表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
37章 頑張っている人たちを応援しよう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

565/579

563話 大空洞と腹黒少女

 しばらく歩いていく。周りにはビルほどの高さのあるキノコや、シダだろうか? なにやら不気味な植物が目に入る。光ゴケに淡く身体を照らされて、時折暗がりに蠢く何かを見つけて、多少の恐怖を詩音は覚えたが、表には出さない。

 

 決意をこめてしっかりと歩くその姿は年若い少女にしては立派なものであった。裏の性格を知らなければ。


 もちろん詩音は自身の魅力を把握しているので、この場にあった演技をしていたのであるが。


 だが強靭なダイアモンドのような硬い意思を持つ詩音でも多少は怖かった。シダが生えてキノコが聳え立つ中を湿った土の匂いを感じながら、仄かな光ゴケの灯りの下で歩くのだから。


 全てがリアルなのだ。土の匂いも、ユマの臭いも、纏わりつく湿った空気の感じも、地面を踏みしめる感触も。


 影が怖いと詩音は初めて知った。部下がいなければ、すぐに踵を返して帰っていたに違いない。


 早く拠点につかないかしらと、恐怖を覚える自分自身に苛立ちつつユマの後をついていくと、ようやく立ち止まり振り返ってくれた。


「ここがアタイの拠点だよ! 洞窟に隠れ住んでいるんだ」


 やせ衰えても、元気を失わずに声をあげるユマの精神の強さに感心しながらも、見ればわかりますと答えそうになってしまう。


 なぜならば、洞窟から人々が出て来て、異臭が立ち込め始めたからだ。50人ばかりの人々がこちらに気づいて出て来たのだが、これだけの人数だ、水で身体を拭くこともないような汚れた姿で、体臭も酸っぱい臭いを超えて……これ以上考えると表情に出しそうなので詩音は考えるのを止めた。


 ガリガリのゾンビと見間違えてもおかしくない痛々しい悲惨な姿の人々の中から一人の男性が前に出て来た。リーダーであるのでしょうけど……今にも倒れそうな痩せすぎている男だ。


 元は背の高い様子から体格の良い頼り甲斐のあっただろう男性だと推測するが、既に過去形となっていた。威嚇をするように睨んできているが……木野や朝倉遥には比べようもなく弱々しい。


「あんたら……何者だ!」


 努めて強い声音を作り、こちらを威嚇しようとするその姿に内心で鼻で笑い、外見は誠実そうに真面目な表情で胸に手をあてて答える。


「私たちは市井松会社の者です。このたび、このダンジョンの探索を行うべく来ました。私は社長の市井松詩音と申します」


 小首を傾げて、そう伝える詩音に戸惑う男性。チラリとユマへと視線を向けて、何がなんだかわからないとユマが首を横に振ると、次は後ろの仲間へと振り向いて助けを求めるが、皆は沈黙で返すのみであった。


 助手がいつの間にかユマの隣でカメラをこちらに向けて構えているので詩音は油断ができない。


「ダンジョンとは、この大空洞のことか? ……あんたら意図的にここに来たってことなのか?」


「はい。生存者を助け、このダンジョンを討伐するために来ました」


 微笑みながら、財宝のためとは言わない。余計なトラブルを生むだけですし、たとえ餓死していそうなほど窮していても、金には反応するのが人間というもの。


 詩音はまったく相手を信じずに、しかして信頼を得ようと微笑みは絶やさない。


 相手のリーダーはゴクリと唾を飲み込み、緊張した面持ちで詩音を凝視する。ギラギラと目を輝かせて、震える声で


「外から意図的に来たってぇのか? この世界に神隠しにあったわけじゃねえぇのか?」


 希望をこめて、尋ねてきた。


「はい。貴方たちを助けに。装備も充分ですし、問題なく救助できると思いますわ」


「この人たちは、でっけー戦車でやってきたんだぜ、親分! しかもバリアみたいのを張りながらゆっくりと降りて来たんだよ! アタイはそれを見たんだ。それにバナナも貰ったんだぜ!」


