520話 二人の戦い
設定でも千冬は量産型超能力者、しかも戦闘に長けた第三世代である。というわけなので、幼女が大の大人を助けても問題はないのである。
助けられた兵士はこの先居酒屋とかで、俺は昔幼女に助けられてのぅ、とか語り始めて周りの人たちにドン引きされるかもしれないが。
ともあれ、混乱のさなかにあって、千冬はパワーアーマーでの戦いを諦めた。超能力も使えない機動兵器ではドライの力を出しきれないのだ。
なので、パワーアーマーから飛び出してレブナントをあっさりと倒して、倒れていた兵士へパワーアーマーに乗るよう告げたのだった。
なにしろ一般兵向けのパワーアーマーなので、中に入っていてくれればバリアは維持されちゃうのであるからして。
「き、君はどうするんだ?」
助けられた兵士が千冬へと尋ねてくるが、可哀相であるが残酷なことを伝えないといけない。
「え、と、私の力は兵士さんたちが束になっても敵わないレベルです。このまま敵を片付けます」
すちゃっと、レブナントを一撃のもとに倒した武器、ライトニングチャクラムを構えて言う。
むぅ、と兵士さんは私を見てくるが、既にバングルから装備を取り出して、その姿は様変わりしていた。
ちっこい身体にメカニカルなハーフプレートアーマーを装着して、バイザーを頭につけている。手にはライトニングチャクラムを持ち、腰にも投擲用にいくつものチャクラムがぶら下がっており、小手の腕部分が随分と分厚く大きなところが千冬専用としての特徴であった。
「情けないが……わかった……! 天井部分を閉める時は操作方法を教えてくれ!」
幼女に戦いを任せることに苦渋の決断を下しながら、兵士は慌ててパワーアーマーに乗り込むべく駆けていく。
情けないというなかれ。彼ら兵士は超能力者の力をよく知っているのだ。レキという強大な力をもつ超能力者を。
駆け去っていく兵士を横目に、味方の射線に入ってきて銃で迎撃できないレブナントたちを確認する。
「たあっ!」
千冬は軽やかに手に持つチャクラムを投げて、雷光纏う一閃をレブナントたちに与えんとする。すぐに小柄な身体を捻るようにして。二投目、三投目とチャクラムを続けて投げて、その軌跡は敵へと向かう。
「ぎっ!」
「ギャハァ!」
「コイツメ!」
雷光の軌跡は敵を斬り裂き、焼き尽くす。グールやレブナントは障壁を作って対抗しようととするが、電撃の威力を加えた高速回転するチャクラムは障壁を斬り裂き、そのまま敵ごと倒していく。
「キシャー!」
グールが口を裂けんとばかりに開いて、毒々しい黄色の粘液を吐き出してくるが、千冬は動揺せずにちっこいおててを前に突き出す。
「エンチャントアイスシールド」
小手の分厚かった腕部分が開き、小さなキューブが飛んでいき、空中で糸を広げていく。その糸とキューブの間に氷の障壁が作り出されて、シールドが形成されて、グールの毒攻撃を触れた箇所から凍らせるのであった。
これこそ千冬専用小手。朧ねーたんから貰った超能力を高めて様々な用途に使うギミックが積み込まれた万能小手だ。
「はあっ!」
千冬はそのままふわりと身体をまるで体重でもないかのように飛翔させて、くるりと前回転をして敵のまとまっている場所へと降り立つ。
チャクラムを両手に持って地に足を擦り付けるように踏み込んで、ぐるぐると身体を高速回転させて、雷光纏う竜巻となり、グールたちをその勢いで斬り裂き倒していく。
その光景を見て、兵士たちは唸りながら感心する。
「これが量産型超能力者の力かっ!」
「凄まじい……」
「信じられん」
「ゲーム、ゲームでああいう必殺技ありますよね。私もゲームっぽい動きをしたいです」
少女の声音で最後の発言者が、1000人斬りっ! とか叫んでいるが放置でいいだろう。
敵を肉片に変えていった竜巻は敵の血で地面を染めて、ピタリとその回転を止めて、ビシッと水平にチャクラムを持つ手を伸ばして残心を保つ。
霧へと姿を変えて潜伏し、千冬の止まった隙を狙っていたレブナントが姿を現し、爪を振りかざし襲いかかってくる。
「西瓜ァァァ!」
その赤い目を光らせて、禍々しい牙を見せながら襲いかかってくるレブナントに、千冬はチャクラムを構え直し迎撃をしようとするが、横から小柄な体躯が突撃して、レブナントの顔をぶん殴って吹き飛ばす。
「ふぉぉぉぉ! 太陽の振動、オーバーウェイブ!」
スタッと拳を突き出したまま綺麗な動きで立つのは、リィズであった。
「ウギャッ」
吹き飛んだレブナントが戸惑った様子で殴られた自分の顔を触るが、その顔はリィズに殴られた箇所からグニャリとへこみ、その身体へと振動が流れ爆散する。
