54話 お手伝いさんのおっさん少女
新市庁舎で少女が、タタタと軽い足音を立てながら一人走っている。もはや、崩壊時の汚れもすっかり取れており、洗濯物は窓にはためき、何かの運動会の旗のようだ。部屋の中からも楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
その中をタタタと走り、曲がり角で人とぶつかりそうなら、ホッと言いながら体をひねり華麗に避けて、荷物を持って重そうな人がいれば、ハイハイ持ちますよと言いながら小柄なボディに背負って、軽々と運んでいく。
黒髪黒目の眠たそうな目に庇護欲を呼び出す子猫を感じさせる小柄な美少女。朝倉レキである。
おっさんなど中にはいないのだ。操っている人は考えたらいけないのだ。
珍しく忙しなくチョコマカと走っている。そうして佇んていたり、俯いている人を見つけると捕まえたとばかりに素早く可愛く急いで走りながら近づいて話しかけていった。
「何か困ったことはありませんか?」
と小さく可愛く首を傾げてお目当ての人に話しかける。
それらの人々は珍しく積極的に話しかけてくる少女になんだなんだと困惑している。
そんな少女の目的とはなんでしょうというと、
おっさん少女は只今サブクエストを探しているのである!
この間の潜水艦との戦闘はかなりの危機感を遥に感じさせたのだ。一歩間違えていれば死んでいたのである。何しろ外からの攻撃は全く効かなかったのだ。水中専用武器で効かなかったのだ。恐らく装甲越しに超技で攻撃しても貫くことはできなかったであろう。その危機感を前にレベル上げは面倒だけどさすがに上げようと思った腰の重いおっさん少女である。
まぁ、仕事では締め切りぎりぎりまで終わらせないことをポリシーとしているのである。若いころはすぐに終わらせていたが、気づいてしまったのだ。同じ量をこなしているのに、終わった遥はさぼっているように見えると! そして、周りが仕事を押し付けてくるのだ。なので、精一杯仕事をしていますよと締め切りぎりぎりまで動かないおっさんである。
そのため、レベル上げの経験値を必要とする遥である。
だが依頼一覧を見ると、難しいミッションばかりである。数値が1変わるだけでも大幅な性能の変化がおこる仕様である。経験値が5000変わるだけでも敵の強度が大幅に変わると考えないといけないのだった。次のミッションの経験値15000はかなり無理ゲーだと思うのである。多分レキぼでぃでも無理な予感がする。
次のミッションなんて絶対にクリアできないと思う脳筋おっさんである。常に余裕を持って戦いたいのだ。鼻歌交じりにププー、このボス壮大なイベントがあった後に2ターンで死んだよとかやりたいのだ。
おっさん脳には常にガンガンいこうぜ、なのでレベルが高くないと駄目なのだった。
だが常時ミッションも既に大量の敵を倒したりしないと入らないレベルだ。しかも貰える経験値は500である。やってられない経験値の少なさである。
ゲームでも常日頃、銀色のスライムを倒してレベル上げをしていたおっさんなのである。効率的で安全な方法は無いかと考えた。プラチナがいると、最高ですとヌルゲーを希望していた。
どうにかしてレベルを簡単に上げられないか考えたおっさん。そして珍しく壊れた電球がピカーンと光った。多分蛍ぐらいの輝度はあったはずである。
この間の浄水場も含めて、ミッションが解放されたタイミングはなんだったか? それは豪族の話に出てきたからである! ひどく簡単な話であった。
そう! 人と話せばミッションが解放されるのだ! サブクエストというやつだ。多分メインミッションよりは経験値は低いだろうがそれでも大量にこなせば、レベル上げできるだろうと考えたのだった。
なので新市庁舎を走りまくり、人々に困ったことが無いかと話し掛けているのだ。ゲームでもサブクエストは街を走り回って人々に話しかけて発生したものだとおっさん脳は考えたのだった。
だが、遥が人々に一生懸命に話し掛けた結果が、
「なんでうまくいかないんだろう?」
と腕を組んで不思議そうに首を可愛く傾げるレキぼでぃとなったのだ。
崩壊した世界の物資もままならない生存者の拠点である。
