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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
29章 たまには他の人の実況を見よう

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470話 考えるサマナー少女

 薄暗い坑道の少し奥。休めるようにと割り当てられた部屋で佐々木鈴は頭を抱えて悩んでいた。


 部屋は薄汚れたカーテンで仕切りが作られているだけの簡素な場所で、地面に直接置かれている木の板の上に敷布団代わりの毛皮が置いてあった。正直手作り感が半端ない。


 その上に寝っ転がり、う〜んと悩む鈴は困って周りへと話しかける。背中が結構な硬さを感じて痛いと思いながら。


「まさか生存者が助けを拒むなんて予想外でした。こんなところで暮らしていくって言うんですか?」


「どうやって毛皮を鞣してるのかしらね、これ?」


 口で噛んで作るのかしらと、物珍しそうに静香さんが毛皮を触っているので、むぅ、と口を尖らす。


「私は真面目に聞いているんですけど?」


 その言葉に肩を竦めて、冷たそうな笑みで鈴へと向き直って


「あら? 私も真面目に答えているわよ。この毛皮が全てを物語っているのよ」


「え? どういうことですか?」


 珍しい物を見つけたから私の話を聞いていなかったんじゃ? 


 静香さんはコンコンと座ってるダンボール箱を叩く。


「毛皮を見るにミョウバンと水、塩が使われたタイプですね。即ち、ここには毛皮、食べ物、そして武器と揃っているわけです。住む場所もこの坑道を使っていますし。ミョウバンはどこかに保管されていたんでしょう」


 その言葉を聞いて納得する。なるほど、それならここで暮らしていける訳なのね。……今、ダンボール箱が喋らなかった? 気のせいかな。


「人間が生き残っているダンジョン。知性なきオリジナルミュータントが無意識に負の力を求めて最低限人間が暮らしていける環境を作り出していると予測します。さながらオアシスを作り、その周りに潜むワームのように」


「オアシスには人々が住み着き、たまにワームがその人間たちを食べるのね……なるほど」


 頬を触りながら、それならばこれからもダンジョンに住む人々はいる可能性が高いと理解した。なんだかガタゴトとダンボール箱が揺れているけど、静香さんの貧乏ゆすりかな?


「三年近くも住んできた人々よ。そう簡単にはこの暮らしを捨てようとは考えないはず。だって、少し外を歩けば化物が闊歩しているんだしね」


 脚を組み替えながら、こちらをからかうように話す静香さんに疑問を問いかける。


「これまではどうやって助けて来たんですか? 同じような状況ってありましたよね?」


 私の問いかけに、ふふっと静香さんは妖しく微笑み腕を組む。


「お嬢様のやり方はひどく簡単。救助者に出会ったら、たくさんの物資をプレゼントして信用を勝ち取り、その地域の支配級を倒す。最後に軍隊が助けに来ましたよと乗り込んできて、生存者たちは諸手をあげて喝采して歓迎をしておしまい」


「それって、大量の物が必要じゃないですか! それに軍隊を動かすことは私にはできませんし」


 参考にならないと頬を膨らませると、ノブさんがカラカラと笑いながら話に加わってきた。


「大国と小国のやり方の違いというやつに似ているな。だからこそ主君だけのやり方が必要になるのだろう」


「試験の一つね。強いだけじゃ駄目なの。頭も使わないと、これからの生存者たちは救えないわ」


 静香さんも同意して、私を見定めるように見つめてくる。


 ………少し甘く考えていたみたい。ううん、凄く甘く考えていた。生存者は助けに来たと伝えれば喜んで救助されてくると思っていたのに現実は全然違った。


 仲魔がいれば全部簡単に解決すると考えていたのだ。それがあっさりと覆されてしまった。


 私一人ではなにもできないのだろうか。ざっと思いつくだけでも、物資を運ぶ人間や護衛する兵士、そして説得力がありそうな話とたくさんある。


「ちょっと頭を冷やしてきます……」


 茹だった頭を冷やすべく鈴は外へと向かうのであった。



 フラフラと頼りない足取りで外へと行った鈴を苦笑混じりに見送って、静香は座っているダンボール箱をコンコンと叩く。


「助けちゃ駄目よ? これからはあの娘が中心になって生存者たちを探さないといけないんだから」


「サブイベントってやつですよね、わかります。でも鈴さんには厳しいかもですよ? よく言ってもあまり応用のきかない幻想たち。悪く言うと化物を連れている未知の人物。サマナーには人助けは厳しいです」


