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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
22章 冒険少女になろう

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358話 量産型として戦うおっさん少女

 てってこと小走りで向かうアホな御一行。いや、狂気に取り憑かれた老人と量産型の超能力者の少女二人だ。決してアホな御一行ではない、哀しみを背負うダークな御一行だ。


 ダークなんだよ? ラッキースケベがメインのダークネスじゃないよ?


 小走りといっても、兵隊たちとすれ違う時だけその速度は普通の人間の小走り程度に遅くなる。それ以外はスーパーカーと同じぐらいの速さである。小走りの定義を再確認したくなる速さだ。


 この暗闇の中でも暗視が効く三人はデコボコの地面につまずくこともなく、またその速さが暗闇で衰えることもなく風のような速さで走っていく。


 ただ三人の中で、一人だけ、即ちレキだけはいつもの速さではなかった。影すらも置いていく迅雷の如し速度ではなく、ツヴァイたちよりも劣る速度である。


「ん〜……どうやら身体の復調はまだかかるね。これはステータスは三分の一ぐらい、スキルは良いとこ三レベルぐらいに落ちているかも」


 走りながら銀髪のカツラが取れないように気をつけて呟くレキ。小柄な体躯に鈴の鳴るような可愛らしい声音での呟きだ。


「たしかに思ったよりも復調が遅いですね。やっぱりあの戦艦での攻撃が余計だったんですよ、ご主人様」

  

 見た目は老人なのに、人間ではあり得ない速度を出しながら、怜悧な女性の声音でツッコミを入れる着ぐるみに凝っているサクヤ。


 そのツッコミに、むうと唇を可愛らしく尖らせてプンプンと怒りながらレキが反論する。


「活躍したかったの。活躍したかったんです。皆よりも活躍する。それが美少女レキちゃんの存在証明なので」


 後悔はありませんとキリリと顔を引き締めるレキ。もはやアホな思考は手遅れで治癒不可能である。きっと凄腕の治癒師でも匙を投げて世界新記録最長投げ捨て記録を出すだろう。


 そろそろレキと名乗るのが冒涜になるかもしれない。


「まぁ、それでも以前とは違うよ。ゲームで言うところのわざとレベルダウンして再度の+補正が入った感じでレベルアップしている感じだね」


 なんというか返答に困る例えを出してくる遥である。実にわかりにくい例えだと言えるだろう。


 ナインが頭のカツラの位置をうまく合わせながら、遥へと優しい視線を向ける。


「でも気をつけないといけませんよ、マスター。ここで張り切るとまた回復まで時間がかかりますので」


「任せておいてよ。この私にドドーンと任せてくれれば縛りプレイも楽勝だよ。レキなら大丈夫」


 ナインへと返答しながら、スッと目を閉じて、再び開くと目の中に強い光を宿すレキと入れ替わる。


「旦那様、お任せください。ナイフクリアも楽勝ですので大丈夫です」


 すぐにレキ任せにするおっさんである。その的確な判断は英雄ものである。無論英雄に倒されてしまうおっさんではなく、可憐なる可愛らしい女の子だ。活躍は間違い無しだとくたびれたおっさんは思うのであった。まぁ、いつものパターンであるだろう。


「そろそろ敵が見えてくる頃です、レキさん」


 佇まいを無感情な少女へと変えながらナインがレキへと声をかけると、コクンと頷くレキ。演技をしなくても素で無感情っぽい少女なので、おっさんよりはマシだろう。


「問題ありません。蟻などでは制限を受けていても私は負けないので」


 その自信に溢れた返答にクスリと小さく笑みを浮かべてナインは先行する。


「うむ、二人共、量産型は廃棄されて久しいが、この戦いで再び英雄へと返り咲くのじゃ! さぁ、新型スーツと共に新たなる地平を開け!」


 嗄れた老人の声音に戻ってクーヤ博士が怒鳴る。クーヤ博士って単純過ぎないかなぁと遥は内心思うがレキもナインも気にせずに地面を強く蹴り、さらなる加速をするのであった。