きっとお婆さんに話し掛ければ、お爺さんの形見を家に忘れてねぇとか、クエストが始まって形見を取りに行くミッションとか、死んだと思うが確認してほしいとか兵隊に言われて近くの滅びた拠点を探索するとかが簡単に始まると思っていた遥である。
その際は3個まで余裕だよと、他のクエストも受けてから行動だ! サクサククリアしていくぜぃと効率的に動きたい遥は考えていたのである。
お手紙配達系は楽だった。数個受けてから行動である。期限があればぎりぎりで良いでしょ的考えのおっさんである。
しかし現実は肩もみクエストすら発生しなかった。お婆さんに、話しかければよく来たねぇ、お嬢ちゃんのおかげだよ。飴ちゃんをあげようと言われ、貰った飴をくちの中でコロコロ転がしながら、子供に逃げてしまった子猫でもいないかい? と尋ねれば一緒に遊ぼうと誘ってきた。
これはミニゲームが始まったと、かくれんぼや、鬼ごっこをして一緒に遊んでしばらくしても、仲良く子供たちと遊んでおやつを食べただけで、何も起こらなかった。ボーナスアイテムはどこだろうと思うダメなおっさん少女である。
しばらくしてから、これではレベル上げができないとようやく気付き、う〜んう〜んと悩んでいる時に、レキぼでぃをこっそり離れてほほえましい顔で見てたナナが悩み始めたレキぼでぃにおかしいな?と声をかけてきた。
「何してるの? 今日はいつもと違って暇そうだね。休日かな?」
ニコリと笑顔で何か悩んでいるのかな?と心配そうな表情も少し見せながら、聞いてくる。ようやく子供たちと遊んでいたところを見られたみたいだと気づいた遥。だってミニゲームと思ったとも言えずに困るおっさん少女。仕方ないよねと正直に悩みを話すことにした。
「実はですね。困っている人々を助けるよう言われたのです」
ぶんぶんと両手を振って可愛く説明する。困った人がいないと困るのは遥である。よく意味が分からない感じでもある。指示があったと言い訳を作ったのは、無償で人々の手伝いをする訳は無いという、おっさん的考えからである。
おっさんがお婆さんに荷物を持ちましょうか?困ったことはありませんかと聞けば、怪しまれてさり気なく交番に連れられていくこと確実である。そこは可愛い少女でも、そうではないかと思ったのだ。
それを聞いて眉を顰めるナナ。何か気になることでもあったのであろうか?
「人々を助けるのは立派だね。でも、それをやれと指示されたの?」
なんかオブラートに包んでいるが、やはり無償の手伝いは裏があると思われたみたいである。やっぱりそう考えるよねと思った遥。更に言い訳を重ねた。
「え〜とですね。この間の浄水場の戦いは私は凄く苦戦をしたのです。なのでお手伝いをするように言われたのです」
ちょっと話が繋がらないなと、設定を適当に真実を少し混ぜて話した遥である。まぁとにかくお手伝いと言うかサブクエストが発生すれば良いおっさん少女である。言い訳も適当であった。
「何それ! 苦戦したから罰として人々の手伝いをするように言われたの? 戦いもしない人たちに?」
憤って、こちらに顔を迫らせて怒った感じで勢いよく聞いてくるナナ。別に罰ゲームじゃないよ、苦戦したからレベル上げにサブクエストが必要なんだよと言えない非常に困る遥。
困るレキぼでぃを見て、ますます憤るナナである。
「そんな指示は無視して良いんだよ! レキちゃんは少し休まないと駄目だよ!」
休めと言われても、いつも家でゆっくり休んでいる遥である。ナインの美味しいご飯を食べてからジャグジーバスに可愛いメイドたちと入って、夜は柔らかいベッドで8時間は寝ているのだ。そして気が向かないとか雨が降っていると今日は休みにしようとゴロゴロして何もしない駄目なおっさん少女なのである。
だが、オロオロとする遥を見たナナは、ギュと抱きしめてきた。背丈の差で胸があたり、大変嬉しいおっさん少女である。ぽにょっとしていると大喜びだ。
そのまま良し良しと優しく手の平で頭を撫でてくる。何だろう?可愛いレキぼでぃの頭を撫でたかったのかと考える遥。そうだろうそうだろう、レキぼでぃは凄い可愛いのだ。胸があたっているし許そうではないかと上から目線である。
「ピピー! レッドカードです! マスター!」
何故か一生懸命に笛を吹いて、可愛い口をとがらせて注意をしてくるナイン。ナイン的な駄目な一線なのだろうか?そんなナインも可愛いと思う遥。
