566話 大空洞にて頑張る少女たち
大空洞の中をぞろぞろと人々が列を作り歩いていた。大人はリュックを背負い子供たちを連れて。
巨大なキノコの影に隠れながら、皆はある地点を目指していた。それは救世主となるべく希望の物であり
「見ろ! あんなにでかい戦車が近づいて来るぞ!」
ワッと歓声をあげて、気が早いものは走り出す。
「装甲車なのですが……まぁ、どちらでも構わないのでしょうね」
詩音は多少疲れた声で、目を輝かす人々を見ながら呟くのであった。
装甲車といっても、巨大な指揮用装甲車。その威容は見る人に安心感を持たせる。特に窮している人間にとっては。
「装甲車に100人も入れないよ? どうするの?」
千春が呑気な声音で詩音を見てくるが、たしかにそのとおりであり、10人程度しか入れない。
表情には出さずに詩音は困ったと考える。
「避難した拠点で待っていただいて良かったのに………」
「逃げることが可能な車両と合流してきますと言われれば、はい、そうですかとはいかなかったのでしょう。万が一見捨てられたらという不安がありますからな。それに装甲車の傍にいれば安心感もありますでしょうし」
セバスチャンの言葉のにそうですねと詩音も納得する。たしかに私も同じ立場であれば合流する部隊へとついてきたかもしれない。不安というのは目に見えないので安心できる物が必要なのだ。
「足手まといになるぞ? これから敵のボスと戦う予定だからな」
ウェスがきゃぁきゃぁと装甲車を見ながら安堵する生存者たちを見て苦言を呈すが、あの生存者たちは戦う際に安全な場所へと離れてくれるか、はなはだ疑問です。一番面倒なパターンであると………。
「なぁなぁ、この装甲車は空を飛んで逃げれるんだろ? アタイたちを先に逃がしてくれないかな? 外は安全なんだろう、です」
てってことユマが近づいてきて、おずおずと上目遣いで恐れていたお願いをしてきた。さっさとこんな場所からは逃げたいのだろう。
第二の故郷としてはここは過酷すぎて思えなかったみたいですねと、詩音は小さく気づかれないようにため息を吐いて、悲し気な笑みへと変える。
「です、の使い方がおかしいですわ。それはともかく、今ここで脱出することはできません。敵のボスが空へと飛び立つ装甲車を見逃すとは思えませんもの」
頬に手をあてて残念そうに答えると
「そっかぁ………。そうだようなぁ………。無理言ってごめんなさい!」
たしかに凶悪な鶏のボスであり、空も飛べるチキンブロイラー。以前に仲間がやられているのを見てきたユマは納得してごめんなさいと謝ってくるので、笑みへと変えて、いえいえと詩音は手を振る。
ここで逃げたら何にもならない。自分の栄達がかかっているの。本当は逃げても追撃はなさそうとは聞いているけど、私こそごめんなさいねユマさん。
内心で自分の都合に合わせていることを密かに謝罪しつつ、詩音はちょこまかと周りを確認している千春へと声をかける。何と言ってもこのメンツの中では最強であろう少女であるので。この攻略が上手くいくかは、彼女にかかっていると言っても過言ではない。
実際はウェスも同等の実力を持つ凄腕幼女なのだが、量産型超能力者は銀髪であると決まっているのであるが。
幼女たちも自分の都合で動いているので、お互い様であったりしたが、詩音にはわからないことである。
幼女たちの都合。それはパパしゃんに褒められて、ナインにおやつを貰う事であるのだ。ごめんなしゃい。
「千春さん、敵のボスを倒せそうなのでしょうか」
ちょこまかと周りを確認していた千春は詩音へと小首を傾げて答える。
「う~ん………倒せそうだけど………迷うところだよね。まずはゴールドチキンを敵のボスから切り離しておきたいんだけど………」
