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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
34章 再会を楽しもう
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527話 竜王と激闘しちゃうおっさん少女

 竜王ファフニールは一瞬のうちに空へと飛ぶ。巨体とは思えぬ速度で中空に行くと、パカリと口を開けて何ものをも貫き噛み砕きそうな牙を見せながら力ある言葉を口にする。


「魔力の奔流にて吐息は力と変わらん」


 魔法の言葉。竜王と戻ったその姿でも老人の姿と変わらぬ力を振るうファフニール。


 瞬時にファフニールの前面に超常の力が集まり、空気が突風となり荒れ狂う。


 その力は空間を震わせ、辺りを照らし、膨大な光の奔流にて地上にいる少女へと落とされる。


「マジですか。なんで最強技っぽいのをいきなり使う訳?」


 遥が嫌そうに呟く中で、その光は近づいてきて辺りの地上を含めて少女を覆う。


 光が周囲を覆い、その後に耳をつんざくような爆発音が響く。


 爆風が砂埃をまるで津波のように噴き上げて、周囲へと広がっていき、辺りの建物も木々もすべて隠していった。


 空気も熱せられて、蜃気楼のように空気がゆらゆらとその熱で歪んでいくが、少女がいた中心地から再びなにかが噴き上げてくる。


 それは青いキラキラとしたもの。空気を冷やし、砂埃を収めていくのは小さな氷の粒子群であった。


 高熱により溶けていた地表が氷により凍っていく。グツグツとマグマのように熱せられて赤く光って燃えていた溶岩も氷の粒子が触れると途端にその熱を失い白く凍った氷の岩へと変貌する。


 そうして、氷の粒子が周りを凍らせていく中で、中心地では少女のちっこい人差し指がピンと伸ばされてフリフリと振っていた。


「アイスレイン。むふふ、もはや覚えた超能力を完全に操れるようになったんだよ」


 砂埃が収まり、キラキラと氷の世界へと変わった中で、遥はフンスと得意げに息を吐く。


 以前とは違うのだ。さり気なくおっさん+9にいつの間にかなっていたおっさんは、低レベルの超能力すらも自らの力にて強弱を変えられるようになったのだ。レベル2程度の超能力でも、途方も無い力を生み出せるのだ。


 いつの間に+9になったんだろ? 最近ステータスボードを開かないから全然わからないおっさんである。


 ゲームではあまりにも高レベルになると、もう欲しいスキルもないよねとレベルが上がってもスキルを振らないことがあるが、同じことを現実でもやってしまっていた。なので、どのタイミングで+9になったか、さっぱりわからない。


 もしかしたら、お菓子の家をドライと一緒に食べたときかもしんない。あの時は数口で口が甘ったるくなり、食べるのをやめたかったけど、ドライが美味しいでつねとニコニコ笑顔でお菓子を勧めてくるので、笑顔で食べまくったのだ。あれは崩壊後、一、ニを争うピンチだった。あの時に+9に進化したのかも?


 実に碌でもないところでピンチを感じるおっさんの考えであった。そんなんで進化をするのは遥だけであろう。もちろん、そんな原因ではない。自身の力を独自の力へと変えた時に上がったのだが、おっさんが気づくことは永遠にないに違いない。


 まぁ、そんなアホなおっさんは放置で良いだろう。


 レキは指先から足のつま先まで神々しい力を放つ鎧を身に着け、右手には星の力を宿す黄金の手甲を着けている。


「ファフニール。貴方の一撃をまずは見せてもらいました」


 瞬時にレキへと移り変わった少女はフフッと微笑み平静とした声で言う。


「ふむ……。儂の一撃が届かぬのは予想通りだ。では続きといこうか」


 ファフニールも自身の最強たる魔法の吐息が効かなくとも驚くことはなく、平然とした口調で答える。さすがは竜王。相手に効かないのも予想していた様子。


「そうですね。では私の得意分野で行きます」


 そう告げるレキの姿が消えて、ファフニールの眼前に現れる。ちっこいおててをぎゅうと握りしめ、その手を振りかぶり竜王の懐に入り込んで


「ハッ!」


 呼気と共に声をあげて、その胴体へと神速の速さと、右手に途方もない力を込めて殴りかかる。


「フンッ!」


 巨体であるのにファフニールは瞬時に前脚をレキの前に掲げる。


 竜王の速度に僅かにレキは目を見開き、それでもその腕ごと叩き潰すつもりで、拳の動きを止めない。


 しかして、カシンと軽い音がして、レキの拳はファフニールの前脚に防がれてしまう。


 竜鱗の一枚も破壊できずに弾き返されるのを動揺を見せずに、レキは身体をぶらすように残像を残し、左手の突き、右脚からの蹴り、再び拳を繰り出し連続攻撃を繰り返す。


 常ならば、強きミュータントでもついていけないその速度。光速に及ばないのは力を込めているためであるが、それでも竜王のような巨体では防ぐことは不可能であると思われたが


