51話 おっさん少女の反省会
新市庁舎に帰ってきた遥たちは、先ほどの戦闘の反省会を行っていた。
装備を仕舞いお風呂に入りさっぱりした後にぴかぴかレキぼでぃになった後に、大会議室に集合である。
そこで集まっていた精鋭部隊のゴリラ軍団、浄水場エリアの特徴を遥は説明していたのである。
なぜか甘い香りが部屋いっぱいに広がりながらの反省会である。シリアスさはかけらもない。
「はい。レキちゃんはこれチョコレートクリームでいいんだよね?」
ナナがジュワッと焼いたクレープ生地にささっとチョコレートと生クリームをのせて、ぱたぱたっと畳んで遥に渡してきた。
「ありがとうございます。私の好物です」
ニコッと微笑むレキぼでぃ、可愛いことこの上ない。あちちと出来立てのクレープをほおばるおっさん少女である。チョコレートは美味しいですねとほくほく笑顔だ。
「俺はシーチキンとソーセージのクレープだ!」
豪族がナナに注文する。は~いとナナは新しいクレープを作っていく。周りのゴリラもそれぞれ注文をしていく。意外と甘いもの系の注文が多いようだ。
ちまちまと啄むように食べるレキぼでぃ。小さい口なので仕方ないのである。そして啄む姿はリスみたいであり、見る人をホンワカさせる。
「久しぶりのクレープは美味しいねっ」
この人は懐いた犬だろうか? しっぽが見える感じの喜びの笑顔をして自分のクレープを食べながら遥に話しかけるナナ。
先ほど生存者の女子に遥が何か食べたいものはないかな? と聞いたところ、クレープ! と意外な注文がきたので、まぁ、今日は私のおごりですよとクレープの材料を用意した遥であった。
まぁ、おっさん少女も食べたかったのもある。一人で食べるにはハードルが高いのだ。メイドたちにクレープ食べたいとは言いにくい遥であった。なので、これ幸いとクレープを大量に作ったのである。生存者のためだものしょうがないなぁと大人な対応をするおっさん少女である。崩壊前の世界での対応とあまり変わりがない考え方であった。
「姫様は、あの場所が超常的な力で支配されていたというのか?」
豪族がむしゃむしゃとクレープを食べている。なんかライオンがぐわっと食べる感じであっという間になくなって、おかわりとかナナに言っている。
「そうなんです。研究の結果、超常の力を使うミュータントがいるとその範囲は何かしらの異常がみられるとわかっています。オペレーターも戦闘中に計算結果を報告しています」
優秀なうちの科学者が調べました。なんかゾーンみたいなものがビビッと広がっている感じみたいだそうです。という頭の悪い感じを出しながら、口元にクリームをつけて話す遥。いつかその設定をおっさん脳が忘れそうで心配だ。
ナナがそれを見て、しょうがないなぁと嬉しそうにレキぼでぃの口元を拭いてくる。
「なるほど、その主を倒せば周りは力の供給源を失い弱体化するというわけか」
腕を組んで、ふむと頷く豪族。座っている椅子がぎしぎしと鳴っている。
「その通りです。検証したところ、主を倒した場合、1週間ほどで供給は完全に止まると計算されております。弱体化したミュータントは通常のゾンビレベルまで落ちる可能性があります」
えっへんとばかりに小さな胸をはり説明するレキぼでぃ。調べたも何もサクヤが教えてくれた内容そのままだが。
「オペレーターか、やはり通信ができる機器を持っていたのだな?」
睨んで体を遥の方に乗り出して聞いてくる豪族。やばい余計な設定を格好つけて言っちゃったと焦る遥。余計な設定を作るといつも自爆するおっさん少女である。
「儂らにその機器を提供もしくはレンタルすることは可能か?」
「無理ですね。試作機でありトランシーバーのように相互通信のみなのです。貴重なのでレンタルも不可能です」
うちの子はあげませんよ。たとえ変態でも大事なメイドなのだと心の中で強く思う。
サクヤもナインもうんうんとウィンドウ越しに提供もレンタルも不可ですねと頷いている。
はぁ~と溜息をつく豪族。まぁ、通信機があれば大分行動範囲も変わるので当然ではあるが。
「なので、弱体化されたと思われるエリアを中心に探索を行ってほしいのです。私たちは物資調達及び生存者の探索を行う予定はありませんので」
冷たいようだけど、物資調達は必要でしょ? お金とかお金とか貴金属とか貴金属とか。と心中で思い遥は伝える。
豪族が背もたれに体を預け、パイプ椅子のぎしっという音が鳴る。
「わかった。そちらの指定する危険度が低いところを優先的に探索しよう」
ふぅ~と疲れた感じを見せて譲歩する豪族。良かった、これで全滅は免れたねと遥は安心する。昨日のサメやサハギンは大分危機感をゴリラ軍団に与えたらしい。
「で、こちらのコミュニティと交流もしくは人をよこす予定はないんだな?」
安心した遥をじろりと睨んで聞いてくる豪族。
予定はないです。と答える。何しろ我が基地の人材は3人だけですと真の現状を伝えないおっさん少女。まさかこのゴリラ軍団も少数すぎる人材で基地をまわしているとは思わないだろう。
「そうか、ならそちらのコミュニティの頭の良いエリートさんに伝えておけ! 少女ばかりに前線に立たせずに自分も安全な場所にぬくぬくと籠っていないで、たまには前線に出張ってこいとな!」
豪族がドンとテーブルを叩き、怒鳴って反省会は終わったのである。
そして我が基地には頭の良いエリートはいない。変態なメイドと可愛いメイドと平凡なおっさんとチートな美少女がいるのみです。ごめんなさい。勿論言わないけどとおっさん少女は困ったのであった。
