461話 大樹の長い一日
大樹本部空中拠点ホットケーキ。真ん中にバターのように統合ビルが設置されて、各所にある湖から流れる川の流れがメイプルシロップをかけたようになっており、美味しそうな拠点であった。
人々がこれこそ大樹の本部だねと感心する素敵な拠点である。
そのビルの中では、広々としたリビングルームにてソファに深く沈み込むように座って、ふわぁとくたびれたおっさんが大きく口を開けて欠伸をした。朝早かったので眠たかったのです。美少女ならば、そんな姿も絵になるがおっさんなので、モザイクをかけないといけない光景かもしれない。
そんなおっさんの名前は朝倉遥。本日はおっさんぼでぃにてのんびりとして……していなかった。
「ねぇ、なんで紙切れの為に葬式を行わないと駄目なの? 影分身をして分身がやられたら忍者な主人公がいちいち悲しんで葬式を行うのと一緒だよね? おかしいよね?」
物凄く疑問なのだ。なぜならば銀紙にて作った分身が戦死したと葬式を行わないといけないのだからして。あれかい? ビットが撃ち落とされたら、それも戦死になるのかな?
おっさんはレキとなって、友だちと遊ぶ予定であったのだ。なのに、なぜ、どうして、紙切れの葬式にでないといけないのだろうか?
「マスター、仕方ないんです。姉さんが怠けて銀の紙天使を作り出しちゃったので」
遥を慰めるように、コトリとアイスカフェラテを置いてナインが微笑む。
「そうだね、もっと的確に指示を出して戦わせるべきだったよ。なぜあの時、適当に任せたのか過去の自分を殴りたいよ」
きっと過去に戻っても、過去のおっさんに出会っても、お互いに痛そうだから殴るのはやめておこうねとヘタれるのは確実なおっさんだが、とりあえず後悔はしていた。
「まぁまぁ、ご主人様。ちゃちゃっとお葬式を終えて、お祭りに参加すれば良いと思いますよ」
まったく遥の皮肉を聞かない銀髪メイドはニコニコと笑って言うので、遥もおっさんなりに笑顔で答える。
「そうだね、ちゃちゃっと終われば良いね。でも少しだけ気になることがあるんだけど聞いて良い?」
「もちろんです。どうぞなんでも聞いてくださいご主人様。貴方の忠実にして信頼できるナンバーワン、サクヤが話を聞きますよ」
両手を水平に伸ばしてくるくると回転しながらサクヤはご機嫌で言う。スカートがふわりと舞い上がり大輪のようになっていて、その姿だけを見れば美しい光景であった。
だが、遥は騙されない。ついっと指を部屋の隅に向けて尋ねる。
「あれはなにかな? ドライたちはなにをしているのかな?」
そこにはフンフンと鼻息荒く可愛らしい幼女たちが数人立っていて
「ククク、でつ」
「もう那由多たんの時代は終わりでつ」
「この台本読めないでつ。パパァ、漢字を読んでくだしゃい」
最後の一人が台本を持っておめめに涙を溜めて、てこてこと駆け寄ってくるので、よしよしと頭を撫でて慰めてあげて、漢字の横に平仮名を書いてあげるねと助けてあげる。
「ありがとー、パパしゃん、だいしゅき!」
パアッ、と花咲くような笑顔になり、仲間の元へとテテテと戻っていくドライに癒やされながら、サクヤをジト目で見つめて問う。
「この台本、大樹の長い一日と台本に書いてあるよ? なにこれ?」
「ほら、ただ紙切れの為に、葬式をするのももったいないじゃないですか。エンターテイナーな私としては、ね」
パチリとウインクをして悪戯そうに口元に笑みを浮かべるサクヤ。うん、嫌な予感しかしません。
「司令、この漢字が読めません〜」
「このフランス語が読めません〜」
「このヘブライ語が〜」
「魔界文字が〜」
ツヴァイたちがドライを真似たのか、てこてこと襲いかかってくる。どことなくそのアホな姿は某銀髪メイドに似ているが気のせいだろうか。あと、最後の文字を読める人はいるのかな?
