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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
23章 お祭りを楽しもう

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375話 おっさんの偽本部会議

 クーヤ博士は絶好調のようであった。見るからにマッドサイエンティストですと強調するようにバリっとノリのきいた白衣を着こなして、フンフンと鼻息荒く周りを睥睨している。


 自分の起こした偉業を話したくて仕方ないのだ。承認欲求と自己顕示欲が強すぎる老人だからして。


 にやりと口元に嗤いを見せて遥へとチラリと視線を向けてくるので、ライバル心を剥き出しにしていると注意して見ていた人間にはわかる態度であった。


 まぁ、サクヤなんだけどね。人形なんだけどね。あくびをしていいかなぁ、偽装スキルで寝ててもバレないようにならないかなぁと怠惰なおっさんは早くも会議に飽きていた。


 しかし、他の面々は裏側を知らないので厳しい目でクーヤ博士を見つめている。ナナはうむむむ、どうにかしてあの壇上から引きずり降ろせないかと考えてもいるのだろう険しい表情を浮かべていた。


「さて諸君。私がここの壇上に立つのは久しぶりのような記憶がある。かつてはあった私の発言力がいつの間にか無くなっていたみたいだがな」


 恨み節から入るクーヤ博士。さすがサクヤ、こういったアドリブは得意分野であるのだ。何しろモニター越しに映るサクヤはプラカードを廃棄して、真っ白の台本を見ながら人形の中で喋っているのが見えたからである。


 何しろおっとっとと台本を落としそうになったときに、壇上で話すとしか書いてないのを確認したので間違いない。なんだろうね、サクヤは戦闘用サポートキャラじゃなかったっけ? 何で台本を書かないのかな?


「だが、偶然から生まれた者を使う小賢しい奴らによって、私の発言力は消え失せた。まぁ、今更それを言っても仕方ないので蒸し返したりはせんがね。私は科学者であり、化学者であり、政治家でも軍人でもないのでな」


 充分に恨み節を語りながら蒸し返しているじゃんと苦笑しながら、クーヤ博士をコテンパンにしてやろうと考えている遥であった。台本に書いてあったしね、クーヤ博士を論破せよと。適当すぎる説明である。おっさんでももう少しセリフやら演技やらを考えるよ。


 呆れながらも、クーヤ博士の話を聞くおっさんであった。




 豪族たちは壇上に立ったクーヤ博士を見て、その言葉に呆れた。老人は子供っぽい恨み節から始めたのだから。しかも明らかにナナシを憎々しげに見ながら。


「だいぶナナシは恨まれているようですね」


 こっそりと蝶野が豪族に話しかけてくるので頷き返す。


「そうだな。お姫様を活用して勢力を広げたのは皮肉なことにナナシだ。まさかここまで成長するとは思ってはいなかったはずだが」

  

 崩壊初期は失敗品でも使えるかもしれないと、実戦に使われたらしい。少女を失敗品扱いなど胸糞悪い話だ。それを軍隊の中で使い潰させまいと戦場ではなく、ただ崩壊した何もないであろう関東に放り込んだのはナナシのはずだ。


 お姫様の初期の力でも、ゾンビ如きでは相手にはならなかったし、無数のミュータントが相手というわけではなかった。たしかに危険ではあるが、戦場で失敗品として使い潰されるように使われるよりも遥かに生存率は高いと踏んだのだろう。


 そうしてある程度の実績を積んだあとに引退させる予定であったと俺は推測している。


 だが、そうはいかなかったのだ。そのまま失敗品であれば、お姫様は引退してナナシが引き取るといったことになったかもしれない。だが、戦うごとに急速に成長してしまった少女を大樹が手放すわけはなかった。


 皮肉なことだなと嘆息する。娘を想い苦渋の選択をしたはずなのに、その娘は親の心を知らずに、成長しちまったわけだ。


 そしてそのことを恨む小物もいる。目の前で語り始めたクーヤ博士のように。


「皮肉なことにとは?」


 蝶野が豪族の発言に対して疑問を浮かべる。しまった、今の発言は迂闊だったと舌打ちしつつ誤魔化すために言葉を連ねる。


「いや、皮肉なことに一人の少女の力だけで勢力を広げることができるとは考えてもいなかったのだろうなと考えてな」


「たしかにそうかもしれませんね。一人の少女に頼るだけというのは大人として思うところがあるでしょう」


「そういうことだ」


 肩をすくめて答える。どうやら今ので誤魔化せたかと、内心で安堵する。


「では、そろそろ私の成果を見せることにしよう。今までは使えぬと引退させられていた哀れな少女たちのカムバックを! 私の栄光の一頁として!」


 クーヤ博士が指を鳴らし合図すると、会議場のライトが非常灯を残して消えて薄暗くなる。そして壇上に立つクーヤ博士の手前に壁のような広さのスクリーンが空中に現れた。


 銀髪の少女たちがスクリーンに映し出される。最新型のKO粒子貯蔵型パワーアーマーを着込んでいる。この粒子は拡散とともに効果を失うのが早すぎて超能力を使い維持しないと戦闘には使えないことがわかっている。


