たるところがある。いや、思い当たるどころではない。その集団しか扱えていないのではないのだろうか?


「ふん、随分と重武装で来たものだ」


 ナナからその存在が祭りに顔を見せていたとは聞いていた。南部を安定化させたため、周囲は安全と感じたのだろう。あのお姫様のコミュニティのお偉いさんが北部コミュニティに顔を見せに来たのだ。


「ようやく御大はそのツラをお見せになる気になったみたいだな」


 その笑いを見たら恐怖を覚えるように、凶悪そうに口をまげて腕を組みにやりと百地は近づいてくる車両群を見上げて笑った。




 飛翔している車両は新市庁舎前に軽くズズンと音をたて、多少の砂煙を発生させて着陸した。ヘリはそのまま空中を旋回している。着陸する気はないようである。何かあればその機銃に火を噴かせるつもりなのだろう。


 その車両は三重の扉に守られていたようである。車両横の装甲が上部に展開して、その後に次の装甲が下部にタラップとして下がる。最後の装甲が横に開いて、ようやく中の人間がでてくる。あの装甲を貫いて撃破する方法がかなり難しいことがわかる仕様である。

 

 なにより、あの車両は未知の技術で作られているのだ。見かけの装甲のみであるまい。


 玄関前で人々が不安と共に、その車両から出てくる人間を見守る。どんな人間なのか? 友好的? 攻撃的? あの車両が攻撃を仕掛けてきたらどうなるのか?


 その人々の注目の中で、太陽の日差しがさすような暑さの中で、車両からは数人の分厚い重装甲で頭まで覆い、重装甲のヘルメットには細いスリットが入っているパワードアーマーらしき物を着こんだ、大型のマシンガンだろうか? やはり未来的な猿たちがもっていた銃を大きくしたような、そして更に精巧な感じを受ける武器を装備して兵士たちが足音荒く最初に出てきた。その性別はパワードアーマーらしき物に覆われているためわからない。


 周辺の様子を確認して問題ないことを確認したのだろう。ハンドサインをお互いに行い、最後にスーツ姿の眼光鋭い中年の男性が降りてきた。


 「やれやれ、今年の夏は暑いね」


 飄々とした感じであり、その日差しを受けながらも、この崩壊した世界で場違いな上品そうなスーツを着てタラップを降りてきた人間の最初の言葉であった。


 その様子を見て、百地は歩き近づく。相手の兵士がこちらを見るが無視だ。ここに来た以上は話し合いを行うつもりで来たのだろう。自分を害するつもりはないと信じている。


「ようこそ、初めまして、お姫様のコミュニティの方でよろしいのですかな?」


 その凶悪そうな面構えでニヤリと笑い、友好を示すため両手を上にあげて万歳の形で百地は迎えた。


「あぁ、初めまして。どうも今年は暑いですな」


何故か一呼吸の間があり、そのスーツの男は百地を見てニヤリと同じく笑い挨拶を返してきた。


「申し訳ない。本来はアポイントメントを取るべきだったのだが、急な訪問になったことを謝罪しよう」


 少し頭を下げて、全然謝罪した感じを見せないでスーツの男はそう言った。


「いや、こちらも南部の方々と話し合い中でしてな。申し訳ありませんが多少お待ちいただいても?」


 チラと一緒に玄関前にきた南部の人間に視線を送り、南部の人間の存在をお姫様から報告を受けていたのだろう、納得した感じで意外な返答をした。


「わかりました。勿論、こちらが急に訪問を行ったのですから待ちましょう」


 ヒョイと肩をすくめて、仕方ないという表情で百地の提案を受けるスーツの男。百地は意外な返答に心中で驚いた。そう伝えたら絶対に自分のコミュニティの優位性を見せつけて、先に話し合いを要求すると思っていたのだ。それを行わないスーツの男に警戒心のレベルを引き上げる。こいつはただの使い走りの小物ではないようだと。


「百地殿、よろしければそちらの方との話し合いを先に行っていただいても構いません。こちらの話し合いはほとんど終わっておりましたし」


 南部の代表者が人々の中から前に出てきて、そう提案して百地に気を使ってくる。百地にもその提案は助かった。挑発するように、スーツの男との話し合いを後回しにするとは言ったものの、申し訳ないが南部との重要性は全く違うのだ。


