498話 激闘ルキドシティ
上階に逃げてきた面々は、すぐさま機動兵器へと乗り込んで警戒していた。というか、シスは皆を起こさずに海老にてってこ乗り込んだので、レキが皆を起こしたという珍しい状況でもあった。
「私の一族の家宝が〜」
キリヨがワイドマン人形がなくなって、ギャン泣きしているが可愛らしい少女の方がウケは良いと思う。現に護衛たちは気合を入れて、貴女は私たちが守りますとか言ってるしね。でぶったおっさん人形を家宝にしていた理由が知りたいものだ。たぶんしょうもない理由の可能性が大。
いつもなら、私もギャン泣きして怖かったとアピールする子供な少女は、今回は珍しく考え込んでいた。というか、中の人が考え込んでいて、レキはボーッと敵が来ないかなとぼんやりしていたりする。レキになったのに、どこぞの中の人が操った方が可愛らしいとは、どういうことであろうか。
「さて……感知にも引っかかることがないとは、これイカに?」
遥は精神世界で考え込む。サクヤが未だにクエスト発行を言ってこないのも気になるし。あれはボスではないのだろうか? しつこく追いかけてきて、レールガンで倒せるボスに見えたんだけど。
だがクエストは発行されないし、敵は何処かへと消えたということは単なる雑魚であったのか? たしかに戦闘力は雑魚であったが……。
ちらりとおててを見ると赤く霜焼け状態になっていたので、ヒールで癒やす。仄かな光がおててを覆い癒やしたので、超能力が封じられた訳ではなさそう。
しかし、霜焼け状態になったということは状態異常無効化が働かなかったことを示している。危険極まりない敵だ。
他人の神域だから、力を封じられたのだろうか? それにしてはおかしな力は感じない。う〜んと迷うおっさん少女へと、シスが声をかけてきた。
「隊長殿! どうやら敵は地表に出現した模様です。助けに向かいましょう」
「う〜ん、情報が足りないですが仕方ないですね。行きますか」
悩むなら、とりあえず戦おうと遥もレキも同じ考えをしたので、地表へと急ぐのであった。
ルキドシティは混乱の渦中であった。なにしろ、海の底から300メートルはある巨大なイカが現れたのだから。しかも迎撃に向かったスカイシリーズもとんでもないことに
「こちらスカイワン! 触手に寄生された! 離脱する!」
「こちらも寄生された!」
「操作を受け付けない! うわぁー!」
次々と触手に寄生されて、イカ頭になって敵へと変わっていくのだ。防衛隊長はここにきて赤字を気にしている場合ではないと、ルキドガーディアンを起動させることにした。一度の起動で大量の水晶を使うので、ここ数百年使ったことがない兵器である。
しかしながら、空をフラフラと飛ぶイカ頭のスカイシリーズを見ると、躊躇うことはできない。パイロットたちは脱出済みであり、さすがは超能力者たち。優れた身体能力で海から這い出てきているが。
「本当に動くのか? メンテナンスはやっていても金が勿体無いから起動させていなかったからな……」
最初の疑問はまずそこであったりする。ガーディアンに乗り込み恐る恐る起動ボタンを押下すると、パネルに明かりが灯り、前面モニターに外の様子が映りだす。
「これは凄いですね!」
「すげー!」
「俺たち英雄一直線だな!」
パネルに映る兵器群を見て、調子にのる兵士たち。ヒャッホウ、これで負けはないし俺たちは英雄だと小躍りし始める。
うむ、と隊長はニヤケながら頷いて、俺たちは歴史的英雄になると考えてマニュアルを見る。
どんな操作をするのだろうかと埃に塗れたマニュアルを見ると
「パネル右手にあるオートバトルボタンを押下します。戦闘終了時はもう一度ボタンを押します」
以上であった。……まぁ。当然と言える。何百もの兵器を初めてマニュアルを見る人間が使えるはずがなかったのであった……。
