35話 おっさん少女の生存者の拠点訪問
国道にドルルと一台の大型車のエンジン音が響き渡っていく。
片側3車線、両側合わせて6車線、歩道も合わせて8車線だ。歩道は車線と言うのだろうかと、給水車を運転しながら、遥はいつも通りしょうもないことを考えていた。
国道は誰も生者はおらず、ポツポツと車が車線を塞いでいる。休みに起こった世界崩壊のせいだろう。逃げる暇もなかったのだろうか。映画のようにびっしりと渋滞よろしく道路を車で完全に塞いではいなかった。
ところどころに通れる隙間を高スペックなレキぼでぃは、機械操作スキルの指し示すままに、給水車をねじ込んでいく。
普通車の横につけて、押し込んでいく。トラックなどの大型車は、そのパワーで車体をつけて道の端に避けさせる。給水車は、可愛いレキぼでぃが持つ可愛くない力のスキル。機械操作に強化され戦車もかくやというパワーを出して路駐されている車の間を進んでいった。
ちらりと横に静かに座っている少女を見る。先ほど作成したマシンドロイドのアインである。強化外骨格装甲に骨の体を隠して、頭には近未来的な細いスリットの入ったバイザーを装備している美少女である。
今はコントローラーで操っていないので待機状態である。
レキぼでぃも、ロングなトレンチコートを装備して頭にはホッケーマスクをのせている。これから向かう生存者の拠点に着いたら、かぶる予定である。
なぜこの仮面を選んだのかと思われるのだが、最初はヒョットコのお面にしようとしたのだ。かっこよくないですよとメイドたちに言われて、ホッケーマスクに変えたのである。これならば、かっこいいだろう。湖に現れちゃうぜという感じで選んだのである。
確実に失敗する選択と思われる。まぁ、もういいやと眠そうな可愛いお目目のレキぼでぃはあきらめ顔だ。アインの性能を見て、行商人オペレーションは成功を確信しているおっさん少女である。たぶん成功率は大穴間違い無しの競馬の3連単並みであろうと開き直っていた。
結構なエンジン音やら車をどけている音を立てている給水車である。車の隙間を移動しているのもあって、速度はかなり遅い。一度道が開ければ、速度を上げて移動できるが最初は道作りからである。
そんな給水車はさっきからドアをバンバン叩く音がする。
ちらりとサイドミラーを見ると、ゾンビがそのドアを開けてくださいと、私はあなたを食い殺したいのですと叩きながらアピールしていた。
バックミラーを見ても結構な数のゾンビが追いかけてきている。
気にせず、遥は給水車を押し進める。どけた車の陰からやはりゾンビが現れる。いつも通りの白目をむいてよだれを垂らして、血だらけの体である。
グイッとアクセルを踏んで、ゾンビを避けることもせずに進める遥。ぐちゃぐちゃと肉が潰れる音がするが気にしない。どうせ、機械操作スキルで強化されているのだ。戦車も超えると思われるパワーの給水車である。ゾンビごときに足止めなどできない。
しかし、次に現れたミュータントを見て、ブレーキを踏む。キキーッとエアブレーキの大きな音がして給水車はプシューッと停止した。
次なる相手は久しぶりに見た骨軍団であった。
「ありゃりゃ、国道に移動してきたか」
と遥は骨軍団の様子を見てみる。
結構な数である。100はくだらないだろうか。奥には立体駐車場でみたリッチぽい姿も見える。
「ご主人様、スケルトンウォーリアとリッチと名付けました!」
珍しくまともな名づけのサクヤである。これは驚いたと遥は思ったが、この間会った時にその名前を呟いたことがあったかもと思った。
サクヤの名付けのセンスは、おっさんの服を選ぶセンス並みに酷いのだ。
後ろを見ると、ゾンビも200はくだらないだろう。ぞろぞろと追いついてきている。
「ちょうどいいや。ここで全部片づけるよ、サクヤ」
新市庁舎は、後30分もたたないうちにつくぐらい近いはずだ。ここらでいっぺんに片付けておく必要がある。
遥は車の窓から、可愛いレキぼでぃの手を出してみる。出した手を握りしめて、人差し指だけ指をたてた。
そのままくるくると空気を回転させるように人差し指を回して
「アイスレイン」
ぽそりと呟き、遥は氷念動を発動させた。
