567話 チキンブロイラー対幼女たち
千春は装甲車に乗り、目の前に映る画像でチキンブロイラーを確認する。ふてぶてしく鶏なのにマッスルポーズをとって装甲車を見ているチキンブロイラー。
「ゴールドチキンたちは罠にかけておねんね中。上手くいったね」
ルンルンと鼻歌を機嫌よく歌う千春。ゴールドチキンたちから式神で卵を掠め取り、追いつかれておく。追いつかれた場所にはテントをバラして作成したでっかい籠を用意して、卵を回収して安心したゴールドチキンにかぶせる。
鶏たちは夜かなと寝ちゃう作戦だったのだ。今頃コケーと平和に寝ているだろう。
「あとはボスを倒せば終わりだ。余裕だったな」
ウェスはフッと笑ってフラグを建てる。エンリがいたら、やったかと叫ぶ準備をワクワクしながらしていたに違いない。
「ミサイルポッドで終わりにしてやるぜ! ダブルアタック!」
熱血漢な運転手がポチポチとミサイル発射管のボタンを連打する。連打するだけで、ハンター技だぜとノリの良い運転手。
装甲車に備え付けられた重厚感のある金属の塊が重低音をたてながら動き、未だにポージングをとっているチキンブロイラーに狙いをつける。ポッドの蓋が開き、巨大なアリジゴクを倒したミサイルが噴煙をあげて発射された。
ミサイルの速度を考えると一瞬でチキンブロイラーへと命中するはずであった。それこそ瞬きをする間に。
だが、光線がチキンブロイラーの首飾りから放たれると、ミサイルはその光線に貫かれて爆散してしまう。
「コケー! このチキンブロイラー様に砲弾やミサイルなど効かぬわ!」
コケコッコーと鳩胸を張るチキンブロイラー。
「やったか! すらも言えないよ、これじゃ!」
「チッ、装甲車の最高火力が使えないとは!」
千春とウェスは敵に迎撃方法があり驚いちゃう。おっさんならば、この敵の元ネタを知っていたので、動揺はしなかったのだが千春たちに迂闊にもミサイル系は駄目だよと忠告するのを忘れていた。まぁ、迂闊とトンカツは大好きなおっさんなので、平常運転である。
「機銃攻撃に切り替えます、ウェス隊長!」
叫びながら、運転手が機銃を撃ち放つ。機銃から弾丸のシャワーがチキンブロイラーへと向かうが
モフ
モフモフッ
モフモフモフッ
と、その銃弾の全てはモフモフの羽毛に絡め取られてダメージを与えることはできない。
「今度は俺様の番だな! くらえっ、チキンスラッガガガガー!」
チキンブロイラーが鶏冠に手をかけると、鶏冠はパカンと外れブーメランのように投げられる。
巨大な鶏とはいえ、3メートル程度の背丈、そして鶏冠も人を斬るのはできるだろうが、20メートルの装甲車には傷はつけられない。ましてや強力なフィールドが備わっているのだ。
と、搭乗していた面々は予想していたのだが、装甲車がガクリと揺らいだことに動揺してしまう。ガリガリと金属を削る嫌な音がしてきて運転手が驚く。
「装甲タイルじゃなくて、フィールドエネルギーが半分以上無くなりました! 一瞬フィールドも突破された模様!」
報告を聞いたウェスの判断は早かった。即座に周りへと撤退指示を出す。
「戦車戦は無理だな。撤退しろ、俺は外で戦ってくる」
「白兵戦かぁ。まぁ、仕方ないよね。千春ちゃんは装甲車から飛び降りた!」
ちゃちゃちゃ〜と言いながら、千春はたぁっとハッチから飛び降りて、ウェスもやれやれと肩を竦めて、あとに続くのであった。
外に千春が飛び出すと、飛び出てきた装甲車の酷い様子が目に入ってきた。機銃は根本から切り離されて、装甲車の装甲が一部捲れ上がっている。
「次の攻撃はこれでは耐えられんな」
「たしかに次の攻撃で真っ二つにされちゃいそう」
ウェスちゃんの言葉に頷いて、この鶏さんは強そうでつと思いながら身構える。その手には千春個人の最強武器である組み立て式斬馬刀があり、今は普通の長さの刀身としている。
