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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
27章 国と対決しよう

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442話 修験者ばーさす天使なおっさん少女

 だんだんと緊迫した空気が京都市内には広がっていた。自衛隊員や修験者は厳しい目つきで市内を巡回して、食料配布時には今までおとなしく配給を受けていた市民が文句を言うようになった。


「また粟や稗かよ! 米なんかほんの少しじゃないか。野菜と合わせても全然足りないよ」

「そうだ、お前たちは良い物を食べているんじゃないか?」

「俺は聞いたぞ! 狂人として指名手配されている男は本当は壁の向こうから来た救援隊だって!」

「自分たちの権力を奪われないように、誤魔化しているんだろ!」


 暴徒と化してもおかしくない市民たちを、声を張り上げながら自衛隊員や修験者は困った表情で否定する。


「相手は少女を囲って国を作ったと言っている狂人だ。救援隊なんか来ていない!」


「すぐに化けの皮が剥がれる。皆、騙されるな!」


 そう口にしながらも、自衛隊員たちも自身の放つその言葉を疑っていた。本当は外から来た救援隊なのでは? 大樹国というのが建国されて、もう日本は滅んでいるのではと。


 なぜならば話に聞く限り、相手は配る食料が尽きる気配を見せないからだ。個人が持つ程度の食料ならば、すでに尽きていておかしくないのに。


 未だに遥は僅か数百人を助けたのみであるが、その噂はダムに小さな穴が開き、だんだんと大きくなって崩壊の兆候を見せるが如く人々の間に広がっていた。


 誰も彼も限界なのだ。その限界を試すように、大樹国の勧誘はされている。今や、大樹の勧誘を待つどころか、少女たちを探して国民にしてくれと考えている人たちも無数にいる。


 そんな緊迫した空気を無くすような、鈴を鳴らすような愛らしい声音の少女の声が聞こえてきた。


「大樹国民のアンケート調査隊、エンジェルガールです。アンケートに答えて頂けたら、おにぎりを一つプレゼントしま〜す」


 その言葉に自衛隊員たちは、ギョッと驚く。声のする方に顔を向けると、ビルの陰から噂の少女たちが現れた。その平然とした様子に驚きを隠せない自衛隊員たち。今まではこちらから隠れるように勧誘を続けてきたのに、遂に堂々と勧誘をしてくるようになったのだから無理もない。


 顔を見合わせて、どうしようかと戸惑う自衛隊員を尻目に、人々は箱におにぎりをたくさん入れて、てくてくと歩いてくる玩具の天使の羽をつけているエンジェルガールたちへと殺到した。


「私も大樹に行くわ!」

「俺もだ、早く連れて行ってくれ!」

「子供たちだけでも助けてください。お願いします!」


 詰めかける人々を優しい微笑みで迎え入れる遥。両手におにぎりを持って


「おにぎりが世界を救うのです。さぁ、皆さん祈りを捧げなさい。おにーぎり」


 調子に乗ると、碌なことを言わないおっさん少女であった。


 だが、目の前のおにぎりは本物である。皆は競っておにぎりを無くなる前に貰おうと手を伸ばす。初たちは忙しくおにぎりを次々と手渡していき、こちらへとチラリと視線を向ける。今までは数十人の集団であったのに、今日は千人近くはいるのだ。この人数を拠点へ連れて行くのかと確認してきていた。


「もちろん、連れていきます。隣のビルも修繕すれば良いですよ、ね?」


 遥は当然ですよと、にこやかな笑みを浮かべてコクリと頷くが、周りの自衛隊員も修験者たちも見逃すわけはない。


 こちらを囲んできて、厳しい表情で告げてくる。


「君たちを逮捕する! 罪状は国家騒乱罪……で、いいんだよな?」


 告げてくるが、語尾が周りの同僚へと確認するように尻つぼみに小さくなってしまう。少女たちはおにぎりを配っているだけなのに、国家騒乱罪? と捕まえるのを躊躇ってしまう様子を見せる。


 銃も構えないで、少女たちを捕まえようとするが、おにぎりを貰おうと群がっている人々はその態度に激昂してしまう。


「ふざけるな、アンケート調査だろう、しかもおにぎりをくれるんだぞ!」

「そうよ、うちの娘は体調が悪いの。お嬢ちゃん、薬は貰えるのかしら?」

「なにが国家騒乱罪よ! もう平和な日本なんてどこにもないわ!」


 その喧騒にタジタジとなってしまう自衛隊員。それでも銃を向けないのはさすが自衛隊だとも遥は思ってしまう。この間のおっさんの拠点に攻めてきたときも銃は持っていても使うことはしなかったしね。約一名以外は。