 心の中で南部の代表者に謝罪と感謝をして、後で伝えようと覚えておく。そしてスーツの男に向き直る。


「どうやら、南部の方は後での話し合いでも大丈夫とのことなので、さっそく話し合いを行えればと思います。大会議室までご案内しますので、移動していただいてもよろしいですかな?」


「勿論です。すぐに移動しましょう。ここは暑すぎる」


 この展開を予想していたのだろう。当然という表情で百地の提案にのり、兵士と共に大会議室まで移動をするスーツの男。胸の内で一本取られたことに歯嚙みをしながら、それを抑えて百地は大会議室まで案内をするのであった。





 大会議室まで移動したあと、面々はそれぞれ対面に座った。兵士はきちっと並んで壁際に待機している。この暑さの中でダルそうな体勢をとる者はいなかった。かなりの練度を感じさせる兵士たちである。


 対面に座ったスーツの男を見て、百地は声をかける。


「儂の名前は百地信太郎と言います。そちらのお名前をお伺いしても?」


「あぁ、私の名前を伝える必要はないでしょう。そこまで顔を出すつもりもありませんし、覚える必要はありませんよ」


 にやりとふざけた事を肩をすくめながら伝えてくるスーツの男。その返答に我慢をして百地は続ける。


「ようやくお会いできたことに喜びを禁じえません。大量の物資の補充は大変助かっております。お礼をしたいので、いつご訪問なさるのだろうと、お姫様に何回も催促したものです」


 百地は自分の丸太のようなごつい両手を上げて、歓迎しているような相手を皮肉っているのかわかりづらい態度でそれを告げる。勿論、皮肉気に言っているが、どちらにでも取れるだろう行動である。


 うんうんと頷いて、嫌味だとわかっているのかスーツの男は腕を机に乗せて両手を組む。


「勿論、そのことはレキから聞いておりました。しかし安全の確保ができなかったために、なかなか訪問することは難しかったのです」


 口元を多少歪めて、こちらの目線に自分の目線を合わせて真面目な表情を装い、スーツの男は答えてきた。


 その安全の確保が、あの重車両で来ることかと怒気を一瞬覚える。相手を威圧することを前提にこの男はあの車両を使ったのであろう。そしてその効果は十分である。あの車両を見て侮る人間はいないだろう。


「どうです? あれは我が財団の最新鋭空水地全対応の強襲揚陸艦です。素晴らしい出来だと思いませんか?あれなら安心です。ヘリだとすぐに落下するかも知れませんからな」


 ヘリは信用できません。いつも落下するのでと、笑いながら冗談でも言ったつもりなのだろう。こちらには威圧しか感じないことを伝えてくる。だが、気になることを男は答えてきたと百地は聞き返す。


「全く素晴らしい。我がコミュニティでも、あの車両を貸与していただければこれまで以上に活動が大きくなることは間違いないですな。貸与を許可していただければですが」


 間違いなく貸与はするまいと確信しながら伝えると男は首を振り、残念ですが、最新鋭なので貸与は無理ですなと答えてきた。それは予想通りだ。本命は次である。


「先程財団とおっしゃりましたが、正式なそちらのコミュニティの名前をお聞きしても?」


 今度は先程の男の名前を聞いたように拒絶はしなかった。


「はい。私の所属するのは、文明復興財団【大樹】と申します。ふふ。この崩壊した世界にぴったりの財団名だと思いませんか?」


 得意げに唇を片方持ち上げて笑うスーツの男。ついに相手のコミュニティの名前が分かった瞬間であった。


 百地は大きく息を吸い込み、その名前を忘れないように頭に刻み込む。コミュニティ名は明らかに崩壊前の世界に存在していただろう組織名である。たぶん政府直属の財団であったのではなかろうか。


 周りもざわついている。財団という名前は驚愕の内容であったのだ。それはただのコミュニティではないことを示しているのである。


「所属している人間には大樹のマークをさせるようにしますので、これからはどこの所属かわかると思います」


 よく見ると、スーツの男の左腕の部分には大樹のワッペンが貼り付けてあった。枝が広がり葉が生い茂っている生命力にあふれていそうな木である。兵士たちのパワードアーマーの右腕にもつけてあり、恐らくは車両群にもつけてあるのだろう。