「斬馬刀なら倒せるはずだよねっ!」
「私のナックルでも問題はないだろう」
ウェスちゃんも銀色のグローブを手にして、拳を胸の前に掲げ、二人とも戦闘準備完了。
「ふしゅるるる~。ハンター共よ、ここで灰にしてやるぞ!」
チキンブロイラーは二人を見て、両腕を掲げて威圧を込めて、空気を震わせて咆哮をあげてくるが、二人ともその程度ではびくともしない精神をもっているので、チキンブロイラーを挟むように立ち位置をとる。
「仕方ないよね。戦隊物のリーダーって、個人で戦う事がたまにあるし」
「私も数に入れて欲しいが………行くぞっ!」
気楽そうに千春は戦う覚悟を口にして、ウェスちゃんもそれを聞いて苦笑交じりに言う。
セミロングの髪型をして背丈は1メートル少しの小柄な少女は地面に右足を踏み込むと、一瞬のうちに加速してチキンブロイラーへと迫る。反対側にいるウェスちゃんも合わせて同時に攻撃をしてくれる。
「こいっ、ハンター共っ!」
余裕の表情を浮かべるチキンブロイラー。それに対して千春は冷静に手に持つ刀を振り下ろす。まずは小手調べと狙うはチキンブロイラーの肩である。
キラリと斬馬刀が光ったと思うと、肩へと鋭い一撃を入れようと振り下ろされるが
「バードシールド!」
チキンブロイラーは片翼を広げて刀の軌道に割り込み、その一撃をカチンと金属のような硬さの音をたてて受け止めてしまう。簡単に斬馬刀が防がれたことに千春は驚きを見せるが、すぐに身体を左右に振りながら、横薙ぎを連続で放つ。
敵の羽根が硬いとみてとったが、今度は羽根を切断するべく力を込めた一撃である。残像を残し放たれた攻撃をチキンブロイラーは素早く羽根を下げて回避する。
「しっ!」
千春の攻撃にチキンブロイラーが対応している間に、ウェスちゃんはブーツに仕込んであるKO粒子を噴き出し、瞬間移動の如き速さでチキンブロイラーの懐に入る。
「超技 ヌスッターズCQC!」
腕のグローブからもKO粒子を噴き出させ、右足を踏み出すとマシンガンのような速さと連打を繰り出してチキンブロイラーの胴体を叩く。チキンブロイラーは千春の刀の方が危険だと考えていたのだろう。羽根を下げて体勢を崩していたので回避できない。
ガスガスとモフモフの羽毛をものともせずに、ウェスちゃんの拳は連続で入り、ミシミシと骨の軋む音がしてチキンブロイラーは吹きとぶ。
「手応えありだな。よくやった千春」
ウェスちゃんは今の連打に大きな手応えを感じて、ニヤリと笑いサングラスを輝かす。あのサングラスはどういう機能を持っているのでちか? きっと四季ママのヘアピンと同じ機能があるんでつねと千春は思いながらも、油断はせずに吹き飛んだチキンブロイラーを見る。
「ちっ、なかなかやるな人間めっ! 殺してやるぞっ!」
よろりとよろけながら立ちあがり悪態をつくチキンブロイラー。その様子を見て演技ではなくダメージを負っていると推測する。想像よりも簡単に倒せそうと少し安心する千春たちにチキンブロイラーは不敵な笑みを鶏なのに浮かべる。
「ベホマンドリーンク!」
手の内に栄養ドリンクみたいな物をチキンブロイラーは生み出すと、サッと口に入れて飲み干す。その途端にチキンブロイラーの身体は一瞬輝き
「ふしゅるるる~、仕切り直しだ、ハンター共!」
ダメージがなくなったかのように、肩をグルグルと回して元気な様子を見せるのであった。その様子を見て目を見開き私とウェスちゃんは驚く。
「え? 今の何?」
「………ダメージが回復したな………」
二人でチキンブロイラーの回復した様子に動揺するとモニターが宙に表れて、レキぼでぃなパパしゃんが白衣姿で現れる。
