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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
24章 妨害を取り除こう

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386話 眠りの神と戦うおっさん少女

 ヒュプノスが自信満々にレイピアを構えている。花畑の中での決闘であるが、その美しい光景にレキは騙されない。


「まずは貴方の好きな本当の風景を見せてください」


 眠そうな目でヒュプノスを見ながら、右足を軽く上げてそのまま力を込めて勢い良く振り下ろす。


 ドスンと地面がめり込み、その威力は振動波となって周囲へと伝播していく。


 咲き乱れている花は全てその衝撃に散っていくかと思われたが、花びら舞い散る光景は見られなかった。


 なぜならばみるみるうちに振動波が伝播していく箇所から赤い肉塊へと早変わりしていったのだ。


 遥が嫌いな裏世界と呼ばれる光景が目の前に現れるのであった。壁も天井も肉塊が覆っており、びっしりと張り付いている血管がドクンドクンと脈打つ。


「眠りの神と呼ぶには悪趣味な世界ですね。なかなかのセンスですので、ついつい神なのかと悪魔ではないかと考えてしまいます」


 皮肉めいた口調で淡々と眼前の光景への感想を述べるレキ。


 ヒュプノスは美しい花畑が消えても、とくに狼狽えるようなことは見せずに、口を大きく歪ませて笑う。


「眠りとは死と同義。僕の胎内にて眠るように死んでいけば良いものをわざわざ正体を看破するとは、やはり人間とは愚かなものよ」


「ここが貴方の胎内? それならばさっさと掃除をして綺麗にしないといけませんね。あなたの醜さの象徴みたいですので」


「いつまでその減らず口が続くかな? さぁ、悪夢の中で死んでいけ!」


 レイピアを振りかざして叫ぶヒュプノスと同時に床から肉塊が盛り上がり人型へとその姿を変えていく。


「さぁ、君の大切な人たちが待っているぞ! その手を振り払うのかい?」


 肉塊は筋肉がはち切れんばかりの、ハダッカーを二回りほど大きくした異形へとなり、ドンと床を蹴ると身体がブレるような速さで間合いを詰めてくる。


「ご主人様! あのでかいのはホブハダッカーと名付けました! ハダッカーよりも強力なミュータントですので気をつけてください」

  

 巨体になったから、ホブをつけておけば良いやという適当なネーミングをする銀髪メイド。そろそろネーミングセンスのサボるときの酷さを矯正しないといけないかもしれない。


 使えないサポートキャラの叫びはスルーして、八双の構えのレキは敵との戦いが始まったと、微かに口元を笑みに変えるのであった。




 ホブハダッカーが襲いかかってくるのを、レキは高速思考にて迎え撃つ。知覚が高速となり敵の動きも周りの時間の流れも止まったように遅く見える。この知覚内でも高速で動いているように見えるのならば、音速に入りこんでいるレベルにありその敵は強敵だ。


 ホブハダッカーはかなりの速さを誇っていたが、それでも動きはてこてこと歩くレベルへと落ちていた。それ即ちレキの相手ではないということだ。


 高速思考の中でも、自身の動きに阻害は見られず相手にとっては消えて見えるほどの速度でレキはホブハダッカーの丸太のように太い筋肉の塊のような豪腕の振り下ろしを僅かに横に半歩ずれて躱す。


 巨大な豪腕の一撃は脆弱そうな少女をかすることも許さずに、ただ地面を穿つのみであった。


 レキは躱すと同時に胴抜きにて刀を振り抜いており、ホブハダッカーは胴体を綺麗に上下半身が分かたれて宙に浮く。


 そのまま次のホブハダッカーへと一歩踏み出して袈裟斬りを振るうと、斬られたことも気づかずに斜めに剣閃が走り、最初の一体と同様になる。


「くらえっ!」


 死角にも入らずにヒュプノスが正面から歪んだ笑みを浮かべて刺突を繰り出す。その刺突の速さは高速思考の知覚の中でも速くさすがはボスと言える速さであった。


 だがその刺突は速くはあれど、レキにとっては鋭くはなく技もそこまでのレベルを感じさせなかった。


「シッ!」

  

 微かに息を吐きながら、レキは刺突へと自身の刀を合わせるように斜めに受け流すように斬り払う。チィンと金属音が響きレイピアを弾き、すぐさま切り返しでヒュプノスの腕を狙う。