「たしかにゲームでもそんな感じだったわね。でもこれはゲームではないわ。いくらでも抜け道を探すことができる現実よ」


 静香はゲームではできない悪辣な作戦もいくらでも考えつくでしょうと、蠱惑な微笑みを見せる。


「うむ、これは主君の避けられぬ試練だ。ここで静香殿にどうすれば良いかと自分で考えずに助けを求めるならばそれまでのこと。ダンジョンに入って人助けなどは諦めねばなるまいて」


 壁に凭れながら、ノブも同意して鈴を助ける様子は見せない。皆はわかっているのだ。力だけでは駄目だということを。頭を使わなくてはいけないということを。


「既に鈴さんは失敗をしています。誘われる勢いのままに自身の力ならば大丈夫だという自惚れからここに来てしまいました。本当は静香さんが連れて行こうとしても、準備期間を求めなければいけなかったんです」


 決して無理矢理ではなかったのだ、いや、無理矢理かもしれないけれども彼女は楽観的に勝算があると、生存者を見つけられたら一声かけるだけで助けられると思っていたのだ。


「減点一という訳ね。彼女はダンジョンに入るのになにもかも足りなかった、それがこの状況へとなった原因の一つ」


「まぁ、静香さんの誘いは強引でしたからね。その点は情状酌量の部分はありますけど。というか静香さんだけだと人間なんか助けないで金脈探していましたよね。チビたちがどこに行っているのか凄い気になるところです」


「ちょっと壁に黒い筋が入っている所を掘りに行っているだけよ。それにしても情状酌量なんて、お嬢様にしては優しい言葉ね。てっきり軍と一緒に行動するよう勧めると思ったわ」


「個での強さじゃ軍では使えません。個で活躍できる場所があるんですから、その仕事をして貰えればと思ったんです」


 その言葉を一応信じてあげるわと、目を僅かに細める女スパイ。まったく信じていないように見えるが、きっとサマナーの力を分析させるためだろうとか、考えているに違いない。


「我が主君はまだまだ若い。初陣から全てを上手く熟す人間はおるまいて。ただ自分で解決すると拙者は信じている」


 フォローをするようにノブは寛ぐように目を瞑りながら呟くように言う。静香はそれもそうねと、その意見に妥協する。


「追試の合格点は高いけど、それに合格できれば良いわね」


 私の合格点は高いわよと軽い口調で言うと、ガタゴトとその言葉に反応してダンボール箱が動くのであった。ちょっと蓋をガムテープで塞いじゃ駄目ですとも、どこからか聞こえてきたが幻聴だ。


 さっきから静香たちは誰と話していたか? きっと脳内妖精ということにしておこう。




 夕方は終わり、薄闇が空を覆う中で、鈴は空を見上げてため息を吐く。


「参ったなぁ、こんなことになるとは思ってもいなかったよ……どこか英雄願望が私の中にあったんだ……」


 生存者を救う傍らで、自分がヒーローである姿もその心にはあったんだと自覚してため息を吐く。本当は信用できる何人かの人を一緒に連れて来なくてはならなかったのだ。自分はソレを怠っていた、どこかできっと都合良くいくと考えていたのだと、鈴は反省する。


「これじゃ、しゅー君と同じだ……自分のことしか考えていない独りよがりの行動だよね……」


 仰ぎ見る空は満天の星空が広がっており、夜になって涼しい風が自分の髪をなびかせる。その中で、自分がやけにちっぽけな姿だと思う。宇宙の中で、人間は砂粒のようなちっぽけな存在なんだ。