リィズはフンスと拳を掲げ、身体をグニャリと変な風に立たせて言う。
「ミュータントよ、去れっ! ……ん、古すぎる漫画のセリフだから、もう覚えていない。この間、叶得の家で見たんだけど」
どうやら漫画のセリフだった模様。しかも覚えていないらしい。どこまでも、レキの姉っぷりなリィズである。
天然超能力者は千冬へと視線を向けて、むぅ、と口を尖らせるて文句を言う。
「奥の手がかぶった。千冬も超能力で戦うつもりだった」
「リィズもそうだったんだね。……にしても、レブナントを一撃で倒すなんて凄い力……」
凄まじい威力だ。本当に人間なのかと疑うレベルである。
「敵の内部を振動で高熱化させて倒す。他の超能力よりも威力は高い」
ムフフと得意げな表情になるが、すぐに真剣な表情になり周りを見渡す。
グールやレブナント、既に数多く降り立っており混戦となっているのを見て、大声で叫ぶ。
「なるべく空に飛んでる奴を兵士は攻撃して! リィズたちは地面に降り立った敵を倒していく!」
「え、と、私たちに任せて下さい! 倒していきますから!」
堂々とした態度に蝶野さんは一瞬迷ったが、すぐに頷き周りへと指示を出す。蝶野さんも量産型超能力者の力を知ってるし、リィズの力も目の当たりにしたので、決断は早かった。
「わかった! 内部の敵は任せる。俺たちは空から来るやつを片端から倒していくぞ!」
「おお!」
「了解です」
「子供たちに負けるな!」
兵士さんたちも奮起をして、空からくるバッドグールやレブナントを狙う。銃声が響き、混沌としていた戦場に整然とした動きが兵士たちに戻る。
「リィズ、途中で疲れたら言ってね。私があとは引き受けるから」
「千冬こそ疲れたら休んで良い。なんなら今から休んでいても良い」
負けず嫌いなのか、ノリが良いのか、リィズはニヤリと笑い答えてきた。
仕方ないないなぁと思いながら千冬も微笑みを浮かべ、背中合わせになって身構える二人であった。
レブナントが腕を振り下ろしてくるのを、千冬はチャクラムで絡め取り、半歩だけ右に身体をずらして敵の動きを崩す。
敵が大きく前のめりになり、千冬の横を転びそうになりながら過ぎてゆくのを、もう片方のチャクラムで一閃する。
首へと狙い振ったその一撃はレブナントの首を切り離す。そこを狙いグールが二匹同時に噛み付こうとゾロリと生えたノコギリのような歯を剥き出しに襲いかかってくるが、リィズが千冬の横から飛び出してきて、二匹の顔へと掌底を素早く叩き込む。
「高熱振動!」
リィズの声と同時に掌底への超常の力。振動波を送り込み、その体内を燃やす。
「ギャハァ」
「ヒギャァ」
グールが体内から火を噴き出して、燃える塊となる。それを見て、千冬は小手のギミックを使う。
「人形繰り 双身練武!」
火だるまとなったグール二体へと、その手甲からキラキラと糸が吐き出されて絡み取り、クイッと千冬が手を動かすと、その動きに合わせて周りの敵へと絡め取ったグールが襲いかかる。
クイックイッと宙をかくように手の指を動かすと、グールは燃える塊となって周りの敵を燃やしていくのであった。
グールが燃え尽きる頃には、かなりの数の敵が焼かれており、それに合わせてリィズが片手を扇ぐように振る。
本来なら、そのちっこいおててからはそよ風しか生み出さないだろうが、リィズは風の代わりに振動を送り込んだ。
振動はさらに敵を覆う炎の火力をあげて、超高熱へと変えて焼き尽くす。
そうして、二人の連携によりその後も次々と敵は倒れていき、地上の敵はその姿をほとんど消すのであった。
「え、と、これでほとんど片付けたかな?」
「まだグールを投げ込んでいるレブナントが残っている。たぶんヘリが飛び立つ前に襲いかかってくると思う」
リィズの指摘は正しいかもしれないと千冬はバリア外へと視線を向ける。そこには歯軋りをしながらグールたちを投げ込んでいるレブナントたちがいた。
20匹程度いたはずだが、途中から飛び込んできたレブナントもいるので、既に5匹程度までレブナントは少なくなっている。しかし、そのレブナントは一際知性が高いのか、こちらをギラギラとした瞳で睨んできていた。
「敵のレブナントはもう少ない。攻撃を仕掛けるのは今しかないと考えているはず」
「それじゃあ、気をつけないとって、あれ!」
リィズの考えは正しいだろうと推測して残りのレブナントを見るが違和感に気づき声を私はあげてしまう。看破の結果がまずかったのだ。
それはなにかというと……。
「あいつらはレブナントじゃないよ! ただのグールが偽装している!」
レブナントは簡単な幻覚も使えるんだ!