珍しくサクヤは言ってこないのだなと右のウィンドウを見ると、私も笛作ってくださいとナインにお願いをしていた。芸に凝ろうとしてタイミングを外す典型的な芸人魂である。そんなサクヤもへっぽこだと思う遥。
しょうがないなぁと、ナインに、嫌われるのはイヤなのでナナを引き剥がしたのであった。
そんなことをしていたところに、後ろから声を掛けられた。
「こっちの手伝いをしてくれると助かるんだがな」
と豪族が現れた。何故か豪族の後ろには静香がいて、お嬢様久しぶり〜と小さく手を振っている。
どうやら厄介かつ新たなるミッション発生の予感である。わくわくし始めるおっさん少女であった。
大会議室にあれから連れられてきた遥である。幹部らしい人たちが集まっている。先程まではナナが今日はレキちゃんはお休みですとレキぼでぃの腕を引っ張っていたが、何とか剥がしてきたのである。まぁ、今もナナはついてきており、お茶をどうぞどうぞと配っているが。有能すぎる秘書な女警官である。
「猿山ですか?」
遥が豪族の話すことに、なんだそれ? という顔で聞き返す。
「あぁ、猿山だ。駅向こうの億ションに住んでやがる。最近は、こちらにちょくちょく斥候らしき猿をよこしてちょっかいをかけてきやがる」
豪族が作戦用のテーブルに置いてある地図に指を指し、ここらへんだなと丸く指でぐるっと囲みを作る。
なるほど、たしかに億ションだ。かつては金持ちが買っていると聞いていたこの間作られた新築である。まぁ、金持ちといっても1億ぎりぎりのマンションらしいので、たかが知れているだろうが、それでも一般庶民には手がだせない。でも、たかが知れているのさ、妬みでないよと手が出せない人々はなぜかディスっていた。勿論、遥も手が出せない。手が出せなかったおっさんは今基地に住んでいるので、世の中わからないものである。というか、基地は広すぎるとも思ってもいる。
「でだ、儂らはここで一発、敵の拠点を潰して安全区域を広げたい」
遥を見ながら強い口調で話しかけてくる豪族。なるほどと遥は思った。猿山地域が制圧できれば、この周辺は他のエリアからの直接攻撃を防げるようになる。何しろ拠点の反対側は、皆は気づいてもいないが遥の基地である。もう片方を制圧すればいいのだ。戦略シミュレーションでいえば、片方は味方なのだ。安心して反対側に全兵力を投入できる。
おっさんは同盟が切れる日を忘れていて、反対側に攻撃中に同盟が切れてすぐさま元同盟相手にボコられて全滅した記憶があるが。
「わかりました。私の手を借りたいのですね。お手伝いしましょう」
快く承諾する遥。何しろ言われたと同時に、サクヤが猿山エリアを攻略せよ。exp5000、アイテム報酬スキルコアですねとウィンドウ越しに言ってきたのだ。この猿山には登るしかないとおっさん少女は決心した。5000なら手頃なミッションであるからして。目指せレベルアップである。
だが、一つ気になる点があるのでちょっと聞いてみる。多分聞かないと後悔する。
「なんで静香さんもいるんですか?」
この女怪盗がいると、ややこしくなるかもしれないと警戒する。女怪盗ではない、女武器商人だが、多分、女怪盗と同じ行動を取ると思われる。そして連鎖ミッションとかになるかもしれない。でも、連鎖するなら経験値美味しそうだし良いかなとも思う遥。でも連鎖ミッションがドンドン難易度が高くなるなら、ごめんこうむります。
常日頃、楽なことしか考えていないおっさんである。連鎖ミッションはクリアできる美味しいところまでしかやらないのだ。後は誰か高レベルの人に手伝ってもらいクリアするスタイルである。面倒なのは仕事だけで良いおっさんである。
「ふふふ、警戒しないでお嬢様? 今回は私も戦いに加わるの」
なんとと驚き、ケチそうな女武器商人が参加するの? と思い切り表情にだしてしまうポーカーフェイスのできないおっさん少女。
薄笑いを口元にして、肩をすくめて静香は簡単な理由よと教えてくれる。
「猿山のボスは、貴金属とかお金を部下に集めさせているみたいなの。随分世俗的な化け物みたいね」
軽く腕を組み座っている脚は組んでいる。なにか見えそうな感じもする妖艶さをだしながら、隠すことなく堂々言う静香に遥も感心するしかない。まさに筋金入りの貴金属好きである。そしてやっぱり女怪盗でいいでしょ、この人とも思った。
と、いうことで出発進行とゴリラ軍団と出撃するおっさん少女であった。