ゴールドチキンを捕獲することは千春にとっては決定事項であり、絶対に譲れない。鶏しゃんの卵でケーキを作ってもらいまつと、フンスフンスと張り切っている愛らしい幼女である。
「それにそこらじゅうにいる雑魚はどうする? ネズミがさっきもいて精神攻撃を仕掛けてきたぞ?」
ウェスも歩いてきて話に加わるが、たしかに敵は鶏だけでじゃない。ここに来る間もキノコの化け物ファンガスが普通のキノコに擬態して、通りがかる生存者へと襲い掛かろうとしてきたのであるからして。
無論、ウェスたちの相手ではないが、キノコの胞子に寄生されると大変なのだ。ゲームではキノコ人間が跳梁跋扈するのもあったぐらいに。1で生き残った主人公をなぜゲームでは2がでるといつも殺しちゃうんだろう。2の主人公の影が薄くなるからかな? とか、きっとおっさんなら斜め上に思考をもっていくが、幼女たちはそこらへんちょっぴり真面目であった。
「雑魚は詩音ちゃんの精鋭部隊に任せるつもり。どうせ銃声で敵に気づかれちゃうし、作戦時は派手にいこうよ」
ふむとウェスは頷くが少し不安ではある。エンリたちヌスッターズが全員エリア外に吹き飛ばされたのは痛かった。ドライはウェスと千春しかいないので不安がある。
「エリア外に飛ばされたメンツを呼び返せればいいんだが………。どうやら戻るのは不可能みたいだしな」
一度追い出された人間は侵入不可能な条件がダンジョン入り口につけられているらしく、エンリたちは通信をすると困り顔でドーナツをぱくついていた。ウェスは自分も追い出されようかなと、そののんびりとした様子を見て思ったが。アインだけはなんとか入ろうと、アタシは飲むお茶じゃないと頑張っていたが、超能力を制限されているので侵入は不可能ぽい。
「それに………軍になにかまずい状況であると薄々感づかれ始めた。あまり時間はないだろうな」
なにしろ詩音の精鋭部隊がダンジョン入り口に突如として現れたのだ。おかしいと勘づいて上司へと報告する兵士もでてきておかしくない。いや、すでに仙崎大佐あたりに情報が伝わっている可能性があり油断はできない。
「軍に気づかれたら、全てはパァですわ。敵をおびき寄せれば良いのですよね?」
どうやって倒せそうか迷う二人へとにっこりと笑って詩音はこんな作戦はどうでしょうかと提案をして、それならいけるかもと二人は検討するのであった。
サンドラットは餌を探しながらこそこそと移動していた。この大空洞は食べ物がそこまで豊富ではない。ゴールドチキンの卵を盗めばすぐに追手がかかりボコボコにされて殺されるし、ツインヘッドはいつの間にか這い寄ってきて食べようと襲い掛かろうとする。人間が一番与しやすいのだが、混乱の魔眼を使っても、最近は慣れているのか、すぐに隣の人間に叩かれて正気に戻ってしまう。以前なら暴れる人間を他の人間が取り押さえようとしている間に食料をかすめ取っていたのだが。
なので、ちょろちょろと食べ物を探してうろついていたら、どこからか何か匂いがしてきたことにすぐ気づく。この匂いは食べ物だとすぐに気づいたサンドラットは即座に走り出す。
湿った土を蹴り、シダの合間を走り抜けていくと
「ちゅう?」
ぽっかりと空いた不自然な空き地に箱が積み重ねられていた。その箱からなにか匂いがしているとサンドラットは気づき駆け寄ると、ぷ~んと良い匂いがしてきた。
箱へと近づくと他にもサンドラットが群がっており、中には様々な食べ物が鎮座していた。不自然極まりないが、知性のないサンドラットには関係ない。他のサンドラットに食べられる前にと顔を箱につっこみ勢いよく食べ始める。
