468話 金山に入るサマナー少女とガンナー美女
目の前に佇む二体のロボット。ガンアベルとガンカイン。
黒い塗装された分厚い重装甲、背中にはランドセルタイプのバーニア、そして右肩にはロングバズーカ、左肩には小型シールド展開用リングが搭載されている。右手には大型ガトリング砲、左手にはタワーシールドを装備したガンアベル。
オレンジ色の塗装で機動力重視に見える軽装甲、背中にはウイング展開型バーニア、両肩にはガンビットが5基ずつ搭載されており、右手には長大な銃身のロングライフル。左手にはバックラー、腰にチェーンブレードを格納しているのがガンカイン。
「ロマンですね。これが静香さんの護衛兵器?」
女の私でも格好良いと思う機体の紹介を受けて、静香さんに尋ねると
「そうよ、それぞれバージョンアップしているから、以前よりも強くなっているのよ。あと、私の専用機もあるわ」
「へぇ〜、あ、まさかとは思いますけど妹枠の兵器じゃないですよね? 歳から推測してそれはな、いひゃいいひゃい」
私の言葉を遮り、多少怒っているような空気を出して静香さんが私の頬を掴んで伸ばしてきた。私の頬は餅ではないですよ。
「ごめんなさい、それにしてもなんでここで金塊が取れるんですか? どうして隠し金山とわかるんですか?」
「そこの入り口に書いてあるでしょ」
静香さんが指差す先には
「おいでませ、武田の隠し金山へ?」
んんん? なにか変な立て札が森の中にぽつんとあるのが見えた。なんだろう、私は幻覚を見ているのかしら。
ギギィッと首を錆びたブリキ人形のように傾げる私の様子を見て苦笑混じりに、静香さんはからかうように教えてくれる。
「この手のものは多いのよ。敵がこういった物を中心にダンジョンを作るのね。大樹の科学者曰く、概念がある場所を素にして異常空間を作るとか」
きっと、金山が実際にあるわと目をキラキラさせるお金に弱い女泥棒さん。だけど、理由はわかった。わかりたくないけれども。なんとなくアホみたいな感じがするけれども。
「なんだか、入る前から疲れちゃいましたけど行きますか」
「お手並み拝見ね。それまではガンシリーズは通常モードに切り替えておくわ」
パチリと指を静香さんが鳴らすと、ガンアベルとガンカインが光ったと思ったら、次の瞬間にはちっこくなっていた。おぉ〜、科学ってこんなに進歩していたんだ。
「それじゃさっさと入りましょう。お嬢様が来る前にね」
「はい、わかりました。ディア、ノブさん行きますよ〜」
「うむ、どのような化生が出るか楽しみだ」
ノブさんが獰猛な猛獣が狩りを始めるような凶暴そうな笑みを口元に浮かべて、ディアは私の髪の中に隠れながらペシペシと叩いてくる。
そうして、私たちは立て札の向こうに入る。薄っすらと膜のような物が空間にあったが、それを通り過ぎて。
空間を超えると、なにか変わるかと思っていたら特にはなにも変わったところは見えなかった。森林が相変わらず広がり獣道のような小道が続いている。でも……。
「ううん? 小道の反対側が崖になってる? 立て札を超えるまでは森林が続いているようにしか見えなかったのに」
崖といっても、今居る場所が底であり切り立った壁のような崖が右側に存在していた。登るのに苦労しそうな崖で地層が見えて壁自体はボロボロと土が崩れている。
「これが空間拡張された異常空間よ、鈴ちゃん。ようこそダンジョンへ」
ふふっ、と相変わらずの人を魅了するような妖しい笑みを静香さんは浮かべるのであった。
一見すると長閑な空間である。小鳥の鳴き声が遠くから聞こえてきて、セミのうるさい鳴き声が辺りを覆う。小道以外には特には見るべきものはなく、ちょっとした山登りに来ていると私を錯覚させてきた。
