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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
21章 仲間たちと旅をしよう

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350話 女王蟻と戦士たち

 大渓谷の大地が揺れて地面に無数のヒビが入っていく。大地震かとおもうほどの揺れであるが、局所的な揺れであり目の前にある森林はそれ程揺れていない。発生源がこの渓谷内に、しかも渓谷の地面のさらに地下にあることが推察できる。


 轟音と共に光の柱のようなビーム砲が地下から吐き出されて、空を切り裂いていく。その力により雲は裂けて、紫電が走っていきなにかが焼けたような匂いが周囲へと伝わる。


「なんだいありゃ?」


 コマンドー婆ちゃんはバイクに跨がり滞空しながらその様子を息を呑んで見つめる。なぜならば地下から巨大な蟻が這い出てきたらだ。


 前脚を地面に引っ掛けて、身体を押し出すように地下から出てくるのは巨大すぎる蟻であった。


「凄いんもんだな、空母よりもでかいんじゃないか?」


 お爺さんが言うように遠近感を混乱させる大きさの蟻である。全長500メートル、高さ30メートル程の巨大な体格をしており、外骨格は真っ赤な血のような色をしている。下半身は引き千切ったような跡があり、そこから緑色の血を流していた。


「どうやら女王蟻の出番と言ったところか。子供を殺されて頭にきたか?」


「そんな知恵があるとは思えんが」


 その巨大な蟻の存在に驚きつつ話し合うが、風のお爺さんが指を指して呟く。


「少し面倒だぞ、あの下半身についている瘤を見ろ」

  

 厳しい声音で話す先には女王蟻の下半身が見えており、そこについている無数の瘤を見て舌打ちをするコマンドー婆ちゃん。


「人間の盾持ちとは、なかなか狡猾じゃないか。嫌になる敵だね」


 苛つく声音で答えるコマンドー婆ちゃんの視界には瘤に閉じ込められた人間たちが目に入ってきた。


「プラー。あれは生きているのかい? それとも死んでいるのかい?」


「解析したところ、生命反応あり。全て生きていると思われます」


「……そうかい、これは厄介だね」


 いくら強力な砲撃でも精密さは望むべくもない。たぶん蟻ごと破壊することになるだろう。残念ながら助けられはしまいと嘆息をする。


「頭にもいるが、あれは本体みたいだな」


 もう一人のお爺さんが自分たちよりも巨大な蟻の頭を観察して周りに告げる。


 たしかに蟻の額らしきところに、宝石のような物が埋め込まれており、その中に下半身を蟻の体内に埋め込まれている女性の姿があった。


「あれを狙えば良いってことかい? わかりやすい弱点ではあるね」


 あからさますぎて罠にも思える様子だ。警戒心を跳ね上げる。


 コマンドー婆ちゃんたちが話し合う中で、身体を震わせ歩き始める女王蟻。一歩脚を進めるごとにズシンと地面にヒビが入り、身体を沈み込ませるように歩く。


「罠でもなんでも試さなきゃわからないさね」


「空中戦艦の砲撃を跳ね返しているみたいだぞ? 儂らで倒せるか?」


「とりあえずは隙だらけだ。狙わせてもらおう」


 空中戦艦からの砲撃は空気を歪め、女王蟻へと散発的に当たっているが、女王蟻は障壁を周囲に張ってるのだろう。少し女王蟻から離れた場所で空気が爆発していき、爆風が辺りへと散っていくのがわかる。


「荷電粒子砲スタンバイだ! 目標敵の額にある宝石さね!」


「了解しました。荷電粒子砲スタンバイ、エネルギー充填は完了しております」


 ガシャンとバイクから海老の鋏が展開されて、その鋏の間に紫電が走って光が集まっていく。


 他のお爺さんたちのバイクも同じように鋏を展開して狙いをつけている。


「よし、一斉発射だ。合わせなっ!」


 頷きで返すお爺さんたちを確認してコマンドー婆ちゃんは荷電粒子砲を発射させる。視界が眩しい光で覆われて、空気を焼きながら正確に蟻の頭へとビーム砲は向かう。先程羽蟻の障壁を物ともせずに倒したビーム砲だ。


