359話 おっさん少女と謎粒子
ポニーダッシュをいとも簡単に破壊されて、兵士たちは敵の強力さに驚いていた。
そしてそれ以上に驚かされたのが、突如として現れた謎の少女二人と老人達の行動にであった。
強力であるアリクネーの攻撃を防ぎ、兵士たちを守るようにアリクネーとの間に立ちはだかるのだから。
そんな謎の少女たちのうち、約一名はアホなことを考えていた。即ち通常運転という事だが。いや、二名かもしれない。
謎の少女たち……良い響きだねと遥は内心で小躍りして、嬉しがる。なぜか謎という響きが好きなおっさん少女なので仕方ない。どこらへんが仕方ないかといえば、アホだからの一言で終わらせたい。とにかく謎という響きは好きなんだと趣味に走るおっさん少女なので。
今回は銀髪ロングヘアーのカツラと偽装を使い別人に見えるようにもしている。大樹へのヘイトが上がる? むふふ、それは一部の上層部だけさ、一般市民は大樹がもたらす生活に満足しているので、幸福である限り問題はないのだからして。
それに……なんとなくサクヤがヘイトを稼ぐ理由も想像がつくし。たぶんこれだろうと推測できる理由が。大樹が正義だと盲信させたくないのだろう。
なので、今回は謎の量産型超能力少女。兵器の進化による台頭で廃棄されたという設定の美少女だ。
名前はまだない。
アリクネーは敵の後方からこちらを観察するように見ているが、言葉を発することは無い。あの強力さだとオリジナルミュータントだと思うんだけどなぁと観察をすると、やはり通常のミュータントとは違いオリジナルミュータントのダークマテリアルを内包しているのが感じられた。
なぜ言葉を発しないのか。アントブローとは違い知性は残っているように見えるのに。その理由は後ろの卵にあるのか、エゴが言葉を発するのを許さないのか………。
まぁ、私は敵を倒すだけの量産型なので問題ないねと、まったく自分では戦うつもりのない遥はレキへと戦いを任せて観戦モードに入るのであった。
ぞろぞろと蟻の群れが眼前の坑道を埋めるように歩いてくる。その速度はゆっくりに見えるが時速10キロぐらいはでているだろうか。全力で走れば人間ならば逃げ切れる速さだ。
「すなわち、イージーモードだね。インフィニティだと敵があっという間に肉薄してくるし」
ゲームの体験を現実に当てはめるアホな呟きを誰にも聞こえないようにする遥。キャラ的にそんな言葉は言わないはずなので。
「いきます」
ぽつりと無感動に呟き、やっぱり量産型を演じているナインが地面を蹴る。その姿は手甲と脚甲に手足は覆われており、ハーフプレートのような鎧には胸の真ん中に輝くシルバーのオーブがはめ込まれている。
背中にはウイングタイプのバーニアを装着させたバックパックが装備されており、そのバックパック上部には横付けされているケーブルで繋がったロングライフルが置かれている。
あとは、投擲用の装備をいくつかに敵を封じるギミック、そして腰には2本の刀を装備しており、ハンドガンもホルスターに入っている。
脚甲から銀色の粒子を噴出させて、ナインが蟻たちへと接近していく。二刀流剣士となって蟻が埋め尽くす前方に恐れも怯みも見せずに。
蟻たちは小さな餌と思える人間を前に喰らいつこうと、凶悪な顎を開き飛びかかる。
「蟻さんたちでは潰されるのがオチですよ。どんなにその身体を大きくしても」
ふふっと可憐な笑みを見せようとして、ナインはそういえば姉さんのごっこ遊びに付き合っているんでしたと思い出して、表情を変えずに蟻と相対する。
暴走したトラックのような勢いで蟻が飛びかかってくるが、流水のようにするりとナインはその攻撃を躱す。ただ一歩だけトンと軽く地面を蹴って移動しただけで、敵の攻撃を寸前で見切りその横を通り過ぎていく。
そうして通り過ぎた後には、ずるりと蟻の身体がずれていき、斬られていくのであった。その断面は綺麗でまるで鏡のような斬れ方であった。