しかし、無論のことそれは気のせいだったんだけども。
ガサリと音がすると、森林からなにか人ぐらいのモノが飛び出して来た。カタカタと人間ではないなにか堅いものを叩くような音をたてて現れたのは、人でありながら人ではなかった。
もはやその身体には肉はついておらず、やけに白い骨のみで身体を構成していた。戦国時代の足軽が着るような簡単な胴鎧に陣笠を被り、3メートルはあるボロボロの槍を持っている恐怖の化身であった。
「せやあっ」
ノブさんが土を蹴りながら、気合いの雄叫びをあげて肉薄して一刀の元に叩き斬ったけど。
「ねぇ、貴女は設定厨? シチュエーションを大事にする人?」
あっさりと恐怖の化身とまで私が言葉にしたのに、あっさりと倒してしまったので不満に頬を膨らませていると、静香さんが呆れたように聞いてきた。どうやら私は本当に口にしていたみたい。たまにあったりする。
「だって、私的にはゾンビ以外での初戦闘だったんです。きゃあと叫ぶか、素早く的確に指示を出すできるサマナーを見せるか迷っていたのに。そんな暇もなかったですし」
「……そうね、私と話している間にも泉はサクサクと倒しているみたいだけど良いのかしら?」
私の不満の言葉が通じなかったのか、顔に手をあてて呆れる様子を見せる静香さん。呆れるところじゃないと思うんだけど、世間一般では違うのかな。それと
「ノブさん! 私の的確な指示を待ってくださいよ! なんで勝手に戦闘しちゃうんですか!」
「カッカッカッ! 主君よ、そなたの指示を待っていたらこの者たちに突き殺されてしまうぞ」
新たに三匹の恐怖の化身が………
「あれは足軽スケルトンと名付けました!」
どこからか声がして、その言葉が耳に入る。
そうそう、恐怖の化身こと足軽スケルトンがノブさんへと襲いかかっていたが、高笑いをしながらノブさんは最初に突いてきた槍を半歩横にずれて躱す。槍がノブさんの髪の毛に触れるぎりぎりで通り抜ける中で、足を強く踏み込み首を横薙ぎで斬り払う。
ポーンと首が飛んでいく中で、次の二匹が左右から同時にノブさんの胴体へと槍を突き出すが、既にそれを予測していたために後ろへと一歩下がる。
ノブさんに当たらずに、槍は交差してしまう。それを見逃さずに閃光のような速さで上段からの振り下ろしをすると、交差されていた槍は一刀で斬り落とされる。
槍が半ばから斬り落とされてたたらを踏む二匹。体勢が崩れたことを見逃さずに鋭く左右へと横薙ぎにて剣撃を行い足軽スケルトンの胴体を真っ二つにして倒すのであった。
ノブさんは刀をしげしげと眺めてニヤリと楽しそうに笑う。
「なるほど、この流水刀まーくつーとか言うのはなかなかの妖刀だな。刃こぼれもせずに胴鎧を叩き斬ることができるとは」
チン、と刀を鳴らして鞘に納めるノブさん。ノブさんの持っている流水刀まーくつーはナナシさんのプレゼントである。刃を水の膜が僅かに覆い血脂はつかないし、鉄すら斬れる斬れ味。それと微小だけれども自動修復に、水の膜を自身の周りに作ることにより飛び道具も防げる代物だ。
これだけいえば凄い武器に聞こえるけど、実際は銃の方が強い。ノブさんが使えば銃よりも強いけどね。
「むー、次の敵は私が倒します。えっと、スケルトン系は打撃武器特攻で聖なる攻撃に弱いはずだから……」
道の真ん中でぺらぺらとグリモアのページを捲っていたら、ディアが頭の上で慌てるように立ち上がった。
「エアープロテクション」
小さい囁きと共に私の周りに飛び道具を逸らす風の障壁が生まれて
「え?」
どうしたのとディアへと尋ねる前に、矢が飛来してきて風の障壁により明後日の方向に飛んでいった。あれ? もしかしてまずかったかな?