「ん! それが本当だとすると……。敵の肉片で感知ができていない?」
倒した敵の数は多く肉片だらけに地面はなっており、空気中に霧はない。と、すると答えは……。
「肉片の中にいるんだ!」
私が叫ぶと同時に霧と化して私たちのすぐそばの敵の肉片に隠れていたレブナント、合わせて五匹が身体を元に戻し、襲いかかってくる。チャンスを着々と狙っていたんだ!
私に二匹、リィズに二匹が猛然と襲いかかってきて、懐に入ってきて、爪を突き立てて腕を振りかざす。
近すぎて防御が間に合わないと悟った私。ダメージを負うことを覚悟して、腕を突き出して斬られることを覚悟するが
「ふぉぉぉぉ! ザ、タイム! 時は止まる!」
リィズの叫びと共に空間に何枚もの壁が生まれたように感じ、私もレブナントたちもその動きを止める。
いや、止めてはいない。レブナントの前にも見えない壁が現れており、その壁をレブナントは壊しては次の壁に阻まれて、また壊したら次の壁にと、バームクーヘンの層みたいに見えない極薄の壁が無数に生み出されて、その速度を大幅に落としていた。ほとんど、歩みは進んでいない。
空間全体を振動波の壁へと変えて敵の動きを止めているんだと、驚愕してしまう。今までもリィズには驚かされたが、この大技は凄すぎる!
惜しむらくは自身も動けなくなるし、もちろん味方も身動き不可であることだが、そこは仕方ないだろう。
それにこの方が戦いやすい。私は手甲のギミックを発動させる。カシャンと音がして糸が飛び出すのを
「エンチャントサイキック。超技 念動操糸弾!」
糸にエンチャントサイキックをかけて強化すると、そのままサイキックブリッツに糸を乗せて放つ。
無数にある振動の層とはいえ、私の強化された糸の貫通力にはまったく敵わない。そのままシュルシュルと宙を飛ぶ念動の糸はレブナント二匹の頭を貫き吹き飛ばすのであった。
「時は動き出す! 高熱振動!」
なぜかビシリと指を突き出して、空間の振動波を解除して、リィズも振動波を放ち、自分の目の前に迫っていたレブナントを焼き尽くす。ちなみに時間は止まっていない。
それが最後の攻撃であったのだろう。地上の敵は倒し尽くした。
「ん、最後のレブナントは?」
レブナントは五匹いたはずだと、リィズが大技を使ったために疲れた表情で周りを見るが
「なんか倒されているね」
段ボール箱の角が最後のレブナントに突き刺さっており、倒れ伏しているのを発見する。なんでこんなやられ方をしているのかな?
リィズはそれを見て、この戦いで初めて安心した表情になる。
「段ボールレディが現れた。これでもう安心」
ふぃ〜とペタリと座り込むリィズに、なるほどと私は急に頭の霧が消えたかのようにはっきりと理解した。
「なんだパパさんはとっくに来ていたのでつね」
やっぱりパパさんは助けに来てくれていたのだ。どうやら偽装を使われていたみたい。なんで、隠れていたのかはなんとなくわかってしまう。
チラリとリィズを見て私はその理由だろうなぁと思うのであった。
バリア外の敵もパパさんがいるとわかったから、すぐに退治されるに違いない。
私もペタンと座り込み、この戦いが終わったことを確信するのであった。