「うぉぉぉ! 俺は魚屋の四男だった〜! だが、今は一人息子だ〜!」

「この戦いが終わったら、親孝行してやれ〜!」

「WDF!  WDF! 俺たち若木防衛隊っ!」


 謎の量産型少女たちが坑内を進むと、兵士たちの必死な感じの叫び声が響いてくる。どうやらまだ生き残っていたようだと、少し安堵の息を吐く。


 足を進めると、少し先に中隊が武器を構えており、通路の先から次から次に現れる蟻たちを懸命に撃破しているところであった。


 そしてその中に銃弾を弾き返している異形が一体混じっており、中隊はその異形により動きを鈍くしていた。


「アリクネーと名付けました。オスクネーに似ていますが、力は上であり、その上位互換という感じですね」


 こっそりとサクヤが呟くのを遥は聞いて呆れる。手抜きじゃない? まぁ、たしかにオスクネーに似ているけどさ。


 アリクネーは文字通り、蟻の下半身に人間の上半身の異形であった。


「なるほど、オスクネーの上位互換だね」


 あっさりと先程の手抜きの名付けを批判していたことを忘れて遥は頷く。ちゃんと遥が呟くときはレキは主導権を渡す良い子である。渡さなくて良いのにとは誰もが思うだろうが、優しい奥さんなので仕方がない。


「マスター? どこらへんを見て上位互換だと思ったんですか?」


 コテンと可愛らしく首を傾げて尋ねてくるナイン。


 コテンと倒れ込んでお腹を見せて、言い訳をしたい遥。

 

「違う、違うよ? 上半身が裸の女性だからじゃないよ? ほら、あの力強そうな黒光りする重厚な外骨格や、複数の腕に持つ槍などを見て凶悪だとか考えたんだ。胸なんか見てないよ? 強力なフィールドに威力の高い超能力も使っているし」


 アワアワブクブク私は蟹ですと言うような慌て方を見せて遥は言い訳をする。美少女なのでそんな慌てる姿も愛らしい。


 女神な転生のゲームではエンジェルって、ほとんど裸だよね? 凄いエッチぃな、これ本当に天使? とか思ったことはないおっさんだ。常にエンジェルを仲間にしていたなんてあり得ない。まさか上半身裸の女性だからって、胸を見ちゃうようなことはしないだろう。アラクネーやスキュラに弱そうなおっさんということは決してないはずだ。