 そのパワーアーマーを使い、走る少女たち。廃墟を駆けながら移動するその姿はブレるような視認が難しい程で速かった。速度を測られているのだろう、通常のパワーアーマーとの比較をさせている文字が表記されている。


「ご覧の通り、粒子貯蔵型はあらゆる性能を跳ね上げる。従来のパワーアーマーのエネルギーゲインを設定上は三倍は上回っている」


 次はオスクネーとの戦闘シーンだ。斬糸を受けても斬られることはなく、直接攻撃を受けても体が多少圧されるだけで傷一つない。


「このように、オスクネーレベルではビクともしない装甲を持っている。マシンガンなどの攻撃もまったく通用はしない」


 少女たちは粒子を纏ったチェーンブレードを使用してオスクネーを斬りつける。無数に斬りつけられることに耐えかねたのか、たまらず糸の盾を作り出し防ごうとするオスクネーに対して、ライフルを構えてその引き金を弾く。


 銀色の粒子を纏う弾丸は、通常弾ならばいくら撃っても、その柔軟性と硬度により貫通せず、質量変化弾でも無数に命中させなければ破壊できない糸の盾をあっさりと紙のように撃ち破り貫くのであった。

  

 そしてその粒子弾はオスクネーへと命中すると、小さな穴が体に空いただけで、タフネスなオスクネーならばその程度では死なないはずなのに、のたうちながら苦しみ倒れ伏すのであった。


「このようにライフルの威力はミュータントに対して特別効果的だ。戦艦並みの攻撃力を持っていると言えるだろう」


 おぉ〜、と周りの奴らがその光景を見て感心して歓声を思わずあげる。


 えぇ〜、と遥はセリフがパクリすぎるだろ、白い悪魔の戦闘試験かよと内心で突っ込む。V作戦? V作戦なの?

  

「何ということだ、あれだけあっさりとオスクネーを倒すとは」

「どうやら上位タイプでも倒せるらしいですぞ」

「まさか使い物にならぬと言われたKO粒子と量産型超能力者の活用法を見出すとは。さすがは腐っても天才サクヤ博士の親だけはある」

 

 ガヤガヤと興奮して話し始める面々を見ながら、満足そうに得意気にクーヤ博士は再び語り始める。


「では次は実戦を見てもらおう。この方式により改修された量産型の画期的戦闘力は従来のパワーアーマー3機分だ。まずは見てほしい」


 次に映り込んだのは洞窟内でアリクネーと戦い、線路の先で巨大な土竜と戦闘をするシーンであった。


 戦ってない、土竜とは戦ってない、捏造したなサクヤめ。



 

「ちっ、やはり撮影していたのか」


 忌々しそうに仙崎が唸る。予想通り、蟻の巣での戦いはしっかりと撮影されていたらしい。実戦でのデビュー戦にはちょうど良かったのだろう。


 悔しそうな表情でこの先の話の行き着く先を予想できて、荒須が今にも立ち上がって抗議をしようとしているが、我慢している。ここで感情に従って発言しても誰からも同意が得られないと理解しているのだ。なにしろ、そのことでナナシに釘をさされたばかりである。


 映像が終了してクーヤ博士はにやりと嗤いながら


「この映像、そしてお渡しした資料を見ていただければ、量産型の活用法について再検討をするに充分だと賢明なる諸君は理解できるだろう。量産型超能力者の部隊の再設立及び予算の大幅な増額を私は提案する。まぁ、この資料を見て賛成しない愚かな者はいないと思うがな」


 くっくっくっと自身の提案が通ることを確信していた。


 たしかに周りの人々は映像を見て熱心に話し合い始めた。資料よりも実際の映像の方がインパクトは強いのだ。それだけの迫力が今の映像にはあったのだから。


「いやはや、量産型もなかなかの力を持っているじゃないですか」

「今の力ならば投資した分は取り戻せそうですな」

「クーヤ博士の執念の賜物ですか」


 チッと舌打ちして豪族は苛立ちを覚える。この連中は少女が無表情でまるで能面のように機械のような動きで戦っていた姿は目に入っていないらしい。人情を忘れた連中には人は決してついてこないというのに。