「はいはい、私が読んであげます。これは死を意味するセリフですね」
ナインがニコニコと笑顔で手を振ると、笑顔に似合わない威力の衝撃波が巻き起こり、ボーリングのピンのように憐れツヴァイたちは吹き飛ぶのであった。
はぁ、とカオスな周辺をみて、他の場所へと視線を移すと壁に隠れて水鉄砲を手にしたドライたちがリーンをしながら話をしている。
「なぜこんなことをするのでつか!」
「んと……世界の支配には力がひつよーなのだ」
「那由多しゃんはあましゅぎる!」
「お腹すきまちた。あまあまなの、たべましょー」
水鉄砲を撃ちながら、キャッキャッと笑って、演技を楽しそうにしているドライたち。きっとごっこ遊びだよね。そうだよね、信じているからねサクヤ。
実際はまったく信用できないので、大丈夫かなぁ、と遥は疲れたように息を吐くのであった。
大樹本部には大勢の人々が集まっていた。大樹の土地でも端っこの方を霊園として作られており、そこには上等なスーツ姿の幹部たちや、立派な軍服を着込んでいる軍人が勢揃いといった感じで並んでいる。
荒須ナナはもぞもぞと軍服を直しながら落ち着きなく立っていた。周りには初ちゃんたちはもちろん、百地隊長や蝶野さんに仙崎さんも来ている。皆、真面目な表情で今から始まる戦死者への葬式が始まるのを待っていた。
そして、少し離れた場所に立っている人も目に入っている。老人が銀髪の可愛らしい少女たちの先頭に自分がボスなのだとアピールしながら立っていた。
「クーヤ博士は随分とご機嫌そうだな、あの笑みを見ろ」
蝶野さんがクーヤ博士のいる方向を見ながら、忌々しそうに告げてくる。たしかに笑みを浮かべて自信満々な姿を見せているので、あれだけ葬式に相応しくない老人も珍しい。
「どうやら第三世代の量産型超能力者を作れてご機嫌なんでしょうね」
噂に聞いた京都で使われた超能力たち。年端もいかない哀れな少女たちだ。
なぜ少女を戦場に送り込む技術を作ったのに、あれだけ満面の笑顔になれるのだろうか。どうして少女たちが戦死しているのに笑顔で葬式に出れるのか、その神経がわからない。
「とりあえずはおとなしくしているしかないが、まったくしぶとい爺さんだな」
仙崎さんもクーヤ博士をちらりと見るが、手を出せる状況ではないとよくわかっているので、皮肉を言うのみであった。
「これより先日戦死した勇敢なる少女たちへと追悼をしたい」
昨日と同じく那由多代表が壇上に立って話し始める。周りには戦死した少女たちの写真が置かれており、うぅ、と涙ぐむ人もいる。どうやら少女たちの親族らしい。でもどうして超能力者へとこども達を勧めたのだろうか。悲しむぐらいなら止めればよかったのに。
「諸君、少女たちは勇敢にも戦い、そして若い身空を天へと捧げた。大軍を前にして一歩も退く事無く!」
那由多代表は周りを一度見渡すと再度言葉を紡ぐ。
「今回は極めて厳しい状況であり、侵入するにあたり精鋭部隊として送り込むしかなかったが、人々を救う為に戦った彼女たちに対して黙祷を」
その言葉に人々は目を瞑り黙祷をする。静まり返り、ピピピと小鳥が鳴く声だけが耳に入ってくる。
少しの時間が経過して、再び目を開くと那由多代表はさらに話を続けてきた。周りを見渡して厳しい目つきで。
「今回の出来事は遺憾ではあるが、ミュータントとの続く戦争においてはありきたりの出来事であったかもしれない」
さらに厳しい目つきとなり、意外なことを口にした。
「しかし、少女たちの力を考えて、これからは一般の軍人に訓練を行い、少女たちは強力な武装、その他の生産を行うことにしようと思う。これは前回決めたことでもある」
おぉ、とそれを聞いて驚いてしまう。まさか那由多代表が少女たちを戦場に立たせないようにするとは思わなかったのだ。
たしかに前回の会議でそう決まっていたけれども、それならどうして少女たちを連れ出したんだろう?
