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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
6章 お侍と遊ぼう
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62話 おっさん少女は海に向かう

 そろそろ夏も近く日差しがきつくなり、蝉がミーンミーンと鳴き始めるだろう。アスファルトの輻射熱も厳しくなって、マンホールで目玉焼きができるかもしれないシーズンが到来する時期に入った。


 軽く走るだけで汗が吹き出るそんな時期に、涼しい顔をして汗一つ欠かずに物凄い速さで走る少女がいた。


 放置されている雨ざらしの錆びた車。最早営業は不可能であろう窓ガラスが割れ、店内は荒れ果てているコンビニ。雑草はそこかしこに生えまくり、ここが文明の崩壊した世界だと教えてくれていた。


 そうして人気が無いだろうこの場所には、生者ではなく死者が存在している。走る少女を見つけて、獲物が来たと小走りで近寄っていく。ワラワラと数多くの死者が、街角から、家の中から集まってきた。


 白目を剥き、顔の肉は剥がれ歯茎が見えている。よだれを垂らしながら唸り声を響かせて、腕や脚の肉が欠けており、上半身のみでズルズルと地面を這って近付こうとする死者もいた。


 そこには、映画や小説でしか見ない、迷うことないゾンビがいた。


「久しぶりにゾンビを見た気がします」


 ゾンビの姿を見ても、動揺もせず冷静な少女。眠そうな目で映画で出てきそうな長方形のお弁当箱を大きくしたようなアサルトライフルを構えて、大量のゾンビを前にポソッと呟いた。


「アイスレイン」


 少女の呟きと共に、周囲の温度が急激に下がり始めた。この暑さの中、ふわりふわりと氷粒が生み出される。生み出された氷粒は、触れた物を瞬時に凍らせていった。錆びた車も、アスファルトも走り寄るゾンビも全て凍らせて、夏の到来を告げていた暑さは消えて、真っ白な氷原のみと化したのである。


 ゾンビが全て倒れたか、銃を構えながら周りを確認し、その全てが凍りついたと確信した少女は銃を下ろし構えを解いた。


「南部は手つかずみたいだね」


 ウィンドウに映るメイドに話しかけるのは、黒髪黒目眠たそうな目をした可愛い子猫を想像させる小柄な美少女レキである。おっさんは省略。


「そうですね、今まで南部は全く手つかずでした。ミュータントも多数存在していると思われます」


 戦闘用サポートキャラであるサクヤがクールな目つきで、しっかりとした口調で遥に同意した。


「なるほど、新しいミュータントもいるだろうね。見たことが無いレアアイテムをドロップすると良いけど」


 敵からの経験値はカスなので諦め半分に語る遥。ボスでも一桁なのである。敵を倒してレベル上げは不可能であろう。ならば期待するのはレアアイテムドロップである。


「しっかりとサポートいたします。ご主人様」


 サクヤが綺麗な笑顔で言ってくる。うん、頼りにしているよと答える遥。


 完璧な主従関係が、そこには存在していたのである。


「あのマスター? 姉さん? いつもと違いませんか?」


左のウィンドウからナインが戸惑った顔をして、尋ねてくる。いつもの漫才コンビはどこへ? といった感じだ。



「南部なんだよ?」


と、可愛く小首を傾げるレキぼでぃ。


「そうですね。南部です」


うんうんと頷くサクヤ。


 二人の息のあった返答に混乱するナイン。


「いや、だからね、ナインさんや。心機一転、新しい場所だから初心に戻ろうかなぁと思ってさ。この崩壊した世界を銃だけを頼りに懸命に生きる儚げな少女みたいな感じで」


 訳のわからないことを言う、相変わらず知力のステータスが存在しないおっさん少女。懸命に生きる少女は多数のゾンビを倒すときに、弾丸が勿体無いし、一体一体倒すのも面倒だからと、超能力で範囲攻撃をしないだろう。


 しかも心機一転と言いながら、装備はまるで変わっていない。拠点から少し離れるぐらいなら、オーダーとハイクオリティだから、これで問題ないと遥ぼでぃの装備以下である。そのスナイパーライフルすら使う気がなく、敵から拾ったモンキーガンを使用しているのにとツッコミだらけである。


 大体最初はバイクで移動したいと言っていたのだ。サングラスをかけて、ショットガンを乗せて荒野をブルルとエンジン音を響かせて格好良く移動したいと言っていたが、燃料を使うので諦めた相変わらずケチなおっさん少女である。


「そのとおりです、ナイン。私のコレクションの動画、名付けてレキ様の恥態も二巻に入りました」


 やはり姉さんは姉さんですねと諦めの嘆息をするナイン。そしてその題名ではレキぼでぃに訴えられますよと呆れ顔になった。


 どうやらナインが心配することも無く、いつも通りの二人であったようだ。




 遥の拠点からみて北部及び西部はゴリラ軍団が猿との戦いに勝ち残り、ウホホッと雄たけびを上げて制圧した。もうあそこ周辺はゴリラが生存しているので大丈夫であろう。


 東部は川を挟んでいるので、移動が面倒なので放置。残りは南部となったのである。拠点から南部もまだ初心者地域なのではと、簡単なミッションがあるのではと、サブミッションが発生しないので、渋々調査を行うこととしたのである。