冷や汗が流れる中で、足軽スケルトンが草むらからわらわらとあらわれてきた。その数15体。弓を持つのが5体、残りは槍持ちだ。
「あ、ありがとう、ディア。助かったよ」
ディアがフヨフヨと私の前に飛んで、コクリと頷く。そんなディアへと指示を出す。
「ディア、雷!」
素直に指示を聞いて、ノブさんに近寄る前衛へとそのちっこいおててを掲げて
「雷」
ポツリと呟くディアの小声と違い、一条の雷光がその手から発生して、空気を焼いて前衛へと命中する。ゲームと違い、単体魔法なんかない。雷により命中した足軽スケルトンを中心に周りへとその雷は広がり敵の動きを麻痺……麻痺?
雷が命中した足軽スケルトンは粉々に砕けるが、他のスケルトンたちは雷の余波を受けても神経が無いために麻痺せずに近寄ってきた。
「主君にしては頑張ったか?」
その様子を苦笑しながら見終えて、ノブさんが敵へと突っ込む。そうして、敵の繰り出す槍を時には躱し、時には受け流し、時には掴み取りと跳ね除けて、素早く踏み込みをして、縦横無尽に斬り払っていく。
フレンドファイアを気にしないのか、それとも矢が当たっても骨ならば効果が薄いのか、気にせずに弓を構えてノブさんを狙い撃ち始める足軽スケルトン。
「まずい、ディアでは相性が悪すぎる!」
雷と風の障壁、軽い治癒、それしかディアは使えない。いつもなら雷で敵をバンバン麻痺できるから気にしなかったけど、スケルトンでは効果が無い。ゾンビならばぎりぎりセーフだったのに。あれは痛みは感じないけど神経はあったから。
なので急いでグリモアのページを捲る。スケルトン相手に相性が良い幻想は……。聖なる幻想だ、これしかない。
「サモン、エンジェル!」
レベル7のエンジェルを呼び出す。聖なる天使を呼び出そうとして、グリモアが輝き宙に魔法陣が生まれる。そして光が集まるとエンジェルが創造されたのであった。
白いトーガを着込んだ金髪の美女、美しい天使の羽を広げて聖なる輝きを示していた。男には残念だけど裸に目隠ししているマニアックなタイプじゃない。しゅー君が昔書いているのを見たときにアウトなのは書き直させていたので。
7000も使う割りには弱いエンジェル。でも聖なる攻撃をできるので素早く指示を出す。
「エンジェル、浄化よ!」
エンジェルは聖なる攻撃、聖なる障壁、簡単な癒やしに特有スキルとして浄化があるのだ。エンジェルは手を組み祈るようにする。
パアッと光が敵の中心で発動されて、天から白い光が降り掛かった。光に覆われた敵は溶けるように消えていき、ハラハラと光の粒子が舞い散るのであった。ターンアンデットというやつである。まぁ、大半はノブさんが既に倒していたんだけど。
弓兵を再度の浄化にて昇天させて一息つく。
「う〜ん……サマナー自身が弱点なのね。どんな攻撃も効かない最強のサマナーのようにはいかないかしら」
「ナナシさんに貰ったワッペンをつけているのでさっきのは大丈夫ではあったんですが」
言い訳になるかもと慌てる中で、冷静に判断を静香さんはしていた。少し考え込みながら感想を教えてくれる。
「鈴ちゃん以外は合格点ね」
うぐっ
「というか鈴ちゃんがダメダメね。貴女はあれなの? 護衛クエストで無意味に立ち止まり地図を確かめようとするNPCとかなのかしら?」
ぐはっ
「遠回しな嫌味なのに、わかっちゃう私の理解力が憎いっ」
耳を手で覆い、イヤイヤをする私。聞きたくなかったです。あと静香さんの例えが上手すぎ。
「それで? 強敵ならどうにもできずに死んじゃうわよ?」
私の態度に呆れた様子の静香さんはこちらをジト目でさらに追求してくる。なので慌ててアピールしておく。
「私の真の力はですね、サマナーの領分を超えているものでして、不意打ち以外ならたぶん防げる……防げるといいなぁと考えています……」
最後の方が小声になるが、仕方ないだろう。正直、自分でも大丈夫かなぁとは思うので。
その言葉を聞いて、静香さんは肩を竦めるだけで特には詳しく聞いてはこなかった。切り札的なものだと理解して気を利かせてくれたのだとわかる。
「なんとなく予想はつくわ。それが強ければ良いんだけど、そこは気にしても仕方ないわね。恐ろしいことになる前にさっさと進みましょうか」
なにかを恐れるように言って先を進み始めるので、疑問に思って尋ねる。この人が怖がるようななにかがあるのだろうか。
「なにかこの先にいるんですか? 強敵?」
「いいえ、もっと恐ろしい者よ」
かぶりを振りながら、真剣な表情で私を見てきて告げてくる。
「お嬢様が来ちゃう可能性があるわ」
「え?」
お嬢様って、レキという少女のこと?