トテトテと新市庁舎の中層を歩いて帰る予定の遥。周りの人も挨拶をしてくるのを適当に返しながらぶらぶらと帰宅しようとしたところ、部屋から誰かが飛び出してきた。
「あの助けていただいてありがとうごじゃいまう!」
噛んでいる。なかなか噛んでいる。良い子だ、この子と遥は目の前に現れた女の子を見る。
サイドテールのセミロングでサイドテールがプラプラ揺れている。パッチリした目をしているなんだかおとなしそうな女の子である。背丈は150ぐらいか。噛んだこともあり、おっさん的には高評価である。先ほど助けた生存者の一人なんだろうと推測した。
「あのっ。ありがとうございます! 私、織田椎菜って言います!」
言いなおしてペコリと頭を下げる女子。わたわたしていて可愛い。
「いえ、助けるつもりであそこに行ったわけではないので、気にしないでください。あなたは強運だったのです。高校生ですか?」
うっすらと微笑んで、ぶっちゃける遥。
こくりと頷く女の子。何と高校生なのだ。おっさんが一番近づきたくない存在である。近づいただけで通報されるかもと被害妄想の高い残念なおっさんであった。
「そう。それじゃまたね」
あっという間に会話終了。話を終えて立ち去ろうとする。
え~という表情で、なんとか会話を伸ばそうと椎菜。
その様子に何か聞きたいことでもあるのかと、遥は聞いてみた。
「あの、お名前を教えていただけませんか?」
ちょっと頬を赤く染めて上目遣いで聞いてくる椎菜。椎菜の方が背が高いので腰を落としているところが少しあざといかもしれない。
「ご主人様! たぶん危ない人です! 織田椎菜と名付けました!」
あざとい少女をライバルとでも思ったのか、ぐぬぬと唸りながら、サクヤが叫んでくる。てか、名付けるなと遥は呆れた。
「はい、私の名前は朝倉レキと申します。よろしくお願いいたします」
この年代には合わない丁寧なあいさつを返すおっさん少女である。違和感バリバリである。レキぼでぃと同じ年代だろうが、話が合うことはあるまい。おっさんと話を合わすには漫画ではない現実のドリフターズが組んでいた時代ではないと無理である。
「どうしてレキちゃんは、兵隊さんと一緒に戦っているんですか?」
思わし気な表情をして聞きにくいことをずばっと聞いてくる椎菜。見た目より押しが強そうな女子である。サクヤが警戒するだけはあるかもしれない。そしてレキちゃん呼びとグイグイと迫ってきている。
「私は戦うように命令されているのです。問題ありませんよ? 強いので」
椎菜の質問に何かのアニメの強化人間のように答えながら、謎の超人とサイボーグのどちらの設定にしようかなぁと考える呑気な遥。ここで適当に設定をすると絶対に後悔すると思われるが、おっさんなので適当なのだ。
「レキちゃんは戦うように命令されているの?」
その返答に驚いて聞いてくる椎菜。確かに見た目は小柄な美少女である不自然極まりない。
おいおい子供は凄いね、大人が聞いてこないことをずばずば聞いてくるねと、設定はどうしようと迷う遥はすぐに答えられない。そうこうしているうちに横から話に加わる人が来た。
「そうだ! 君は何者なんだ? その武器はどこで手に入れたんだ? 僕にも使えるのか?」
学校にいた生徒会長ぽい男子である。口を挟んできて、泡を飛ばす勢いで迫ってきて質問してくる。
なんで、君が使えることが前提なんだろう。主人公になりたいのだなと若いな坊やだなと、苦笑いする遥。
そんな生徒会長ぽい人に突如蹴りを入れる椎菜。腹を蹴られた生徒会長ぽい人はリノリウムの床をズサササッと滑りながら進んでいった。
驚く遥。え? 何この人、意外とバイオレンスなのねと思う。
「あの馬鹿はいないものだと思ってください。ご迷惑をおかけしました」
ふかぶかとお辞儀をしてくる椎菜。いえいえ、私も気にしていませんよと遥もお辞儀をする。
「えと、レキちゃんは大丈夫なの?」
心配気に聞いてくる椎菜。心配しないといけないのは凄い勢いで床を滑っていった男子ではないかと思う。
そして、え? 何か心配されているよ? とおろおろする遥。何か心配する内容があるのだろうかと慌てる。
普通は子供と思わしき少女が戦っているのなら、心配は当たり前である。しかし中身は普通ではないおっさん少女である。だが、遥はそのことに気づかなかった。だって戦わないとレベルも上がらないし、アイテムも取れないじゃんと完全にゲーム脳である。
そっかと、謎の哀れみを催す表情をして椎菜がレキを見てくる。そして頭を撫でてきた。
「ご主人様! 大変です。マイベースがピンチです! 具体的に言うとメイドの心が危機です!」
ギャーギャーと叫ぶサクヤ。どうもこの女子に危機感を持ちすぎである。なぜなのだろうか? とおっさん少女は首をひねる。
左のウィンドウに映るナインは反対に余裕そうである。私の居場所は譲りませんし取られませんよと絶対の自信をもってニコニコ笑顔である。
「すみません。椎菜さん、新たなミッションを指示されたので基地に帰還します。また今度話しましょう」
今度があるかわからないが、社会人の別れのお決まりの挨拶をする。そして何故か新たなミッション発生である。なんか別れの言葉に使うと何となくかっこいいからという、いつもながらのくだらない理由である。
それを聞いて心配気な椎菜がまたね。頑張ってねと手を小さく振ってくる。
ばいばいとレキぼでぃで手を振って、サクヤにサービスでもするかと、おっさん少女は帰るのであった。