 何しろ、現在受けているミッションは難易度が高いものばかりなので、低いミッションを希望しているのだ。レベルを上げないとチートなレキぼでぃでも、この先のミッションのクリアは不可能と思われるのだ。


 せっかく育てたゴリラ軍団の拠点から反対方向に探索することになり、かなり残念なおっさん少女であった。すでに気持ちはシミュレーションゲームの気分まんまである。ゴリラ軍団よ、あとは全委任で任せたぞという状態である。


 おっさんが全委任すると大体シミュレーションゲームでは全委任したほうが味方は活躍するのである。


 そうして渋々ながら、手つかずの南部にはまた新たな冒険が待っていると、遥は南部の探索に向かっているのであった。


 勿論、おっさんぼでぃだと虚弱すぎるので、高性能なレキぼでぃを使用して。


 テッテと可愛い脚で走りながら、周囲を見渡すがいつも通りの崩壊した世界である。見かけるのはゾンビたちとたまにデカゾンビだけ。後はがらーんとしていた。


「なんか寂しいですね。もうこの周辺は生存者はいないようですね」


独り言のように呟く遥に、サクヤが答えた。


「そうですね。崩壊からもうかなりの時間が経過しております。ほとんどの生存者は山奥とか、過疎の進んだ農村とかに生存しているだけになっているんではないでしょうか?」


「だよねぇ、こんなコンクリートジャングルには普通なら誰も住めないものね」


 うんうんと頷く遥。


 アスファルトの上で農業なんてできないのだ。林が生い茂って果物などが取れるわけでもない。しかも暗い心をもっていた人間は都内などのほうが多いだろう。農村にもいるだろうが、人数比が全く違う。比べるのもおこがましい。ゆえに都内はゴリラ軍団が生存したことがイレギュラーであって、普通は無理である。生き残りも田舎に移動しているだろう。


 そうなると面倒だが、簡単なダンジョンをテッテコ歩いて探すしかないのである。地道すぎて泣けてくるが、簡単なミッションは拠点周辺にあるだろうから仕方ない。


 はふぅと溜息をつきつつ、体力が底しらずのレキぼでぃで走り回る遥。駅とか図書館、学校に美術館と地図を見ながら回る予定である。観光ではなくダンジョンや主がいることを考えてだ。


 後、南に突き進むと海にでるので、そろそろ夏本番に入ることもあり、水着で泳ぐ気満々の遥。海の中には敵はいまい。可愛い水着をレキぼでぃに着させて愛でようと考えているおっさん少女。下心満載であった。

 

 オフラインゲームでは可愛いゲームキャラを作成して愛でるおっさんである。ただ、サクヤがスリングショットと呟いているので油断はできない。ナインも少し危ないかもしれない。今の黒下着はナインが作成したからである。しかし痴女にレキぼでぃがなるのはお断りなのだ。可愛く少しエッチなレキぼでぃを愛でたい遥である。


 そんなこんなで、自動車より速い速度でビュンビュンと移動している遥だが、途中で敵が潜んでいる気配感知に気づいた。


「ミュータントが隠れているね」


 何者かが伏せているのを感知した遥。ぴたりと走るのをやめて周りを見る。家々の屋根の後ろ部分に居るんだろう。目視では姿が見えないのに、気配感知に引っかかるということは、家に伏せているのだ。


「伏せているという時点で、多少の知恵はあるようです。気を付けてください」


 今日のサクヤは新天地ということもあり、真面目にかなりサポートキャラをやっている。とても助かる遥である。カメラドローンは相変わらず、レキぼでぃの周りをうろうろしているが。


「もう小走りゾンビじゃなくなるとは、ちょっと驚きですね」


 まだ、拠点からそこまで移動していないと思う遥であるが、よくよく考えると車顔負けのスピードでレキぼでぃは走り続けていたのだ。実際は大分移動していたのだろう。


 海と言えば南東かなと、完全な南下ではなく、南東に移動していた遥。どんなミュータントであろうと、ちょっとドキドキである。モンスター図鑑が欲しいけど、自分で編集するのは面倒なので、いい方法は無いかなと考えるおっさん少女。相変わらずの他人頼りである。


 余計なことを考えているが、戦闘前の緊張など無いのである。何故ならば、レキぼでぃを遥は信じているし、スキルに依存しているのだ。問題は無いと虎の威を借りる狐な遥。この場合は美少女に乗っているおっさんとなるので、ばれたら条例違反だと警察に逮捕されるかもしれない。


 通路を挟んで、両脇の家々の屋根の後ろにミュータントがいることを感じる。人間とあまり変わらない大きさである。6体だろう。テクテクと伏せてある家々の前まで歩いていく遥。その歩みは正々堂々だ。罠なら食い破るぜ。レキぼでぃがな! と心の中でかっこよく威張るおっさん少女。


