464話 超能力者探しをするおっさん少女
本格的な警察組織というのは崩壊後には存在しなかった。生きるのに精一杯でそんな余裕も無ければ、警察組織を作れるほどの人口もなかったからだ。そのために、軍がなぁなぁで警察組織を兼業しているという形になっていたのだが、先日のクーヤ博士のクーデターにて本格的に治安組織を設立しようという話になったのであった。
まぁ、もう人口も100万人にあと少しという感じである。余裕もできたのでべつに問題はないだろう。
ということで、美しい艷やかな黒髪で幼気な可愛らしい顔立ちの子猫のような保護欲を喚起させる少女はフンスと治安組織を作るべく立ち上がったのだ。
「ポリス戦隊ポリレンジャー」
広いグラウンドの隅っこで、その少女は友人たちとポーズをとって叫ぶ。
「ふぉぉぉ〜! ポリレッド、リィズ!」
ドドーンと擬音を口にしながら、金髪のこれまた可愛らしいおさげの少女が叫んでポーズをとる。もちろん、服装は赤色のピチピチの肌にビッタリと合っているレオタードだ。細いスリットの入ったバイザーを顔にかけていたりもする。
「ジャジャーン! ポリブルー、レキ!」
ショートヘアで黒髪の幼気な女の子も、同じように擬音を叫んでポーズをとる。服はお決まりの青である。
「きゃー! みーちゃんもポリグリーン!」
両手を掲げて、ぴょんぴょんと飛び跳ねる小さい幼女も周りへと叫ぶ。
「あたし、無理だかんね? もう、そういう歳じゃないし〜」
呆れたように蓮っぱな口調で三人を見つめて告げる茶髪の少女。この四人がグラウンドの隅っこで遊んでいた。
「ふぉぉぉ、世界の治安を守る特撮部隊、ポリレンジャー!」
五人目はいないので、仕方なく妥協して金髪おさげの少女は三人でポーズを決めるのであった。ドドーン。
キャッキャッと手を合わせて、三人でポーズが決まったねと楽しむのを嘆息して茶髪の少女こと、英子が尋ねてくる。
「ねぇ、今日は警察官の実技テストなんでしょ? ここで遊んでいたら邪魔じゃない、レッキー?」
頭の後ろで手を組みながら聞いてくるので、ポリブルーこと朝倉レキはニッコリと笑う。これがおっさんならばポリ袋に入れて捨てるのだが、美少女なので可愛らしいだけだ。
そんなレキはちっこい指をグラウンドに向けて教えてあげる。
「それがですね、今日の私たちは警察官の中で天然の超能力者がいないかを鑑定するために呼ばれたんですよ」
「うむ、リィズも鑑定できる」
「みーちゃんはね、みーちゃんはね、リィズおねーちゃんとレキおねーちゃんが見つけた人を大人の人に教えてあげる係なの」
レキとポリレッドなリィズが姉妹揃って平坦な胸を張り、内緒だよとポリグリーンのみーちゃんが英子の耳元へと囁く。
「そうなん? 天然の超能力者なんか見つけてどうするわけぇ?」
英子は休日なので久しぶりに遊ぶレキたちへと首を傾げてみせる。そもそも天然の超能力なんかいるのだろうか?
