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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
6章 お侍と遊ぼう
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65話 おっさん少女とオタクな侍

 指先に冷たい硬質な感触がする。たった今、レキぼでぃが超反応して居合を防いで掴んだ日本刀の刃である。日本刀なんて初めて触ったなぁと気楽な遥。毎度危機感を持たないゲーム脳であるおっさん少女だ。


 そんな遥は刃を掴んだまま、今の状況を考察する。アニメや小説でよく見る相手の力量を確かめるイベントだったのだろう。


 この場合、何パターンかルートが分岐する。一つ目は爺さんの攻撃に反応できずに、うわわわと主人公が動揺するパターン。この場合は爺さんから素質があるが、まだまだだな儂が鍛えてやろうというパターンに、入る可能性が高い。


 次のパターンは殺気がなかったものでと、反応をわざとしない場合。この場合はやるなぁ、お前とか言われて力量を認められるのだ。


 最後のパターンが反撃、もしくは防ぐ行動をとる場合である。これは行動次第で相手の反応は変わる。相手の攻撃を切り払ったり、受けたりするのは相手に警戒感を持たせるか、威圧する場合があるのだ。


 遥としては、反応しないで殺気がありませんでしたのでというパターンに入りたかった。しかし、レキぼでぃが訴えるには前髪をぎりぎり斬られるレベルの攻撃だったようである。


 うちの可愛いレキぼでぃの前髪を斬ろうとするなんて、何考えているのこの爺、許せないなと、威圧することに決めたおっさん少女である。


 尚、例外パターンとして脇役が主人公の代わりに同じ攻撃をくらい、あわあわと腰を抜かして、コヤツの方は雑魚かと言われるパターンがある。おっさんぼでぃならこのパターンで間違いないところであった。


「はてさて、長生きはしてみるものよ。幼いながらに気迫を感じるわ!」


 先程出会った武者ゾンビより、よっぽど怖い威圧を出す爺さん。おっさんぼでぃなら、気迫というより希薄な存在感だと言われていただろう。


「では参る」


 静かに笑いながら爺さんは話しかけてくる。戦闘続行らしい。


 そういう態度なら高価そうだけど、日本刀を折りますよと遥が掴んだ刀を折ろうとしたときに、爺さんが眼光鋭く口調は強く叫ぶ!


「流水!」


 その言葉と共に、掴んだ刀に超常の力が集まるのを感じたレキぼでぃ。刃を見ると水が生み出されて覆われていく。


 言葉通りの流水の如く流れており、遥は刃が指の間から滑り抜けるのを感じた。


 ビュッと、放たれた刀を下段に構えて、爺さんは教えてきた。


 「我が水無月流の流水剣。流れる水は絶たれることなく、その飛沫は岩をも断つ。小娘、お前に受けられるかな?」


 犬歯を見せて鬼のようにニヤリと笑い凄む爺さん。


 それを見た遥は腹を押さえて


「アハハハハ!凄い! 戦闘中にそんなことを爺さんが言うなんて、かっこいい! アニメとかみたい! アハハハハ」


 と腹を抱えて大笑いしたのであった。


 ヒィヒイ、と床に転がり、笑いすぎて息が苦しいとゴロゴロ転がるおっさん少女。どうやらツボに入ったみたいである。


 苦しいよ。助けて〜と穂香たちを見たら、穂香は耳まで真っ赤にして、顔を両手で隠して座り込んでいた。晶は遥と同じく笑い転げていた。


 どうやら二人にも耐えられない祖父の姿だったようだ。


「お祖父ちゃん! そういうのやめてって、以前お願いしたよね?」


 先程の物静かな巫女さんはおらず、普通の女子高生のような話し方で、爺さんを怒る穂香。


「だってなぁ、久しぶりのお客だったし、その子ぐらいの歳ならチャンバラごっこ好きじゃろう?」


 刀で床をツンツンとつついていじける爺さんの姿があったのである。




 あれから一息ついて、出されたお茶を飲みながら話し合いは再開していた。


 古めかしい卓袱台を出してきて、どうぞとお茶を出されたのでありがとうございます。と笑顔で受け取りごくごく飲んでいるおっさん少女。


「ごめんなさい、お祖父ちゃんはアニメオタクなの。何かあると厨二病をこじらすのよ」


 申し訳なさそうに謝る穂香。いつもこんなことをしているらしい。


「僕たちの話し方とかもね、お祖父ちゃんが、この演技を演ると喜んでおこづかいをくれるからなんだ」


 と、いよいよ爺さんの黒歴史暴露大会開始である。


「しかし、儂ら家族はそれだからこそ生き残れた。違うか?」


 いじけていた爺さん、復活である模様。


「水無月流は本当にあるのじゃ。儂が30代の頃に漫画に憧れて作った」


 堂々と恥ずかしげもなく教えてくれる爺さん。その流派はあるのか無いのか微妙だと遥は苦笑いする。なかなか面白そうな爺さんである。


 30代で憧れて、家族を巻き込んで剣術道場を始めたらしい。今では本当にかなりの実戦派となっているらしい。まぁ剣術家は皆我こそは実戦派と、呼んでいるから怪しいものではあるが。


「そんな生活が良くできましたね?」


 遥はそれを聞いて問いかける。羨ましい限りである。趣味がそのまま仕事になるのは大変なはずだ。しかも剣術家なんて収入どうするんだろう?


