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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
35章 色々と考えよう
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533話 魔法使いに会うおっさん

 洋館は広い。どのぐらい広いかというと、陽子一人では掃除できないぐらいに。引っ越しを終えたばかりでもあり、そこかしこに新しい木の香りがするタンスやテーブル、椅子などが配置されないでかたまって置かれていた。


「こういう時に、自分で考えて動くゴーレムとか欲しいな……。自分としては、箒が勝手に掃除をしてくれたりするのが助かるんですが」


 偉大なる魔法使いファフが弟子夕月陽子は、昔の錬金術師のゲームを思い出してひとりごちる。パラメーターにはまったく関係しないが、散らかったゴミをきれいにしてくれる魔法の箒が初代錬金術師ゲームではあったのだ。父親が持っていた古いゲームだったが陽子は好きだった。


 ほんの昔の過去を懐かしく思い出して、片付ける手を止めると


「陽子様はそんな魔法の道具を作れないんですか?」


 片付けをしていた召使いの少女が期待を少し声にのせながら尋ねてくるので、首を横に振り否定する。


「私が作れるのはパンとワイン、水ぐらいです。そんな魔法は習っていないですし。そのスクロールも毎日作るのは無理ですしね」


「そりゃ残念だ。俺たちも期待していたんですが」


 庭師として雇われた老年の男性がからからと笑う。


「弟子になって、まだ少しですから」


 今回はしっかりと拠点に住むらしく、雑事はすべて召使いを雇い片付けるように師が指示を出してきたのだ。小間使いと言っていたけど。


 そのため、数人を以前助けた避難民の中から雇ったのだ。


 師が生きていて良かったが……。


「大樹の役人が教えてくれなかったら、私を放置する予定でしたね、師よ」


 それだけが不満な陽子は、先日を思い出して頬を膨らませて


 ピンポーン


 と、インターホンが鳴ったので、誰だろうと門へと向かうのであった。




 ドアを開けて、陽子は慄然とした。この人たちは本当に人間なのかと。


 例えていえば、抜身の真剣であろうか。冷たく研ぎ澄まされた力をスーツ姿の男性からは感じ取れて、もう一人の似合わない麦わら帽子と白いワンピースを着込んだ妖しい魅力を放つ暴風のような力を隠さずに放つ美女。


 二人とも魔法使いの弟子となってからある程度の力を見れるようになった陽子が初めて見る力の持ち主であった。


 男性からは完全にコントロールしているのだろう、威圧感はあるがその力の底を見ることはできない。だが、それが反対に力持つ者だとわかる。師には及ばないだろうが、自分では勝てないと直感で悟る。


 女性からはまったく隠す気がないのだろう、力がどれほどあるかわかる。師と同格の存在であり、やはり自分では勝てない相手だ。


 背中にヒヤリと冷たい汗が流れるのを感じて、陽子は思わず身構えてしまう。剣の指輪に手をそえていつでも発動できるようにしたところ、男性がその様子を見て、眉をピクリと動かして口を開く。


「物騒な出迎えはあまり好きではない。私たちはここに住む魔法使いに会いに来たのだが、ご在宅かな? 私は大樹のエージェント、ナナシと言う」


「私たちはちょっとした用件でおうご、いえ、魔法使いさんに会いに来たのよ。私は独身の五野静香、よろしくね」


 黄金と口にだしそうになって、慌てて言いかえる静香である。


 陽子は大樹のエージェントと聞いて、指輪から手を離して警戒を一応解いて、二人を不躾になるだろうが、ジロジロと見つめる。大樹のエージェントと聞いて驚くが、なるほど、師が住むことのになったので、様子を見に来たのだろう。女性の独身という言葉は必要だったのかしらんと思いながら


「すいません。師は気まぐれなのでお会いできません」


 ペコリと頭を下げて断るのであった。


 あっさりとこれまで会いに来た人間に対する返答と同じく。


「師の部屋は結界が張られていて、侵入禁止となっています。弟子である私もそれは変わりません。師が部屋から出てこない限り、会うことはできないのです。ご訪問は伝えておきますので申し訳ございませんが」


