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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
35章 色々と考えよう
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536話 那由多の陰謀を暴きたくないおっさん少女

 部屋は静寂に包まれていた。部屋にいる面々は静香の教えてくれた内容を聞いて、理解に努めようとしていた。


 だが、理解が及ばないようだ。無理もない。ただの陰謀なら理解できるだろう。複雑な話でも、集った面々なら最終的な敵が誰か理解できるはずだ。

 

 だが、神様が出てくるとなると、普通の人間の理解力の許容範囲を大きく超えている。


 最終的な敵……メイドを雇っている私かな?


 責任義務とか言われたらどうしようと遥は全力で幼女だから、私は話がわからないと、とぼけた笑みを見せるのであった。おっさんはとぼけた笑みなら得意技なのだ。




 百地は静香の話を聞いて、唸りながら頭をガリガリとかく。


「神様が那由多代表の背後にいるってのか? その魔法使いの爺さんはマトモなのか?」


 到底聞き入れることのできない馬鹿げた話だ。神様だと?


「そうね。私も眉唾ものだと思ったわ。所詮来たばかりの人間。しかもそれらしいことを言ってくる魔法使い。ここまで揃ったら現実だと信用できない話だわ。たぶんナナシもそう考えたのではないかしら?」


「なるほどな……。荒唐無稽な話すぎるから用心深いあいつでも無防備に那由多代表に会いに行っちまったわけだ」


 聞くだけでも胡散臭い話だ。物語ではないのだ、古風な魔法使いが助言を与えてくるなど、ファンタジー映画でしか見ない話としか思えない。ナナシでなくても信用するのは難しい。俺なら適当に受け流すだけにしておく。酒でも飲んでそんな話は忘れてしまうに違いない。


 だが、ナナシはその話に何か思い当たることがあったのだろう。だからこそ、那由多代表へと話をしに行ったのだ。


「なにが起こっているんだ? 小さき女神ってのはお姫様のことだろう? なにか心当たりはあるか?」


 考えても埒が明かない。少しでもこの話の内容に関わりがありそうな人物。レキへと尋ねる。


 レキは私? とキョトンとした表情になり、なにを思ったのか、うんうんと頷き新しいタスキを取り出して、ちいさきめがみ、と子供の汚い字でマジックを持ちフンフンと機嫌よく書き始めた。


 相変わらずすぎて頭が痛くなっちまう。全然姫様は変わらない。


「私はちいさきめがみレキ。さぁ、皆さん願いごとを言いなさい。300マターまでの範囲でお菓子を奢って欲しいですか?」


 無邪気に目を閉じて、手を広げて、パァァッとか擬音を口にしながらアホな天使ごっこをしてくる。子供たちとどんな遊びをしているかわかってしまう光景であった。


 しかし、子供なら喜んだだろうが、俺たちは喜べない。レキの頭をアイアンクローで掴んで、怒気の混じる声音で問いかける。


「姫様、ちょっと俺らには余裕がないんだ。真面目に答えてくれや」


「ギブギブ。わかりましたから、熊みたいな手を離してください。わかりましたから」


 レキがパンパンと手を叩いてくるので、フンと鼻を鳴らして離してやると、レキはもぉ~と、口を尖らせて答えてきた。


「えっと、ちいさきめがみとは、私が最近ミュータントではない存在に言われている通り名ですね」


「ミュータントではない存在? 天使教の人たちのこと?」


 荒須が不思議そうにレキへと尋ねるが、ここの人間たちから呼ばれているのであれば、そんな風には言うまい。


 予想通り、レキはあっさりと信じられないことを口にしてきた。常識が壊れるような内容を。ケロリと芸能人を歩いていたら見つけましたというように至極簡単に。緊張感なくあっけらかんと。


「いいえ、世界が崩壊したあとに聖域化した場所から、その力を得て復活した世界を支配しようとする神様と名乗る悪人たちです。自分本位でまったく人間たちを省みることをしない連中です」


「そんな連中がいるのか………。だが、俺たちは会ったことも聞いたことも………。いや、京都でそんな奴が現れたと聞いているな。人間どころか、生命そのものを滅ぼそうとした奴だったか」


 百地はレキの言葉に驚いたが、たしかにそんな話を報告書で読んだ覚えがあると思い出す。神を名乗るイカれたミュータントだと思っていたら、本当に神だったのか?


