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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
5章 コミュニティを安全にしよう
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53話 復興の足音

 平時なら人々が買い物などで賑わっているだろう駅前通り。聳え立つ駅ビルに周りの飲食店などは今ボロボロとなっている。駅ビルは砲撃でも受けたのだろうか? まるで鼠に食べられたチーズのように穴開きだらけで、周りの飲食店なども看板は壊れ地面に割れたガラスと共に放置され片付ける者もいない。そこかしこにゾンビであったのだろう元は警官と思われる多数の死体が散らばっている。


 そして今は戦場と化していた。


 タタタタと軽い音がする。何かの作業と思えれば良いが、その音は死を運ぶ演奏である。


 車の陰に体を隠しナナは敵の攻撃をやり過ごしていた。


「敵さんも重装備になってきたな!」


 先輩警官が敵のリロードの隙を狙い、すかさず体を車の陰から乗り出しアサルトライフルをタタタタと相手と同じ音をたてて撃ち込む。


「モンギッ」


 命中したのだろう、敵のうめき声が聞こえた。


 ただ今、荒須ナナたちは猿の軍団と戦闘中である。


 敵がひるんだと見て、猿の隠れている位置に回り込みビルの陰にいた同僚もアサルトライフルを撃ち込む。


ギャと叫んでドサンと倒れる音がする。


「銃持ちを倒したぞ! 突撃だ!」


 警官隊長が遠距離戦を制したので叫ぶ。あの猿たちは使える装備が決まっている。銃持ちなら銃しか使えない。ナイフ持ちならナイフしか使えないのだ。たとえ目の前に銃が転がっていてもナイフ持ちが使うことはない。


「はぁぁ!」


 叫んでナナは突撃した。既に装備はショットガンに切り替えている。近接戦で猿に負けることはない。


「モンキー!」


 銃持ちがやられ不利を悟ったナイフ持ちが二体、ナナに向かってくる。まるで昔の映画のようだ。猿対人間である。


 くだらないことを一瞬思いながらナナは先頭の猿にショットガンを撃ち込む。散弾はその威力を発揮し猿を吹き飛ばす。続くもう一体がコンバットナイフを振り上げてくる。ナナはショットガンを振り上げてきた腕に絡ませるように撥ね退ける。そのまま、撥ね退けられたたらを踏んで隙ができた猿の頭に散弾を撃ち込み破砕させた。


 周りを援護しようと確認したが、既に戦闘は終了していて猿は全て倒れ伏していた。仲間は圧勝できたみたいでホッとする。


「猿軍団を撃破した。経験値千を入手した」


 ちゃららら〜とおどけながら、仲間の一人が猿の持っている武器を回収していく。


「アサルトライフルか? これは」


猿の持っていた銃を確認している自衛隊の仲間が不思議そうに言う。


「使えるから良いが、これも見たことない製品だ。奴らどこから武器を入手してやがる?」


長方形のコンパクトなお弁当箱を大きくしたような未来的な小銃である。


「ヨーロッパで使用されているやつに似ているが別物だ。小銃にしても威力が弱すぎる」


 確かに猿たちの武器は車のドアも撃ち抜けない。軍用ライフルにしては弱すぎるらしい。以前にミリタリーマニアの同僚が不思議がっていた。


 まるでゲーム前半に出てくる雑魚キャラが使う感じである。


「それを言ったら、静香さんの武器も大概ですよ? あれも金額によって威力が変わりますよね?」


 ナナは苦笑いを浮かべて返答する。静香から買う武器も威力が変だ。同じ重装備、同じ弾丸なのに静香は別料金をつけている時がある。実際に威力も性能も、全然違うのだ。100発装填できるハンドガンがお勧めですよ。リロードの必要ありませんよと、この間勧めてきたのである。100発入るハンドガンって何だと思ったが、どこに仕舞われるのか確かに入ったのを見て驚いたのだ。


「うむ。我々の知らない技術が、広まっているのだろう」


 警官隊長がズシャズシャとブーツの足音を立てながら、思案げな表情で話しかけてくる。


「だが今は敵の武器も使えることが大事なのだ。未知の技術の解析はあのコミュニティに任せれば良いだろう。我々は生存のために戦うのみだ。帰還するぞ! 敵の弱弾丸は分かるように分別しておけ!」


 いつか弾丸が通貨になるかもねとか、あのコミュニティかぁと誰かが呟いて、いつ彼らは合流してくれるのかね? と、仲間と話し合いながら、ナナも一緒に帰還したのである。




 新市庁舎に帰還したら大騒ぎが起こっていた。最早この周辺は敵はいないので、洗濯物が翻り割れた窓も外されて、人々は笑顔で仕事をしているひどく生活空間だと実感する場所となっている。まぁバリケードや監視所に銃持ちの見張りがいることを除けばだが。少し前とは大違いである。


「何が起こったんでしょう?」


 ナナが、警官隊長に疑問顔で問うと知らないのであろう。首を横に振ってきた。


 人々は笑顔で騒いでいるので悪いことではなさそうだ。レキちゃんが補給品を持ってきたのかなと思ったが、この間来たばかりだ。まだ来ないだろうと庇護欲を見出す小柄な少女を思いながら集団の中心に自分も銃のガシャガシャと鳴る音を立てながら移動する。


「何があったんですか?」


近くのおばさんに聞いてみる。何やらワイワイと騒がしいのだ。何があったのだろう?