「お祖父ちゃんの直感はね、人外レベルなの」


 はい、どうぞとお代わりのお茶を注いでくれた穂香が苦笑しながら言う。


「人外? どういう意味ですか?」


 ニューな新人類なのだろうか? ピキーンとなるのだろうか? 可愛く首をひねる遥。


 その可愛いレキぼでぃの姿にほんわかした表情になった晶が教えてくれる。


「ピキーンとね、株や先物で増やしちゃうんだよ」


 ピキーンはピキーンでも、羨ましい方のピキーンである。他人とわかり合わなくたって良いから、そっちのピキーンが欲しかったおっさん少女である。


 おっさんは株をやると大負けしてというパターンかと言えば、意外やメジャーな企業しか買わないので、そこそこ儲けていた遥である。


 しかし聞いてみるとレベルが違った。数十億は稼いでいたらしい。その金で好き勝手をやっている、うらやまけしからん家族だったとのこと。


 爺さんが金を掴んでいたので、アニメに出てきそうなキャラの演技やアニメの主人公のようなアホなリアクションを含めた厳しい訓練をしていたようである。


 そんな生活していた人達がいたのかと唖然となる遥。セレブならセレブらしい暮らしがあるではなかろうか。爺さんが亡くなったら、あっという間にセレブ生活になるんじゃとおっさん少女は思う。少なくとも、自分ならするね、もう億ションとか買ってブイブイ高級車に乗って女性を侍らして贅沢しちゃうねの宝くじが、当たった時と同じ考えをする妄想過剰な遥。


 もしも現実になったら、メジャーな企業の株でも買って配当金でセコセコと安全に暮らすだろう小市民なおっさん少女であった。


 そうした生活の中には、勿論ゾンビが蔓延る世界でのサバイバル術もあったのだ。


「最初の一ヶ月ぐらいは我が家のシェルターで暮らしておった」


 当たり前のように言ってくる爺さんを前に、しぇるたー? 何それ美味しいのと理解不能になる遥。


「ある日外に出てみると、家の外にいたゾンビが何と黒い靄に包まれたかと思えば、足軽兵に変身していたのだ」


 ビックリしたぞと、手をふって興奮した様子で説明する爺さん。


 ビックリしながらも、黒い靄に包まれていくゾンビをどんどん倒していったら、何やら日本刀を落としたらしい。


 「それがこの流水刀よ!」


 高々と伝説の剣を手に入れたように、腰の日本刀を引きぬいて掲げる爺さん。


「流水は血脂を流れ落とし、その頑丈さと切れ味は素晴らしい。そこらのフライパンなど、軽く斬れたわ!」


 フライパンを斬ったらしい。後で息子の嫁さんに凄く怒られたそうな。


「それからしばらくは、生存者たちを助けて、敵の武器を奪取して暮らしてきました。敵の武器や装備は持っているだけで凄い能力がつきましたので」


 微笑む穂香の答えに、ふ〜んと軽く相槌をして頷いた遥。なかなかこちらも頑張っているらしい。何かゲームと言うか、漫画みたいな家族だ。


「今日は君に会えたんだよね!」


と晶が元気な笑顔で言ってくる。


「そのようなコスプレの姿をしているのだ。そなたもまた、強い装備を手に入れて、力をふるってきたのではないかと試したのだ」


 ノリが悪くて残念だったと呟いている爺さん。


 遥は自分の着ている服装を見る。メカニカルな装甲が各所に、ついている。儚げな生存者役は無理だったようである。


「そろそろ夜も更けてきます。私の両親も帰ってくる時間ですし泊まっていくでしょう?」


 穂香が聞いてくる。当然泊まると思っているだろう。


 それを聞いて遥は勿論


「残念ですがお暇します。そろそろ門限越えちゃうので」


 笑顔を見せて可愛く首を横に振り断るのだった。





 暗い夜道を走る少女。電気が無いので真っ暗である。夜空に宝石のような星が輝いてきており、電気が無いとこんなに綺麗なんだなぁと思いながら移動していた。


「さすがはご主人様です。ちゃんと門限を守るのですね」


 偉い偉いと安心したようにサクヤが言ってくる。ちゃんとレキぼでぃが帰宅するか不安だったようである。


「あそこのコミュニティのご飯を食べるのはさすがに悪いよ」


 走りながら、サクヤを見て答える遥。


「それにあのコミュニティは不自然だよ」


 真面目な表情になるおっさん少女。


「ミュータント反応も、ありませんでしたし何か不自然な点でも?」


 サクヤが疑問顔で聞いてくる。


「ふぁんたじぃな所が不自然なんだよ。あの装備はどうやって手に入れたのかな? 普通は私たちとは違うんだよ?」


返答して帰宅するべく脚を速めるおっさん少女であった。


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