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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
21章 仲間たちと旅をしよう

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338話 おっさんの大樹育成

 広大な大地にはたくさんの家屋や工廠が建ち並び、多くの兵器群が駐留している。しかも近代的どころか近未来的な家屋や工廠だ。空中には様々なボートやバイクが飛んでいき、宙には色とりどりのウィンドウが映し出されている。


 まるで漫画の世界に迷い込んだ様な光景であるが、その中でも際立って目立つのが中心近くにそびえ立つ大樹であった。普通の樹木と違い高層ビルよりも高く、そして中に人が家を作って住めるほどの大きさであった。


 しかもその樹は半透明のまるでよくできた水晶の彫刻のような、いや、それ以上の細かさでできていた。木の葉は宝石のように煌めきながら、なぜか一枚たりとも落ちる様子はない。その周辺では常に快適な温度を保っている。


 周りはSFじみた世界なのに、この大樹の周りはファンタジーの雰囲気だ。ちぐはぐな世界感だが、なぜか上手く融合している光景であった。


 まぁ、くたびれたおっさんの庭なんだけど。そう言われると有り難みが一気に薄れるのは気のせいだろうか。


 その大樹を登った頂上付近、葉の一枚でもその大きさから乗れるほどの場所に一際輝かないくたびれたおっさんが立っていた。


 周りにはハーレムかというほどの色々な美女、美少女が集合しているが、くたびれたおっさんはその中心にいながら、アイドルのマネージャーさんですか? と聞かれるぐらいに脇役の雰囲気を出していた。まぁ、くたびれたおっさんなので間違いではない。ハーレムの主人ですか?とは絶対に聞かれないだろう。


 そんなくたびれたおっさんこと、朝倉遥は作り上げた6個の祭壇に囲まれた中心に立っていた。手には拳大のオーブを6個持っている。


 つんつんと指で触りながら、触った部分を顔の前に持ってきてしげしげと眺めてから安心したように息を吐く。


「どうやらオーブのペンキは乾いたみたいだね。良かった良かった」


 おっさんの手の中にはベタベタと汚く塗られた水晶玉が存在した。どうやら雑にペンキを塗った様だ。元は綺麗なオーブであったが、皆半透明でガラス玉っぽかったから、ペンキを塗って色を無理やり変えたアホなおっさんである。レキでやれば良かったとあとから後悔したのであったが、時すでに遅し。


 だってオーブなんだから色は変えないとねと遥は考えたのだ。だからこれはカラフルなオーブに決定。塗り跡がムラがあっていまいちな感じだが遠くから見れば問題ないだろうと、目の前でオーブを持っているおっさんは考える。実にしょうもない妥協の仕方であった。


 祭壇はそれはもう美しい意匠を凝らした物が置かれている。ファンタジーの世界ならばどんな神器ですかと聞かれちゃうかも。


 遥はそう思いながら、オーブを掲げて周りへと聞こえるように叫ぶ。周りにはサクヤやナイン、ツヴァイたちが真剣な表情で見てくるので、少し声がうわずったりもしてしまう。


「オーブよ、いまこそ大樹への道……じゃなくて、道で良い? 橋じゃないの? あ、そうなんだ」


 ナインがこしょこしょと耳元へ唇を近づけて注意を促す。ふ〜っと耳へ息を吹きかけるのも忘れない小悪魔なナインであったりした。可愛いなぁ、このメイドはと思わずにやけてしまうおっさんだ。そしてまったく決まらない遥である。


「まぁ、道も橋もかからないけど、そこらへんは忖度してくれたまえ。儀式を続けるね」


 なにを忖度しろと言うのだろうか。たぶんおっさんは忖度の意味を履き違えている可能性大。


 そしてぶっちゃけすぎであるが、今回の儀式はボタンをポチリで終わる内容なのでなにをしても実際は変わりはない。雰囲気は大事だよねといい歳をしたおっさんがごねた結果、こうなったのであるからして。


 なにしろ今回の儀式は大樹育成なのだから。


「太陽のように燃える紅き力を感じるレッドオーブ解放!」


 ベタベタと塗りすぎて、ゴテゴテとした感触となっている自称レッドオーブを、まるでルビーで全てができているような美しい意匠も彫られている祭壇に遥がのせると、祭壇がオーブに反応して天空へと紅き光の柱を生み出す。


