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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
24章 妨害を取り除こう

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384話 目覚まし時計を探すおっさん少女

 屋上はレキの巻き起こした風により霧は吹き飛ばされて消えて無くなった。周囲からジワジワと再び侵食するように漂ってくるが、対応策は既に考えていたので、再度超能力を憑依霊のようなおっさんが発動させる。


「乾いた空間では霧は存在できませんよね。クリエイトファイアウェポン、炎のピクシー」


 武器ならばなんでも作れるレベル4の炎動術のファイアウェポンを発動。人形作成スキルも合わさって、手のひらサイズの炎の妖精が無数に生み出される。攻撃力はないが、焚火程度には温かい人形だ。そして霧の侵食を防ぐには充分な熱量を持っていた。


 もちろんおっさんにはこんな量の妖精は操れない………いや、もしかしたら操れるかも? +4ならば8体まではいけるぜと思い直す。ただ、屋上を覆うファイアピクシーの数は100体以上。あまり変わらないかもしれない。


 なので、せっせとピクシーを屋上へと少しずつ配置する遥。ちまちまとそんなことをしている遥とは別にレキはゴッドライフルを取り出して、屋上の縁へと寝そべり身構える。


「目覚ましの音は反響を考慮しても、だいたい南西64キロの範囲内、その直線上の霧を全て吹き飛ばしましょう」


「あら戦闘モードに入ったのね。それならお任せするわ、お嬢様」


 静香は雰囲気の変わったレキを見て、即座に冷徹な戦士へと変わったと理解した。このモードの時は、いつも以上に頼りになるのだ。なにしろふざけたりしないので。


 神秘的な意匠が彫られている冷たい白金の銃を握りしめてレキは一言ぽそりと呟く。


「超技レインスナイプ」


 超技を発動させ引き金を弾くと、白金に輝く銃弾が発射される。その白金の銃弾は途上で溶けるようにエネルギーの塊となり飛翔していく。そうして、そのエネルギーは無数の糸へと解れるように別れ始めて広大な範囲を直線上に雨のように飛んでいき霧を引き裂くように消していくのであった。


 その威力は見えないぐらいの細さになっているはずなのに、周囲に突風を巻き起こし、南西側の視界をクリアするのであった。


「ヒュー、相変わらずクソガキの銃の威力は馬鹿げているぜ」


 口笛を吹きながら、軽口を叩くカイン。だが、その声音には畏れが紛れていた。


「南西側、遠くまで視界が良好になりましたが侵食が既に始まっています。急ぎましょう」

 

 アベルの言うとおりに、南西側の霧は全て吹き飛び消えていた。あとにはぞろぞろと歩く化物たちが目に入ってくる。いや、歩くだけではない、空を飛んでいる連中も見える。


「霧絡みでこんなに怪物も混じっていたのね」


 静香はクリアになった場所へと確認して舌打ちする。ゾンビやグールだけだと考えていたのに、他にも多くの怪物がいるからだ。


 50センチ程の大きさの蜘蛛が蚊のような羽を生やして地上を這っていて、ワームが絡み合ったボールのような5メートルぐらいの球体がゴロゴロと転がっている。


 空には薄く半透明な羽を生やしたコウモリが空を飛んでいるが、その身体はトカゲのように乾いた茶色で血管が浮いて見えて不気味だ。もちろん、ゾンビやグール、オスクネーもそこかしこを我が物顔で歩いており、化物の世界へと変わっていることを示していた。


 トドメに高さは200メートルはあるだろうか、巨大なタカアシガニのような体を持ち、黒い皮膚を持つ化物がノシノシと歩いている。霧の中だとたぶんその全容は理解できずに、たんなる柱にしか見えなかったかもしれない。


「霧の住人という訳ですね。これだけの化物が潜んでいましたか」


 淡々と言葉を紡ぐレキの表情は眠そうな目を向けているだけで、その感情は読み取れない。


「石を除けたら、その裏にはびっしりと虫がいた感じね」


 嫌そうな表情で静香が例えを口にする。言い得て妙かもしれないと、フッと微かに口元を笑みに変えるレキ。


「ご主人様! 蜘蛛に羽根が生えているのが、飛び蜘蛛、ワームが絡まったボールはワームボール。空飛ぶやつはトカゲコウモリ、巨大な蟹みたいなのは、えーっとマンモスガニと名付けました!」