 師には短期間で大勢の人が会いに来たのだ。師に助けられてお礼を伝えに来た人間から始まり、師が持つ黄金の話を聞きつけて、その財を投資しないかと年若い少女まで来た。


 だが、誰も師には会えない。食事の時間だけ僅かにドアが開くのみである。


 なので、この後の展開も予想はできた。簡単に諦めなさそうな二人であったので。


「ふむ………。それならば、申し訳ないが魔法使いのいらっしゃる部屋に案内して頂いてよろしいだろうか? もしかしたらノックをすれば出てくるかもしれないしね」


 ナナシがやはり予想通り諦めずに聞いてくるので、その眼光の鋭さに内心怯みつつ、表情には見せずに頷く。師からも諦めきれない人間にはそうしろと言われたし。


「わかりました、ではこちらへどうぞ。無駄だと思いますが」


 なんだか古風な小説の執事のようなセリフを口にして、陽子は二人を館の中へと案内するのであった。




 稲光りもしないし、雨も降っていない。館の床は新築のため軋むこともなく、案内するのは不気味な執事でもなく、可愛らしい美少女である。だが、シチュエーションだけ見れば、不気味な館に誘い込まれる人間な感じではなかろうか。


 遥はそんなくだらないことを考えながら、陽子についていっていた。もちろん、その場合、最初にやられるのは、おっさんに間違いない。きっとギャーと館に響き渡る叫び声をあげて無惨に殺されるのだ。下手をしたら、プロローグで死んだりして出番がなくなるかもしれない。


「なんだかワクワクする作りよね。この洋館を建てた人はシャレがきくのね」


 静香がニヤニヤ笑いを隠さずに、遥を見ながら言ってくるので心当たりがあるので、ぎくりと身体を震わすが


「なにかこの洋館に変なところでもあるのかね、五野君」


 一応すっとぼけて尋ねてみると、静香はこそっと教えて小声で教えてくれる。


「この洋館、初代のバイオなゲームと同じ作りよ。貴方はゲームなんてやったことないだろうけど」


「ほぉ、なんのことかわからないが、立派な洋館だから良いのではないかね?」


 ばれちゃった。


 洋館と言われたので、イメージがこれしか生まれなかったのだ。ステータスボードにある建物建設シリーズの中に初代洋館とアイコン表示がされていたしね。その場合、おっさんが選ぶのは一択でした。


 どうせファフはゲームなんか知らないよねと。


 ファフに告げ口したら駄目だからね。


 ファフにばれたらどうしようと、恐れおののくおっさんがここにいた。


 実にしょうもないことをするおっさんであるが、後悔はしていません。リアル洋館であるのだ。ロマン溢れる洋館なのだ。


「この分なら地下施設もありそうね、裏庭の井戸あたりに」


「地下イメージはネス2にしておい、ゲフゲフン。まぁ、この館を建てたのはレキだからな。なにがあってもおかしくない。面白がって、なにを作っているやら」


 レキのせいにして、誤魔化すおっさんである。クールに肩をすくめて知らないふりをする。心中はドキドキであるけど。


「ふ~ん………。お嬢様がね………とすると地下は確実にあるわね………。もしや財宝も」


 顎に手をあててブツブツと呟き、やばい方向に考えが向こうとする静香に


「あ~、書斎に着いたぞ。五野君。とりあえず、魔法使いに会って見ようじゃないか」


 誤魔化すように咳払いをして、案内してくれた陽子へと視線を向けるおっさん。


 だが、助けを求めるために陽子を見たのに、彼女は驚いた表情で周りをきょろきょろと見渡し


「あっ! 本当だ! これはあの洋館だ!」


 静香の言葉を聞いていたらしく、気づいてはいけないことに気づいた様子であった模様。


「さて、では天岩戸ではないが、会えるか試してみよう」


 探検しなくちゃと興奮した様子で呟く陽子は放置して、一際大きな声をあげて遥はノックをするが反応はない。ドアノブを捻るが、ガチャガチャ音がするだけで開くことはなかった。