こっそりとツインヘッドも這い寄ってきて、サンドラットを食べちゃうが大量にいるサンドラットは命の危険もなんのそのと食べることをやめず、空き地はあっという間にサンドラットとツインヘッドの姿で埋まっていくのであった。
「うへぇ、あれだけのネズミや蛇たちが集まると不気味だね」
丘に隠れながらその様子を見ていたユマは借りた双眼鏡を詩音に返して、気持ち悪そうな表情を浮かべて舌をだす。
「ですが、これで近場の雑魚はだいたい集まったのではないでしょうか」
詩音はここ大空洞に棲みついているミュータントの種類から、あの二種類が集まれば大丈夫だろうと言う。ファンガスは基本待ち受けるのみの怪物らしいし、ゴールドチキンはこの後に対応する予定だ。
「でももったいないよなぁ………。あれ、装甲車に積まれていた食料全部なんだろ?」
「たいしたことはありませんわ。ボスを倒せばこのエリアは消えてなくなりますし、そのための投資であれば」
詩音が提案した内容は簡単である。敵が動物系であれば食べ物で釣れるだろうと、装甲車に積んである食料を一部を除いて全て餌として空き地に置いたのだ。弁当類もあったので、温かな弁当の匂いが周りへと散っていった。あとは食料に気づいたサンドラットたちが集まれば作戦成功です。
失敗したら、次の手は装甲車での突撃であったが、上手くいったようである。
「後はゴールドチキンを誘き寄せることができれば良いのですが」
それは詩音の役目ではない。この後の詩音の役目は戦いの後にどう利益を確保して立ち回るかであるので。千春はちょろそうだが、どれだけ譲歩してくれるかが問題ねと詩音はもう負けることは考えていなかった。
ゴールドチキンは巣でスヤスヤと卵を温めて寝ていた。そこにカサカサと音がして、なんの音だろうと目を開くと
「こけ?」
なんと目の前にトウモロコシの粒が置いてあった。
「こけこけ」
喜んで卵は放置して地面に散らばるトウモロコシの粒を啄み美味しそうに食べる。なんてラッキーなんだろうと鶏は食べ続けるが
「こけ~!」
卵を離れた間にいつの間にか白いひょろひょろのなにかどことなく変な犬が卵を口に入れて逃げ出すところであった。
卵ドロボー! とゴールドチキンは驚き憤慨して身体を黄金に輝かす。卵ドロボーは許さないでコケーと鳴くと、犬が気づかれたかと逃げ出す。
鳴き声に気づき、周囲のゴールドチキンも目覚めて犬を追いかけ始める。なんだかひ弱そうな犬であるが許す気はない。あとから王も来るだろうが、ゴールドチキンだけでも倒せるだろうとばっさばっさと羽を広げて追いかける。
意外と犬の癖に走るのが遅い相手へと、通常の鶏など比べ物にならないゴールドチキンが追いかけてしばらく経過して、なぜかついてきているかこちらを振り向きながら確認してくる犬へと追いつく。
「こけー!」
自らの鶏を虐める勇者も倒してしまうボディアタックで体当たりをすると、犬は破裂するように消えてしまい、卵だけが残った。
「こけこけー」
勝利の雄叫びをあげると、他の仲間たちも良かったねと雄叫びをあげて、周囲はコケコッコーと五月蠅くなり
ガシャン
そんな音がして周囲が真っ暗になる。もう夜になったのかなとゴールドチキンは首を傾げて不思議がるが、夜なら寝ようかなと取り返した卵を抱いて座り込み眠り始めるのだった。
ゴールドチキンのように飛行しないで、ズシンズシンと足音高く歩いて追いかけていたチキンブロイラーは遠くからゴールドチキンの勝鬨が聞こえて卵の奪還は上手くいったかと思い立ち止まる。
ならばゴールドチキンへの助けは必要ないのだと思い、周りを見渡す。
「ふしゅるるる~。人間の匂い………鉄の匂いがするぞ」
そう呟いたと同時にキノコの陰から装甲車がエンジン音をたてながら現れて、機銃の銃口をチキンブロイラーへと向けるのであった。