 でも内心は男なのでチラチラと見ちゃうかもしれない。


 そんな男のロマンの敵を前にして動揺を見せるおっさん少女へと、サクヤというか着ぐるみクーヤ博士が小声で伝えてくる。


「そろそろ兵士たちに気づかれます。劇を開始しましょう。題してクーヤ博士は学会に復讐する」


 ネーミングセンスのない題目を口にするクーヤ博士をジト目で見てから嘆息しつつ頷く。


「ごめんね、奥さん。では戦いを始めよう」


「了解です、旦那様。私の戦いを周りに魅せましょう」


 レキが答えて、地を蹴り一気に兵士たちの中へと走り寄る。ナインも無表情の顔へと変えて、追随するのであった。


 そういえば少女たちの名前決めてないねと、遥は思ったがサクヤは決めているのかなとネーミングセンスの凄さを発揮する銀髪メイドなので不安しかないのであった。




 そこら中から現れる蟻たち。今も後方に見える地面にびっしりと張り付いている無数の卵からは蟻の幼体が卵を割り這い出てくるのが兵士たちの目に入っていた。


 すぐに卵を焼却したい兵士たちであったが、押し寄せる蟻の群れと一匹の強力な下半身が蟻、上半身が女性の化物に防がれる。


 サクヤがアリクネーと名付けた個体は強い。五メートル近い体躯を持ち、人間部分には四本の腕が生えて槍をもち、下半身の前脚の牙のような尖端も強力な威力だ。


 アリクネーはその膨大な力で槍を繰り出してくる。その勢いは空気が押され風が巻かれるほどである。


 しかも一人で優に四回攻撃を繰り出すのだ。四本の槍を使いこなし、巧みな槍術で攻撃してくるのだが、無論接近を許さない兵士たちは銃を構え牽制の攻撃を繰り出す。


 その威力は実証済みであり、無数の蟻を倒していった強力な炸裂弾からなる銃弾の嵐だ。


 立ち並ぶ兵士たちの嵐のような銃弾はしかして敵の装甲を貫けなかった。いや、近づくこともできずにアリクネーの前方で爆発する。


「くそっ! 銃弾が弾かれるぞ!」

「強力なフィールド持ちだ!」

「どうやって倒せば……」

「マシンガンが効果を発揮しません!」


 忌々しそうにアリクネーを見る兵士たち。アリクネーの前には黒く光り輝くバリアが張られており、未だに攻撃は一撃たりとも当たっていない。すべて弾かれてしまう。


 そしてアリクネーはドンッと地面を蹴り、無数に兵士たちに詰め寄る蟻の間を縫うように移動する。飛翔するように巨大な体躯を壁や天井へと足場にして縦横無尽に移動しながら肉薄してきて、槍を突き出して人間たちを殺そうとするのだ。


 巨大な体躯による突撃の力も加わり当たったら死ぬのは確実だった。たとえワッペンの力を持ってしても防ぐどころか、押し止めることもできない。


 シャボン玉が割れるように、風船を割る針のように、鋭い突きは兵士を貫かんとする。


「させるかぁっ!」


 そこへ数機だけであったが支援に来ていたポニーダッシュが変形したロボが盾を構えながら割り込む。


 だが、手に持つシールドで防ごうとするが、盾どころか盾を持つ腕ごともぎ取るように吹き飛ばされる。その攻撃で態勢を崩すポニーダッシュへと着地したアリクネーは、他の槍を横薙ぎして胴体を跳ね飛ばしてしまう。


「ぐはっ!」


 腕をもぎ取られて、物凄い勢いで壁へと叩きつけられるポニーダッシュ。強力なフィールドを持つはずであったのに、その効果はまったくなく、あっさりと叩きつけられて胴体をヘコませて火花を散らしながら倒れ伏す。


「よくもジンを〜!」


 他のポニーダッシュがチェーンブレードを展開させて、近接攻撃へと移行する。金属音が軋みをあげて、ポニーダッシュの持つ金属のチェーンが直剣へと変形し、アリクネーへと襲いかかるが、アリクネーは槍を交差させて受け止める。


 ギシリと音がするが、押し込むこともできずにポニーダッシュは動きを止めてしまう。


 その隙を見逃すはずもなく、アリクネーは残る腕に持つ槍を振りかざして胴体へと突き入れる。


 シュッとその鋭き速度からの突きで、風切り音がしてポニーダッシュは貫かれようとするのだが、ポニーダッシュのAIはその攻撃が搭乗者の命を奪うものであると判断して、後部装甲を開いて緊急時脱出させるのであった。


 ブシューと空気音がして、搭乗者が後部から弾き出されるのとポニーダッシュがバラバラになるのは殆ど同時であった。


 砕かれて破片が飛び散り爆発するポニーダッシュ。それを見た搭乗者が己の命を助けてくれたバイクへと悲痛な叫びをあげる。


「俺のデニーが!」


 だがその爆発は僅かにアリクネーの体勢を崩していた。それを見逃すほど実力のない騎兵隊の選抜された兵士ではない。その隙を狙い最後のポニーダッシュが咆哮をあげながら突撃する。


「隙ありだ、化物めっ!」


 チェーンブレードを構えてアリクネーへと突き入れようと全力をこめるが、人間部分のスラリとしたお腹へ突き刺さる寸前で、その動きはピタリと止まってしまう。


 パイロットはなにが起きたのかすぐに理解して、アリクネーを睨む。


「蟻の前脚かっ!」


 自身の失敗を悟るパイロット。さっきまで人間部分の四本の腕しか使わないから意識から外れていたのだ。その前脚がロボットの胴体を押し留めてそれ以上先へは進ませなかった。


「貫けっ、レンダー! フルパワーだ!」


 自分のバイクのAIへと命令をして出力を上げるが、ジリジリと押していくばかりであった。そうこうしているうちに、アリクネーは身体をふるわせて、人間であったなら美しかったろうすべすべの妖しい雰囲気のお腹をばかりと開ける。