「俺もその報告書は読みましたよ。かなり危険なミュータントだと思ってましたが、まさか神?」


 仙崎もレキの言葉に驚愕の表情を隠さずに言ってくる。周りの面々もその内容に驚いていた。


 レキはそうですねと、コクリと頷き話を続ける。


「ミュータントでなくても害虫みたいな奴らです。とりあえず支配者として上位にいようとする奴らです。この間、出雲に行った時はわらわらとたくさんいたので、退治するのが大変でした。たしか、ヤマタノ神々?」


 レキがブンブンとちいさい手を振り、大活躍しちゃいましたと言うが………。


「そ、それはヤマタノ神々ではなく、八百万の神々ではないかね?」


 風来がゴクリと唾を飲み込み、恐る恐るといった感じでレキへと尋ねると、先程と同じようにあっさりと頷き肯定してきやがった。


「そうそう、そんな人たちでした。私の力を利用して太陽をなんちゃらの神様をちょーてんとした世界を構築しようしていましたね。全員倒しましたが」


「天照大御神だな………。なんてことだ」


 わなわなと震え始める風来へとレキはすっと目を細めて冷たい声音になり、風来へと告げる。


「今まで出会った神様は肉体を持ってはいけない人たちでした。なぜならば、神様は残酷なので。貴方は神様の残酷さを京都で思い知ったはずですが?」


「た、たしかにその通りだ。人間とは違う倫理で生きている超常の生き物だとあの時に思い知ったはずなのにな………。話を止めて悪かった。続けてくれたまえ」


 京都で生命体全てを罪あるものとして滅ぼそうとした神を思い出して、自嘲するように表情を苦々しく変えながら風来が謝るので、レキは話を続ける。


「神族というらしいです。そんな困った敵は最優先で倒すように本部からは命令されています。まぁ、滅多に会わない存在ですし、ちいさきめがみとはその過程で敵に呼ばれた名称ですね」


 風来へと冷たい視線を向けたが、それは少しの間だけですぐに無邪気な笑みを浮かべてレキは言う。


「神族………。そんな存在もいるとは崩壊した世界で常識が崩れたが、もっと壊れちまったな。まぁ、そんな奴らも倒しちまう姫様にも驚きだが」


「神族の話はトップシークレットだからな。君たちも外で吹聴(ふいちょう)しないでくれ。………まぁ、外でこんな話をしても頭の心配をされるだけだろうが。正直、私もミュータントだと思って気にしたことなどなかったのだが………」


 木野が硬い口調で警告してくるが、たしかに信じられない話だ。


「それに神族は自分の力を示すために隠れるなんてことはしないと思うんですが………」


 レキが首を傾げて不思議そうにする。


「しかも、その魔法使いが言うには世界が崩壊する前から神族がいたことになる………。そんなことがありうるのか?」


 再び木野が呟くように言うが


「あら、その疑問をナナシも抱いたから那由多代表に会いに行ったんじゃないかしら? その答えが今の状況だと思うのだけれども」


 壁にもたれて腕を軽く組みながら、妖しく微笑み話に加わってくる。たしかにその通りだった。だからこそ、ナナシは捕まってしまったのだろう。


「なら、那由多代表は人々を操っていたのか? 有能な人材とやらを説得するわけではなく?」


 那由多代表の強い想いは知っている。そんな那由多代表が人の精神を支配していた? 百地は信じられない思いで周りへと語りかけると


「それは精神支配系ということでしょうか? それはあり得ませんね」


 意外なことにレキがあっさりと違うと断言するのであった。



 部屋にいる面々はレキの言葉に意外に思う。確信をもった言い方であったからだ。


 レキは周りを見渡して、ゆっくりとした口調で言う。


「今の私には精神支配が、いえ、なんらかの精神に対する超常の力が働いていたらわかりますし、崩壊初期から精神支配系のミュータントが入り込まない、もしくは操られた人が入らないように万全を期していました。外から戻って来た人は隔離されて、いくつかの質問と経過観察をされていたんですから。今はそういう力を感知できる機械もできましたし。魅了を使える勇者も存在できません」