「我が身体は風とならん」


 ファフニールも魔法の力にて身体を大幅に強化させ、レキの速度についてくる。


 巨体にあり得ないその速度で前脚を繰り出し、翼を羽ばたかせ、尻尾を振ってレキの攻撃を防ぐファフニール。


 本来の質量であれば、竜王に比べると豆粒のような小さき体躯からの攻撃。だが、その威力は防ぐファフニールが身をもって知っていた。


 その証拠に一撃を防ぐごとに、反発する竜鱗からの音が大きくなっているのだ。


 最初は乾いた軽い音がするのみで、竜鱗には傷ひとつ無かった。しかして、いつまで続くのかわからない小さき女神からの攻撃は次の一撃、さらにその次の一撃が繰り出されるごとに、いかなる攻撃も防いできた自慢の鱗にはヒビが入り、その拳を防いだ際の音が重々しく、そしてなにかを砕くような音となっていた。


「やるな、小さき女神よ」


 ファフニールは自身の不利を悟る。戦っている最中も強くなっていく小さき女神。


「貴方も素晴らしいです。その巨体で私の速度についてくるとは」


 レキも竜王の力を認め、強者との戦いを楽しそうに、いや、完全に楽しんで微笑む。


「普通は人型の竜人タイプとかになるんじゃないの? 私の知識にはこの展開はないよ」


 漫画や小説でもこんな展開は見たことないよと、おっさんは驚く。おっさんの反応はどうでも良いかも。


「だが、この展開は予想していた。糧となるべく儂が……いや、我が選ばれたと知った時に!」


 竜王は叫びながら尻尾を大きく振り、尖った柱のように突きだしてくる。


「ひゅっ」


 息を吸い込み、レキは両手を尻尾へと突き出して、その巨大な尻尾へとそえるように受けとめ、まるで勢いよく噴き出したホースの水を横にそらすように受け流す。


 ザザザと激しい音と共に竜鱗が生えるその尻尾を受け流し、眼前からスレスレで過ぎてゆくその凶悪な質量を見やるレキ。


 突き出した尻尾の反発に合わせて、翼を大きく広げ羽ばたくファフニール。


 突風がレキへと衝撃波となりぶつかる。


「念動障波」


 遥が揺らぎ吹き飛ばされそうなレキを守るべく、突風と衝撃波を蒼く光る水晶のようなエネルギー波を空間から生み出して、その力を相殺する。


 レキは間合いが僅かに開いたかと、天使の羽根を展開させて加速しようとして、ファフニールとの距離を見て急停止した。


 なぜならば、予想していた間合いではなく、ファフニールは羽ばたいた反動で大きく後ろに下がっていたからだった。


「さて、小さき女神たちよ。今の我では敵わないことは明白。即ちここに来た理由を見せる時、ということだな」


 ファフニールは落ち着いた声音で伝えてくるので、なるほどねと遥は思う。


「この神域の力……まだ使ってもいなかったという訳ですね」


 膨大な神域に溢れる光の柱。その力は今もこの地にて天をも貫くように聳え立っていた。


 扱いきれないから光の柱が未だに聳え立っていると思っていたが……どうやらまだ使ってもいなかった模様。


「そのとおりだ。……使わないことが一番であったが、やはり貴様は甘くない」


「敵にとっては苦い味だと理解していますファフニール。見せてもらいましょう。貴方の力を」


 レキは不敵にセリフを返して、その真の力を見んとする。この間合いでは詰める前に真の力を発動させるとも理解していたために。おっさんは美少女なレキはいつでもふわふわ菓子のように甘いよと思っていたけど。


