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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
32章 昔の話を聞こう
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501話 カラクリを見抜くおっさん少女

 身体についた埃をパンパンと落としながら、レキは宙に浮くノアを眠たそうな目で見る。ノアはその様子を見て肩をすくめて優しい口調で言う。


「まだ抵抗をするのでしょうか、少女よ? もう無駄な足掻きだとわかってくれないかな? 君の力を吸収したあとに金と銀の女神様にお礼を言わないといけないんだよ」


「大丈夫です。私がお礼参りをしておくので、安心してください」


 レキは淡々と返答をする。たしかにお礼参りは銀の女神には必要だよねと、おっさんが精神世界で金属バットで素振りをしながら張り切っているので。


「ご主人様! えこひいきです、えこひいき〜! なんでナインは対象にならないんですか! お礼参りだと意味が変わるんですけど!」


「サクヤ……気づいていなかったのか? これは差別だよ」


 きっぱりと言い切るおっさんであった。だってナインだよ? 比べるのも間違っているよね?


「あっさりと差別と認めちゃいましたね! この鬼畜! でも、そんなところも良いかも」


 もはやサクヤの扉はいくつあるのでしょうか。もう数えきれない。


「マスター。頑張ってください。カフェオレを作って待っています」


 ナインが野花の咲くような微笑みで応援してくれるので、任せてレキが頑張るよと頷くどうしようもないおっさん。


 あっという間に話を終えて、ノアへと意識を戻す。


「なので、貴方は再び眠りについてください。今度は永遠に」


 レキは目に深い光を湛えて、地を蹴り再びノアへと迫る。


 ノアはかぶりを振って、同じことの繰り返しになると嘆息して身構えてきた。レキはその姿に冷笑を浮かべる。


「また私を倒すチャンスを逃しましたね、独りよがりさん」


 瞬時に懐に入り込み、左右の連打を打ち込むレキ。繰り返しの連打は衝撃波を生み出して、お互いに風圧を与えてくるが二人共にその程度の衝撃波は気にもしない。


 そしてレキの連打は、またもや防ぎきられて少女の体勢は崩されんとしたとき


「私の腕を掴んで、体勢を取り戻すと同時に下からの蹴り上げでくるんだろう?」


 ノアが予知でも使えるのか、レキの動きを先程と同じく見切ろうとしていたが、その拳の軌道が勢いがありすぎて戸惑ってしまう。


「いいえ」


 強引なる一撃をレキは繰り出していた。いつもの完璧な舞の如し技ではなく、ただ強引なる一撃。


「ぐほっ!」


 既にレキの掴み攻撃を読んでいたノアはその鋭き一撃にして、隙がある一撃を防ぐのが間に合わずに喰らってしまう。


 そのままよろけるノアへと、ハイキックを入れようと身体を浮かすレキ。


「ハイキックからの回転蹴りの」


「いいえ」


 ハイキックをフェイントに頭へと肉薄するレキはニーを入れる。


 遂に額から血を流して、後ろに飛び退るノア。


「な、なぜ? なぜ攻撃が違ったんだ?」


 動揺するノア。先程までは完璧に読んでいた攻撃が初めて外れて驚愕の表情を浮かべていた。 


 ようやく攻撃が当たりましたかと、レキは喜ぶこともせずに冷静で平静とした表情を反対に浮かべていた。


「貴方がカウンターしか狙わなかったのは、狙わなかったんじゃなくて、狙えなかったんですね」


 既に解答は得たと、物理戦闘のことになると天才的な閃きを見せるレキ。淡々とノアのカウンターの正体を語る。


「迂闊でした。私も貴方も同じ知識を持っています。格闘系ももちろんのこと。そして、幾万とおりの戦闘パターンでも、カウンターに繋がる攻撃を貴方は私に促してきた。私は気づかずに正確な答えを出すマシンの如く、それに応えてしまっていたんですね」


「気づいても無駄な足掻きだよ。極めた無駄の無い格闘知識だ。そこから逃れて攻撃すれば、先程のように隙だらけになる。もうさっきの手は通じないよ?」


 クックッと笑うノアだが、予想外にレキは満面の笑みを浮かべた。


「迂闊な私はあの狡猾なメイドに攻撃が見抜かれていた理由にまったく気づいていませんでした。わかりやすく攻撃を見切ってくれた貴方に感謝を。これであのメイドを倒せる道が見えました」


 ペコリと頭を下げて、感謝の意を示す。そこにはノアなどは映っていなかった。目の前の強敵であるはずなのに。


 ノアはその視線が自分を見ていないことに恐怖した。この少女は神から贈られたエネルギー体だと思っていた。ささやかな抵抗などはものともせずに倒せるはずであった。


 しかし少女は未来を見据えていた。ノアに負けるとは、いや、その視線が自分へと向いていないことからも、敵と思っていないのではなかろうか?