「ポエムですか、それ?」


 ザクザクと土を踏みながら現れた少女に呟きを聞かれた鈴はギクリと身体を強張らせる。やばい、恥ずかしい黒歴史を聞かれちゃったりしたよ。


 そして内心で呟いていたはずなのに、またもや口に出していたらしい。どれぐらい黒歴史を重ねれば良いのだろうか。


「はっ! まさかしゅー君の記憶が私の性格に影響を!」


 わなわなと震えて、私のせいじゃないと責任転嫁をしようとする鈴であるが、特にしゅー君の記憶は鈴の性格に影響を与えていない。元からである。


「えっと、鈴さん?」


 一人で赤くなったり青くなったりして百面相をするサマナー少女を見て、多少引きながらも久美が声をかけると、コホンと咳をして気を取り直す鈴。


「ちょっと世界の理が私をあらぬ世界線へと追いやろうとしていたの。気にしないで」


 気になるよ、気にしないのは無理ですよと久美は内心で激しくつっこみながらも、なんとか表情に出さずに抑えて


「すいませんでした! お爺ちゃんたちがあんな態度をして!」


 と、深く頭を下げて謝罪の言葉を口にするのであった。


 あれれと予想外の謝罪に慌てて、手をアワアワと振りながらも鈴はどういうことか気になっていたことを尋ねることにした。


「なんでお爺さんたちは、私へとあんな態度を? えっと私たちは怪しげな集団に思われるだろうなぁとは思ってはいるけど」


 なにしろ侍、女スパイ、軍人コスプレ少女、幻想たちである。でも、怪しいけれども……


「危険には見えなかったと思うんだけど? あんなに拒否しないでも良いんじゃないかな?」


 苛烈にして激烈な拒否をした老人たちを思い出して顔を歪める。ちょっと怖かったのだ。


 久美は指をもじもじと絡めながら、なぜあんなにお爺さんが怒るように拒否したのかを気まずい表情を浮かべながら教えてくれる。


「お爺ちゃん……ドラマ大好きで……。ゾンビ映画で助けに来る人は凄い悪人か、多少悪どい悪人しか来ないと信じているんですよ。ほら、ウォーキングをするゾンビ映画とか人間同士でしか争っていないですよね? 正直ウォーキングザヒューマンという感じで」


「………」


「ほら、鈴ちゃんたちは生存者たちを集めているじゃないですか。その話を受け入れて安全な場所に向かったら、そこは安全ではなかったということを警戒しているんです……かくいう私も実は疑っています……」


 窺うようにこちらを見ながら言う久美の言葉に、なるほどと鈴は嘆息する。それが当たり前なのかもしれない。というか、私たちがどうして生存者を集めているか説明していないや。


「えっと、他にも鈴さんよりも強いサマナーさんたちがたくさんいて、人々を支配しているんですよね? かなりそれは怖いなぁ……なんて……ね? ピクシーやエンジェルとかのレベルが低いの知っているんですよ」


「え? なにそれ? サマナーが支配とか、どこから出てきた話なの? ……って、あぁ! そっか他人から見たらそう思うんだ!」


 ゲームや小説に影響されすぎだよと言いたいが、たしかにそのとおりかもしれない。リーダーの私がサマナーで超常の力を持った者だとひと目でわかる。そして、私は復興しています、これからは楽ができますから、私の街へ来てねとしか伝えていない。


 なぜ生存者を集めているか。私の贖罪じみた行動ですと伝えても納得することはないだろう。なにか利益があるからだと考えるはず。無償で生存者たちを救う個人こそ怪しげなようにしか、この場合は見えない。


 うん……私自身の話した内容も十分怪しいや。ここの人たちから見たら、自分たちを奴隷にでもするために辿り着いた者たちだとでも思ったのかも。


 女神が目を点にするゲームを一度でもやっていればピクシーとエンジェルのレベルは常に低レベルだと知っているはず。どのシリーズでもこの幻想たちは弱かったので。


 その場合は私は下っ端で生存者たちをククク、カモにしてやるぜと内心でほくそ笑んで集める悪役か、ごめんなさい、貴方たちを連れて行かないと私もまずいのと弱々しく嘆く脇役。そして街には強大な幻想を従えるサマナーがいて、廃墟の中をなんとか人々は生きている弱肉強食な世紀末風の世界とでも考えたのだろう。