 ユマがバナナを見せながら、援護射撃として口を挟むと、詩音とその部下たちの服装やアサルトライフルを担ぎ武器もふんだんにあるのを改めて見て、ジワジワと驚きが広がり


「やったぁ〜!」

「助かるのか?」

「生き残っていて良かったわ!」

「おか〜さん、なんで泣いてるの?」

「ヤラセではありませんというテロップを流すボタンはどれでしたっけ?」


 人々は歓喜の声を上げて、飛び上がって喜ぶのであった。最後の発言者には、そのテロップは逆効果になるから、探さないように伝えておくとして、詩音は望み通りのシーンに満足する。


 チラリとアインへの視線を向けると


「良いね、良いね〜。窮している人々を喜ばす詩音の満足そうな笑顔は良いアングルだなっ!」


 余計なことを一言付け加えて、写真を撮影するのであった。



 一通りの歓声が止み、詩音たちは洞窟の中へと案内された。ウェスたちは通信で装甲車に生存者の何人かを連れて、格納されている救援物資を取りにいくと連絡している。


 詩音はここまで来る間に、ボロボロの布切れの上に寝ている人や、ネズミなどを解体したのか、吊るされている毛皮や干し肉、その周りにある赤黒いなにか、散らかしたままにしてあるゴミからの腐臭に辟易していた。


 正直、ガスマスクが必要ですし、洞窟内は人の熱気でさらに臭い。この中にいたら健康な人でも病気になるでしょう。


 話し合いは外で良いのにと思いつつ、これが生存者の暮らしかと実感する。


 そして思う。


 自分は運が良くて良かったと。


 この人たちは運がなさすぎる。せめてピラミッド内にいれば、ここまでは困窮しなかったはず。ピラミッドの生存者たちの暮らしの資料は確認済みなので、もう少し運が良ければ、すぐ外の暮らしとなっていたでしょう。


 生存者たちの悲惨な暮らしを目の当たりにして、自分は運が良かったと安堵する自己中な詩音であった。まったく心をうたれないので、矯正は無理であるのは間違いない。


 親分と呼ばれた男、そして未だについてくる人々は、とある部屋について地べたに座り、手で座るように伝えてきた。


 ん? と、詩音は疑問に思う。洞窟にしては部屋への入り口が長方形すぎて人工物に見えたからだ。


「……ここは俺の土建会社があった場所だ。こう見えて俺は社長だったんだぜ」


 暗い声音で言う内容に、慌てて詩音は周囲を見て気づく。泥に覆われ土で隠されているが、ここはビルだと。


 まさかと思うその表情に親分は皮肉げに笑う。


「この大空洞は元は俺たちが住む街だったんだぜ。砂に覆われて沈んじまったな。……正直、遠い未来へと飛ばされたと考えていたんだ」


 そう、この大空洞はよくよく見ると高層ビルが積み重なり、家屋がその中にめり込むようにして、砂漠が天井を塞ぐ世界であったのだった。


 もはや滅びて数百年経過していると思われてもおかしくない世界。


「タイムスリップな漂流って、砂漠と廃墟を組み合わせると皆思うんですね」


 のほほんとした声音でシリアスな雰囲気を助手が台無しにしてきたが、それでも詩音は驚くのだった。SF要素がたっぷりあり、危険な予感がした。


「白湯だよ、飲んでくれ、ください」


 ユマが、どうぞと汚れた元はガラスと思われるコップにお湯を入れて出してくれるが、お湯は綺麗だが、コップが濁っていてお腹を壊しそうである。


「ありがとうございます、ユマさん。頂きますね」


 ヒョイとコップを手に取り、貴重な水なのだろうからと、両手に押し包んで大事そうに飲む。てへへとユマは照れたように笑い嬉しそうにして


「へぇ………なるほどねぇ。たんなるお嬢様ってわけじゃないってことか」


 アインが感心しながら私の様子を写真に撮影していく。そうでしょう、そうでしょう。この市井松詩音を侮ってもらっては困ります。私は信頼を得るためなら、できる限りのことをするのです。