 すぐに大量の敵へと名付けをするサクヤ。敵の数はかなり多く、しかも雑魚っぽいので、そのネーミングも今まで以上に適当であった。


「映画であったわね……主人公が最後に銃で自分の息子を殺してしまうのに、殺したあとにすぐに救援隊が来たという救いのない話のやつ」


 静香の声に、遥もそんな映画を見たことがあるよと同意する。気が利く奥さんなレキは話しかけられる時におっさんに主導権を渡してくれるので、相手は違和感を感じない。


「たしか霧に覆われた街に化物が出てきて、車で仲間と脱出するんですよね。その時に無理をして拾った銃で逃げ切れないと悟り仲間は自殺するというやつ。分岐点は二つあったと記憶にあります。最初に息子を助けてと見知らぬ女性に言われたときに一緒に助けていれば助かった。そして脱出する最後に、銃を拾わなければ救援隊が来るまで生き残れた」


「古い映画なのによく覚えているわね」


 静香は妖しく微笑みながら、こちらへと確かめるように言う。


「それなら私の分岐点はどこだったのかしらね?」


「もちろん、私と敵対しないと決めたときです。いつでも倒せるようにしていたのは知ってるくせに〜」


 悪戯そうに微笑むレキの発言は静香をいつでも殺すつもりであったという冷酷な内容であったが、この強烈な善意と悪魔のような冷徹な意思、両面を持つからこそ、このお嬢様を気に入っているのだと、静香は笑う。


「私は分岐点があるゲームは得意なのよ。知っているくせに」


 静香もレキと同様の答えをして、お互いに軽やかに楽しそうに笑い合う。気が合いすぎる二人であった。




 64キロ先にあるはずの建物はさすがに遠くて見えないが、霧が晴れているので普通に移動はできるはずである。ただ、うじゃうじゃといる化物をなんとかできればだが。


「アベル、カイン、元の大きさに戻って戦闘の時間よ」


 静香がパチリと指を鳴らすと、アベルとカインの体に紫電が走り、大きさが3メートル程のロボットへと戻る。それと共に空間から武装らしきものが搭載されている追加装甲がアベルとカインを覆う。


 アベルがサブアームが両肩についたバックパック。そのサブアームにはガトリング砲がつけられている。装甲も重装甲の上からさらに装甲を追加した多重装甲になっており、腰には両脇にビームカノンが装備されていた。


 カインはダガーらしき物をを収める鞘が無数についた肩当てをつけており、左腕にはアサルトライフルを装備していた。手足とバックパックにはウイングタイプの追加バーニアが取り付けられており、さらなる高機動での戦いができると思われる。


「おぉ〜! 改修したんですね。凄いです! かっこいい!」


 紅葉のようなちっこいおててで、ぱちぱちと拍手をする遥。どうやらアベルとカインに追加武装を作成した模様。私もああいうのが欲しいから、あとで作ろうと考える。まぁ、いつものおっさん少女である。


「ガンリリスも改修したのよ」


 静香が再びパチリと指を鳴らすと、紅い機体が空間から現れる。全体的なフォルムは変わっていないが、両肩にオーブみたいなのが取り付けてあるのが印象的だ。


「ガンリリス改ね。追加で粒子内蔵ツインドライブを搭載したのよ。ビームマシンガンも威力を増しているわ。凝集タイプと単発薙ぎ払い式、マシンガンと切り替え可能ね」


「むむむ、地味な改修に見えて強そうですね。なんというか通好みの改修といった感じです。ダブルドライブリリスと言うわけですか」


「フフッ。粒子が切れたらパージもできるけど、その前に敵は倒すつもりよ。それじゃあ行きましょうか」


 パイロットスーツへと服装を切り替えた静香はハッチが開いたコックピットに入る。プシューと空気が抜ける音がしてハッチが閉まると、ガンリリスのモノアイに紅い光が灯る。


 むむむ、私は相変わらずのアテネの鎧。強いけど私も機動兵器が欲しいなぁと考えていたら…。


 ガションガションとカインが戦闘機へと変形しました。


 どうりでウイングが各所に取り付けられた筈である。戦闘機へと変形するためであったのだ。


「なんと! ロボットだからこそできる小型戦闘機への変形ですね! それじゃあ私はカインの上に乗りますね。搭乗!」


 コックピットは無いので、んしょんしょとよじよじ登り、仕方なくサーフボードのように乗るおっさん少女。仕方なくと言いながらお目々をキラキラと輝かせているので説得力ゼロである。


