33話 謎の商人をしようとするおっさん少女
閑静な住宅地。住んでいる人たちの人種は中流階級が多いだろうか。いつもはおしゃべりなおばさんたちがお互いに、家の旦那は稼ぎが悪くてと愚痴を言い、私の旦那もよと相手が返答すれば、あなたの旦那よりもうちのほうが稼いでいるわと、心の中で反論している仲の良い風景が見られるだろう。
その中で一際大きいここらへんではあり得ない豪邸がある。庭付き、ガレージ付き、家庭菜園付き、隣五軒を侵食済みのオシャレな煉瓦風の豪邸である。平時ならおばさん連中の嫌がらせに遭いそうな豪邸であった、
遭いそうなというか、おっさんと美少女とメイド二人で住んでいたら確実に悪いことをして稼いでいるんだと噂されることは間違いない。多分通報もされるだろう。
そんな豪邸である家の中、でかい液晶テレビとドーンと部屋の真ん中に設置されているガラスでできている綺麗なテーブル。フカフカな高級そうなソファもあり、それでも人がゴロゴロと寝っ転がることが余裕でできるリビングで、レキぼでぃは床に敷かれている毛の長い絨毯に包まれて、実際にゴロゴロしていた。
小柄な美少女がゴロゴロしている姿はとても可愛くて、愛でてしまうこと間違いなしである。実際に銀髪メイドは、これでご飯三杯はいけますと、うるうるした目をして眺めていた。
おっさんがゴロゴロしていたら、確実に家族に粗大ごみに出されること請け合いなので、美少女とは得である。
そんなゴロゴロしているレキぼでぃの使い手。どんなに強いキャラを使用しても、中の下ぐらいの力を発揮できる優秀なおっさんである遥は、いつの間にか家具が豪華になっているなぁと周りを見ながら思っていた。
どうやら我が家の可愛いクラフト担当の金髪ツインテールは、全委任された腕を振るって、どんどん家を豪華にしているらしい。
我が家の家計は業火だぜと、知らない間に減っていくマテリアルを見ながらつまらないおっさんギャグを心の中で呟きながら遥はボンヤリとそう思った。
ナインの全委任を解除しようとすると涙目になられてしまうので、止められないおっさんであった。
まぁ、代わりにナインの頭を撫で撫でできるし良いかと、完全に貢ぐ駄目なおっさんに声がかけられた。
「マスター、大丈夫ですか?」
心配したナインが遥に聞いてくる。
「ゴロゴロしたいお年頃なんですよ。ゴロゴロさせておきましょう」
と、サクヤも言ってくる。
それを聞いてやっと起き出した遥である。
ヒョイと起き上がり、レキぼでぃの眠そうな可愛い目でメイドたちを見ながら問いかける。
「おっさんぼでぃでは、冒険は無理だね」
昨日、おっさんぼでぃで見事にゾンビたちに群がられて食われた、それはもう見事なやられ役の演技ができたおっさんである。
もうおっさんぼでぃでは、冒険はしないと固く誓ったのだ。たとえ蘇生できても、痛いものは痛いのである。
「そうですね、レキ様を引き立てるお笑いシーンとしてしか役に立ちませんでしたね」
辛辣なサクヤである。できるだけおっさんぼでぃにしてほしくないであろうことは間違いない。
しばらく家の中では、おっさんぼでぃのままにしてやると遥は思いながら更にメイドたちに問いかけた。
「何か良い方法はないかな?」
プライドが無いことには、定評があるおっさんである。メイドたちに低評価をされても、良い意見を貰えればそれでいいのである。
サラリーマンの出世にプライドはいらないのである。常にプライドはバーゲンセール中なのだ。
「そうですね。先ずは機械操作のスキルを取得することをおすすめします」
ナインが窓の外を見ながら意見を言う。
外にはレキぼでぃが回収した給水車が他の家に突っ込んでいるのが見える。最早保険会社は遥を自動車保険に入れてくれないだろうこと請け合いである。
仕方ないのだ。レキぼでぃは運転系のスキルは無いんだよと散々暴走しながら帰ってきたおっさんは言い訳した。
「その通りです。なので運転スキルよりかは下手になる運転となりますが、他の様々な機械の操作も可能になる汎用的な機械操作スキルをおすすめします」
優しい笑顔で勧めてくれるナインである。可愛い女の子から邪険にされなかったおっさんは嬉しく思いながら、その内容を検討することにした。
珍しく自分で判断しようとしたのである。スキルポイントが勿体無い訳では決してない。
「機械操作スキルは良いと思うけど、謎の行商人スタイルはどうしよう? 仮面は必要かな?」
謎の行商人をやりたい遥である。そして何故か仮面にこだわるおっさん。
「はい。それらを上手くできるスキル構成があります」
なんとできたサポートキャラなのだ。おっさんの判断はいらないねと安心して続きを聞く遥。