「天然の超能力者は希少です。そして他の人間と違い身体能力などが違うので、専用の訓練や違う職業に就かないかを尋ねるんですよ」
「天然の超能力者なんか滅多にいないと思うけど、いたらお金持ちになれる可能性もあるしね」
レキの言葉に続けて、女性が話に加わる。ザクザクと土を踏みながら近づいてくるのはナナであった。後ろには叶得もついてきている。
「お金持ちって、なぁに? そんな凄い力ってあったっけ?」
英子がその言葉にコテンと首を傾げて不思議そうに尋ねる。超能力者という時点で本物なんかいないでしょうと、嘘くさい感じがするが、目の前に三人もいるので、崩壊後は一定の数がいることを知ってはいるけれども。
「リィズがその問いに答えてあげる。超能力者はマテリアルを使った特別な物をクラフトできる。それこそ高額な物も勉強して慣れればできるようになる。それに超能力者専用武器とかも使えるようになる」
ふんふんと鼻息荒くリィズは理由を告げる。なるほどねぇと英子は納得する。なにしろマテリアル製品は需要に対して、供給が全然足りないので儲け放題なのだ。式神でも良いので、自分も使いたい。
式神を使う人たちは今や電報代わりとして使われていたりする。神社仏閣の片隅に作られた伝書屋に行きお願いすると、式神を飛ばしてくれるのだ。正直商売っ気ありすぎな宗教団体である。
そんな式神とかを使えるようになるのは、神秘の鎖みたいな特殊なアイテムを装備するか、超能力者になるしかない。
リィズがレキと一緒にウニを量産していたので器用さも必要ではあるが。
「ん〜、最近わかったんだけど万能工作機で作るアイテムも私以外は使えない時があるの。ナナシに聞いたら超能力が私にはあるらしいのね、俗に言うクラフト系の超能力らしいわ。即ち、ナナシへの愛から生まれた超能力ねっ! だって愛を生み出す力だもの!」
キャッ、と顔を赤くして手で覆うふりをする褐色少女。誰か、私をからかって良いのよという惚気がその身体から滲み出ていた。相変わらずの色ボケぶりであるので、周りの面々はみーちゃん以外は白けてしまう。だが、それぐらいでめげる叶得ではないので、これからもどんどん噂は広げていくと見える。
そしてクラフト系で愛を作り出すというのは初めて聞いた理論だよとも思う。
なんだろう、ナナシを包囲して食べる気満々なのだろうかと、レキの中の人は冷や汗をかく。やばいぜ。
「まぁ、それはおいておいて、とりあえずは警察官採用試験に来ている人から見ていこうかと。軍は既に確認済みですし」
「ありゃ、その口ぶりだと軍には超能力者がいたの、レッキー?」
「はい、シスさんにナナさんがいました。それに荒須さんに水戸さん、最後に元警察官さんに、コスプレ軍人さん」
たくさんいましたと指折り数えて伝える可愛らしい美少女。だが、言い方を変えてもさすがに騙されない様子。
英子はジト目でこっちを見てきて、呆れたようにツッコんできた。
「いないじゃん、全然いないじゃん。どうしようもなくいないじゃん!」
そのツッコミにバレちゃいましたかと、ペロッと小さな舌を出して笑う世界一可愛らしい少女。
「う〜ん、一定以上の力を持つ人たちにしたのが原因ですね。ちょっと厳しすぎる条件なんですが、それ以下だとクラフト系は役にたたないんです。兵士さんなら別に弱くても装備は使えるんですが、一般人でも同じように装備は使えますからね。天才と凡才というレベルでしょうか?」
「大樹は天才を超能力者の枠に入れちゃった! これから天才の人は人から超能力者と見られちゃうんじゃない?」
英子がツッコミにツッコミを重ねてくるので、さすがは英子さんと親指をたてて、グッドと笑顔で言うレキである。
「で、リィズもそうなんだけれども、分かっている超能力者はうちの会社に入ってくれない人ばかりだから、探しているのよ。最近、妖精を連れた女の子を避難民の中に見つけたから誘ったのに、ナナシの援助を受けてもう会社を作っていたし。浮気かしらっ?」
腰に手をあてて、ムゥと不満そうに頬を膨らませる叶得だが、鈴はもう独り歩きしているので誘うのは無理だ。そしておっさんが勝手に浮気したとか言わないで欲しい。