するりするりと蟻の群れの隙間を通り過ぎていくナイン。その動きは無駄はなく全てが計算されており、敵の群れの隙間がどこにあるか、敵がいつ攻撃をしてくるかを全て見切っていた。
ナインの体術が極まっている証拠である。これでも体術スキルレベル3程度に抑えているらしいので恐ろしいものがある。
「セオリー出る!」
それを見て慌てる遥。やばい活躍できなくなっちゃうとレキの活躍を見せないとと、きりりと真面目な表情で呟き担当の遥が言葉を発して、レキがその呟きに合わせて背中から外したロングライフルを構える。
あれ? 私は今出撃すると言ったよね? と首を傾げる遥の意図とは別に撃破するべくロングライフルを構えたレキは群れへとその銃口を向けて引き金をひく。
「粒子加速砲発射」
銀色の粒子が銃口から放たれていき、加速された粒子が蟻の群れへと向かう。
銀色の粒子が周囲へと吹き荒れて、銀の閃光はまるで蟻の抵抗などないかのように敵をあっさりと貫いていく。まるで豆腐に箸を突き込んだようにプスプスと突き刺さり倒していくのだった。
薙ぎ払うように手に持つライフルを動かしていき、群れをどんどん倒していくレキ。命中した蟻は爆発することもなく、多少の身体の震えを見せて倒れ伏していくのを見て、兵士たちがその光景にどよめく。
「な、なんて威力だ! 蟻がまるで蟻のようだ!」
「いや、それって蟻だろ?」
「あの粒子は一体?」
一部アホな発言をする兵士がいるが、蟻の群れが次々と倒されていくのをみて、着ぐるみ老人クーヤ博士は両手を腰にあてて高笑いを始めた。
「どうかね、これこそキリングオーラ粒子! 現在のライトマテリアルの粒子は希少であり、そうそう簡単に量産はできない。その粒子の一部を超能力で増幅させ疑似的粒子を作り上げたのが、このキリングオーラ粒子、名付けてKO粒子だ! 敵をKOして味方の力を少しだけ引き上げる。まさに理想の粒子であり超能力者が必要であると理解できるであろう」
フハハハハハと高笑いをして、敵をKOしろと叫ぶクーヤ博士。正直ネーミングセンスがない粒子だよねと思うが仕方ない。サクヤのネーミングセンスは期待してはいけないので。
遥はKO粒子の本当の名前はくたびれたおっさん粒子じゃないだろうなとも推測しているが、顔を背けてどもりながら、そんなことはありませんよとサクヤがこの間否定したので追究することは止めた。そんな粒子だと身体に悪そうだしね。ここは追究しないのが大人ってもんだよね。
遥が嫌な想像をしている間にも蟻はどんどんその数を減らしている。
なにしろ、バーニアによる加速でスルスルと蟻の群れの間を進むナインだが、その後にはゴロゴロと斬り裂かれた死体だけが残っていくのだからして。たしかに刀を振ってはいるのだが、その振りが自然すぎてまるで認識できない。速いのでなく、ただ空気のように意識をできない感じなのだ。
そしてレキがロングライフルの引き金を引き続け、敵をその銀閃で薙ぎ払っていく。その間も熱心にレキはナインの動きを観察しているので、体術のさらなる進化を目指しているのだろうことは明らかだ。
どこかの粒子名が気になるねと戦闘に集中していないおっさんとは大違いである。
「フハハハハハ、あのパワーアーマーの名前は名付けのジンクスに従い、セオリーと名付けた! 超能力者専用、レキの戦闘経験を反映させた量産型超能力者専用KO粒子貯蔵型パワーアーマーだ! 今までのパワーアーマーとは力が違うのだよ、力が!」
「KO粒子は多少の大樹の粒子にレキ様たちのエンチャントサイキックによる強化付与、そして粒子を水増しすべく水を少々と私の息を吹き入れておきました」
モニター画面にサクヤが映りドヤ顔でのたまうが
「最後の部分だけいらないような感じがするんだけど? なんで水も混じっているの? これ水鉄砲?」