「機械操作lv2と人形作成lv2を取りましょう。お客との対応は機械人形を作成してやらせるのです」
ふんすと、ドヤ顔になる時々見せる子供っぽさが可愛い金髪ツインテール。これ幸いと、素晴らしいと褒めながらナインの頭を撫でて愛でる遥。
おっさんは常にナインの頭を撫でるチャンスを狙っているのだ。
だが疑問に思うこともあった。
「ん? 良い考えかもしれないけど俺の持ってるスキルポイントは3しか無いよ?もう1レベル上がるまで待つの?」
それは嫌だなぁと考える遥。洋ゲーみたいな経験値取得システムなので敵を倒しても、カスな経験値しか手に入らないのだ。レベルを上げるには、ミッションをクリアしまくるしかない。時間がかかりそうだ。
因みにミッション報酬も3倍となっているおっさんに優しい仕様である。課金パワーとも言うかもしれない。
「大丈夫です。マスター、駅前ダンジョンクリア時のアイテム報酬を使いましょう」
解決策を教えてくれるナイン。
「アイテム報酬?」
そういえば、駅前ダンジョンクリアの報酬は経験値だけでは無かったかと思い出してアイテムポーチを見てみる遥。
「スキルコア?何これ?」
報酬にも常に3倍が適用されるので、スキルコアも3個あった。
「スキルコアはスキルポイントが1増えるアイテムです。全部使えば、マスターのお持ちのスキルポイントは6、私が提案したスキル構成になります」
偉いでしょ偉いでしょ。褒めていいですよ。頭も撫でていいですよと可愛いことを言いながらナインは返答した。
ナインに合わせて、私も偉いでしょ。胸を揉んでもいいですよ。お互いに揉み合いましょうと訳のわからない幻聴が銀髪メイドがいる辺りから聞こえたような感じがしたがスルーである。
「なるほどねぇ。これなら問題ないな」
と遥はナインに答えたが、心中は複雑であった。
単純にスキルコアを使いたくなかったのである。力の種もスキルの種も使いたくないのだ。アイテム袋に入れたままにしておいて、こんなに自分は集めたんだとニヤニヤしたいおっさんなのである。賢さの種は自分に使ったほうが良いだろう。
でも、まぁ仕方ないかと渋々使うことに決めた遥である。これを使わないと、またハードモードなおっさんの冒険をプレイしないといけない感じであるからして。
痛いのは嫌な、心の弱いおっさんである。
アイテムポーチから取り出すと金色のクリスタルであった。ライトマテリアルの光とはまた違う。クリスタルの中は淡い光がキラキラと輝いていて美しかった。
これを使うのかぁと残念なおっさんであるが、思い切って使うことにした。
パソコンを店員さんの勧められるままに、高額の物を思い切って買う遥である。吹っ切れた後は速かった。
すぐに残りの2個も取り出して使っていく。スキルコアは光の粉となり崩れ去ってレキぼでぃに吸い込まれるのであった。
因みに思い切って買った高額のパソコンは、おっさんは動画しか見ないという使い方をしており、フルにその高性能を発揮させています。
「良し!スキルポイントが6になったぞ。続けて機械操作、人形作成lv2取得!」
やっぱりスキル一覧から探すのは面倒な遥は可愛いレキぼでぃの可愛い声で、スキル取得を叫ぶ。
ステータスに取得したスキル名が出てきたのであった。
「おめでとうございます。これで謎の行商人ができると思います」
パチパチと、可愛いお手手で拍手するナイン。いつものことなので、同じく可愛いレキぼでぃのお手手で拍手を一緒にしたのであった。尚、その時の銀髪メイドの行動もいつもどおりであった。
「では、ライトクリスタル、アイアンマテリアルを使用して機械人形を作成しましょう。キャラ造形は私がしておきますね」
ニコリと笑って、遥のセンスが無いことを知っているナインはキャラ造形は自分でやりますと権利を奪い取っていった。
おっさんも自分のセンスには自信がない。多分適当に造形することは確実である。現実世界で遠目に見たら可愛いかもと言う適当さで造形されたら、機械人形が反乱一直線なのは間違いないであろう。
なので、ナインに造形は任せることにして遥は機械人形スキルを発動させるのであった。当然ナインが勧めたアイテムを持っているかは確認しない。たとえナインに豪華な家具を作成され続けても、未だに倉庫にはたくさんのアイテムがあるのだ。中身なんておっさんが覚えているはずは無いのである。
作成一覧の機械人形の項目がグレーアウトになっていないので作成できるでしょう、という適当な考えである。
実におっさんらしい考えであった。
機械人形作成を選択したところ、リビングは強烈な光に包まれて眩しくなる。光がおさまっていくと一人の少女が出現していた。
どこかで見たことのあるコントローラーを持って。