「駄目か!」


 しかし、その強力であるはずのビーム砲は蟻へと命中する寸前に空気の波紋が生まれて、軌道は捻じ曲げられてあらぬ方向へと消えていく。


 しかし攻撃されたことは理解したのだろう。宝石の中にいる女性が目を見開き、口が裂けるような大きさで広げられて叫び声をあげる。


「ミンナ……ミンナ……死んでしまえばいい!」


 憎しみのみで象られたようなおどろおどろしい声音で叫ぶ女性の声、元は美女だったかもしれないが、その相貌は憎しみに満ちて歪んでおり、般若のような有様であった。


 そうして女王蟻は自分の胴体からポロポロと鱗のように皮を剥がす。六角形の鏡のような無数の皮はふわりと浮いて周囲へと広がり滞空する。


 その行動に眉を顰めるコマンドー婆ちゃん。均等に広がるその皮は今までの経験から心が警鐘を鳴らす。


 見ると皮が剥がれた胴体には透明な突起があり、内部で光を湛えていた。なにをするのかを理解したコマンドー婆ちゃんは叫ぶ。


「散開だ! あの攻撃はヤバイよ、皮の近くからも離れるんだ!」


 すぐさま身体を斜めに、車体を傾げて加速させて離れようとするが、その行動は遅かった。


「シネバイイー!」


 波紋のように声を響かせる女王蟻。その叫び声に呼応して胴体の光を集めていた突起から無数のレーザーが発射される。


 ハリネズミのようなビームの嵐。空間を光の軌跡が走り、まるでライトアップされたなにかのイベントのように周囲が輝く。


 されどその光はライトアップされた力なき光ではない。その光を受けた大木は簡単に切り裂かれて、砂煙を巻き起こして大地に深い傷跡を作っていく。


 コマンドー婆ちゃんたちはその攻撃を死の予感を感じて、身体をずらして回避しようとする。今までの戦場で培われたその感覚に従い滞空するバイクをずらして回避すると、その横に光の軌跡が残る。ビームは滞空している鏡のような皮に命中すると、鏡の役目を果たすようにビーム砲を弾き返してその軌道を変えて切り裂く軌道を増やしていくのであった。


「ちいっ! アニメから出てきた敵さねっ!」


 鏡の皮により敵の手数が増えた事を罵りながら、バイクを動かしていくが無数の光はコマンドー婆ちゃんたちを追ってくる。


「ぬぅっ。これはまずいぞっ!」


「耐えろっ! 数秒で終わるはずだ!」


 慌てて叫ぶお爺さんズだが、回避しきれなかったビームがバイクの後部を僅かに切り裂く。ブラックタイガーにも強力なフィールドが貼られているはずなのに、まるでフィールドなどなかったように切り裂いていくのを見て、舌打ちするコマンドー婆ちゃん。そのコマンドー婆ちゃんも光に追われて、ブラックタイガーの鋏を片方切り裂いてバランスを崩す。


 数秒の時速時間での攻撃であったが、体感では多くの時間を費やしたと感じたコマンドー婆ちゃん。お爺さんのバイクも破壊されて落下していき、途中で火を噴きながら爆発するのが目に入る。


 風のお爺さんが破壊されたバイクから飛び降りて、それを見た火のお爺さんが手を伸ばす。


「つかめっ!」


「おうっ」


 バシリと力強く手を握り、身体を起こして火のバイクの後部に乗る風のお爺さん。


 他の面々も少なからずバイクにダメージを負っていたが、なんとか墜落は防いでいた。


「うわぁ! アルファチーム、撃墜されました!」

「こちらブラボー、緊急脱出を行う!」


 その光は接近していた援軍のヘリにも攻撃を仕掛けており、あっさりとヘリを貫き、切り裂いていき、次々と撃墜していく。パイロットの叫び声が通信に入り、ヘリから脱出する兵士たちがパラシュートを広げて落ちていくのだった。


「まずいぞっ! 敵の口内を見ろっ!」


 周囲の敵を倒したと判断したのだろう。女王蟻はその口内を大きく開けて、光を凝集させていくのが見えた。


 その口内を向ける先には森林と茨があり、その更に向こうには逃げる避難民の人間が見えた。人間を殺そうと言うのだろう。先程、地下から放たれたときの威力を考えると、多くの人間が犠牲になるのが簡単に理解できる。