 未だにノアが圧倒的有利のはず。積み重ねてきた年月が違うはずなのに、この恐れを知らぬ少女はいったい何者なのだろうかと、初めて興味を抱き、かつ、この少女の精神構成がどうなっているの理解しがたく、久しぶりの恐怖を心に抱いたのであった。


 もしや、自分がとんでもない間違いをしているのではないのだろうかと周りに意識を飛ばすが、常に助けてくれた神託をくれる女神たちの言葉はない。


 ノアのその心を読んでいれば、おっさんならば迷惑メールフィルターに登録しておいたほうがその神託は良いよと教えてくれるはずだったが、幸か不幸かおっさんはテレパシーは持っていなかった。ちなみにおっさんも、まだレキはナインを倒すことを諦めていなかったのねと、恐怖していたがどうでも良いことだろう。


「メイドとは意味がわかりませんが、貴女の間違いはわかっています」


 ノアは次にオリジナルの隙だらけの攻撃がきたら、必殺の一撃を入れようと身構える。もはや見かけと違い少女の体力は限界に近いとわかっていた。回復をしていても、次の一撃は致命的だ。


「修正しながら極めていきたいと思います。ちょうど良いサンドバッグもありますし」


 苛烈な煽りを入れて、レキは突撃する。残りの体力を気にせずに、今の自分がさらなる高みへといくために。


 さすがは戦闘民族である。命知らずも甚だしいと、遥は裏でリフレッシュを連打していた。さすがはくたびれたおっさんである。残りの体力を気にしていて、命を大事にと回復しまくっていた。高みに行くつもりのない、主人公にはなれないおっさんであった。


 テレポートにも見える瞬足で、レキはノアへと左からの突きを入れて、ノアが右手で弾くのを見てとり、右腕を振りかぶってのストレートを入れる。


 力の入れすぎで、体勢を崩しているとノアは見抜き、先程の恐怖は気のせいであったかと鼻白み対抗しようとして


「左腕で掴んでからの引き寄せですね」


 レキが淡々と先程の自分と同じことを口にして、表情が変わる。だが、その行動は変わらずに左腕でレキの右腕を掴みとり、身体を横に躱して右腕からの必殺技を決めようとしていた。


 だが、その行動は読まれていた。レキの右ストレートは掴むことにより止まったが、手は掌底の形へと変わっており、そのままノアの胴体へと触れたと同時に発勁を生み出す。


 バラバラになるような衝撃を身体に受けて


「ガハァッ! ま、まさか攻撃を切り替えて」


 よろめくノアは危機を感じて水のローブを生み出して身体に纏わせる。


「エンチャントサイキック」


 遥はすぐに強化をかけて、レキはその行動にさすが旦那様とムフンと息を吐き、追撃をする。


「その水のローブでは、私の連打は防げません」


 ゆらりと遅い拳撃を打ち出したレキの攻撃は、水のローブの内側へと潜り込む。


 水圧にて、敵の攻撃が速ければ速いほど、強力であればあるほど強力な防御力を持つ水のローブは、そのゆっくりとした拳撃には無意味であったので、一見で見抜かれたためにノアは目を向く。


「超技 サイキック寸勁」


 ローブの内側で発勁が行われて、体勢を戻そうとしたノアは水のローブを打ち消されて、またもや強力な衝撃にダメージを受ける。


「クッ! 神技 凍てつく水波」


 間合いをとろうと、敵の防御を貫く超能力を放つ。触れたら凍りつく水波がレキへと迫るが


「念動障波」


 遥は漣の如き流体の蒼い障壁を生み出す。その波はノアの水波とぶつかり合い、その力を防ぎながら消えていく。


「フッ、その攻撃は既に見ててもりゃった……噛んじゃった。まぁ、良いや。短時間の効果しかないが無効化も防ぐ波状の障壁なのだっ」


 最初噛んじゃったよと、顔を赤くしながら遥はドヤる。子供な美少女のそんな姿は可愛らしい。そして無効化系の技でこれからも消されても大丈夫。効果時間が短すぎて使いどころが難しいけどね。