「神の力たるは竜の餌場なり!」


 ファフニールが咆哮する。その咆哮には強力な超常の力が含まれており、その力の言葉はその内容どおりに光の柱はファフニールの口へと集まっていく。


 周囲を覆っていた長大な光の柱は、すべてがファフニールの体内に収まっていき


「これが神の力を喰った我の力……さぁ、小さき女神たちよ。力比べといこうではないか!」


 竜王の紅き身体。その身体に黄金の粒子が纏い、凄まじい力を感じさせる。


「グオォォォォ」


 そうして竜王らしく咆哮をあげると、世界へその力は波動となって伝わっていく。惑星全体にその波動が波紋のように広がっていく中で、竜王は一気に加速してレキへと突撃してくるのであった。



 

 どよどよとツヴァイがスクリーンを見ながら動揺の声をあげる。


「なんですか、あれは?」

「援軍に行った方が良いのでは?」

「サクヤ様! あれは危険すぎます!」


 ツヴァイたち。即ち自宅の庭に勝手に作ったシアターもどきで、ツヴァイたちは司令のかっこいい勇姿を見ましょうと全員が珍しくサクヤに誘われて集まっていたのだ。ちなみにアインもいます。


 だが神域たる遥の自宅にいても、ファフニールのその力の波動を感じたのだ。圧倒的なその力は今までと比較にならない力を持っており、司令の力を大幅に超えていると思われた。


 ならばこそ、窮地となった司令を助けに行かねばなるまい。たとえ役に立たなくとも、肉壁にはなるだろうと。


「お前ら、ボスを助けに行くぞっ!」


 アインが椅子から勢いよく立ち上がり、周りのツヴァイたちへと叫ぶ。


「アインの言うとおりです」

「あの敵はまずいでござる」

「行きましょう!」


 ツヴァイたちが強く頷き、決死の覚悟をして立ち上がるが、そこにパチパチと拍手が聞こえてくる。拍手の元はまさかと皆が音源へと視線を向けると、予想通り脚を組んでサクヤが拍手をパチパチとしていた。


「なかなかわかっていますね、そう、あの竜王は最悪の相性です。ご主人様は負けたら喰われて消えてしまうでしょう。いえ、少なくともレキは消えてしまうのは確実です。ご主人様はレキの喪失に耐えられないかもしれません」


「……それがわかっていても助けには行かないつもりですねサクヤ様……」


 四季が殺意を伴った鋭い眼光で問いかけるが、サクヤはいつもと違い、凍るような視線で酷薄なる微笑みで肩をすくめる。


「もちろんです。ご主人様にとって、この戦いは必要なので」


 予想通りの言葉に四季たちは怒気を纏うがグラリと身体を揺るがす。


「こ、これはまさか」

「私たちに通ずる眠り?」

「おのれ、サク……」


 アインも含めて、全員がフラフラと身体を揺らせ、目を閉じて眠り倒れ伏す。


「邪魔にしかならないのに行かれても困りますし」


 つまらなそうにサクヤはアインやツヴァイたちを見たあとに、モニターへと視線を向ける。


「ナイン、そちらはどうですか?」


「大丈夫ですよ、姉さん。おやつタイムでドライたちはぐっすりですので」


 ニコリと笑うナインの後ろにはドライたちがスヤスヤと寝ていた。今頃は他の場所にいるドライも寝ているはずだ。ドライたちがおやつをおやつタイムに食べないということはあり得ないので。


 満足そうにナインの言葉を聞いて、椅子へ凭れ掛かりサクヤは呟く。


「このクエストをご主人様がクリアできると信じています。そう……初めて創った時にはあっさりと失敗すると思っていたのに、予想外の行動ばかりしてくれた朝倉遥さん」


 スクリーンに映る竜王ファフニールと遥たちの戦いを見ながら、サクヤは謎めいた微笑みを浮かべ呟くのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] +って、どのぐらいまで上がるんですかね? おっさん+99になれば、ゾンビと戦えるのでしょうか? 無理か。
2020/05/30 22:09 退会済み
管理
[一言] 物語は佳境に入ってしまったんでしょうか。 続きが楽しみであると同時に、終わりが近づくのは怖いなぁ。
[良い点] ここで眷属が乱入したら色々台無し! サポートキャラの面目躍如!! [気になる点] でもおっさんはいつも斜め上? [一言] 神殺しの竜は神の思惑を正確に見抜いていても 幼き戦女神を滅ぼせる暴…
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