 ヒュプノスは体勢を崩したものの、腕を僅かに斬られただけで後ろに下がる。


「身体能力だけは高いようですね。見かけと違い脳筋なのですね」


 レキは腕を抑えて慌ててさがるヒュプノスへと冷たい声音で評価すると、屈辱的な表情になり怒りの形相となる。


「舐めないでもらおうか。僕の力はこんなものではない。少し手加減をしてしまったが、次は本気でいこう」


「そうですか、では次は本気ということでお願いします」


「ちっ! ムカつく小娘だ!」


 再生が終わったのか、斬られた手の傷は癒えておりヒュプノスはレイピアを横薙ぎに振るう。


 それが合図であったのか、再び肉塊の地面からホブハダッカーが生み出されてくるが、今度は10体はいると思われた。


「さぁ、僕のために踊ってくれたまえ」


 余裕を取り戻したヒュプノスが再びレイピアを手に持ちカニ歩きで横へとカサカサと移動をし始めるので、レキはそのアホな行動に目を丸くしちゃう。なぜカニ歩きで移動するのかわからないので気でも狂ったのかと疑問に思う。


「さぁ、残酷な歌を悲鳴として聞かせてくれたまえ!」


 同じようなことを叫びながらホブハダッカーの後ろへと隠れることもせずに、カサカサとカニ歩きでこちらの様子を見ているヒュプノスを見て、今までで一番困惑しちゃうレキ。蟹の真似をしてどうしたのだろう?


 ホブハダッカーが襲いかかってくるが、雑魚である。10体程度では準備運動にもならない。


 凶悪な鋭さを見せる爪を翻して襲いかかりはするが、その速度はレキとの戦いの場に立てはせずに、次々と蝶のように舞いながら、レキが刀を何回か振り抜くだけで斬り裂いて倒していく。


 ヒュプノスはその様子を見ながらも余裕を崩さずにレキを観察しながらカサカサと動き、なぜかレキの正面へと位置取りレイピアの刺突を繰り返す。


「はぁっ!」


 残像を残しながら、複数の刺突をするヒュプノス。だがやはり先程と同様で技の閃きはなく、たんなる身体能力を使った脳筋攻撃であった。


「てい」


 ゆらりと刀を刺突へと変えて、ヒュプノスの全ての刺突へ合わせる。レイピアの先端へと合わせた刺突は難なくキンキンと金属音をたてて弾き返し、レイピアを弾かれて隙ができたヒュプノスへと軽く刺突を入れる。


 スイッと風のように刺突はヒュプノスの肩へと入り込み、肉を貫く。


「ぐうっ!」


 蹌踉めきながら肩を抑えるヒュプノスを見て、ますます意味不明な表情になってしまう。なぜあれだけの大言壮語を叫びながら策なく攻撃をしてくるかが意味がわからない。


 しかし遥はその光景を見てピンと来た。ヒュプノスの動きが妙な理由。蟹の真似をしている理由。


「レキ……。たぶんヒュプノスはこちらが幻惑されていると思っているんだ」


「幻惑? どういうことですか、旦那様?」


 コテンと可愛らしく首を傾げて困惑しながら尋ねるレキ。私たちには幻惑は効きませんよねと。


「ヒュプノスはナイトメアの鏡を利用しているつもりなんだ。あれは精神攻撃とは無関係みたいだから、たぶん本来は大事な人が視界に映り込み、その光景にホブハダッカーの姿を合わせる。そうして相手が動揺する中で、幻惑の影に隠れながら攻撃をしているつもりなんだよ」


「私たちが幻惑を見ているかはわからないと言うことですね。経験則か能力かはわかりませんが見ていると想定してどこに映り込むかを予知しているというわけですか」


「そうだ。だからこそあんな間抜けな結果になっているんだよ。本人は隠れて攻撃しているつもりなんだろうね」


 哀れな敵だねと、ヒュプノスが可哀想になる遥。レキはさすがは旦那様。旦那様の知恵の前にはどんな敵も簡単に倒せますねと頰を紅膨させて次の攻撃で決めるべく刀を持つ手の力を僅かに強くする。