呆れてしまう遥。なんだよ、サクヤの息って。
「まぁまぁ、必要だったんです。敵にこちらの力を感知させることなく銀色の粒子に色を変えるのも必要でしたし」
「なんだか変なことを口にしたね? 銀色にするのが必要だったの?」
「ほら、量産型の粒子は色を変えないと、なんだかいつもの黄金の粒子の価値が低く思われちゃうじゃないですか。なので色違いにしました」
えっへんと柔らかそうな胸をポヨンと揺らすサクヤである。実にしょうもない理由も混じっていた模様。
「まぁ、わかったよ、色違いって重要だもんね。主人公の使う粒子とは違う色にするのは重要だし」
全然重要ではないと思われる内容を肯定する末期型厨二病患者遥もサクヤへと同意をするのであった。まさにこの二人は混ぜるな危険である。
「旦那様、蟻の殲滅に成功しました。そろそろアリクネーとの戦闘に入ります」
囁くように精神世界で伝えてくるレキに
「了解。そろそろ真面目な戦闘の時間だね」
遥も気を取り直して頷く。なにしろ敵を縛りプレイで倒さないといけないので少し真面目にしようと思う。最初から真面目にやるという選択肢はない。
坑道は蟻の死骸で埋まっており、その死骸の上にナインはつま先立ちで立っていた。正直似合いすぎるほど似合う光景だ。無感情な少女が死骸の山の上に佇むその様子は、見る人の心を悲しみを宿してうった。
もちろん遥の心もうった。なにそれかっこいいと。なので、レキもんしょんしょと死骸の山へと登って二人で背中合わせに立つことにする。やばい、なにこれかっこいい。
かっこよさは薄れてアホさが増した感じがするが気のせいであろう。
アホな少女は放置しておいて、アリクネーはこちらの力を見て卵のある広間まで下がっていた。警戒するように槍を身構えている。
「では敵のボスを倒してしまいましょう。その卵は破壊する必要がありますので」
レキはトンッと軽やかに死骸の山を蹴ると、銀色の粒子をバーニアから噴出させて敵へと接近をかける。
アリクネーは腹の部分を開いて、再び牙の並ぶ口を見せつける。また蟻酸を放とうとする構えだ。
アリクネーまで後20メートルぐらいのところで、蟻酸を勢いよく吐くアリクネー。
間欠泉のように、一気に噴出される蟻酸。その光景を見て、レキは手に持つ刀を一本にして両手で持ち身構える。
「超技滝割り」
エンチャントサイキックにて強化された粒子がさらなる銀の輝きを見せて、刀から粒子を噴出させる。
そのまま右足を強く地面に踏み込み、上段からの振り下ろしをするレキ。KO粒子が刀を覆い蟻酸へと銀の軌跡をみせる。
モーゼが海を割ったように、蟻酸も断ち割れてアリクネーまでその剣閃は届く。
びしりと銀閃がアリクネーに入ったが、しかして黒いフィールドが前方に現れて弾かれる。
「むむ、闇電子フィールドだね。全部の物理攻撃を4000ダメージまで軽減するずるいチートバリア」
適当感溢れる言葉を吐く遥。まぁ、おっさんの発言なので放置でいいだろう。あと、キャラ作りを常に崩壊させようと企んでいるのかもしれない。無感情、無表情娘キャラでいかないといけないのに。
「先行しますね」
立ち止まり、敵の蟻酸を斬ったレキを横目に、加速したナインがアリクネーへと肉迫する。
アリクネーは4本の槍を繰り出して、ナインを貫かんとする。風切り音と共に小柄なナインへと迫るが、ナインが一歩下がるだけで、最初の槍の突きは真横を過ぎていく。スッと少しだけ頭を屈めて、右足を支点に体を半身だけずらすと、敵の次の槍の攻撃を全て躱す。
横薙ぎの攻撃は頭の上を通過して、交差するように突き出した最後の2本の槍は、身体をずらしたナインの体すれすれを通り過ぎていくのみであった。
タンッと宙がえりをして、ナインは交差された2本の槍の上へと鳥のような軽やかさで着地する。