 人々がエンジェルガールたちを囲んでいるので、こちらまで手を伸ばすことができない自衛隊員、外国の軍隊なら即座に銃を撃ったかもだが、撃たない彼らは戸惑うばかりで何もできない。


 しかし、もう一グループは違った。修験者たちは、印を組み超常の力を発動させようとしていた。


「かぁぁぁっ! 法力不動縄!」


 強烈な叫び声がして、エンジェルガールたちを捕縛するように、金色の荒縄が空中から現れる。スルスルと蛇のようにくねりながら、体に纏わりつき縛りあげようとして


 ぽてんと力を失い、地面に落ちて粒子となり拡散して消えてしまうのだった。


「ぬぅっ? いったいなにが?」


 修験者たちはその様子を見て、戸惑い混乱してしまう。ゾンビたちを縛り上げ、グールを封じてきた自信のある拘束術が消えるなど見たこともないからだ。


 いや、見たことは一度ある。本殿に侵入してきた人間たちも同じように打ち破っていたが、それは斬るという単純明快な攻撃により、打ち破られたのだ。まるで命を失うように力無く消えていく様など見たことが無い。


「空間動術レベル6術破壊。エリアに存在する弱い術を破壊する超能力です。ただ、本当に弱い術しか破壊できないので、今までいらない子扱いだったのですが、使う日が来るなんて思いませんでした」


 歌うように鈴の鳴るような可愛らしい少女の声が修験者たちへと向けられる。おにぎりの入った箱を傍の少女へと渡して、誰もがその姿を見たら、振り向いて見てしまうだろう幼気な愛らしい少女が囲んでいる人々をそっと押しのけて前へ出てくる。

 

 ムフフと子供が悪戯するようなお茶目な微笑みを口元に浮かべて、腕につけておいた勾玉をじゃらっと見せる。勾玉は一つしかもっていない修験者と違い、数珠のように連なっており淡く輝いていた。


 修験者たちは勾玉を見て、表情を険しくする。持っている勾玉が修験者たちと同様であり、市民が持つ弱い劣化品とは違うと理解したからだ。


 即ち、目の前の少女も神通力が使えることになる。


「まさか、勾玉を使いこなす少女がいるとは………。それはそなたが持っていて良い物ではない! すぐに返すのだ!」


「ふふっ、私の勾玉はこんなにたくさんあります。貴方たちでは敵わないと思うので降参してください」


 ジャラジャラと数珠を見せつけながら、ニコリと微笑みを浮かべる遥。


 その言葉に修験者たちは警戒をして、さらなる超常の力を使おうと印を組み始める。まぁ、もちろん嘘なんだけどね。勾玉は杖のような物。1個でも100個でも増幅される力は変わらない、でも勘違いをするだろうと遥は予測していた。予測通り、修験者たちは気合を入れて身構えて、こちらを睨んでいる。


 そもそも、勾玉の力なんか使っていない遥。ハッタリとして作っておいたのだ。この増幅装置はレベル1以下の超能力に限っていた。しかも威力も上限があり遥が使ったらパリンと割れて砕けるのは確実な使えないアイテムだ。


 無論、そんなことを知らない修験者たちはさらなる術を発動させて、遥へと撃ちだす。


「けぇぇぇぇ、法力不動明王封縛縄!」


 先程の縄よりも輝きを強くして、注連縄みたいな太い荒縄が修験者の組んだ印が生み出されて、矢のような速さで飛んでくる。周りの修験者たちも同じ術を使い、遥をぐるぐる巻きにしようとしていた。


「殺そうとしないのはさすがは聖職者ということですね」


 黄金の荒縄はおっさん少女を緊縛しようと絡みつくが、その小柄なか弱い体躯に触れた途端に泡が弾けるように消えていってしまう。いくつもの縄が同じように組み付いてくるが、同じように消えていった。


「なっ! 高位の術がっ!」


 その様子を見て、驚愕の表情になる修験者たち。先程の低位法術よりも強力な高位の術を使ったにもかかわらず、その力は打ち消された。しかも、少女はなにかをしたような様子もない。あぁっ、ご主人様の緊縛シーンがっ、とか叫び声がどこかで聞こえたので、あとでお仕置き決定。