そう考えていたら、那由多代表へとクーヤ博士が口元に薄く笑いを浮かべて近づいて話しかける。
「那由多代表、それは私の部門が秘匿していた量産型も生産部門にまわすことにする、ということですかな? 最高の戦果をあげた最高傑作たちを?」
目を細めて、鋭い眼光で那由多代表は相手へと言う。
「そのとおりだ。戦果は関係ない、前回決めたことでもある、予定よりも遥かに多い人数を被験体としていたな、クーヤ博士。秘匿していた君たちの処遇は京都での戦果にて相殺することも決定している」
「そうですか……ならば仕方ありませんな」
クーヤ博士は苦々しい表情になり、スッと目を細めると、つけている腕輪へと手をそえる。
「貴方は甘すぎる。世界の化物を相手にするには!」
腕輪から銃が現れて、クーヤ博士は那由多代表へとその銃口を向けると叫ぶ。
「儂の最高傑作を生産部門に送るじゃと! 馬鹿馬鹿しい、儂の部隊があればあっという間に世界は救えるというのに! 世界は儂らの物となる!」
顔を真っ赤にしてツバを飛ばしながら激昂するクーヤ博士に、那由多代表は銃口を向けられているにもかかわらず、怯えも見せずに冷ややかな視線で返していた。
「それで? 世界を少数の超能力者たちで救うなどと妄想を持って、こんなことをしたのか、クーヤ博士」
「そのとおりだ。儂の思想に同意してくれる者たちもいるのじゃよ」
その言葉を合図としたのか、周りの軍人の何人かが銃を取り出してこちらへと向けてきた。どよめきながら動揺を見せる人々。私たちにもその銃口は向けられてきた。
「なんだなんだ、クーデターってやつか?」
「そうみたいですね……。まさか、本部でこのようなことが起きるとは……」
百地隊長も蝶野さんも銃口を向けられており、動きを止められていた。戸惑いながらも、銃を持つ人間を睨んでいる。
周りを見ると、二割程の軍人が銃を持って身構えており、銀の少女たちはパワーアーマーをいつの間にか装備しており、銃身が長大なロングライフルを構えている。たぶんアイテムを仕舞える装備に隠していたんだ!
精鋭部隊ならば標準で装備されていたのだろう。私たちは持っていない。まさかこんな裏切りがあるとも考えていなかったから、無防備だった。
那由多代表とクーヤ博士は話を続けている。冷静沈着な那由多代表と、怒鳴り散らすクーヤ博士ではどちらが優位になっているかわからない状況であったが。
那由多代表とクーヤ博士は睨み合いながら、自分の考えを口にする。
「世界を救い儂らは救世主として、君臨するだろう。貴族主義を作っても良いと考えている同志もいる。これまでの大樹のやり方は甘すぎるのじゃよ」
「甘くはないと考えているし、超能力者の量産をして世界が救えるとは思えんな。化物たちを退治して終りと言うわけではないのだ。その後に続く秩序と安寧を持ってして復興はなされるのだ。人々の支えなくして、決して復興はなされん!」
「支えなど必要ない! 特権階級を作り、その者たちで支配をしていけば簡単な話じゃ、復興は今までとは比べ物にならない早さで進む!」
那由多代表はクーヤ博士の視線を受けて嘆息して、小さな誰にも聞こえないような呟きをした。
「ごめんなしゃいサクヤたん、次のセリフ忘れまちた……」
クーヤ博士は、さすがに幼女が覚えるにしては、セリフが長すぎましたかと、周りに気づかないように口パクする。
おぉ、と那由多代表はその言葉に小さく頷く。
「その方法で化物たちを倒したあとは、必ず混沌とした世界となる。我々のできる範囲で人々を救うしかないのだ、それは少数の超能力者ではなく、多くの人間たちでようやく達成できるものなのだ!」
「黙れ! 統合本部にも既に同志たちが制圧に向かっている。この本部は儂らの物じゃ! 那由多にはこれからの本部の権限が移譲されたことを放送して貰う」
「いつの世でもテロは成功しないのだよ。私は移譲する気はない」
「ならば周りの者たちが先に死んでいくのみじゃぞ?」
決然とした表情で那由多代表が言うと、醜悪な笑顔でクーヤ博士が卑怯なことを告げる。片手を掲げると銀の少女たちが空へと飛翔してライフルを構える。
誰もがその様子を見て、緊張と恐怖からゴクリと息を飲み込む中で那由多代表だけは哀れみの視線をクーヤ博士に向けた。