「多少の体術では私に触れることも敵いませんよ」
ナインは口元に僅かに笑みを浮かべて、身体をぶらすとリズムよく右手と左手の刀を振りかざす。上段からの振り下ろしに身体を捻り、左からの横薙ぎと連続攻撃を繰り出していく。
いつもならば敵はバラバラになっていて間違いない攻撃であったが
「フィールド………。近接攻撃も防御可能でしたか」
フィールドが瞬時に生まれてナインの攻撃を防いだのだ。力を抑えているので攻撃が防がれたのだと理解する。
ナインはアリクネーが槍を動かして振り落とそうとするので、再びフワリと宙がえりをして後ろに下がる。
「ではフィールドを無効化することから始めます」
ナインが下がったと同時に後ろからレキは飛び出してくる。その手には数本のナイフを手にしていた。
「シッ」
息を吐き、接近したアリクネーへと光り輝くナイフを投擲するレキ。
光の残像を残してアリクネーへと向かうナイフであるが、再びフィールドが発生してアリクネーは防ごうとする。たが、その黒いフィールドを黄金の粒子を発生させたナイフがあっさりと小さな穴を開けて貫通していく。内蔵された粒子がフィールドの発生を侵食することにより阻害して穴を開けたのだ。
「アンカーナイフ。この武器を自動防衛フィールドで防ぐからです」
レキは淡々とその結果を口にして、そのままアリクネーの後ろへと飛び越える。
スタンと地面に降り立つレキの手にはいつの間にか銀色の糸が握られていた。
反対側にいるナインもいつの間にか銀色の糸を握っている。
お互いの視線を合わせてコクリと頷き、力いっぱいに糸を引っ張る。
「ぎゃぁぁぁ!」
アリクネーが初めての声を口にする。悲鳴ではあるが。
アリクネーの体には銀色の糸が絡みつき、その粒子が身体を焼いているのだ。
「KOワイヤーじゃっ! 敵の動きを妨害し、さらに弱体化をもさせる! 希少なライトマテリアルの粒子で使うワイヤーではないが、その威力は遜色はない!」
説明係となったクーヤ博士が周りへと高笑いをしながら説明する。どうやら仲間外れは嫌の模様。
アニメや小説だとよくあるポジションにクーヤ博士はついたみたいである。遥に勝るとも劣らないアホさを見せるサクヤである。
アリクネーは銀色の糸による拘束で苦しみながらも前脚をナインへと突き出す。その先端は槍のように尖っており、ナインの小柄な体躯が命中したらバラバラにしてしまうだろうが、ナインは動揺も見せずにその動きを見切っていた。
手に持つ糸を放り投げて、刀を素早く抜くと前脚の先端に突きを入れる。
チンと音がして、弾かれる刀であるが絶妙な力の籠った支点に攻撃されたアリクネーの前脚は揺らいでしまい、ナインにはぎりぎり当たらない。
突風で髪が吹き流されてなびく。
槍での攻撃をしようとアリクネーは腕を引き絞ろうとするが
「後ろががら空きです。敵の一方しか見ないのは虫だからですか」
いつのまにかアリクネーの頭には両手をそえたレキが逆立ちをしていた。
驚き振り払おうとするアリクネーだが、レキは冷徹にしっかりとその頭を持ち呟く。
「どうやら貴方では私と力の差がありすぎるようですね」
そうして勢いよく身体を捻りながら超常の力を発動させる。
「超技サイキックスクリュー!」
レキは自らの身体をアリクネーの頭を掴んだまま勢いよく回転させる。ぎゅるりとアリクネーの頭を捻じ曲げて、その身体をも余波で雑巾を絞るように捻じ曲げた。体の各所から緑色の血を流しながらアリクネーは頭を捩じ切られて、ズズンと轟音をたてて地面へと倒れ伏すのであった。
「フハハハハハ、素晴らしい、素晴らしいぞ! これこそ新たなる量産型の生きる意味! 英雄の復活だ!」
あっさりとアリクネーを倒した二人を見て高笑いをするクーヤ博士。
むぅ、博士役も楽しそうだなぁと思いながらもおっさん少女は縛りプレイの戦いを終えるのであった。
 