「説明しよう。あれこそがチキンブロイラーのラスボスよりも強いと言われる力なんだ。なんとあいつは竜退治の2のラスボスと同じく完全回復を使うんだよ。私も何度あの卑怯技にやられたか……………」
「え~! それじゃ勝てないよパパしゃん! どうやって勝つんでつか?」
そんなの卑怯だよと私は叫んでしまうと、うんうんとパパしゃんは頷いて勝ち方を教えてくれる。
「こちらも回復アイテムを大量に持って持久戦をするしかないね。それか圧倒的なパワーで回復アイテムを使われる前に倒すか。でもここは現実なので戦い方はいくらでもあるはずだよ」
常に脳筋戦法を取ってきたおっさんの言なので説得力は抜群だ。戦い方はいくらでもあるのだ。パンチとかキックとか、パンチとかキックとか。
「千春たんは様々なアイテムを持ち込んでいるでしょ? その間に博士な私がなんとかするから、勝てなそうなら時間稼ぎをしておいてね? 怪我を負いそうなら逃げて良いからね?」
ドライが怪我をするのはNGだけど、最近のドライたちは頑張っちゃうので、見極めが難しい遥である。これが子離れの時? とか考えるが、おっさんは子供な少女になっているので、絶対に子離れはできないのだが。
「千春はそんなにアイテムを持ち込んで、っと」
ウェスちゃんが千春へと問いかけようとしたが、チキンブロイラーが迫ってきたので、地を蹴りその場を離れる。
「チキンパーンチ!」
羽毛に包まれた剛腕を突風を生み出しながら連続で繰り出してくるチキンブロイラー。千春とウェスちゃんは離れて間合いを取ろうとするが、衝撃波が拳から放たれて受けてしまう。
「くっ! 符業 分身猫!」
宙に数枚の符が撒かれて、その符は猫の姿へと折られる。そして千春は虎ともいえる猫を符で数匹生み出す。
「にゃーん!」
やはり紙でできた猫なので白くひょろりとしていたが、その口に生える牙は本物である。薄い鉄板ならあっさりと噛みちぎる威力を持つ牙にてチキンブロイラーへと飛びかかるが
「猫ならば俺様が恐怖すると思ったか! もはや猫をも越えた存在となったのだ! チキンバーナー!」
猫をも越えた凄い鶏は得意げに叫びながら、火炎放射をする。辺り一帯を照らし出す超高熱は猫をあっさりと焼き尽くしてしまう。紙だけによく燃えちゃう。
「超技サイキックマグナム!」
ウェスちゃんがマグナムを取り出して、エンチャントサイキックをした弾丸を放つが、その空気を歪ます弾丸を見てチキンブロイラーはニヤリと笑う。
「鶏技 キックガンナー」
首飾りから光が放たれると、弾丸を打ち消してウェスちゃんを巻き込んで消えてしまう。えー! あの技をこの鶏さんも使えるの!
エリア外に吹き飛ばされたウェスちゃんを見て、千春は話が違うよと驚いてしまう。
「コケコッコー! 眷属に使えて俺様が使えないはずがないだろうが! これで貴様一人だな!」
竜退治の3の魔王みたいな攻撃をして、得意げに嘲笑うチキンブロイラー。殺さなくてもエリア外に吹き飛ばせれば満足らしい。鳥頭だけあって、その場での勝利が重要な模様。すぐに戦ったことも忘れそう。
千春は一人となって、これは無理でつねと諦める。回復アイテムを持ち、銃無効で一人になったのだ。火力が必要な時にである。
「コケコッコー! 貴様は焼き尽くしてくれるわ!」
きっと焼き尽くさなくても、エリア外に吹き飛ばせばいいんだろうなと思いつつ、逆転の道を探す。ん~………。無理でつね。
幼女は諦めるのも早いのだ。勝ち目がないから逃げたいけど、その場合は装甲車にいる人がピンチになっちゃうなぁと迷う千春。
「くらえええっい! がはっ!」
チキンブロイラーがとどめをささんと吠えるが、その咆哮は空から落ちてきた一撃に止められてしまう。
千春はなにが起きたのかと空を見て納得する。そういえば戦隊物のテンプレでつねと。