 ミュータントに相応しく不気味な牙がゾロリと生えた口へと腹は変貌して、その口内には緑色の液体を溜めていく。


 すぐに吐き出された液体がポニーダッシュにふりかかる。フィールドが発生して空中で受け止めるが、ジュワッと溶かすような音がしてフィールドは消えていき装甲まで当たってしまう。


 そのまま装甲へと侵食を進めて溶かしていく様子にパイロットはその攻撃の正体を悟る。


「蟻酸かっ! だが、この威力は……」


 ポニーダッシュのフィールドを打ち破り、装甲を溶かしていくのは蟻酸であった。しかし通常の蟻たちが吐く蟻酸よりも比べものにならないほど強力な酸だ。


 慌ててチェーンブレードを引き戻して後退しようとするポニーダッシュを多脚で地面を蹴り、その巨体で体当たりをアリクネーはしてくる。


「うぉぉぉ! こ、こいつっ、戦いというものを知っている!」


 吹き飛ばされながらアリクネーの戦闘センスの高さに驚き叫ぶパイロット。地面をガシャンと大きな音をたてて転がりダメージアラートが鳴り響く。


 体勢を立て直そうと、立ち上がろうとするポニーダッシュ。だが既にアリクネーは目の前に間合いを詰めてきており、槍を振り上げていた。

 

 そのままアリクネーの目が赤く光り、豪風と共にロボットを打ち砕こうと振り下ろされる。


「う、うわぁぁぁ!」


 次の瞬間にはパイロットごと打ち砕かれると目を瞑るが………。


「あ、あれ?」


 いつまでたっても自分が砕かれる音はしなかった。なんでだと不思議に思いながら、ソッと目を開けると


 ギィンと槍と刀がぶつかり合う音をたてながら、一人の少女が空中で防いでいた。


 ジャンプして刀を繰り出したのだろう。滞空は僅かな時間であり、そのまま弾き飛ばされる少女。


「強力なミュータントを確認。撃破します」


 後ろから感情の籠もらない機械のような物言いで、されど可愛らしい女の子の声音がしたと思ったら、光り輝くナイフが数本アリクネーへと飛んでいく。


 アリクネーはそのナイフを槍で弾き飛ばしながら、後ろへと飛翔してまたもや壁や天井を足場に下がっていく。


 蟻の群れの後ろに下がりながら、こちらを睨んでくるアリクネー。


「どうやら未知の敵戦力が現れたから、後ろに下がって様子を見るつもりのようじゃな。なかなか知恵の回る敵じゃな」


 さらに後ろから老人が現れて、楽しそうに言葉を紡ぐ。


「さて、最初の敵としてはそこそこの奴じゃ。ちょうどよい、儂の作りし量産型よ! その力を見せつけよ!」


 両手を掲げてノリノリで叫ぶクーヤ博士。周りの兵士たちへとギロリと睥睨して


「下がるが良い雑兵たちよ! 儂の力を見る目撃者として!」


 アイコンタクトで、ゴーッとクーヤ博士の着ぐるみがバチンバチンとウインクをしてくる。


 なんだか楽しそうだよ、これはとむふふと内心でほくそ笑む遥。ナインも仕方ない姉さんですねとコクリと頷く。


 そうして二人でアリクネーと蟻の群れへと対峙して身構える。


「指示を了解。敵ミュータントの殲滅を開始します」


 呟き担当朝倉遥。もっともいらない職業だ。


「粒子エネルギー展開開始。戦闘開始」


 ナインも仕方ないなぁと、姉さんのごっこ遊びに付き合いますと付き合ってくれる心の広さを見せて。


 銀髪をなびかせながら、二人の戦闘は開始されるのであった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 地球を防衛しそうな叫び声しやがって……
[一言] うぉぉぉぉ!WDF!WDF!!
[一言] >>コテンと可愛らしく首を傾げて尋ねてくるナイン。 こわっ! ナインの瞳に光はありますか……? ナインに胸がないなんて、神の恩寵はなかった。 つまり神は存在しないってことなんだな!
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