この間、初たちを回収したあたりから、若木シティにもナナシは少女が好きなんだという噂が広がっているらしいよ? おっさんを勝手に窮地に陥らせないでほしいです。おっさんの自業自得かもしれないけれども。
「それじゃあ、超能力者は全然いないじゃん。まぁ、そこらへんに歩いているとは……そこのアホ娘たちは別として、いないとは思っていたけれども」
「アホ娘とは酷いですね、英子さん。でもたしかにいないんです。予想はしていましたが。だって72億の人口があったときでも本物の超能力者なんか一般にはいなかったでしょ? 確率的に今の人口でこれだけ見つかるほうが珍しいんです」
少なくともおっさんは見た覚えはない。ハンドパワーとかあったけど、あれは手品だったし。
「そうだよねぇ〜。え〜、それじゃあアタシらせっかくの休日を無意味に過ごしている訳〜?」
ダル〜、と英子が俯いてがっかりするので、リィズと顔を見合わせたレキはむふふとちっこいおててで口を抑えて悪戯そうに笑い
「次に探す場所はプールにしようと思っているんです。まだまだ午前ですし、これから行きませんか? 今話題の建設されたばかりの大型プール、入場制限がかかる場所ですよ〜」
その言葉にガバッと英子は顔をあげて満面の笑顔で返答をする。
「さすがはレッキー! もちろんプールに行くに決まってんじゃん! あ、水着取ってくるね〜」
と、答えて真夏の暑い日差しの中、全力で走っていくのであった。
「みーちゃんはもう水着を用意してある!」
てこてこと隅っこに置いておいたカバンを取りに行くみーちゃん、そしてリィズは擬似アイテムポーチの能力が備わったバングルをキラリと光らせる。リィズおねーちゃんはバングルを持っているので得意気だ。
「ん、リィズもバッチリ」
「私も用意万端だよ」
ナナがカバンを持ち上げてみせる。
「私もバングル欲しいわねっ! ナナシがプレゼントしてくれないかしら」
「リィズおねーちゃんに渡したのは、かなりお願いをしたんですよ。だから厳しいんじゃないですか?」
ちなみに通信機能も備わっているので、たまに自宅にいる時にかかってくる。そのたびにおっさんはレキへとチェンジしないといけないので地味に面倒くさい。
それでも、リィズはものぐさだから良い。たまに通信がある程度であるし。叶得に渡したら一時間毎にかけてきそうで怖いので、渡す予定はない。工作機にも通信系のレシピは入れてないし、作れないようになっているしね。
「それじゃあ、英子さんが戻ってきたら出発しましょうか」
「ふぉぉぉ! ポリレッドアイ!」
リィズが警察官採用試験を受けている人々へとバイザーを光らせて見つめる。ちなみにバイザーはピカピカ光るだけです。
あ、鑑定しているのねとレキも気づく。すっかりここに来た意味を忘れていたアホの娘である。
「ポリブルーアイ!」
「きゃー、みーちゃんもポリグリーンアイ」
三人でピカピカとバイザーを光らせて楽しむ。幼気な少女たちがそういう行動をしている姿は愛らしく微笑ましい。中の人? 中の人は既に牢獄行きになりました。なったら良いと思います。
わっせわっせとマラソンをしている人々。それをストップウォッチで計る試験官、その横でキャイキャイと可愛らしい声をあげながらうろちょろする三人娘。邪魔しかしていない少女たちに苦笑をするが目的は聞いているので試験官たちも止めない。
「残念ですが、誰もいませんでした。該当者ゼロです」
バーツ、と両手を交差させてレキが言う。無邪気なその様子は本当にレキなの? という疑問はこれからプールに行くのだから、レキのままにしておこうという人々の願いが届いているとだけ言っておこう。
「それじゃあ、私も水着取りに行って来るから」
叶得も誰も超能力者がいないと聞いて、特に落胆もせずに待たせていた車に乗り込んで去っていった。マジですか、専用の運転手さんがいましたよ。金持ちって凄いね。誰よりも金持ちなのに、常に自分の足で移動しているレキは同じように車で移動しようかと迷うが、自分で移動した方が全然速いので諦めることにする。