「詩音さんは信頼を得るためなら、泥水も飲むタイプなんです。凄いでしょう? あ、ちなみに私はこのコップに入れてください」


「お前は遠慮が無いなぁ」


「私は子供なのでびょーきにかからないように常に行動をするんです。しかも危険な行軍ですからね、リスクはとりません」


 苦笑しながら、差し出された銅のコップを受け取り、ユマが苦笑いをして水を移し替えて周囲がほのぼのとした雰囲気になる。………あの助手は無邪気に私のイベントを潰してくれますね。使えそうなので、雇えないか、あとでアプローチをしてみましょう。私は有能な人材が欲しいのです。アホな少女に見えながら、あの助手はこちらの考えを見抜き、様々な事柄に詳しいみたいですし。


 それに言う事はもっともである。兵士たちはできるだけ健康に気を付けて現地の物を食べるのは注意しなければならない。私の行動は間違いだとちくりと注意を促してきたのですね。


 だが、それは兵士たちの行動であり私には当てはまりませんと。こんなことでは揺るがない詩音である。邪魔な敵も味方にするのが詩音流なのですよ。


「すまないなぁ、なにか食いものでもあれば良かったんだが………今物資を回収しにいっているやつらが、なにか持ってくると思うんだが………」


 親分が頭をガリガリとかいて、気まずそうに言うが詩音は首を軽く横に振り遠慮を口にする。もちろん、遠慮ではないが。


「いえ、お気になさらず、私たちが救助に来たのですから、これから物資を差し上げて」


「た、大変だ! 雑貨屋の小僧が卵を持ってきちまった!」


 詩音の言葉は突如としてどたどたと足音荒く入ってきた男の声に阻まれてしまう。血相を変えたその様子になにがあったのかと疑問に思う詩音を前に親分も血相を変えて立ちあがる。


「なにっ! まさか見つかったのか? あれほど駄目だと言っておいたのに!」


「あいつの妹は体調が悪いからな………、精のあるもんを食わしてやりたかったんだろう………」


 怒鳴る親分に入ってきた男は苦渋の表情を浮かべて答える。親分は周りへと手を振り指示をだす。


「お前たち! 早く荷物を持ってここから逃げるんだ。避難場所へと移動するぞ!」


 なにか危険な出来事があったらしいですね。さりとて、ミュータントの来襲といったところだろう。それならば貸しにできると私はほくそ笑む。


「ミュータントの来襲とお見受けしますが、それならばわたくしの兵士たちにお任せくだされば撃退をしてみせますが?」


 銃を持たない人間とは違い最新装備に身を包むウェスたちはミュータント如き相手にはならない。アリジゴクも水化がなければ倒せていただろうぐらいだったのだからと、自信をもって胸に手をあてて親分に提案をしてみるが


「駄目だ………あれは人の敵う相手じゃない。やつらを叩くのは無理なんだ」


 首を横に振る親分。この人の名前は何と言うのかしらと思いながら、その反応は予測通りですねと私がさらに言葉を連ねて、こちらがどれぐらいの力を持っているか伝えようとしたが、親分は手で制してきて言う。


「あんたらが銃を持っているのはわかる。わかるが………相手は無数にいるんだ………それも異常に強い」


「………そんなに強いのですか? 数で押してくるタイプですか?」


 恐怖と焦りに表情を支配された親分の言葉に、数で押してこられるとまずいと詩音も認識を改める。その場合は装甲車を呼ばなければならないのだが………。


「数と力、両方だ………。ここの拠点は王により沈んじまうだろう」


 不吉な言葉を吐いて、親分は逃げる準備を始めて、詩音は嫌な予感を持つのであった。そして拠点入り口付近から銃声が聞こえ始めたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] かなり自己中心的な詩音ちゃんがダークミュータントにならなかったのは、他人や世界への暗い感情が薄くて本当に運が良かったんだろうなって
[一言] 砂漠で卵?数と力の両方…何が現れるのか楽しみです。 ボスがいるならどんなエゴの持ち主なんでしょうか。
[一言] 蟻はもうやったから、なんだろ? 卵だから蛇とかかな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