おぉ! と街の人々は動き出したガーディアンを見て感動の声をあげる。その搭載されている砲は数百、胸には超巨大な荷電粒子砲も搭載されている頼もしき巨人である。
波間を蹴散らしながら接近してくる巨大なイカと寄生されたスカイシリーズを前に攻撃を開始し始める。
ビームバルカンや、レールガンが発射されて、まるで色とりどりの光のシャワーの如く敵へと撃ち始めて、寄生されたスカイシリーズが真っ先に玩具のように破壊した。
そうして、本命のイカへと攻撃をし始め、イカは爆炎にあっという間に包まれていく。
「さすがはガーディアン!」
「今夜はイカ料理だ〜」
「カメラで撮影だ!」
ルキドシティの人々はその機械技術に自信を持っており、かつガーディアンに絶対の信頼を持っていた。それはそうだろう、ビルの高さを超えるロボットなのだから、戦った姿を見たことはなくても、無敵と考えるのは当たり前だった。しかも過去の実績もあるのだからして。
なので、遥たちが地表に辿り着いた時にはお祭り騒ぎであった。
「あのイカはさっきの白い男かなぁ? なんかそれっぽいなぁ」
倒せば倒すほど、強くなるゲームの化物の追跡者を思い出す。正直、最初のロケットランチャーで倒して終わりでいいじゃん。しつこすぎでしょ、こいつ。と、第二形態の倒し方がわからずに力押しで倒して最後に弾が尽きそうになった経験のあるおっさんは思う。それと同じタイプなら嫌だなぁと。
「でもいきなり最終形態だから、あとはガーディアンの荷電粒子砲で終わりかな? インフェルノだと鬼畜な難易度だったから、発電機の再稼働は無しでお願いします」
むにゃむにゃ〜とちっこいおててを合わせて祈っちゃう。連続ハタキアタックはトラウマものだったんでと、ゲームと混同するおっさんである。
「私たちも手伝いに行きますか?」
シスが怪獣大決戦の様子を見て、どうしようかと判断を仰いでくる。たしかに今の状況に割り入ったら、あと一撃で倒せるところだったのに、あのバカは誰だ! とか言われるお邪魔キャラになるかもしれない。
その場合、お邪魔キャラは死んで、倒せるはずだったのにタイミングを逃してやられちゃう秘密兵器なガーディアンとかいうパターンになるかも。
「やめておきましょう。ちょっと様子見で」
ブレイバーたちも、戦いの様子を見ているし、待機するように告げておく。
コクリと素直に頷くシスを横目に怪獣大決戦を眺めていると、爆炎渦巻く中を平気な様子でイカが接近していた。
近づかれないように砲撃を繰り返すガーディアンだが、イカには焼け焦げ一つついていない。そうして、ゆっくりと海を掻き分けて接近してくるので、焦ったのか胸の荷電粒子砲を放とうとするガーディアン。
胸元がバチバチと電光が輝き、膨大なエネルギーが溜まっていく。
「ありゃ、あれは負けますね。どう見ても負けますよね」
大福を頬張りながら、遥が必殺技を今使うのは負けパターンだよねと言うと
「ですね。効かないで接近されるパターンですか」
シスも貰った大福をぱくつきながら、同意する。アホな少女に段々と慣れていってる軍人少女である。嫌な慣れ方である。
そんなアホなやり取りとは別にエネルギーの充填が終わった荷電粒子砲はそのエネルギーを敵へとぶつけるべく発射した。
荷電粒子の一撃が空気を切り裂き、海水を蒸発させて、海を割るような威力でイカに命中する。そのままイカを干しイカにするかの如く高熱で包む。
「やったか!」
オールドロットのハッチを開けて、その様子を見ていたブレイバーが叫ぶ。
「あの高熱ならば倒しただろう」
近くにいたレモネ艦長もその言葉に同意して、重々しく頷く。
「皆さん、ずるいです!」
なんということでしょう。美味しいセリフをとられちゃったと、アホな少女も叫ぶ。アホな少女の叫びはいらなかったかもしれない。