「しかしですな、少女を戦わせるというのはどうも……」

「パワーアーマー隊を増やせば良いのではないか?」

「もはや超能力者を増やすよりも兵士の装備を一新した方が効果的だと思いますが」


 そう考えていたら、後ろの方からヒソヒソと話し声が聞こえてきた。どうやらまともな感覚の連中もいるようだ。しかし小声で話しているところを見ると、やはり今の映像を見て声高に反対意見は出しにくいのだろう。事実、そのような空気になり始めている。


 こんな時の解決策を俺は出すことができない。ナナシの言うとおり感情で動いちまうからな。本当に政治家っては厄介なものだ。軍人には荷が重いと豪族はため息を吐く。


 だか、少し壇上の様子が変だ。なにかあったのか?


「なぜすぐに採決に移らない? こんなもの決定じゃろうが」


 クーヤ博士がいつまで待っても認可が降りないので不思議そうに怒鳴ると司会は首を横に振る。

 

「まだ発表者がいるのです、クーヤ博士」


「誰じゃ? 儂の革命的な発明に匹敵する内容なんじゃろうな?」


 嫌味を込めて文句をつけるクーヤ博士。


 司会者はクーヤ博士に壇上から降りることを促すと渋々ながら壇上を降りていく。


 そこへ次の人間が壇上に上がり始めてくるのをクーヤ博士は見て目を見開く。なぜこいつがという疑問と驚きの表情だ。


「ナナシ! なぜ貴様が発表を?」


 不吉な動きを感じてナナシを睨む。


 どこ吹く風と酷薄な笑みを浮かべてナナシは肩をすくめた。


「偶然だな、クーヤ博士も成果を発表するとは思わなかった」

 

 飄々とそんなことを言うナナシに偶然などではあるまいと口元を引き締めるクーヤ博士。


 豪族はナナシがこのタイミングでクーヤ博士の邪魔をするように現れたのを見てニヤリと面白そうに笑う。


「へっ、なにをするかは知らないが期待しているぜ」


 哀しき超能力者を量産するなど、豪族は決して許すまいと信じて椅子に深くもたれかかるのであった。



 

 ナナシことおっさんは周りをつまらなそうに見ながら発表をすることにした。もう用意しておいたのだ、ツヴァイやドライに命令して作り上げた映像をしかと見るが良い、サクヤ。


 おっさんはもう量産型のフリをするのは飽きたのだ。というか、量産型を演じるのは良いんだけど、無表情無口というサクヤが自身の性格を真似しましたと言っていた設定にはついていけない。


 誰を真似した設定だって? おっさんの耳が悪くなったのかな? もう量産型はニコニコ可憐に笑って可愛らしくて愛らしくて頭が良くて完璧なレキの性格を真似すれば良いよねと思っている。


 おっさんの記憶がおかしいのだろう、そんなレキはどこにも存在しない。アホ可愛らしい美少女か、戦うことと旦那様にしか興味のない戦闘民族しか存在しないと思われるのだが。


 ピコンとモニターに映像が映り始める。そこには出演を頼んだドライが銀髪姿でおやつのショートケーキを笑顔で頬張っていた。

 

 ヤバイ、映像を間違えた。出演報酬でおやつをあげたときの映像だ。可愛らしいのでついつい同じデータで撮影しちゃったのだ。


 ザワザワと映像を見て騒ぎ始める観客へと動揺を見せずに説明を始める。


「まずは結果を見てもらった。クーヤ博士の映像と多少違うことは否めないと思う」


 秘技間違っていても、正しいという態度でいけばだいたい誤魔化せるというおっさんの碌でもない技だ。誤魔化せない場合はだいたい大変なことになるのだが、自信満々の態度で話を正道に少しずつ戻していくと気づかれることは少ないのだ。いらない技ばかり覚えているおっさんである。


 次の映像は量産型がせっせとKO粒子を畑に撒いているシーンだった。


「これは量産型超能力者たちがKO粒子を使い、畑に合わない荒れ地を肥沃な土地へと改良しているシーンだ。すでに結果も出ている。通常は三年は耕すか、肥料を与えてむりやり畑とする。もしくは以前作られた大地を一瞬で畑に変える希少な肥料を用いないと駄目だった土地が、同様の効果を、いや、それ以上の収穫を出している」