 その女王蟻の周囲には空間の揺らぎが発生してフィールドがなにかの攻撃を打ち消しているのがわかる。轟音を響かせずにただ空間の揺らめきがあるだけだが空中戦艦から攻撃がひっきりなしに攻撃が行われているのだ。


「女王蟻のフィールドはエネルギー兵器無効化の力を持っていると推測。推奨兵器を物体弾に変更するように忠告します」


 プラーが敵のフィールドを解析したのだろう結果を報告してくる。エネルギーとはと歯嚙みをするコマンドー婆ちゃん。たしかに強力な兵器となるのがエネルギー兵器だが、それを敵に防がれては元も子もない。


 口内に凝集される光が放たれんと、さらに女王蟻の口が大きく開く。人々の命は風前の灯火になった時に、前方から1機の空中バイクが駆けてくる。


 森林の上空にてそのバイクは変形しパイロットを包むロボットへと変形していき、特注品なのだろう大型のヒーターシールドを身構える。


「うぉぉぉぉ! この後ろには通さんっ!」


 必死の声音で叫びながら立ちはだかるのは仙崎であった。それを見てコマンドー婆ちゃんたちは悲痛な表情で口を歪めて呟く。


「馬鹿がっ! 若造があの小さな盾で巨大なビーム砲を防ぐつもりなのかっ」


 命をかけて防ごうとでも言うのだろう。不退転の様子なのは見てわかる。その行動を見て無駄だと理性では判断するが感情では防いでくれと願う。ついに自分も神に祈る時が来たかとコマンドー婆ちゃんが考える中で、女王蟻からは巨大な光の束が撃ちだされる。


 その光は恐ろしい輝きで、網膜を焼くような眩しさをもって、仙崎のいる場所を狙い定めて発射されていた。


「シネシネシネ~!」


「うぉぉぉぉ。シールド出力最大だ!」


 仙崎がその光の束を受け止めんと叫ぶ中で、光に周囲は覆われて何も見えなくなるのであった。


 数秒間は続いた光は消えていき、眩しさで目から涙がでるのを拭いながら、コマンドー婆ちゃんは結果を確認する。恐らくは無駄にまた若い者が死んでいったのだろうと思いながら。


「はっ! あの若造は運が良いみたいだね」


 だが、次に目に入った光景は予想外であった。仙崎が乗るロボットはボロボロであちこち焦げてはいたが、盾を構えたまま滞空をしていたのだ。


「やりおったな、小僧!」


「うむ、見事だ………」


「そうだな。奇跡というものを見せてもらった」


「酒の肴が増えたな。英雄伝説を儂らは見たわけだ」


 それぞれお爺さんたちが通信を仙崎に向けて、褒め称える。あの光の攻撃を防いだのだから、たいしたものだ。しかも生きているのだから。


「いや、俺は邪魔だっただけのような感じですよ? ちょっと皮肉気に言わないでもらえませんか?」


 仙崎が通信に困惑したような表情で返信してくる。たしかにそうかもなと、ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべる老人ズ。


 なぜならば仙崎は森林から突如生え伸びてきた茨で覆われていたのだ。茨は今の攻撃を防いだのが原因だったのだろう。ボロボロと砂のように崩れていき、その砂塵は周囲へと散っていく。


「なるほど、自動防衛網としてはなかなか優秀な茨だな」


「あぁ、だが一撃で消えてしまったようだがな」


 茨は敵の強力な攻撃を防ぐべく、急遽生長したと思われる。グングンと伸びていき壁は木よりも高く、そして広大な領域を覆っていた。


「ちょっと俺は道化じゃないですか?」


 と羞恥で顔を真っ赤にする仙崎にコマンドー婆ちゃんはニヤリと笑い、教えてやる。


「いや、命を懸けたんだ。坊主の行動は人を感動させるだろうさ」


 たしかに茨があったのだから、無駄な行動ともいえる。たんにロボットを小破させただけに結果はなるだろう。だが、その行動は茨の存在を知らなかったものだ。それはきっと上空を見上げる避難民も兵士たちの士気を高くするだろう。紛れもなく英雄的行動ではあったのだ。