むぅむぅ、と不満いっぱいな少女が、私もなにか言いたいよと、アホなことを考えていたがその間にも、イカはわかりやすい程わかりやすい状態であった。
焼きイカになることもなく、ドシャンドシャンと海を掻き分けて近づいていたのだ。なんというか、もう少しダメージを負っても良いんじゃないかなと思えるぐらいに普通だった。
「ば、馬鹿な……。皆聞いてくれてます? ば、馬鹿な……」
うきうきと空気を読まずに、おめめを輝かせて嬉しそうにお決まりのセリフをいう幼気な少女。馬鹿は貴女でしょと言うツッコミは無しでお願いします。
だが、実際その通りで周りがダメージも入らないイカを見て、驚きざわめく。脚の一本も焼けなかったのだから無理もない。
ガーディアンは両手にエネルギーフィールドを発生させて、近接戦闘に入るが、もはや戦いの趨勢は決していた。
軟体のイカにパンチをぶち込むも、まったく効かず絡め取られてしまう。そうしてパイロットたちが慌てて脱出する中で完全にその触手で覆い尽くすのであった。
そうして、少ししたらガーディアンは軋みだし白熱して内部から爆発する。轟音をたてて爆発し、イカも纏めて吹き飛ばしボタボタと白い破片が飛び散る。
「相討ちですか」
シスがその状況を見て感心したように言う。
「あの体勢から相討ちに持っていくとは感心ものでありますよ」
ウンウンと腕を組んで感心するシス。周囲の人々は倒せたもののガーディアンが破壊されたので、残念がっている。
「数百年に一度しか起動しない兵器だからな……」
「前回起動したときは祭りだったらしい」
「戦ったのはこれが初めて?」
「記念碑でも建てておくか」
あんまり喪ったことに対する残念さはなかった模様。ルキドシティのわかりやすいモニュメントであったみたい。
「………シスさん。もしかしたらわかったかも」
「なにがでありますか?」
遥が爆煙につつまれている空中を見ながら話すのをシスが問い返す。返事はせずに空中を見ていると、なんと先程現れた3メートルぐらいの男が宙に浮いていた。しかも力の流れからして強くなっているぽい。
「本体がまだ残っていやがったか! べギラスラッシュ!」
いち早くブレイバーが気づいて、バーニアを噴射させて肉薄する。そのまま炎の剣にて斬りかかるが、突き出してきた手があっさりと攻撃を防ぐ。
「ふむ、微々たるエネルギーだが、いただくとしましょう」
イカの顔からは想像もつかない爽やかな声が響いて、オールドロットの金の輝きが消え失せて鈍い鉄色になる。
「オールドロットのエネルギーが!」
エネルギーがすっからかんになったオールドロットをぽいと興味を持たずに投げ捨てる白い男。慌てて他の機体が受け止める。
「ウドの大木3号はさすがのエネルギーでしたが、ハイボールはたいした量ではありませんでした。しかしこれで全開のパワーで一戦ぐらいはできるでしょう」
海老たんへと視線を向けて独りごちる白い男。どうやらおっさん少女がいることはバレている模様。
「なるほど、倒されなくとも倒せないと見て、エネルギーを吸収しにいったんですね。ですが、それで違和感がわかりました」
遥は眠たそうな目を白い男に向けながらハッチを開ける。
「シスさんは避難を。ここからは私の戦いみたいなので」
「むむ、隊長殿、私では役に立てませんか?」
「はい、邪魔にしかなりません」
いつもとは違い、冷たく響く機械的な返答にシスは悲しく思いながらも、この少女がこのようなことを言うのは強敵のみだと理解しているので、おとなしく頷く。
「ご武運を」
「私に運は必要ありません。力のみが私の頼るものですので」
ハッチから軽やかに降り立ち、ニコリと可憐な笑みをレキは浮かべるのであった。