 遥は消えた縄の群れを見て、口に手をつけて無邪気そうにクスリと笑う。


「高位………。0.2レベルの拘束術よりはたしかに高位ですね。たとえレベル0.5でも」


 所詮は人間が勾玉の力を使い発動させる超能力である。レジストには簡単に成功をするのだ。おっさん少女にその程度の術は効かないのである。


 だが、気になることがあるので、きりっと真剣な表情で修験者たちを見つめる。その表情の変化に気づき、修験者たちはなにをされるのか、思わず後退り


「貴方たちは修験者ではないですね? お坊さんでしょう? ふふふ、私は騙せませんよ、法力って口にしていましたもんね。インドラの蕎麦屋とか雷の術とか使うんでしょう?」


 ムフフと、平坦な胸を張りながら得意満面に修験者たちへと告げるおっさん少女。


 実にどうでも良いことの時に真剣な表情になるどうしようもないあほの娘であった。


 肩透かしを受けて、緊張が薄れて修験者の一人が軽く頷く。


「あぁ、勾玉教とか作ったのでな、とりあえずは修験者の格好をしておこうという話になったのだ。袈裟だと汚れるという理由が一番なんだがな」


「あ、そうなんですか。それだけの理由なんですか?」


「うむ、他に理由はないな」


「………………」


 気まずい空気が周囲に流れる。なにか凄い秘密があったんでしょう。私には丸わかりですよ。名探偵レキと呼んでくださいと内心で思っていたおっさん少女である。


 ぷにぷにほっぺを赤くして羞恥に照れる美少女がそこにいた。


「何をしている! 勾玉を持っているこの少女は危険だ。捕まえるぞ!」


 自衛隊員が遥を見て危機感の籠った叫びをあげる。気まずい空気を消すという素晴らしい仕事をして、自衛隊員たちは捕まえようと近づいてこようとするが。


「まぁまぁ、そんなに急がなくてもよろしいのでは?」


 後ろから女性の声が聞こえて、飛び出そうとした自衛隊員の一人がぐらりと体を傾かせて倒れる。その様子を見て、慌てて振り向く先には銀髪の美しい女性が薄く笑っていつの間にか立っていた。


「め、メイド? なぜ、こんなところに」


 戸惑い尋ねる自衛隊員へと、口にちょこんとその白魚のような指をつけて、サクヤはフフッと笑いながら告げる。


「そろそろ真面目にしないと、お仕置きされそうなので、貴方たちの相手は私ときゅーこがしてあげます」


 スッと片手をあげて、自衛隊員へと手のひらを見せるようにして宣言をする。その目に見られた自衛隊員はゾクリと背筋を震わせてしまう。恐怖を感じてしまったのだ。だが、恐怖ごときにで動きが止まる程、崩壊した世界で生き残ってきた自衛隊員は柔ではない。


「かかれっ! 修験者たちはその少女を確保しろっ!」


 危険な相手だと本能で理解した自衛隊員たちはサクヤへと駆け寄ろうとする。それを見て、サクヤが肩を竦めて、困ったような表情で呟く。


「やれやれです。私は体術は苦手なんですが、まぁ仕方ないですね」


 やれやれですと呟いた声に、美少女イヤーで聞こえたどこかの美少女が私も言いたかったよと悔しそうな表情になるが、それは放置しておいて、向かい来る相手をする。


「ふんっ」


 自衛隊員が掛け声とともに、身体を捻り掌底を繰り出そうと力強く踏み込み右手を突き出してくるので、サクヤはその掌底に軽く踏み出しながら自身の右手を突き出して、握手をするように手のひら同士を合わせる。そうして、お互いの手を合わせると、クイッと手のひらを回転させるように捻った。まったく力の籠っていなさそうな感じをみせたサクヤの受けであったが


「ぐはっ!」


 相手は身体がふわりと浮いて、捩じられるように地面へと叩きつけられる。ドンッと痛そうな音がして、背中から落ちて息ができずに呻き声をあげる自衛隊員。


「はっ!」


 その姿を見て、次の自衛隊員が油断せずにサクヤの肩を掴もうとして


「申し訳ございません。服が汚れるので、お触りは禁止ですよ」


 冷たい声と共に、掴もうとしていた肩はサクヤが一歩後ろに下がり、身体を傾ける事により躱されてしまう。そのまますかされた右腕にそっとサクヤが手をそえると、凄い力で引っ張られたように前方へと回転してゴロゴロと勢いよく転がっていく。