「ガキッ! お前は自分で飛べるだろうが! 降りろや、こら!」


「大丈夫です。若木シティに戻ったら子供たちがさらに乗らして〜と集まって来るので、その練習ということで。という訳で、しゅっぱーつ!」


 えいえいおーとちっこいおててを振り上げて、カインの抗議は聞くつもりはまったくない幼気な美少女である。


「霧に覆われる前に行くわよ。カイン、敵を殲滅しなさい。アベルは大物を倒して!」


「チッ! 振り落としてやるからな」


「了解です。あの化物ガニを倒しましょう」


 静香の命令でバーニアから赤い輝く粒子を噴出しながら、加速して飛翔するアベルとカイン。


「静香さん、あの粒子は無毒ですよね? 疑似粒子で身体に悪いとかないですよね?」


 赤い粒子を見て不安がる遥。大丈夫だよね? 信用してますよ?


「大丈夫よ。あれは私が生み出した武器等に使うリリス粒子だから。パワーアーマーのエネルギーに使ってもいるから無害なものよ。まぁ、造るのに馬鹿みたいにお金がかかったから、自分たち専用粒子だけどね」


 飄々と平然な声音で答える静香。武器専用として生み出せる強力なパワーを持つ粒子だそうな。そして作るには言うとおりに、貴金属を食べまくって苦労して作ったらしい。それは量産は無理だねと納得である。


「物凄く適当極まる名前ですね。なんというか……。まぁ、良いや。それでは戦いを始めましょう」

  

 お互いにゲーム仕様なのだ。静香の適当極まる粒子名でも別に良いや。気にしない気にしない。


 再び、スッと目を瞑り開いたときには目の奥に深い光をもつレキへと入れ替わる。


「雑魚が多いですので、レインスナイプを私は使用して殲滅します」


 主導権が入れ替わり、感情を伴わない機械のような声音で話しながらレキはカイン戦闘機の上でライフルを構える。


「駄目だね! たまには俺たちにも派手に戦わせろ! いけっ、ダガービット!」


 カインの叫びと共にウイング脇についていた無数のダガーらしき物を発射させる。一つ一つがダガーのようでありながら小型のエンジンを搭載しているのだろう。赤い粒子を噴出させながら飛んでいく。


 遠隔操作ビットなのだろう。どこかで見たような武器であるが、高速で不規則な軌道をとって、空を飛んでいるトカゲコウモリへとビームを発射させていく。そのビームは強力であり、オスクネーレベルだとマテリアル含有量から思われたトカゲコウモリを一撃で撃ち落とす。


 爬虫類の革に見えて、その強度は防衛隊が使用する銃程度の銃弾ならば弾き返すぐらいだと思われたが、一撃で貫いていくのでかなりの威力だとレキは感心した。


 だが、トカゲコウモリはおとなしくやられる敵ではなかったようだ。こちらを視認して、ギャアギャアと鳴き声をあげたかと思うと、急激な加速と共にこちらへと飛んでくる。


 トカゲコウモリの周りにソニックブームが生み出されて、風の化身かもと見間違えるほどに急接近してきてきた。コウモリではなくドラゴンではと思ってしまうぐらいに、その細長い口を開し、餌を見るが如くに。

 

 ミサイルが発射されるが如く、次々と空中に漂って。


「そうこなくちゃな!」


 カインが喜びを顕にして、変形して脇に備えてあったスナイパーライフルを発射させて撃墜していく。


 急加速した為に外れるかと思われたダガービットの光線はそれでも敵に食いついて、その威力で胴体や羽根を貫き撃墜していくのだった。


「腕を上げましたね。ロボットなのになかなかです」


 的確なるその腕前に珍しく相手を褒めるレキ。


「はっ! ガキよりも腕を上げたかもな!」


 調子に乗るカインへと、フッと冷笑で返すレキ。いつものアホな美少女と違いすぎるが戦闘時にキリングマシンとして訓練されたのだと周りは勘違いしているので問題はない。……たぶん。


「ですが、戦いはこれからです。地上からも増援が来ましたよ」

 