「まぁ、命を無駄に懸けたんだ。アタシたちは認めやしないがね。次もあんな行動をするなら、アタシらが先にあんたを殺してやるから覚悟しなっ!」


「はぁ、ですが同じ状況になったら俺は」


「同じことをする? それは言い訳だな。その前に自身にできることを考えろ。それが指揮官の条件だ」


 厳しく他の爺も真剣な表情で忠告する。老人よりも先に若い者が死んではならないと全員が思っている。こんな崩壊した世界だからこそ。


「それよりも女王蟻をどうするかだ。また次の攻撃がきたら耐えられんぞ!」


 土のお爺さんが周囲へと注意を促す。たしかにたった一発の攻撃を防いだだけなのだから。


 女王蟻は今の攻撃を連発できないのだろう。ゆっくりと足を進めるだけで攻撃を再開する様子はない。


「コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル」


 ただ、女王蟻の額についている女性が周囲へと聞かせるようにその呟きを響かせていた。


 どうしようかと考えるコマンドー婆ちゃんたち。そんな困った状況でモニターにおっさん少女が映る。


 悪戯そうな表情で


「ムフフ。お困りのようですね。もしかして超艦長の朝倉レキの助けが必要ではないでしょうか?」


 ブリッジにようやく辿り着いた遥たちはようやく艦長席に座り、その様子を確認していたのだ。


「アホ娘。元気になったようには見えないね? なんでそんな立派な席に座っているんだい? そこは四季とかいうエリートの娘に座らせておきな。あんたがいる場所は医療室だよっ!」


 コマンドー婆ちゃんの怒気が混じった怒鳴り声に、遥は内心で怖いなぁ~とプルプル震える。怒られるのは苦手であるのだ。まぁ、普通の人たちは苦手であろうが。


 コマンドー婆ちゃんはその中でもかなり怖い。近所の怒りんぼお婆ちゃんといった感じ。まぁ、そんなお婆ちゃんは昭和でいなくなり、平成の時代ではカミナリオヤジと同じぐらい人権やなんだと肩身を狭くしていたのだが。


 崩壊前は近所の子供に怒ることもできないおっさんだ。だって、怒ったら両親が現れて、なぜかこちらが悪人にされる可能性があるしねと、当時のそのような体験談をニュースで見てて、さもありなんと思っていたので。


 崩壊後の若木シティは昔ながらの怖い老人が現れているかもなぁとも無駄な考えをいつも通りにしながらコマンドー婆ちゃんの問いかけに答える。


「わ、私が艦長なんです。ほら、艦長服も着ましたし、かっこいい帽子も貰いました」


 キャッキャッと無邪気な笑顔で艦長服を見せつけようとして、身体をふらつかせて机に手をついちゃう。やはり身体は限界らしい。


「アホ娘っ! 服の自慢は後でしなっ。さっさと席を譲るんだよっ!」


 なぜ疲れ切っているアホ娘を艦長席に座らせるのか、嫌な予感を感じながらコマンドー婆ちゃんは怒鳴る。きっと碌でもない理由だ。疲れ切っている少女をこき使おうとしている。しかも尋常ではない方法で。


 そのために席を譲って、医療室へと行くように怒鳴るが、その提案をレキが聞かないであろうことも予想をしていた。


「ダメなんです。この艦の力を最大限に使用するには私がコアにならないと」


 青白い顔をさせながら、やはり碌でもないことをレキが言うのをコマンドー婆ちゃんは苦々しく聞いた。


 相変わらずアホな娘だと悲しい想いをしながら。 

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回のオリジナルミュータントはなんか闇深い過去がありそう…。普通の小説だったならね! でも多産+美人+闇、とかバッドエンド後しか想像できないよね。
[一言] 仙崎は柿崎じゃないので助かりました。 しかしばあちゃんに余計な心配ばかりかけて後が大変そうだ。
[一言] おばあちゃん視点の悲壮さとおっさん少女本人視点のギャップが毎度面白い
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