「清き水、その母なる海の力を感じるブルーオーブ解放!」


 同じように青く輝くサファイアのような祭壇に遥がゴテゴテとした感触のブルーオーブをのせると蒼き光が天空へと生み出される。


「癒やしと安らぎの力を感じるグリーンオーブ解放!」


 エメラルドの輝きを灯す祭壇にグリーンオーブが置かれると緑色の光が天空へと柱を形成する。


「お腹が空いたらカレーだよ、イエローオーブ解放!」


 トパーズの輝きを持つ祭壇がオーブの力を黄色の柱へと変えていく。


「紫色という意味のパープルオーブ解放!」


 段々と飽きてきたおっさんは適当な文言でアメジストの光が煌めく祭壇にパープルオーブを置いて紫色の柱を作る。


「シルバーオーブ解放!」


 最後はなにも言わずに、しるばーと黒いマジックでデカデカと書かれているみかん箱へと置くのであった。


「……ねぇ、なんでシルバーオーブだけみかん箱なの? なんだかおかしいよね? すごいおかしいよね?」


 ギギッと首を後ろに動かして硬い口調で尋ねる。これはなくない?


「すいません、マスター。祭壇の内の5つは私が作ったのですが、最後の一つは私が作ると姉さんが………」


 後ろからおずおずとナインが申し訳なさそうに言うので、犯人へとジト目で尋ねる遥。


「サクヤさんや? すこ〜し、この祭壇おかしくない? 勇者が見たらびっくりの祭壇じゃない?」


 その視線を受けて、サクヤは悲しそうに顔を俯けて、両手で顔を覆い、泣くような声で哀願する。


「が、頑張って作ったんです……よ、夜なべしながら作ったんですよ。春の採れたての旬の山菜鍋は美味しかったですね」


 その極めて嘘くさい演技を見ながら、呆れてツッコミをいれるおっさん。


「夜なべは夜中に鍋をつつきながら、内職をすることじゃないからな! 私の分の鍋は?」


「手作りですよ? こんな美少女が作った手作りです。ご主人様だって、祭壇を作れと言われたらこうなると思いますよ。ほら、心の目で見てください。きっとシルバーに輝くダンボール箱が映るはずです。あと、山菜鍋は全部私が食べました」


「ダンボールって、言っちゃった! 酷い言い草だ! そりゃ、私は不器用だからダンボール箱になると思うけどさ。あと、山菜はどこで手に入れたの? あんまり好きじゃないけど食べてはみたいよ」


 私も山菜鍋を食べたい。あんまり好きじゃないけど、やっぱり旬と言われたら気になるのだ。お肉たくさんで食べてみたい。


 さらにサクヤが山菜の入手方法を伝えようとしたところで、パンパンとナインが手を叩いて空気を戻す。


「そこまでにしてください、マスター、姉さん。山菜鍋は牛肉たっぷりであとで作りますので続きをしましょう」


 にっこりと微笑む可愛らしいナイン。だけれども、もしかしたら目が笑っていないかなと遥は気づいて儀式の続きをすることにした。あと、山菜鍋に牛肉たっぷりだと山菜鍋じゃなくなるけど、そっちの方が嬉しいので、さすがはナインと喜んじゃう。まだまだ若いと、脂身は多少苦手となったが肉は好きなおっさんだ。だいたい自分が若いと言う人間は歳を重ねている場合が多いのだが。


 ダンボール箱から銀色の光の柱が生まれたのを確認して、魔軍司令が見たら泣くだろうなと思いながら、いや、ゲームではシルバーオーブは鳥の巣にあったから、最初から扱いが酷かったなと余計なことを思いながら大樹を仰ぎ見て叫ぶ。


「いでよ、ドラゴン!」


 サクヤが横から叫んできたので、ひょろひょろの蹴りを入れて後ろに下げる。全然びくともしていない上に簡単に受け止められるのが悔しかったり。


 まぁ、わかるけど、言いたいのはわかるけど、そろそろ遊びすぎでナインやツヴァイたちから怒られちゃうでしょ。


 ぎりぎりの怒られないラインを考えないと駄目だよと、最初からこずるい考えをしているおっさんがここにいた。


 ふぅ、と息を整えて気を取り直して遥は叫ぶ。


「大樹育成! レベルアップだ!」

  