「いくらきても問題ねぇ! この俺様が全て倒してやるぜ!」


 過激なことを言うカイン。そして地上からはレキの言うとおりに飛び蜘蛛が蚊のように、ぷーんと音をたてて飛翔してきている。蚊らしくなく音速に近い速度で蚊のような口吻を尖らせて血でも吸ってきそうな感じもする。


「オラオラオラ! ダガー!」

 

 まだまだダガービットのエネルギーは尽きることはなく、高速で飛翔しているのを旋回させて、飛び蜘蛛へ迎撃に当たらせるカイン。


 チュインチュインとビームが発射されて、飛び蜘蛛を薙ぎ払っていく。


「ざまあねぇな! 雑魚ばかりだぜ!」


「そうでしょうか?」


 カインの言葉を耳に入れながら、レキは乗っているカインから身を乗り出してスナイパーライフルを撃つ。しかし狙いは飛び蜘蛛ではない。


 なにも無い空間へと撃ちこんだと思ったら、キンと火花が発生してなにかがキラリと光って見えた。


 すぐにカインは今の攻撃の意味を悟って舌打ちする。


「ちっ! 透明な糸かよ」


「斬糸ですね。極めて感知しにくい攻撃です」


 淡々とその正体を述べながら引き金を引き続けるレキ。その銃弾は飛び蜘蛛たちも、飛び蜘蛛たちが密かに尖った口吻を銃口に見立てて撃ち出していた透明な斬糸も全て破壊していく。


「さすがはお嬢様ね。今のは気づきにくかったわ。たぶん一撃は貰っていたわね」


 感心しながら、さすがは戦闘時は頼りなると改めて思いながら、静香も粒子ビームマシンガンを撃ち出す。


 周囲に紅い粒子が輝きながら撒かれていき、粒子ビームはドンドンと敵を倒していく。その攻撃は正確無比であり、マシンガンであるのにばら撒かれた銃弾はそれぞれ数発毎に敵をドンドンと倒していくので、静香も腕を上げているのが見てとれる。


「全員下がれ!」


 そうして後ろから戦いに加わっていかなかったアベルが大声を出す。

  

 振り向くと大型のバズーカを構えているアベルが前方へと狙い定めている。


 すぐに散開してアベルの後ろへと移動するレキたち。レキはカイン戦闘機に乗っているだけだけど。


「喰らうがよい、爆縮レンズ式バズーカ砲を!」


 叫ぶアベルが引き金を弾くと、バズーカから紅い砲弾が発射され、同時に圧縮されていたエネルギーが砲身に展開されているレンズを通して砲弾へと追いつき爆発させる。


 眩しい紅い光が周囲を覆い、扇状に強烈なエネルギー波が前方にいる全てを消滅させていくのであった。


 その紅い光は巨大なマンモスガニも覆い、甲羅に覆われていた外骨格を焼き尽くし、細かくバラバラに砕き、地面へと落としていく。哀れマンモスガニ、中ボスみたいな雰囲気の巨大な化物であったのに、なにも攻撃できずに撃沈した。


 バズーカ砲をシールド裏へと仕舞い込み、アベルはその重火力のパワーを見せつける。


 なんとかっこいい姿だろうと、おっさんが感動していたようだが、おっさんなので別に放置でよいだろう。


「チャージに馬鹿みたいに時間がかかるのが弱点なのよね」

  

 フフッとアベルの弱点をあっさりと披露する女武器商人。格好をつけていたのに、ちょっとバツが悪そうな感じになるアベル。


「チャージ分の威力はあると思います。それよりもあそこが目的地みたいですよ」


 レキは静香の発言もスルーして、目指す方向へとちっこく指を突き出す。


 指し示した場所にはビル群があり、その中にビルにも劣らない高さと大きさを持つ黒い霧のような物でできている丸い球体が見えたのであった。


 どうやら目的地についたようだと、レキたち一行は向かうのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一ヶ月でここまで読みました、おっさんパートのおかげでシリアスがぶっとんでいくのが面白いです。 [気になる点] カインはダガーらしき物をを収める鞘が無数についた肩当てをつけており、 をが…
[一言] やはり静香さんの方が格好いいセンスありますな。 流石元ゲーマー。 おっさん側が製作者不明(おそらく金髪貧乳ツインテが開発元)の超絶ネーミングセンスですからなぁ。 銀髪巨乳といい、センスが酷…
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