だって、たった一歩で数キロすらも移動できるのだ。風を受けながら空を駆けるのは最高なのだからして。ゲームに準ずるボディなのでそよ風しか受けないけど。
木陰で待っていようと、リィズたちと木陰に移動してぺたんと座る。はい、どうぞとジュースを手渡しながらグラウンドを見ると、隣にいるナナが少し寂しそうな表情を浮かべているのに気づく。
返ってくる答えはだいたい想像つくけれども、それでも一応確認をしておく。少し心配ではあるので。そして、そろそろ悔しいが遥に名称を戻そう。レキは人間をあまり気にしないので。
「ナナさんは警官に戻らないんですか? 今なら元警察官は試験無しで戻れますけど」
「う〜ん……。残念だけど戻れないよ。もういまさらという感じ」
影のある笑みを浮かべて、戻れないと答えるナナ。戻らないではなく。
その答えに少し寂しさを遥も感じながら、疲れ果てて倒れ込んでいる受験者たちを見て、ポツリと呟く。
「そうですか……。そうですね、今更軍の英雄が警官に戻るなんて世間が許さないでしょう。これが引退ならば別ですが、警官となれば楽をするために軍を辞めたのかと非難する人がいそうですしね」
「……それもあるけれどね、やっぱり人を助けるには軍が一番だと思うんだ。こんな世界だし」
ふふっ、と力無く笑うその姿は元気なナナには珍しく、遥も思わずため息を吐いちゃう。崩壊前と今では人々の暮らしは大きく変わってしまったと改めてしみじみと思う。厳しい世界になってしまったと。
たとえば、おっさんがメイドにかしづかれて、ゴロゴロできる世界になんてなるとは思いもよらなかった。なんだか例えが間違っている気もするけど気のせいだろう。それとメイドはかしづいてない。かしづくときは少女のスカートの中を盗撮しようとするだけである。
警察官も人を助ける。しかしながら生存者を助けるような直接的なものでない。
「仙崎さんも今更戻れないって言ってた。まぁ、あの人は大佐だし私よりも警官には戻れないよね」
苦笑をしつつナナが教えてくれるので、幼気な美少女も釣られて微笑む。中身はおっさんに戻ったら良いと思います。
「あ、でも同僚の女先輩たちは戻るって言ってた。少なくない数が警官に戻るみたい」
戻る人もいるんだよと、暗くなった雰囲気を消すように笑顔で伝えてくるナナ。遥はその言葉を聞いて少しだけ考える。
「もしも私が戦いを止めるときが来たら、どうなるんでしょうか……」
その言葉にナナは顔を驚きに変えてしまう。まさかレキちゃんが戦いを止める日を考えるなんてと驚愕したのだ。
レキちゃんも少しずつ良い方向に変わっているんだろうとナナは嬉しく思う。あの本部での戦い、那由多代表に命令されるがままに、銀の少女たちを躊躇いなく殺そうとした少女。
だが、私の叫びにその拳を止めてくれた。以前ならば容赦はしなかったと思う。しかしレキちゃんは止まってくれた。変わっていってるのだ。
その変容が今の呟きなのではなかろうかと、顔を喜びで綻ばせる。
実際は戦う相手がいなくなったら、レキはニート一直線だと、中身のおっさんは思っただけなのだが。
「戦いを止めるとき……それがいつになるかはわからないけど、その時は私と一緒に暮らそう!」
勢いよく手を差し伸べるナナに、今度はおっさん少女が驚き
「プロポーズにしては、ここはシチュエーションが悪い」
と、二人の様子を眺めていたリィズが呆れた表情で、なぜかナナの手をとるのであった。その言葉にじわじわとナナは顔を赤くして顔を覆おうとするのだが、後ろから刺客が忍び寄っていた。
「社長、探しましたよ。すいません皆さん、それでは仕事があるのでこれで」
数人の会社員が来てナナの両腕を確保してしまい、ペコリと頭を下げるとズリズリと引き摺っていくのであった。
「あれ? ここは感動のシーンだよ? 待って、仕事をするから待ってぇ〜。これからプールなんだよ〜」
ナナの悲しい悲鳴が響き、美少女たちはさようなら〜、とにこやかな笑顔でその様子を見送るのであった。
 