 後ろにいるナインがわかりましたと小さく呟いて、ポンポンと宙に浮くモニターをタッチすると、オーブが浮かび大樹へと吸収されていく。


 そう、レキぼでぃではないので、おっさんは育成スキルは使えないのだった。本当に役立たずなおっさんである。おっさんの姿で儀式をしたいがためにここまでやったのに。


 まぁ、常日頃から粗大ゴミと存在価値を争うおっさんである。その子犬にも負ける強い心で駄々をこねたのだ。さすがはおっさん。さすおさだ。


 そんなおっさんは放置して、大樹はオーブというか、宝珠を吸収して、その巨大な威容を震わせる。空気が震えて、世界が揺らぐようになり、枝葉が輝き始める。


「目が〜、目が〜」


 とコロコロ転がる銀髪メイドはこの間やったギャグでしょとスルーして、遥はその壮大なイベントを眺めて感動する。


 キラキラと大樹が光り輝き、その光が半透明の枝葉や大樹の内部から、まるで砂金が零れ落ちるように流れ出てくるのだ。


 その粒子は砂塵の如く、周囲に拡がり吹き荒れるが物質ではないのであろうか。体に当たっても痛くはなく、ほんのりと暖かいだけだ。ただ少しばかり綺麗な光景であった。


 遥にとっては。くたびれたおっさんにとってはその程度であった。ただし砂金の如く風にのり飛んでいく粒子の光景は凄く美しかった。


 周囲に拡がり、そして風にのって吹き荒れて散らばっていく粒子をぼんやりと眺めたあとに、その光景が感動ものであったためサクヤたちに感想を言おうと振り向いて


「あれ? なんでツヴァイたちは泣いてるの? というか跪いているの?」


 首をごきんと傾げて尋ねる。なぜかツヴァイたちは泣いており、跪いて遥の方を向いていたからだ。訳がわからない、あの粒子は唐辛子だったのだろうか?


 そんなアホな考えを持つ遥へとサクヤが呆れたように声をかける。


「ご主人様、さすがに唐辛子はないですよ。あれはカレー粉でもないですからね」


 相変わらずサクヤはまたもや遥の心を読んだらしい。そんなことは少ししか思っていないよと耳を澄ますと


「あぁ、体に暖かい力がみなぎってきます。まるで乾いた器に注がれた美酒のようです。これが司令のお力なんですね」

 

「凄いです、今までよりも遥かに司令を近くに感じます」


「私の身体が隅々まで把握できたことを感じます。これまで以上に力を感じます」


 どうやら嬉し泣きらしく、感涙しながらツヴァイたちはそれぞれの感動の言葉を紡ぎ、遥を敬うように跪く。


 おっさんは皆が口々に力が〜とか言っているので、ひとしきりきょろきょろしたあとに空気を読むことにした。


「うぉぉ、おらの力がみなぎってくる。これがおらの潜在能力?」


 手をわきわきと動かして、ちょっと腰を落として力を入れているように振る舞ういい歳をしたおっさんがそこにいた。


「マスター? この光り輝き周囲へと力を与える粒子はマスターのものです。マスター自身にはまったく効果がないですよ?」


 ちょっと気の毒そうな表情になり忠告してくる金髪ツインテールに、遥はじわじわと顔を赤くして羞恥するのであった。あほなくたびれたおっさんという新たな属性が手に入ったのかもしれない。


「ブフッ。ご主人様、おらの力がなんでしたっけ? プークスクス」


 クスクスと笑う銀髪メイドへと、悔しさと恥ずかしさを隠してこの現象を聞こうと真面目な表情で聞く。人はそれを話を変えて誤魔化すとも言うかもだが。


「で、なぜこんなことに? これはどんな現象?」


「ナインが言ったとおりに、これは神化が深くなったご主人様の力が周囲へと流れていったのです」


 サクヤも真面目な表情になり、両手を広げて言葉を続ける。それはまるで天使のような優しさを感じさせて。


「世界にこの光は流れていくでしょう。今は一粒の光かもしれません。しかしこの崩壊した世界で人々は心に良心が灯るでしょう。この世界を少しばかり優しい世界にするために心を強くするでしょう」