 後少しで伏せている家の脇を通るところで、敵が姿を現した。


 素早く目視で確認したところ、なんと弓兵であった。片側3体ずつ隠れていたようである。ばっと立ち上がり、こちらに弓を弾く兵士。観察すると、まるで枯れ木のように枯れた細いがりがりに痩せた体のゾンビである。足軽が装備するような笠を被り、ボロボロのぼろい時代劇にでるような胴鎧を装備している。


 その弓兵たちは一斉に矢を放ってきた。


「矢とは、また原始的ですね」


 スッと腕を目の前に上げて、手の平を敵に向けるように広げるれきぼでぃ。ビュンビュンと結構な勢いで飛んでくる矢を回転させるように、ゆるりと手を動かし、まるで枯れ木を拾うかの如く全てを受け止めた。


 そうして、受け止めた矢を返そうとしたのであろう、手をひねり投げようとする。


 だが、投げないでなぜかしょんぼりとした感じになるレキぼでぃ。


「あぁ、投擲スキルを取らないと」


 しょんぼりレキぼでぃ。チートな美少女の弱点はゲームキャラであり、その力はゲーム準拠なのである。すなわち持っていないスキルは全て使えないのだ。使えないならまだいい方で、全て大失敗となる運命である。


 そのため、かっこよくどこかの世紀末覇者みたいに跳ね返そうとしたが、投擲スキルがないために行えなかったしょんぼりレキぼでぃである。


 待った、待った、タイムね、と言いながら一生懸命にステータスボードを弄り、とりあえず投擲スキルをlv1とる間抜けな姿のおっさん少女がいたのだった。残りスキルポイントは6である。


 そして、待った待ったと言われて、待つほど優しくない足軽兵たちであったが、いくら矢を撃っても全てひょいひょいと小柄な少女に受け止められてしまう。その姿を見て、がちゃりとその体を動かし、屋根から飛び降りてくる。どうやら弓矢での攻撃を諦めた模様。身体能力もグールと大差ないかもしれない。


 それを見た遥は、ええーっ、せっかく投擲スキル取ったんだから、もう一度矢を撃ってよ! 今度は当たるかもよ? ほらほらがんばって! とどこかの屋台で当たりのないクジを引かせるおっさんみたいなことを言う諦めの悪いおっさん。


 勿論、そんなことを聞く耳を持たない足軽兵である。腰にぶら下げてある鞘から、ボロボロに錆びて刃こぼれしまくった日本刀を抜いて襲い掛かってくる。


「せっかくの投擲スキルですが、あとで使えるかもしれません。仕方ありませんね」


 嘆息して、鉄パイプを取り出すおっさん少女。最近使ってないので、もったいないし敵は日本刀だしと銃を仕舞って、接近戦である。


「ご主人様、あれは足軽ゾンビと名付けました!」


 久しぶりの名付けで嬉しいのだろう。輝いた笑顔を見せて、ネーミングセンスのない名づけを遥に教えてきた。


「まぁ、あれは足軽ゾンビが良いネーミングかもしれませんね」


 カッチャカッチャと乾ききっているのだろう、何かの楽器みたいな硬質な足音を立てながら近づいてくる足軽ゾンビを見ながら、遥も珍しく同意した。


 そうでしょうそうでしょう、さすが私と興奮気味のサクヤ。ご褒美に後で添い寝しますねと言っているが、さっき言っていたクールなメイドキャラはもうやめたらしい。


 結構な剣速で刀を振り下ろす足軽兵。


「そんな攻撃では当たりませんよ」


 攻撃を見切り、横に体を僅かにずらし回避するレキぼでぃ。ビュンとかわした横を刀は過ぎていく。続けざまに他の足軽ゾンビたちも攻撃してくるが、一斉に攻撃したとしても隙だらけである。


 鉄パイプをひょいと持ち上げて横に薙ぐ。次に襲い掛かってきた足軽ゾンビの刀をあっさりと弾く。その弾かれた刀は隣で振りかぶっていた足軽兵の刀に当たり、両者は一瞬戸惑う。戸惑って生まれた開いた空間にすたすたと余裕を見せて遥は入り込んだ。


 他の足軽兵が目標がずれたことに気づき、視線をずらし再攻撃を行おうとする前に、遥は一閃二閃と鉄パイプを横薙ぎして、足軽兵を両断していく。


 横薙ぎが終わった後は、全ての足軽兵は両断され倒れ伏していたのであった。


「まぁ、こんなものでしょう。所詮はゾンビですね。どんなに装備を固めても私には勝てません」


 冷静に語る遥。どんなに装備を固めてもおっさんぼでぃだと、ゾンビには勝てないのと同じ論理である。


「お見事です。ご主人様。この周辺は戦国系の敵が出てきそうですね」


 サクヤが教えてくれるのを、同意ですと答えておっさん少女は更なる南下を行うのであった。






 











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