「…………」
「…………」
二人は睨み合い、先に目を逸らしたのはクーヤ博士であった。手のひらを那由多代表に向けて唸るように言う。
「そんな目で天才の儂を見るな! 歴史に残るであろう儂へと!」
那由多代表にしか見えない角度で、クーヤ博士の手にはアンチョコが入っていた。またもやセリフを忘れた那由多代表の中の幼女は安心したりするが秘密である。
「残念ながら君の切り札では、私の兵には敵わんよ。レキ!」
その獅子のような轟くような声に、空から誰かが勢いよく降りてきた。ストンと軽やかに大地に降り立った少女は人々が見慣れた少女であった。
いつもと違い、その目は深い光を見せており、無邪気に笑うその顔は能面のように無表情であったが。
「なに、レキじゃと! な、なぜ、ここにレキがいる?」
レキを見て、驚き一歩後ろに後退るクーヤ博士。それを冷笑で那由多代表は眺める。
「私の危機には駆けつけてくれるように、レキ君にはお願いをしていたのだよ。終わりだな、クーヤ博士」
「……馬鹿を言うなっ! これは良い機会じゃ。儂のエインヘリアルたちよ! その小娘を殺せっ!」
クーヤ博士が命じると、エインヘリアルと呼ばれた少女たちはレキへとその銃口を向けて身構え始めた。
「レキ君、残念ながら彼女たちは敵となった。倒したまえ」
無表情でレキはその指示を聞いて頷く。まるで機械のように動揺もなくその命令に従い、身構えて銀の少女たちへと向き直る。
「了解しました。コントローラーを使っていても、私は強いことを教えましょう。適当に作られた物では私には決して勝てないことを教えましょう」
銀の少女たちが、一斉にライフルの引き金を弾く。銀の光が周囲を照らし、レキへと集光され束ねられた銀色のビームが飛んでいく。
だが、レキは片手をツイッとそのビームへと向けるのみであった。そのちっこいおててに小柄な体躯を覆うほどの巨大なビームはぶつかるが貫通することはなく、目に見えない障壁でもあるようにあっさりと防がれて弾かれるのであった。
次の瞬間には、僅かに足を踏み込むとレキの姿がかき消えて、一人の銀の少女の前へと現れる。
レキの振りかぶられた腕を見て、素早く盾を掲げてビームシールドを展開させる少女であったが
「シッ」
呼気と共に繰り出されて拳が当たると、ビームはなんの障害にもならず、盾は紙切れのように砕かれてしまう。
慌てて、スラスターを噴かせて後ろに下がろうとする銀の少女へと追撃をしようと、必殺の蹴りを繰り出そうとするレキだったが
「レキちゃん、だめー!」
ナナの叫び声が響き、その声にレキは繰り出す蹴りを止める。そして勢いを和らげて、蹴りを側頭に叩き込む。
一定のダメージを負ったので、意識をなくしてたことにして、墜ちる銀の少女。トスンと地面へと墜ちるがパワーアーマーの効果なのか落下ダメージはない様子であった。
「なんですか、ナナさん? 私はこれからこの人たちを倒さないといけないんですが」
いつもとは違う冷徹な視線を哀しく思いながらナナは説得するべく口を開く。この少女たちもレキちゃんも同じだ、命令に従うことに疑問をもっていない。そんな少女たちをレキちゃんに殺させては絶対に駄目なのだと感じたのだ。
「あの少女たちはレキちゃんと同じなんだよ。殺しちゃ駄目だよ。レキちゃんならできるよね?」
周りを飛び交う銀の少女たちを見ながら、レキは迷うが仕方ないと嘆息をした。
「仕方ないですね……。那由多代表の命令は倒せですし、別に良いですか」
ビームランスへとライフルを変形させて突撃してきた銀の少女。この間の戦闘で反省したのか接近戦も可能にしたらしい。
レキはビームランスを手で掴み取る。ビームの高熱はしかしてレキのぷにぷにな柔肌を焼くこともできずにいた。
掴む手を引いてつんのめる銀の少女へと、てい、と頭に鋭いチョップを入れる。その攻撃で倒れる少女。
「馬鹿な、ここまで差があるというのか?」
その残酷な程の力の差を目の当たりにして、恐怖を覚えたクーヤ博士が叫び
「聞け、クーデターに加担した者よ!」
那由多代表がその様子を見たあとに、咆哮するように言葉を口にするのであった。