人差し指からは氷粒が吐き出されていく。周りは一気に氷粒に覆われて、氷粒が触れたアスファルトは凍りつきアイスバーンとなっていく。周りに路駐してある車に触れれば、フロントガラスは真っ白になり、車体は冬の雪国にいるように色を白く変えていった。
氷粒が一粒でも接触すれば追いかけてきていたゾンビは歩いているその姿のまま凍り付いていく。前方にいるスケルトンウォリアーもゾンビと同じくシミターを持ち、バックラーを構えながらその動きを止めていった。
最後に残ったのは、リッチだけであった。白く凍りながらもその攻撃を耐えたのだろう。杖の先に赤い光が集まっていく。
「赤い光とか、初めて見る超能力だな」
遥が魔法にみえるその発動に、初めて見たと驚いた。
「あれは炎系の超能力ですね」
教えてくれるサクヤ。今日は随分とおとなしい。やはり、家を出る前に今後は家の中ではずっとおっさんぼでぃでいようかなと遥が呟いたのが効いたのであろうか。
絶望の顔をして涙目になっていたのである。後ろでナインも涙目になっていたので、おっさんぼでぃは、やはり需要がないんだなぁと、遥も涙目になった。
悲しい記憶を思い出してしまったと、おっさん脳からあの出来事はデリートしようと遥が決心していた時に、リッチの魔法は新たなステージに入っていた。
杖の先に小さい炎が生まれた。そのまま大きな炎になる予定だったのであろう。しかし、この空間はレキぼでぃが支配した氷の世界である。
炎に氷粒が触れた途端に消えていってしまった。そのまま耐え切れなかったのであろう、リッチも段々と凍り付いてその動きが鈍くなる。
遥は駅前ダンジョンで手に入れた短銃を片手に持ち、再度窓から出して、リッチを狙い撃った。
パンパンと意外と軽い銃声が聞こえて、短銃から勢いよく弾丸が発射されていく。
通常の威力ならば、効かないかもしれない威力であった。リッチはオリジナルである。その防御力は軍用ライフルからの攻撃も防ぐのだ。
しかし、レキぼでぃは小柄で可愛い姿であれどチートな力の塊である。銃術の力も相まって、短銃は威力を大きく増大させていた。
リッチもその威力に気づいたのだろうか。狙われた頭を回避しようとずらす。
だが、精密機械の如し器用度のレキぼでぃである。逃げる場所にその銃弾は当たっていった。
バリバリという音がリッチの頭蓋骨からして、弾丸はめり込んでいく。
3発目の弾丸が食い込んだところで、風船が割れるようにリッチの頭蓋骨は、パーンという音がして砕け散ったのであった。
相変わらず、ボス戦は大幅カットする遥であった。
「ふっ、リロード」
カチャカチャとリロードを可愛いレキぼでぃで行うおっさん。なぜ声にいちいち出すのであろうか。
そして、渋い演出ができたと思った遥である。ついつい黒歴史日記に自分の厨二的行動を記してしまう。
ハッと気づいたときには満面の笑顔をサクヤがしていたのである。グッと親指をたてて、こちらを見ていたのだった。
常に敵との戦闘より、自分の行動でダメージを受ける学習しないおっさん少女であった。
後少しで新市庁舎である。
ブルルという音がしても、あれから敵はゾンビが数体現れただけであった。ようやく新市庁舎が見えてくる。
「ふえぇ~、疲れた~」
もう拠点に着いたみたいだから、今日は終わりにしない? とサクヤを見てみる。
イベント前はセーブでしょうと、ここまでの道もできたので帰りたい遥。
帰って、お酒でも飲んで寝たいのである。メイドがお酌をしてくれると嬉しいなとも思っていた最近疲れやすいと思っているおっさん。もう歳なのだろうなぁと。
疲れやすいと感じていたのは崩壊前の世界である。今のレキぼでぃでは疲れることは全くない。
しかしもう面倒なのだ。帰りたいのだと心の中で叫ぶ遥。ここまで来るのに5時間はかかっているのである。朝に出たのに、もう太陽はお昼を過ぎている。
誰だ!という声と人々がバラバラと周りから集まってくるのを見て、まぁ、無理だよねとも思っていたのだが。
さて、謎の行商人の出番であろうとホッケーマスクを被って、座席の後ろに回り込む。小柄なレキぼでぃなら寝れるほどの大きさがあるのだ。そこに置いてある毛布を頭からかぶり、コントローラーを握った。
アインの操作をする時間がきたのだ。