「開ける事ができる人間なら会うと師は仰っていました」


 気を取り直して、陽子が真面目な表情で告げてくるので、天岩戸を真っ二つにした経験のあるおっさんはどうしようかと迷うが


「秘密兵器の出番ね」


 いち早く静香がハッキングができる銃を取り出す。あぁ、コンピューターが入っているはずもない通気口のファンもハッキングできる超常の機械だから、結界もハッキングできるのねと遥は思う。


 小さな銃を身構えて、ドアへと銃口を意気揚々と向ける静香。ニューンと音がして、たぶんメーターがいっぱいになったのだろう。ドアノブはバチッと音がして火花が散り、ポロリと壊れて床に落ちる。ハッキングは物理的に壊すことではないんだけどと、弁償決定となったドアノブを見て嘆息してしまう。


 レキぼでぃの時とは違い、おっさんの時は気苦労が多いのかもしれない。


 だが、見ておきたいものは見れたねと微かに口元を笑みへと変える。薄っすらと誰にも気づかれずに笑うおっさんだが、おっさんの笑いなので気づかれなくても良いだろう。


 ドアノブを失いドアがギィと中へと開き


「やれやれ。アホウな弟子よ。儂は人間ならば通せと伝えたつもりだったがな」


 書斎であろう本が並ぶ中、奥の安楽椅子に座る腰まで届く白い髭の皺だらけの老人はむっつりと気難しい声音で言ってくるのであった。




「初めまして! 私の黄金さん! 私は」


 静香が飛び出して、ファフではなく隅っこに置かれた金貨の山へとダイブする。そして、ダイブ寸前、金貨の山の手前で、床がパカンと開いて、そのままヒューと落ちていくのであった。


 あっさりとフェードアウトしすぎるだろうがと、おっさんは額に手をあててため息をつくが仕方ないやと諦めることにする。静香なら不死鳥のごとく復活するだろう。そこに黄金があるかぎり。


 ぽかんと口を開けて、突然の展開についていけない陽子とは違い、ファフは動揺も見せずに遥へと視線を向ける。


「で、どうかね? 儂は脅威の存在と思ったかね? それともそのドアの結界の弱さから取るに足らないと考えたかね?」


 どうやらこちらの考えを見抜かれていたらしい。


 遥は肩を竦めて、ファフへと告げる。


「そうだな………。少なくとも、レキ以外でも貴方を抑えることができるだろうとは思ったよ」


 遥がここに来た理由の一つ。それはファフがどれぐらいの力を残しているのかであった。私以外に抑えることができないようだとマズイしね。だが、静香の結界破りを見て、眷属でも対応は問題ないとわかった。一安心である。


 隠さずにあっさりと答える遥をジロリと見てくるファフ。お爺さんの目つきは怖いんだけどと内心で怯みまくるおっさんであったりしたが


「ふむ………。天使族を連れ歩く人間か。なかなか面白い奴だな」


 ファフは椅子から立ちあがり、陽子へと厳しそうな声音で指示をだす。


「晩餐の準備をせよ。こやつはなかなか楽しそうな者だ。話を聞きたい。準備ができるまで、応接室で歓待せよ」


 そう伝えて、再び椅子に座りなおしファフは本を手に取り読み始めるのであった。


「わかりました、師よ! ではこちらへ、えっと、ナナシ殿」


 背筋を伸ばして陽子は指示を受けて、遥をまた案内する。どうやら話は晩餐までお預けらしい。実に魔法使いらしい。


「では晩餐にてお会いしよう」


 遥は軽く一礼して、書斎を去るのであった。


 ちなみに静香はボロボロになって、晩餐までにどうにか戻ってきました。ゴーレムとかと戦ったらしい。なんで戦いになったかは想像できるから聞かなかったけど。

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― 新着の感想 ―
[一言] おっさんボディの時の戦闘力って実際どんなもんなんでしょうね~。 剣聖には勝てたし、あの頃より更に強くなってるだろうし。
[一言] 流れからして、プロポーズすると思ってたのに、告る前にに落ちた! ボケる前にきちんとフリができる点でおっさんのが優秀なのかな
[気になる点] 誤字の報告です。 >>引っ越しが終えた →引っ越し『を』終えた もしくは →引っ越しが終わった [一言] 日常生活に支障をきたすlvでギミックてんこ盛りだと思うのですがw 月光弾…
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