 ピコっとモニターが変わり、グラフ表示で今までの収穫量やら畑に含まれている窒素などの栄養素が比較されて映し出される。


「次だ。これは鉱石を精錬している過程でKO粒子を含ませている映像」


 たぁっ、とちっこいおててを掲げて粒子を操り精錬中の鉱石へと入れている量産型。話の流れが怪しくなり青褪めるクーヤ博士。サクヤは器用だね。私は踊るしかエモーションできないよ。


「この場合、通常は軍用でもなければライトマテリアルは使用しないため、民生品は普通の材質の物であったが、KO粒子のおかげでライトマテリアルよりは遥かに劣るものの、従来より高品質な素材へと加工することができるようになった。最近発見された微小粒子にも同様に量産型超能力者の関与で多少なりとも実用化の見込みができるだろう」


 おぉ〜、と観客は驚きを見せる。こら、そこのドライさん、両手を頬に当ててむにゅ〜と挟んで、オドロキの表情にするのはやりすぎだ。


「最後にこれだ。従来のパワーアーマーでは機体全体にライトマテリアルを浸透させることにしか使えなかった。しかしさらにこの粒子をジェネレーターへと組み込むことにより、機動力、フィールド出力、エネルギー兵器の効率が180%まで向上したことを皆さんに伝えよう」


「はっ! 量産型超能力者が搭乗するパワーアーマーは300%を超える! 話にならんな!」


 鬼の首をとったように怒鳴り、こちらへと非難するクーヤ博士。それに対してつまらないことを述べるように肩をすくめて返す。


「クーヤ博士、量産型は現在何人生き残っているのかな? 良ければ浅学な私に教えて欲しいのだが」


「現在の量産型は86人じゃ……。当初の想定よりも敵が強かったのでな」


 クーヤ博士は痛いところを突かれたと、口籠る。


「そうでしたな。崩壊当初の戦闘はミュータントに関する情報が少なく、量産型超能力者に限らず多くの兵士が亡くなった。量産型超能力者は最初は200人いたはずだと記憶していますが」


「敵の数、強化された化物たち。想定外があったのだ。だが、現在は情報が集まっておる。そうそう数を減らすことはない……」


 自分でもその言葉を信じていないかのように呟くクーヤ博士へと頷きを見せてナナシは口を開く。


「皆さん、聞いてのとおりです。量産型超能力者を使えるようにするには素質のある子供を選抜、施術、超能力を使用して戦うための訓練、戦闘知識を教えるといった従来の兵士の訓練よりも遥かに年月が必要であり、しかも希少だ。しかし、生産業務に従事すれば、現在の物資確保、ライトマテリアルをこれまでより有効に活用できて一般兵士の戦力を底上げできる。訓練時間など必要ないし失われることもない。もちろん希少な存在だ。ぞんざいに扱うこともなくなるだろう」


 周りを見渡しながら、ニヤリと酷薄な笑みで話を締めることにする。多分酷薄な笑み。お気楽な笑みにはなっていないと信じたい。


「私は量産型超能力者育成計画を生産者支援計画へと切り替えることを提案する。おっと、最後にもう一度先程の映像を映しておこうか」


 またもや最初に映し出されたショートケーキを笑顔で頬張るドライたちの姿が映る。不思議なことに辻褄があっているように見えたりするのが怖い。


 その癒やされる光景に弛緩し始めた空気の中で老人の怒声が響いた。


「ふざけるなっ! 量産型は英雄創生プロジェクトから始まったのだ! 戦いのための者たちを生産者にするだと? 馬鹿も休み休みに言えっ!」


 顔を真っ赤にして怒るクーヤ博士。ナナシの提案に怒髪天をついたのだ。これまで英雄を作ろうと頑張ってきたのに途中経過で成果を取られればそれは怒るだろう。おっさんだってば同じことをしたら陰口を叩くぐらいはするだろう。面と向かってはお偉いさんには言えません。


 まぁ、全ては設定だけなんだけどね。


「はいっ! 少女たちが笑顔で働ける生産者支援計画に若木シティは賛成しますっ! そして量産型超能力者育成計画は凍結を求めます」


 ナナがフンスと鼻息荒く元気よく手を上げて賛成の意を示す。良いですよねと豪族へと視線を向けて。


「あぁ、若木シティは全面的に生産者支援計画に賛成だ。現在膨れ上がる人口を前に必要な計画だと俺も考える。量産型超能力者育成計画は……一応反対としておこう。現在はそのような時間のかかる計画よりも即効性がある計画が復興には必要だ」