 隙だらけならば、ヒュプノスに幻惑見えていないんですと教える必要もない。これは正々堂々の戦いではないのであるのだから。


 恐らくはヒュプノスは私以外では強かったと予想する。もしも静香や他のメンツなら幻惑されて倒されていたかもしれない。見える幻惑の中にいくつかホブハダッカーを混ぜて、自身もその影に隠れながら高い身体能力から繰り出される攻撃をするのだから、かなり強力であったろう。


 スティーブンの部下でも足止めに適した敵であったのだ。遥が大事な人、その中でも死んだ人たちを思い出した場合は。


「トドメだっ!」


 肩を再生させて、勢い良く三度刺突を繰り出すヒュプノス。


 トドメどころかかすり傷さえ負っていないんですがと呆れながらレキは無防備に突撃してくるヒュプノスへと刀を振り下ろす。


「とあ」


 自身でも緊張感が無いかなと思うぐらいに気合いを入れずに、さっくりとヒュプノスを唐竹割りで頭から真っ二つにする。


 二つに分かれて床へと落ちるヒュプノス。極めて雑魚だったですと頰を膨らませて不満顔になるレキ。状態異常メインの敵はその攻撃が封じられると雑魚になるのはゲームの掟だよねとヒュプノスを哀れむ遥であったりした。


「こんなに手応えの無い高レベルの敵は初めてです。旦那様」


「私との相性が悪すぎた敵だったんだよ。まぁ、仕方ないよね」


 たまにあるんだよ、こういうのとレキを慰めながら考える。

  

 なぜ崩壊後に死んだ両親や、友人、会社の同僚でも良いだろう、それらの人々を思い出さないのかと。


 静香は崩壊後に会えなかった両親たちは死んでいると意識していた。たぶん死んでいるのは間違いない。そしてその両親たちが幻惑として見えていたのだ。


 遥も同条件であるはずなのだ。両親も友人も崩壊前に始まりとなったコンクリートジャングルオブハザードを買う契機となった大勝ちした競馬に一緒に行った会社の同僚も同じく死んでいるはずなのだ。


 だが、崩壊後に欠片も思い出さなかった。というか、その全ての関係者の名前も顔も思い出せない。性格や一緒にやったことの記憶などは覚えているにもかかわらず。


 これは意図的なものだ。ハッキリと記憶にある顔と名前は忠実かもしれないメイドたちからであるからして。


 郷愁や罪悪感を持たせないように記憶から削除されたのかと予測する。マテリアルとなってしまったおっさんであるので、サクヤやナインならば初期のくたびれたおっさんの記憶など赤子を捻るよりも楽勝で改竄できたことであったろう。


 だけれども尋ねたらたぶん教えてくれそうな感じもするのだ。隠しているわけではなく、遥が尋ねなければ語らないつもりなのだろう。


「まぁ、聞かなくても良いか。知りたくないことは聞かないのが賢いおっさんの処世術だよね」


 本当に賢いかは不明だが、くたびれたおっさん基準では賢い選択になるのであった。即ち尋ねるつもりはない。


 モニター越しにムフフと口元を悪戯そうな笑みを浮かべて、サクヤが早く尋ねてくださいよという表情になっているし。


 しゃくなので尋ねるつもりはない。むむっ、聞かないんですかと遥の意図を理解したサクヤが不満そうに表情を変えるが気にしない。というか、主人公ならば感動的な雰囲気とかで語られそうだが、遥の場合はサクヤは酒の席とかで暴露しそうな感じもする。おっさんに相応しいしょぼい雰囲気で教えられそうで怖い。


 それにそこそこの量の漫画や小説を読んできた遥はもう一つの可能性も予測していた。それは……。まぁ、それも気にすることはあるまい。私は今を生きていて楽しんでいるのだから。