「これからはレキにもつけさせますので、よろしくお願いします」


 両手を机につけて、サッと頭を下げるスーツの男。百地はこのワッペンを付けている者には注意をするように周知をすることに決める。それを表情にはださずに歓迎の言葉と喜びの笑顔で答える。


「こちらからもよろしくお願いします。お互いの交流がこれから始まるとなると、皆喜ぶでしょう」


 そう聞いたスーツの男は眼光鋭く百地も見ながら、その言葉を待っていたとばかりに新たな提案をしてきた。


「今でも十分に物資を販売していると思いますが、そろそろもう一段階先に進む時だと思います」


 両肘を机につき、両手を組み顎を乗せて提案してきた内容を百地に伝える。


「実はそちらの北部及び南部の拠点にバリケード塀を提供しますので、それで完全に安全を確定していただきたいのです。そちらが作っているバリケードは申し訳ないが脆弱すぎるのでね」


 意外な提案である。確かにベニヤ板を貼ったバリケードが大部分であり脆弱ではある。重要な地点は家具や車を積み重ねていたのだ。しかし、財団になにか利益があるのだろうかと戸惑う。それに気づいたのだろうスーツの男は冷たく薄い笑いをして百地に教える。


「完全に安全な拠点にしていただくことに意味があるのでね。そちらにも利益があるだろう内容のはずです。提供するのは暴徒封鎖用輸送型バリケードです。下部にタイヤがついており、持ち運びできる高さ4メートル、長さ8メートルの分厚い装甲のバリケード板となります。設置場所にて展開し、アンカーを地面に差して固定するタイプですね」


 その内容に大体予想できると百地は思う。これは了承をしても問題はない。


「それと、これからは30キロから40キロ先毎に同じように完全に安全を確保した拠点を作成していき、そこに常駐兵を駐屯していただきたい。人数はそちらにお任せしよう」


 なんと言ったのだ、こいつは? と百地は一瞬意味が分からなかった。そして聞いたとたんに気迫を伴いスーツの男に問い詰める。


「それに何の意味があると? 兵を危険にさらすだけではないのか? そちらから兵をお出しするということだろうか? それとも武器を提供していただけると?」


 その怒気を受け流し、首を軽く横に振りスーツの男は百地を正面から見つめ、言い放った。


「兵は出せないし、武器も提供はできないですな。但し、小拠点の周囲の敵を弱体化しておくことは約束しよう。そして小拠点を作成するごとに維持費と物資を報酬として払おうではないか。移動はうちがレンタルしている軍用歩兵輸送トラックで問題はないはずだが、それを追加に何台か貸与しよう」


 にやりと冷たく笑い、こちらが断れないことを知りながら、スーツの男は決定事項のように伝えてくるのだった。


 百地はその内容を聞き歯嚙みしながら、スーツの男を睨みつけるしか手はなかった。





 静かに浮上し帰還につく車両群を新市庁舎前の玄関で見送りながら、百地は腕を組み悔しい思いをしながら考えていた。


「隊長。本当にやつらの言い分を聞くのですか?」


 蝶野がこちらの顔色を窺うように聞いてくる。


「仕方あるまい。奴らに物資を握られているのだ。それにコミュニティもかなり大きくなった。これからは通貨での取引も限界がでてくる。報酬が出るというのだ。危険な仕事であれば値を吊り上げるだけだ」


 悔しそうに吐き捨てるような口調で百地は言う。


「しかし小拠点を作成するということは、都内に進軍でもするつもりでしょうか?」


 蝶野が自分の推察を伝えてくる。確かにそれしか考えられない。


「だが、それならばなぜ自分たちの兵を使わないのだ? 安全を確保するためなら奴らが駐留した方がいいはずだ」

 

 首を傾げる百地。なぜ自分たちを使うのか? 捨て駒にするつもりなのか? そこまでは非道ではないと信じたい。なぜ小拠点を作成する意味があるのか? 完全な安全を気にしていたのも気になる。恐らくは重要な意味があるのだろう。


「考えてもわからん。まずは兵を用意することと、バリケードの張り直しからだ。やつらの提供するバリケードならかなりの安全が確保されるだろう」


 はいっと蝶野は頷いて、計画を作成するために新市庁舎の中に戻っていった。


 百地は遠くなっていく車両群を見ながら、最後の頼りはお姫様かもしれないと思い、自分もまた新市庁舎に戻るのであった。



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