496話 古代文明とおっさん少女
管理センター本部の前。最下層のスタッフオンリーと書いてある場所である。さすがは古代技術、発光壁は普通に明るく灯っており、ゴミもなく散らばる破片もない。窓がないので、地下何キロかも知らない人がみたらわからない綺麗な様子であった。
「こちらはスタッフオンリーとなっております。権限の無い方は入場できません。繰り返します……」
通路の途中で3メートル程の大きさのルキドの街を守るガーディアンのミニチュアが立ちはだかり、入室禁止を言い渡してきたりもしていた。
光学兵器を搭載したタイプで両腕が二股にわかれたビームガンとなっている。両肩にパラボラアンテナのような物がついており そこから発生する強力なフィールドを持ってもいるので、こちらの光学兵器では撃ち合いをしても確実に負けるだろうことは間違いない。
「クソ! この先にお宝があるというのに! こんなところで諦められるか!」
ワイドマンがガーディアンを見ながら、でっぷりとした身体を揺らして毒つく。
レモネ艦長も難しい顔をして、周りになにか抜け道がないか見渡している。
ブレイバーは機動兵器があればなんとかなるんだがと、考え込み、シスも同じことを考えていた。
他の技術者たちは難しい表情となる。
子供な少女はガーディアンかっこいい! 一台欲しいなぁと周りをうろちょろして、スタッフオンリーの部屋ってどんな部屋なのかなと、待ちきれないので、てこてこと覗きこんでいたりした。
「うぉぉぉい! 貴様、入れるじゃないか!」
その様子を見て、ようやくツッコミを入れるワイドマン。周りの人間もそういえばと、目を見張る。
「それは入れますよ。だって私は管理者権限を持ったスタッフですから」
えっへんと平坦な胸をそらして、得意がる美少女。いったいいつになったら、ツッコミされるかなと内心ではわくわくしていたり。
それを聞いて、周りはざわめきながら、そういやそうだったかと思い出す。そもそも権限が手に入ったからこそ、地下にこれたのだからして。
「よし、中に入って全セキュリティーを停止……はまずいな。儂らにも権限を付与させるんだ!」
さすがはルキドのお偉いさん。ワイドマンは一概に全セキュリティーを停止するようには言ってこなかった。よくアニメとかで、喜び勇んで全セキュリティーを停止させて、封印していたり、抑えていた化物がくるというパターンを恐れた模様。
ゲームでは、それをすると漏れなくボス戦突入は間違いない。
たしかに化物魚たちがうようよいるので、その選択肢は正解である。解除した途端に魚たちに食い殺されてゲームオーバーだ。
ここまでこれたのは、レキがいたのでセキュリティに襲われなかったことも理解してもいた。頭が悪くてはルキドの上位にいることはできないので。
「はぁ〜い、少し待っていてくださいね」
幼い子供のような可愛らしい少女は素直にそれを聞いて、てこてこと管理者本部室に入ると、ポチポチとボタンを押下する。こんなセキュリティは少女にとっては、無いも同然。楽勝楽勝。
ビアノの鍵盤を叩くが如く軽やかにパネルを操り、外のメンバーをカメラでスキャンして、ハイできあがり。さすがはスキル様、感心しちゃうぜ。
自分でやる? なにを仰るのやら。最初から最後まで自分自身でやりました。自分の腕が動いているのだから、間違いないでしょう。
「ゲストカードを発行しました。このカードは訪問用です」
機械からIDカードが吐き出されて来たので、それを持って帰る。さすがにチップを入れ替えるだけで権限を変えるようなザルなセキュリティでは無い模様。
ウィルス研究している地下秘密施設なのに、そんなザルなセキュリティシステムが、某ゲームではあったのだ。ウィルスが漏れて当たり前の施設であった。
「ゲストカードか……仕方あるまい。とりあえずこれで中身を見ようじゃないか」
グフフと笑って、ワイドマンは中へと入る。レモネ艦長たちも緊張感を顕にして、それに続く。
内部にて、皆を待っていたものに皆は驚きの
「キャーッ! こ、これが数万年もの間、誰も中に入れなかった禁断の施設……アワワワ、凄い技術ですね!」
幼げな少女は可愛らしく頬を両手で挟んで、驚き叫ぶ。さっき中に入った? こういうのは空気を読まないと駄目なんだよねと、おっさん少女は気を遣ったのだ。実にしょうもない。
アワワワと驚き叫ぶアホな少女は放置して、人々はベタベタとパネルやらモニターを触って見て
「あ〜……。うん、そうだよな。構成は最上階の管理室とあまり変わらないよな。そりゃそうだ」
がっかりした口調で言うのであった。バイオ脳が並んでいたり、異星人のまったく違う技術が眠っているのではと期待していたが、極めて普通。パネルにモニターと並んでおり、特段珍しい物はなかった。
周りが残念そうな表情になるので、なにかないかなと、やらなくていいことをやろうとする美少女は周りを同じく見渡すが、驚くべきものはない。仕方ないので、段ボール箱を取り出してその上にお供え物のように煎餅を置く。煎餅の袋には「ばいおのう」と書いておいたので、皆の期待に答えられたかなと、かいてない汗を拭い満足げな表情になるのであった。
実に碌でもないことをする少女だが、周りへとキラキラしたおめめで見て見てと期待の籠もった視線を向けるので、絡まれたくない面々はサッと俯いて忙しそうにするフリをする。
だが、その中で参照をしていた技術者がなにかを見つけて、アッと叫ぶ。
「なにか見つけたのか!」
他の面々がレキのウルウルした視線に耐えかねて、誤魔化すように駆け寄り尋ねる。なにか権限を変えることのできる技でも見つけたかと。