「旦那様? どうかしたのですか?」


 レキが旦那様が黙ったので大丈夫かと尋ねてくるので


「いや、ヒュプノスを撃破しようと思ってさ」


 そう答えて超能力を発動させる準備をする。だってクエストクリアが出されていない。ということはヒュプノスは生きているはずだ。


「フハハハ! 僕が死んだと思ったかい? 僕の真の姿は」


「サイキック」


 ヒュプノスの言葉が部屋に響き渡るが、気にせず遥がサイキックを発動させると、波紋のように超常の力が部屋中へと広がっていく。


 部屋中から肉の触手がウニョウニョと生えてくるが気にしない。


「キャー! 触手! 触手ですよご主人様! 絡まれてください、下半身がでかい触手にのみこまれてイヤーンなことになってください」


 フンフンと鼻息荒くこんなエロチックなイベントがあったなんてとサクヤが興奮するが、いつものことなのでスルー。レキのイヤーンな姿は禁止です。


「サイキック」


 再びサイキックを使い部屋は遥の超能力に支配されていく。


「僕の真の姿は世界! この途方もない広さを持つ部屋が私の意識であり、肉体であるのだ!」


「サイキック三連、念動破壊!」


 最後にもう一回サイキックを発動させた遥は充満した自身の力を全て念動破壊へと変換する。


 冷静極まる美少女は世界自体を破壊するサイキックを発動させたのだ。個体として凝縮されていれば、この術は相手の力が強く効かないであろう。普通の念動破壊であれば威力が弱すぎて破壊はできない。


 だが、サイキック三連重ねがけの念動破壊であれば別だ。その力はいくら部屋中に肉体が広がっていようが破壊できる力を持っている。


 空間が揺らぎ、おっさん少女の周りは消えていく。醜悪な肉塊の世界は歪み、潰され、全てを消滅させていき。


 パリンとガラスが砕けた音がしたと思ったら、レキは外へと移動していた。


 最後の言葉も言えずに死んだヒュプノス。雑魚すぎる最後であった。


 周りを見渡すと霧も晴れており空からは陽射しが差し込んできていた。


 梅雨なのに晴れているのは珍しいとレキが一点へと視線を向ける。


 そこには綺麗であった装甲をボロボロにしたガンシリーズが浮いていた。ガンアベルの背中にケーブルを繋いでいるガンリリス。その二人を守るようにビットを展開させているガンカイン。


 それを見ながら遥は呟く。


「静香さん、だから妹枠は厳しいですよと以前言ったのに」


「なにか言ったかしら、お嬢様?」


 呟きを拾う地獄耳の静香がすぐに聞いてくるので、ヒューヒューと口笛を吹こうとして空気を吹いてとぼける遥。


「タフな奴でかなりの苦労をしたのよ。リリス粒子はとっておきのトリニティドライブを使用して空になっちゃうし」


「機体を紅くするやつですか、なんというか……三人の機体はそのシステムは搭載されていなかったはずですが」


「いつの世も次世代機が強いものよ、知らなかったのお嬢様?」


 飄々とした口調で答えつつ、こちらへと近づいてくる静香たち。


「ご主人様、過去の亡霊が漂う霧に沈む大地を開放せよ! をクリア、それと過去の悪夢と眠りをもたらす眠りの神を撃破せよもクリアしました。報酬は霧の宝珠に眠りの宝珠ですね」


 サクヤがクエストクリアを告げてくる。これが宣言されないからヒュプノスは生きていると判断したおっさんである。実に卑怯な悪知恵を働かせるのであった。


 ステータスボードには久しぶりのレベルアップ、64から66へと上がっている。そろそろスキルポイントも使わないといけないかもと、楽しみになる遥。


 眼前の霧が晴れた世界を見て思う。未だに化物は跳梁跋扈して、建物は朽ち果てており、生存者も少ない。


 自身の記憶も怪しいことこのうえない。


「だけれども、ここが私の生きる世界なんだよね」


 だが、私はこの世界を楽しんでいる。


 ふふっと花咲くような微笑みを浮かべて、その表情は影もなく羽を羽ばたかせて帰還するおっさん少女であった。


 ちなみに霧が晴れてしまい、すぐに軍が来たので財宝強奪作戦は中止になり、静香さんが悔しがりました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] おっさんがなぜ家族や友人を気にもしなかったのかという疑問は、割と最初からありました。しかし、まさか387話になってその疑問が解消されるとは、感慨深いものがあります
[一言] 僕の体内とか、もろに攻撃してって言ってますよね。 何から何まで片手落ちの敵でした。 ヒントを言ってはいけない(強い戒め
[一言] 幻惑したと思い込み自爆したヒュプノス。敗因はレキが天敵だったとか経験不足とかいろいろあるけど、一番の原因はヒュプノスが馬鹿だったことだと思う。
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