 フンスと得意げにレキが言う内容に、木野も同意して頷く。


「レキ様の言う通りだ。本部は最後の人類の砦だ、その可能性を完全に排除できるシステムが作られている。だからこそ、考えにくい。レキ様………私は今操られているかね?」


 木野が確認すると、レキはブンブンと首を横に振り否定する。


「その痕跡はありませんね。とすると、やっぱり魔法使いの言ったことはデマなんですよ。きっと予想から来る妄言だったのでしょう」


 パンと手を打って、レキが笑顔で告げてくる。


「きっとナナシさんは病欠なんですよ。働きすぎたから、無理やり休みを取らせたのを、拘束されたとかいう話にねじ曲がったに違いありません」


「いや………姫様に悪いが、その可能性は低いぜ………」


 百地の言葉にレキは子供っぽく頬を膨らませて不満の表情になる。………姫様は那由多代表を信じている………だから、この話を終わらせようとするように見えた。


「どうして、病欠の可能性が低いんですか? ありそうな話だと思うんですが?」


 不満いっぱいで尋ねてくるレキへと嘆息して答える。


「姫様のために………、いや、レキの望む未来にこのままではならないと魔法使いは言ったんだろ? それなら、あの男はどんな小さな可能性の芽であっても確認するだろうからな」


 あの不器用な男なら、娘が危機に至る可能性があると聞いたら、どんな小さな可能性も調べるはずだ。だからこそ………。


「なんで豪族さんにそんなことがわかるんですか?」


 さらに言い募るレキへと百地はかぶりを振ってみせる。


「今は理由は教えられねぇ。だが、ナナシがヤバい状況にあるのは間違いねぇ」


 親子だと告げるのは本人からじゃないといけねぇ。だから理由は言えねぇ。


 百地の言葉にレキは首を傾げて


「そろそろ話は終わりかしらっ! 百地代表の意味深な言葉も気になるけど、私はそろそろ婚約者を助けに行きたいんだけどっ!」


 それまで沈黙を保っていた光井叶得が、足を振り下ろし、部屋に響き渡る大声で叫んできた。


 イライラとした表情で周り見渡して叶得はさらに叫ぶ。


「神族だが、なんだか知らないわっ。そんな話は解決したあとに聞けばいいのよ。肝心なのは、今ナナシがなにかの陰謀に巻き込まれて危機にあるということ! ただそれだけのことよ! 助けに行かないと!」


 叶得は噛みつきそうな怒りの表情で木野へと視線を向ける。


「ナナシが本部にいるのなら、助けに向かう必要があるわ。貴方は本部に戻る船があるの?」


 凶暴な叶得の言葉に、うぅっと怯み後退りを無意識にしながら木野は頷くものの


「艇で来ているが………。本部への訪問するのは色々と書類が必要でな」


「悪いが急いでいるんだ。書類は事後承諾にしてくれ」


 たしかにその通りだ。叶得の言う通り今は動くときだった。今この時もナナシは危機的状況のはずだ。


 ガシッと木野の肩に腕を回し、自慢できない強面の笑顔を見せてやる。子供なら泣いちまう表情なので笑わないでくださいと言われたこともある。


「仕方ない………。緊急事態だ、ついてきたまえ」


 木野は嘆息してドアへと足を向けようとしてピタリと止まる。


「姫様………。冗談はここまでだ。なんのつもりだ?」


 ドアには両手を広げてレキが塞ぐように立っていた。


「本部へと潜入するなんて許可できません。これ以上進むなら拘束します」


 冷酷な無感情な表情を浮かべて、最強の味方は、最凶の敵となって百地たちの前へと立ちふさがるのであった。

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[良い点] ナイス制止! グッジョブです。 [一言] おっさんは知っている、神にとって彼等は偶然生き残れた者達に過ぎず、無二でも必須でも無いことを。 おっさんは分かっている、命と個の尊厳の重さが人の世…
[一言] おっさんが人々の善意によってピンチ!
[一言] ラストダンジョンへ向かう主人公達を止めるヒロインみたいに見えるw RPGのクライマックスみたいな盛り上がりを感じますね、これは那由他が力を取り込んで擬似神族へとなって豪族達とラストバトルする…
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