 二人があっさりとやられたのをみて、自衛隊員は近づくのを止めて警戒をして、厳しい目つきとなる。


「この女、尋常じゃないぞ。合気道かなにかの達人だっ!」


「一斉にかかるぞって、あれ? 他の奴らは?」


 7人程いたはずの自衛隊員。そのうち2人やられてしまったので、残りは5人のはずなのに2人しか謎のメイドを前に身構えていないので、戸惑って周りを見ると


「もふもふ~」

「まってくれ~。なでなでさせてくれ~」

「抱っこさせてくれ~」


 どことなく力無い声音で叫びながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねて走っていく子狐を3人の自衛隊員はにやけた顔で追いかけていた。まるで酒を飲んで酔っているような千鳥足でフラフラと。


 子狐は楽しそうにケンケンと鳴いて、決して捕まることはなく、軽やかな足取りで走っていく。


「あいつら、こんな時になにを」


 二人の自衛隊員が憤りを見せるが


「仕方ないのですよ。いわゆる化かされたという状態ですね」


 フラフラと子狐を追いかける自衛隊員を見ている間に、後ろに迫ったサクヤは手刀へと手をそろえる。


「ていっ、ていっ」


 ぴしぴしと軽い音と共に二人の首元へとチョップを入れると、あっさりと自衛隊員たちは意識を失い気絶をするのであった。本来は首元へのチョップぐらいでは漫画と違い気絶はしないが、それはサクヤの人外体術パワーである。


 あっという間に自衛隊員は倒されてしまい、もう片方の修験者たちはどうなったかというと………。


「法力孔雀王麻痺縛り」

「法力金剛金縛り」

「バインド」


 それぞれが、超常の力を使いおっさん少女を捕まようとしていた。


「ていていっ、奥義チョッキンチョップ」


 とうとうっ、と紅葉のようなちっこいおててをピシリと手刀の形に揃えて、飛んでくる毒や縄。動きを止める超能力を可愛らしい掛け声とともに、チョップであっさりと打ち破っていた。


 毒は弾かれて、縄は斬られてしまい、身体を拘束する光はなにもせずとも消えていく。


「今、なにか法力と違う術を使いませんでした? まぁ、法力じゃなくても良いんですけど」


 ぎくりと修験者たちの一人が身体を震わす。厨二病がばれちゃったという表情になっているので、少し呆れるが、修験者たちへとふわりと羽が空を舞うようにその小柄な体躯を飛翔させて近づく。


「美少女パンチ、美少女キック」


 掛け声はあほっぽいが、その身体は軽やかにダンスをするように舞いながら、身構える修験者たちへと攻撃を繰り出していく。パンチもキックも速度はなく防げるような感じがするのに、不思議とガードもできずに喰らって、しかも脆弱そうなその攻撃は、体内をバラバラにするような強い衝撃が流れていき、その威力にて意識を刈られとられて倒れ伏す修験者たち。


 子狐を追いかけていた自衛隊員は寝てしまったので、全滅完了であった。あっという間に自衛隊員も修験者たちも倒し終えた美少女とメイドたちを見て、ぽかんと周囲の人間は口を開けて呆然としてしまう。


 そうだろうなぁ、びっくりするよねと得意げに思いながら遥とサクヤは決めのポーズでも取ろうかとアイコンタクトをして、アホなことを考えていたら


「なるほど………。ちと、強すぎるな、汝たちは」


 嗄れた声音の老人の声が空から聞こえてきた。その声の方向を見ると5メートルはある現実世界ではありえない大きさのカラスが飛んでおり、その上に大柄な体躯の老人が乗っているのが見えた。


「儂は勾玉教教祖戸隠。嬢ちゃんたちが何者か聞かせてもらおうか」


 威圧感溢れる姿を見せながら、鋭い眼光で尋ねてくる老人を見て、おっさん少女はラスボスのお出ましかなと口元を僅かに笑みへと変えるのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 実は教祖様は話が通じる人だったりして。そしてそろそろシリアスな展開に入るのでしょうか。 おっさんがいる限りシリアスとは無縁な気もしますが。さすおさ。
[良い点] 同じ神通力を使える事をあえて見せて敵であるはずなのになぜか会話を行えるように、共感を利用する。 本当に中身はおっさんなのか!! 心の棚に置きすぎた、なにがしかが崩れて埋まってしまってるので…
[気になる点] 残念、決めポーズした後に出てきてほしかったw [一言] ちっとどころか人間じゃない強さなんだよな。
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