「あぁ、ナナさんかい。見ておくれよ。水が出たんだ!」


 給水車で補充したばかりだから当たり前では?とナナは思ったが、直ぐに思い違いに気づいた。皆が集まっている蛇口は新市庁舎からの給水を受けていない!


「給水が復旧したんですか!」


 「そうなんだよ、私たちもさっき気づいたのさ! 子供たちが出ないはずの蛇口から水をつかっているのを見てびっくりしたのさ!」


おばさんが返答してくる。追いついた警官隊長も唸るように言ってくる。


「どうやら浄水場を復旧した者がいるみたいだな」


「きっとレキちゃんですよ! やったんだ! 凄い!」


 あの小柄な少女が復旧させたんだろう。それしか考えられない。あの地帯は普通の人間では入れない危険すぎる場所だ。それと共に一人で孤独に戦い続ける少女に憐れみと自分の不甲斐なさを思う。


「ようやくインフラ関係が復活してきたか。次は発電施設だな」


 警官隊長が腕を組んで難しそうな表情で語る。


「またレキちゃんに頼ることになるのでしょうか?」


 少し小声になりナナは聞いてしまった。


「だろうな。あのコミュニティはこちらへの武器の支援を行わない。恐らくは復興後の主導権を握るためだろう。こんな世の中でも権力にしがみつこうとしているクソ野郎どもがいるんだろう」


 苦々しく警官隊長が告げる。ナナもそうだろうと思う。映画や小説でも現実を見ないで指示をする馬鹿な権力者がいたものだ。多分レキちゃんのコミュニティの上もそうなんだろう。


「戦うことに疑問を持たない少女を作り上げるコミュニティですもんね」


 ナナも強い口調で返答した。あの少女は自分が戦うことに疑問を持っていない。恐らくはあちらのコミュニティがそう作り上げたのだ。非道な奴らだと思う。


「優秀な科学者や潤沢な物資、強力な武器もあるのに彼らは全く外に出てこないつもりなんでしょうか?」


「ふん、彼らは自分たちが安全に暮らせると確認できない限りは出てこないだろうさ」


 吐き捨てるように警官隊長が言った。ナナも同意見である。そしてレキちゃんを、こき使うあちらのコミュニティの人に出会ったら、絶対に一発殴ってやるとも決心していた。


「お疲れ様です! 飲み物や甘い物がありますよ」


 ガチャガチャと箱を運びながら、この間助けた生存者がやってきた。帰還した部隊のために持ってきたのだろう。命懸けの探索のささやかな報酬である。


「それじゃ私はいちごミルクを下さいな」


 ナナは箱の中身を見て、持ってきた少女に、これねと指差してお願いする。確かこの少女は織田椎菜だったかなと名前を思い出そうとした。


「はい、どうぞ」


ニコリと笑って、椎菜はナナにいちごミルクを手渡した。


 受け取ったナナはチューッといちごミルクを開けて飲む。よく冷たく冷えている。発電機の電力は貴重なので冷蔵庫にも容量があるのだが、特別なのだろうことがわかる。


 甘い甘い、美味しいねと感想を言いながらナナは椎菜を見て思う。今の拠点に住む人々は自分にできることを精一杯やっている。


 女子供なら洗濯や掃除。後は細かな雑用。男性は探索を終えて安全宣言が出た建物から物資を運び出し、その後封鎖を実施している。目指すは三拠点を、囲むようにバリケードを作り上げ、安全な地域を作ることである。


 しばらく皆で休憩しながら雑談をしていたら、パッパッーとクラクションの音がした。見ると軍用歩兵輸送トラックとレキちゃんが言っていた車両がこちらに到着するところであった。


 サハギンたちの戦いの後、百地隊長がレキちゃんから借りたのだ。かなり強引であったが、物資輸送は復興をおおいに早めると説得したのだ。


 レキちゃんは上司に聞いてくると言って一旦帰ったが、戻ってきたら疲れた顔をして、レンタルを続けていいと指示を受けましたと伝えてくれた。


 多分上司に散々嫌味でも言われたのではないかとナナは予想した。なんてケチな人たちなんだろうとも。やはり二発は殴らないと駄目ねと、新たに決意する。


「丁度良い。皆集まっているようだな。その分だと浄水場が復旧したのも知っているようだ」


 ニヤリと豪族さんとレキちゃんが呼んでいた、確かに豪族に見える感じの百地さんが、新たなる提案をしてきた。


「ここらで、隣に住んでいる猿たちも退去してもらおうではないか」


 凄みを感じさせられる表情で周りに語ったのであった。


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