 だが、その一瞬でノアは間合いをとり、剣を取り出した。


 随分と美しい剣で、神剣とか呼ばれそう。それほど凄い力を内包してそうである剣を振りかざして、ノアは叫ぶ。


「剣の知識はどうなんでしょうか? 私は」


「剣は好きではないが、使えるんですよね? 私の剣はこの拳撃なので、お気になさらず」


 レキが眠たそうな目で、獅子神の手甲に覆われたちっこいおててを見せつける。


 そうしたところ、予想外にノアは戸惑う表情となった。


「そ、そうなのかい? それは少し私の方が卑怯な感じがするんだが……。君はあらゆる力を内包していないのかい?」


 その言葉は予想外であり、そしてノアが勘違いしていると気づいた。


「私は自身の成長にそった力しか持っていませんよ。なるほど、貴方は最初から全てを持っていたんですね」


「あぁ、もちろんだよ。だって力というのはそういうものだろう? 君は単なる器だから違うのか……だが力は本物だ」


「迷わなくて良いです。たぶんやり方の違いでしょう。貴方は最初から全てを持っていただけですので」


 レキの言葉を聞きながらも、遥は思う。自分が最初から全てを持っていたらどう成っていたか? いきなり最強でアイテムもコンプ済み。


「ないな。そんなクソゲーは買わなかったな」


 ウンウンと頷いて思う。こういうのは最初から育てていくのが面白いのだ。最初からカンストしていたらつまらないじゃん。


 だからこそ、ノアはつまらない世界を作ることに終始して、挙げ句に水に沈めてしまったのだろう。


「クソゲーをやらされて、可哀想な聖人さん。結果は剣でも同じなので、問題なくかかってきて良いですよ」


 レキはクイと手を振って、挑発する。ノアは挑発を受けたにもかかわらず、気まずい表情を浮かべていたが、散々攻撃の無効化や格闘知識を使ったパターン化などズルいことをしてきたのに、なぜそう思うのか、さっぱりわからない。たぶんなにか超えてはいけない一線があるのだろうけど。


「仕方ない。バラバラにしても残らず吸収するから安心してね」


 全然安心できないことを宣うノアは剣を振りかぶる。次の瞬間に剣は消えて、神速の振り降ろしをレキへとノアはした。回避できても次の攻撃はインプットされている。神の知識の導くままに。


 だが、回避もされず、さりとて斬り裂いた訳でもなく、想定外の状況となり


「え?」


 ノアは自身の剣が中途より無くなって、驚き目を見張る。


「格闘知識は全ての武術の元なんです。知らなかったんですか」


 なぜかノアの神剣は先端部分が斬り落とされて、くるくると回転して空中を落ちていっていた。


「ゆえに、剣でも槍でも同じ結果となります。そして私の拳撃は剣と伝えたはずですが。マニュアル聖人さんでは、難しい内容でしたでしょうか」


 その言葉に思わず後退るノア。


「は、は、は。まさか神の知識を読み込んでいるのかい? 身体が勝手に動くのではなく?」


「読み込んでいる訳ないです。全て勘と適当さで理解しました」


 えっへんと胸を張る子供な少女。遥は私もマニュアル人間だけど、レキがいるし君とは違うのだよと思っていたりする。どんぐりの背比べみたいな感じだが、そこに遥とレキは経験が足されており、成長も必要であったのが、ノアとは大きく違うところである。


 ノアが真剣な表情へとようやく変わるのを見て、ようやく本気を出すのですねと、レキは戦闘民族らしく口元にニパッと笑みを浮かべるのであった。 

活動報告書きました、500話到達しましたので!

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― 新着の感想 ―
[一言] 格闘ゲームでベストの攻撃ばかりするので分かってしまうみたいな感じですかね。 基礎を習熟して修めれば応用で花開くと。 そろそろ新技で決着かな。
[一言] ナインちゃんではなく、銀髪の憎いあんちくしょうをしばきましょう。銀髪ですぞ。
[良い点] 差別と言いきっちゃう、適当神オッさん降臨!でも這い寄る冥途はレキの姿でしばかれるつもりなんだよねー^o^ レキはレキで精神世界でナイン打倒を諦めてないのねー(^ ^)/愛が深いワ〜 […
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