「そっかそっか。あ〜、現実だとそうなっちゃうのか。下手にサマナーの知識とか、漫画とかの先入観があるとそうなるのかぁ」


 頭を抱えて座り込み嘆く鈴。なにもかも足りなかったのだ。説明不足に信頼性が欠片も見えないパーティーメンバー。サマナーへの先入観は怖いのではなく、悲惨な運命が待ち受けているだろう背景を現実では予想をして、あれだけ強くここの人たちは断ったのだ。


 ならば、どんなに私が言葉を費やしても、あの人たちは平和な街があるとは信じないだろう。きっと騙されないぞと強く考えているに違いないから、私の言葉も素通りするのは間違いない。


「えっと……大丈夫ですか、鈴さん? 私も鈴さんたちを信じたいんですが、鈴さんはサマナーでも立場が弱い人なんじゃないですか?」


 久美は自身の予想を信じて、その考えに間違いはないと確信しながら尋ねてくる。そういや、この娘はチルドレンをしたことがあると言ってたね。あのゲームは救いがあんまりないからなぁ……。それを基準に考えたか。


 うん、とコクリと頷いて鈴は立ち上がり、意を決して久美ちゃんへと向き直る。


「わかったよ、私にはなにもかも足りなかった。経験不足に人材不足。なんでも一人でできると傲慢にも思っていたんだ。ナナシさんがどうして会社を作るようにと勧めてくれた意味も考えなかった」


 ふぅ、と息を吐き、久美ちゃんへと小首を僅かに傾げながら微笑む。甘かった私の考えをナナシさんたちは見抜いていた。


 子供が贖罪だなんて言って、旅に出る。ノブさんと幻想たちをお供に私財を投じて各地を周り生存者たちを見つけては助けていく。なんの報酬も貰わずに。


 あれは誰だろう、サマナーのあの娘はと噂になって偉人伝にでも載る……うん、客観的に見るとしゅー君の妄想していた厨二病の主人公だよね……。全然贖罪とかじゃない、自己満足でしかも下心満載の行動だ。


「しかも、全然現実では上手くいかなくて頭を抱えて悩むなんて、情けなくて恥ずかしいよ」


「鈴さん?」


 私の独白を聞いて久美ちゃんはゴクリと息を呑みこんで、真剣な表情で私を見ると


「あの、全部口に出ています。自分に酔ってませんか?」


 容赦ないナイフのようなセリフで私の心を斬り裂くのであった。


「ぐはっ! わ、私は全部口にしてた?」


「あ、はい。なんだか贖罪だとかなんとか真剣な表情で呟いていました。私にも聞こえる音量で。ちょっとなんというか、鈴さんって、残念な人?」


 ぎゃあと胸を抑えて蹲るサマナー少女は、羞恥で耳まで顔を真っ赤にする。キメ顔でそういう言葉をよく吐けますねと、少しジト目の久美ちゃんの視線が痛い……。


 ゼーゼー、と息を整えて、真っ赤な顔を誤魔化すようにパタパタと手で仰いで、コホンと咳を一つつく。


「忘れてっ! くっ、私の隠された闇の心がついつい口に出ちゃうのねっ!」


「私は鈴さんの性格がわかりました。まだ会って間もないのに不思議ですね」


「そーれーはー、気のせい。気のせーい」


 まぁまぁ、と両肩を掴んで久美ちゃんへとお願いを口にする。


「明日、皆を集めて貰えないかな? 話したいことがあるの」


「お爺ちゃんたちを説得する方法を思いついたんですか?」


 不思議そうに尋ねてくる久美ちゃんへとウインクをして微笑む。


「明日までのナイショ」

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[良い点] 改定版更新待ちの合間にこちらも読む読む うわぁ!妖怪段ボール返しだ!
[気になる点] 危ない奴らだと思われてるのに、理由も話さず全員集めて、って一網打尽にしてやるぜ、って宣言してるように思われないかな?
[一言] 鈴さん(ティツ)シュー君と一緒になってただけあってだいぶ……いや元からか……
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