「眷属たちも、近くに住む人たちもその影響を多大に受けるはずです。能力が仄かに上がり、その善良なる心にさらなる光を灯して。全てマスターの力です」


 ナインもサクヤに合わせて歌うように言葉を紡ぐ。二人共、その姿はいつもと違い光り輝いているように見えた。


「私にはなんの意味もないのね……パワーアップイベントは私以外のみんなというわけなのね」


 その言葉にがっくりと肩を落として項垂れるおっさんであった。正直そんなことより、おっさんのパワーアップイベントが欲しかったよと空気を読まない遥であった。


 ふふっ、とその様子にサクヤたちが、心の底から嬉しそうに微笑む。相変わらず、まったく偉ぶらない人だから。神と言っても全然気にしていない。


 なのでナインがてててと細い脚を動かして遥の目の前に近づき、可愛らしい上目遣いで告げてくる。


「マスター、この大樹のレベルアップで私たちは大樹支配下では9割の力で活動可能となりました。詳しく言うと東日本の全てですね」


「おぉ〜! マジで? それはやったね、今度若木シティで食い倒れツアーをやる?」


 その言葉にようやくかと息を吐く。ここまでくるのに凄い長かったのだから。一緒におでん食べに行こう。


「ご主人様、支配下外でも私たちは5割程度の力で活動できますので、今度は一緒に行動できますよ? まぁ、サポートがありますし、外部では常には一緒にいられませんが。ちなみにやられると24時間本拠地に戻り動けなくなります」


「サポートって、サボると同義語だったっけ? 私の日本語はいまいちだったのかな?」


 サポートするから常に一緒には来れないと言いはるサボることしかしないような銀髪メイド。よくその口からサポートと言うなと言葉を口にできると感心しちゃう。


「そこで感心しないでください! とりあえずいつも一緒にはいられませんからね?」


 むぅむぅと唇を尖らせて頬をふぐのように膨らませて抗議するサクヤである。自覚症状がないって怖いねと思う遥であるが、どこかのおっさんもアホなことを自覚していないので、どっこいどっこいであることには気づかない遥である。


「しかし神化ねぇ……。私がねぇ……」


 遥は思う。神は神でもチリ紙とかじゃないよねと。自己評価は限りなく低いのだ。なぜならばおっさんなので。


 それと気になることも。


 少しだけ気になるので一応尋ねる。なにを尋ねるかもいうと


「サクヤたちはへいちゃらだね? ツヴァイたちは感動し過ぎて過呼吸になりそうな娘もいるのに」


 二人共感涙することもなく、いつもどおりでピンピンとしているからして。まぁ、予想はつくけどね。


「あぁ、それはもちろん私たちには効果がありませんから。自前の力で満ちていますからね」


 ププッとサクヤにしては珍しくミステリアスな感じで笑みを見せてくるので、遥は重々しく頷く。


「なるほど、気になるワードを口にするね、サクヤさん。ならば私がいうことはただ一つ」


 ゴクリと息を呑んで続きをまつサクヤとナイン。


「スキップにしておこう。スキップでよろしく。そういうのは気が向いた時でいいや」


 ありゃりゃとすかされて、苦笑してしまうサクヤたち。そんな二人へと重大なことを尋ねるために真剣な表情へと変える遥。


「それよりも重大なことがあるんだ……」


 今度こそ凄い質問がくるのではと、緊張の面持ちになるサクヤたち。


 そんなサクヤたちへと尋ねることは一つ。おっさんにとっては最重要。


「ねぇ、この大樹の光ってオフにできるの? 寝るとき光りすぎていて困るんだけど。私はあんまり明るいと寝れないんだけど」


 常に自分の生活環境だけを気にするおっさんであった。


 ちなみに光は不可視にもできるらしいと教えてもらいました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 世界へときらきらと輝きながら加齢臭が降り注ぐ。
[一言] おっさん粒子は希望の光。
[一言] これで姉の超能力が成長するかも?
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