レキでは自分自身しか、管理者権限を持てないと言われたので、懸命に他の方法を探していたのだ。極めて嘘くさいが、レキしか管理者権限を持てないのはルキドの街でも許容できないのであるからして。
「こ、これは滅びの日と書いてあるぞ! 貴重な当時の記録だっ!」
レモネ艦長が、キラキラと子どものような瞳でデータキューブを掲げる。これに真実がのっているかもと、期待の籠もった瞳なので、今度は遥がサッと俯いてしまう。だってねぇ、さっき身も蓋もないことを言われたような気がするし。
ちらりと責めるように視線をモニター越しにサクヤへと向けるが、変態銀髪メイドはそんな視線もご褒美になりますと、ハァハァと興奮した表情で身体をクネクネとさせているので、処置無しである。
「よし! 中身を見てみよう!」
止めておいた方が良いと思われるが、レモネ艦長は勢い込んでSF映画にでてくるような水晶型の記憶媒体を機器に差し込む。
「この記憶媒体一つで全てが判明されるとは思わない………。しかし最初の一歩にはなるはずだ。人類にとって」
渋い声音で重々しく言葉を口にして、シリアスな表情で老艦長はポチリとボタンを押下した。
皆がゴクリと息を飲む中で、前面モニターに人が映し出されてきた。
「ノア歴何百年だっけか? も〜、この世界はおしまいだ。ノアの野朗が人々の堕落に腹をたてて、世界に洪水を巻き起こすんだと。まったくあんな心の狭い奴が聖人かよ」
モニターに映ったのは、顔色の悪そうな痩せた男性であった。ヨレヨレの作業服を着て、ポテトチップスを口に咥えて、サイダーの蓋を開けていた。
「堕落するに決まってんだろ! なにもしなくても楽に暮らせるなら、人間は暇を持て余して悪徳を探すに決まってんだ。戦争や貧困による格差、そういうお楽しみをわざわざ作るんだよ、暇だからな!」
サイダーをグイッと飲んで、ゲップをして話を続ける男。
「無駄に戦争が始まっても、放置していたのは自分じゃねえか。なにが自分の子孫なら、お互い話し合いで最後は解決できるだ! そんな訳ないだろうに、それに気づいたら今度は大怒りして、誤魔化すようにまた懲りずに選んだ人間を宇宙艦に保護して世界を滅ぼすとはね……」
モニターにドアップになりながら、男は最後の悪態をつく。
「これを見ているってことは、あのスルメイカから帰ってきた奴らだろ? 言っておくがノアは神として敬う必要はねぇぞ。あいつはたんに理想しか見ていなくて、行き詰まったらなかったことにするゴミだからな! それじゃあばよ!」
そうしてプツリと映像は消えて、終わりらしかった。
記憶媒体には愚痴しかなかった。
まぁ、たしかに命の危機においては後世の君へ、とか謎めいた伝言よりも、愚痴を言って残す方が現実ではあるのだろう。
なんとなくしょーもない空気を醸し出して、皆がどうするのこの空気とか、顔を見合わせて困惑する中で
「あれは高度な暗号文だったかもしれない……。気づいたか? 不自然に最後にスルメイカと口にしていたことを。あの文脈でスルメイカは不自然すぎる。なにかきっと深い意味があるのだ」
レモネ艦長だけはポジティブシンキングで、フフフと含み笑いをしていた。
「スルメイカ……スルメイカとはいったい……。そういえば君たちの乗っている機体は海老だったな? 海老とイカ、なんらかの予言的符号があると思わないかね? これをスルメイカ文書と名付けようと思うがどうだろう?」
独りごちるレモネ艦長。スルメイカ文書って、物凄いダサいんだけど。宇宙怪獣退治から不思議の海の肉嫌い少女、そして残酷な天使の世界まで、同一の世界ならその文書が残っちゃうんだよ? どうやってもシリアスにならない世界になっちゃうよと、遥は内心でツッコんでいた。
他の面々は普通に、滅びる前の愚痴だったんだろと、冷静に受け取り他の資料を捜し続ける。
だがゲームではないので、管理者権限を取るにはあの方法が、とか怪しい資料などはなくて、あとはなにもなかった。
「チッ。これではレキ殿に完全に機能権限を開放してもらうしかないぞ」
ワイドマンはこの地に残るシステムが全て少女へと権限が移るのは考えものだと呻く。
「代々のワイドマンとして、ルキドの安寧は儂らが保たねば…」
その言葉にしっかりと面白いことは聞き逃さない遥は、そばにいたブレイバーへと尋ねる。
「代々ワイドマンって、どういう意味ですか?」
「ん? あぁ、ワイドマンは死なないのさ。常にあの姿で老化もせずにルキドの街を支配しているからな。死なない男ワイドマンとして有名だ。まぁ、整形とかをして一族の次の奴がワイドマンをやっているんだろうが。なにしろ姿は同じだが、性格が前の奴と違いすぎる」
「へ〜、あんな不細工に整形する人間がいるんですか」
美少女に変身できるならともかく、太った性格の悪そうな爺さんにはなりたくはない。いくら金や権力があろうとも。
「まぁ、人それぞれだな。それにしてもなにもないな」
「お掃除ロボットがいるみたいですし、仕方ないことかと。何万年もたっているんですし」
何万年も動くのはおかしいけどねと、遥が呟いた時であった。
壊れるはずのない壁が突如として壊れて、中から白い触手が現れる。ウニョウニョとした触手は恐ろしい速さでワイドマンの頭へと絡みつくのであった。
全員、唖然としてその姿を見る。
「アババババ」
ワイドマンは身体を震わせて、悲鳴をあげて
砕けた壁の中から、白いトレンチコートを着込んだ2メートル半ぐらいの巨人が現れるのであった。
 