「お嬢様が来るとね、サクッとボスを倒される可能性があるの。その場合は金山を掘ることができなくなるわ。消えてしまうか、元の状態に戻っても金山として大樹本部が接収する可能性があるから! なんて、恐ろしいのかしら!」
「えっと……恐ろしいんですか?」
「ええ! 以前に佐渡の金山に行ったのに敷き詰められた金を全て回収せずに崩壊させたことがあるのよ! なんて恐ろしい! 一グラム以上金を残すなんてあり得ないと思わない?」
あぁ、恐ろしいと実際に数十グラムの金を回収しそこねた静香は頭を抱えて怖がるが、あんな危険な地域でそれを気にしたのは静香だけであろう。
「だから、お嬢様が来る前に金を掘り尽くすか、来てもボスをすぐに倒さないように説得するしかないわ。たぶん金脈は復活していると思うの。たぶんではなく絶対に。復活していなければ、ここのボスに復活させるわ」
「なんというか…………どちらも無理な予感がするような……」
クールでミステリアスな美女が金の話になったら、一気にポンコツになってしまったので、唖然として口をぽかんと開ける鈴であったが
「きゃあ〜!」
遠くからか細い少女の悲鳴が聞こえてきて、一気に正気に戻る。すぐにノブさんへと視線を向けると
「そこの妖精を先に行かせるのだ! 儂らは警戒しながら進まないといけないぞ!」
罠の可能性もあるし、それでなくても見通しの悪い小道なので不意打ち攻撃があるかもしれないとノブさんは忠告してくれた。
駆けつけたいが、警告内容はもっともだ。漫画な小説の主人公みたいに走り出せば、普通の力しか持たない私は危険であると理解して、ディアへと指示を出そうと口を開きかけて
「見えているぜ、狙い撃つ!」
チビカインがライフルを構えて、声のした方向へと引き金を数回弾く。タンタンタンと軽い乾いた音がして、銃弾が飛んでいくのであった。
「へっ、雑魚が。俺様の敵じゃねぇな」
ケッ、と笑ってチビカインがライフルを肩に担ぐので、なにが起こったか理解する。見えない距離、草木が生い茂り射線も通らないと思われたのに、敵を狙い撃ったのだろう。このロボット、凄い性能だ!
「人命救助で手を抜くとナナシに怒られるしね。こういう時は手助けするわ」
余裕を見せるように口元を微かに笑みにして静香さんがゆっくりと歩き出す。
「さて、余裕はできたみたいだし、ゆっくりと行きましょうか」
「ほぉ〜、南蛮の銃使いとは凄いものなのだな」
感心しながらノブさんも静香さんに続くので、私も慌てて歩き出す。う〜ん、こういうときに備えて警戒用の幻想が欲しい……。でも警戒スキルを持っている幻想は弱いんだよなぁ。
考えながらもゆっくりと警戒しながら進むと、少し離れた場所に人間が予想通りにいた。
大人の男性と、私と同じぐらいの少女。その二人は足軽スケルトンの槍を回収していたが、こちらに気づき警戒した様子を見せるのであった。