 腕を組みながら強面を前に出して、ふてぶてしく豪族が同意すると、周りの人々も顔を見合わせて賛成への流れとなっていく。


「そうですな、この資料を見るに生産者支援計画の方が効果的だ」

「荒れ地はいくらでもありますからなぁ、どれぐらいの農地が雑草の海に消えたか」

「少女を戦場に出すのもなんですからな……」


 ナナシのシンパなのだろう者たちが、まずは賛成と手を上げていき、それを見た他の者たちも一部は苦々しい表情をしていたが賛成し始める。


「馬鹿な! 馬鹿な! こんなことがあり得るか? お前たちは未来の復興を目指しておらん! 平和な世界は強大なる力が必要なのだ! この崩壊した世界では!」


 焦った表情でクーヤ博士は周りへと怒鳴り散らすが、同意を見せる者はいない。恐らくは心情的にはクーヤ博士に同意したい軍人みたいな者たちも沈黙を保っていた。


「やるじゃないか、ナナシ」


 流れが完全に生産者支援計画になったことを確信して、豪族はニヤリと悪そうに笑う。哀れな少女たちを戦場に連れて行かない方法を見事に提示したのだ、あいつは。


 利益を求めるのならば消費一辺倒の戦争よりも生産力を高める計画に傾くのは当然の帰結であった。消費を精力的に勧める崩壊前の世界とは違うのだから。


「まぁ、少しは見直しました。どうせ自分の利益のためだとは思いますが」


 ナナシには厳しいナナが、珍しく褒めているが相変わらずの辛い採点だと豪族は楽しげに笑った。


「どうやら話は決まったようだな。クーヤ博士には申し訳ないが、この生産力向上を認められる内容を反対する意見はないだろう。復興に相応しい計画だ」

  

 会議場に重々しい声が響く。人々が話し合いをやめて声のする方向、即ち那由多代表へと顔を向ける。


 那由多代表は立ち上がり、ナナシへと視線を向けて、口元を曲げて計画の推進を認める。


「よくやったナナシ君。さすがは私の信頼する片腕だけはある。この計画は私たちにとっては福音であり盲点であった。この計画を認めよう。君の望み通りにな。だが量産型計画は縮小をするものの続けることにする。こちらもまだまだ新しい発見があるだろうからな」


「ありがとうございます、那由多代表。この計画によりだいぶ生産力の向上が認められるでしょう」


 ペコリとナナシは頭を下げる。那由多の中身は現在渋々ながら霞が操っています。


「だが、量産型計画を縮小するとなると、レキ君はさらに忙しくなるだろう。それでも構わなかったのかな?」


 ナナシを試すように眼光鋭く言葉を口にする那由多。


 その言葉に動揺も見せずに平然とナナシは返答する。


「彼女はこの結果を喜ぶでしょう……。きっと」


「ふ。そうか、それならば良い。君のことは信頼しているからな」


 信頼しているとはとても思えない強い睨むような視線で那由多はナナシを見る。豪族はその言葉にハッとした。お姫様にとってはこの結果に不利にしか働かない。それでもナナシは少女たちを助ける方を選んだのだと理解した。


 理解されたナナシことおっさんは、やったぁ、これからもレキは各地で遊べるねと喜んでいたけど。


「ナナシよ、覚えておけよ。この儂をコケにしたこと、必ず報いを見せてやるからな」


 クーヤ博士はもはやこの会議場に用意はないと、荒々しい足音をたてながら、去っていった。


 そうしてしばらくして会議は終わるのであった。


「まったく……。仕方のない男だ」


 豪族は嘆息しながら会議場をあとにする。まったくもって……あの男は不器用なやつだと。


「やれやれ、夜のパーティーとやらが終わったら酒でも誘うか」


 量産型超能力者の未来を決める話し合いはこうして幕を閉じるのであった。一人の狂科学者の憎しみを残して。


 まぁ、そういうことにおっさんはしたのであった。次の話し合いはかなり先で良いからね。もう疲れたのでとくたびれた思いを残して。

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― 新着の感想 ―
[一言] 此処で銀髪のドライを量産型超能力者として見せてるけどその後の展開的に年齢的に生き残りではなく新ロットでごまかせた感じかな、素体になりそうな幼女(ドライ)の量産具合は目撃証言が多数有りそう。
[一言] おっさんパート増やして欲しいというよりは、大樹の野望(笑)に振り回される普通の人々を見たいから、それを見れるおっさんパートを増やして欲しいって感じではある。シリアスな戦闘はスキップで良いとい…
[一言] ケーキ食べてるドライ可愛すぎるな……うまいこと間違って流しちゃった映像利用できるおっさんは有能……有能?
感想一覧
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