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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
20章 たまには暮らす人々を眺めよう

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332話 苦戦する侵攻軍

 鬱蒼と繁茂し、どこまでも続く樹林。ギャァギャァと聞いたことのない鳥の鳴き声が聞こえ、茂みからはガサガサと色鮮やかな毛皮の小動物が駆けていく。


 静岡県に侵攻している軍隊にとって、それは日本ではありえない様相であった。なぜならば熱帯雨林であったからだ。


 ジャングルのように広がる森林。平原も山も全てがほとんどジャングルへと変化していた。しかも地面は湿地の如く歩くと僅かながら足が沈み込み泥水が滲み出てきて、ムシムシとした暑さを感じる。


 春であるはずなのに、この場は熱帯地方であり、その暑さは兵士たちの気力を削いでいた。


 滝のように流れる汗を前に、気を付けないと熱中症になるだろうと考えて、水筒から水を一口だけ口に含む。


 静岡県を侵攻している軍隊の司令官である蝶野はため息とともに周囲を見渡した。今は司令部を作成して大型テント内で侵攻ラインを計画していた。


「ちっ。空間拡張とかいうやつか? 本来よりも土地が広すぎるぞ」


 隣にいる参謀へと声をかけると、地図を広げながら答えてくる。


「そうですね。未だ3割近くしか制圧できていませんし。もう愛知はほとんど制圧したという報告がきているのに」


「侵攻速度を争うつもりはないが、なぜ制圧が進まないのか段々大樹本部からの問い合わせが多くなってきたしな」


 司令部周りにいる兵士たちもこの暑さにうんざりしている様子である。項垂れて疲れていると一目でわかるのだ。士気も下がっており、この状況はまずいと誰でもわかるだろう。


「本部からの情報だと、この場所は空間拡張を行われており、なおかつ概念が熱帯雨林だという話です。それだけの場所であり、強さはオスクネークラスが最強レベルだという話なのですが………。環境がこれだけ酷いと厳しいですね」


「道を切り拓いていく必要があるしな………。今の兵士たちの一番の希望は酒保艦への休暇だ」


 肩をすくめて言う。酒保艦がなければ、もうとっくに士気はゼロであったろうから。ちょうど助かった感じだ。


「私も次の休暇が待ち遠しいですよ、蝶野大佐。こんなムシムシした環境ではね」


 ハハッと空笑いをする参謀を見て苦笑する。


「俺も同じだよ。クーラーの効いた部屋でゆっくりと酒でも飲んで寝たいところだ」


 周りの面々もその答えに頷いて苦笑交じりな表情を浮かべて同意する。皆もここがうんざりする場所だからだ。


 そんな周りへと気を引き締めるべく、真面目な表情へと変えて指示を出す。


「それもこの地域の制圧が終わってからだ。参謀、現状はどうなっている?」


 参謀も真面目な表情へと変えて、大樹から支給されたペーパー型モニターに映るマップを拡大して説明を開始する。蝶野のいうとおり制圧しなければいけないからだ。


「現在の制圧地域は3割です。これは空間拡張が解除された場所なのではっきりとわかります。続けて侵攻ラインですが、どこも極めてゆっくりとした進軍となっています」


 マップにはいくつかの駒が置いてあり、矢印が侵攻ラインを示している。その進軍速度も日時で記載されており、どれくらいの速度かを示していた。どうやら参謀たちはこの未来型モニターを使いこなすことができたらしい。自分は未だに不慣れなので少し勉強をしなければとも蝶野は考えた。


「ちっ、ここは情報どおり敵の脅威度は低いのか? 敵の力だけで軍の配備をされているんじゃないか?」


 他の参謀が舌打ちしながら侵攻ラインを眺めて悪態をつく。その気持ちは痛いほどわかる。ここの敵は厄介だからだ。


「ここの敵はトレントと呼称しました。ある一定距離毎に巨大な人食い樹が存在。樹木を利用した攻撃は強力です。ですがそれだけではありません。その程度ならば機動兵器で片付けることが可能なのですが」


 嘆息しながら話を続けようとする参謀だが、通信要請が入ったことで中断する。


 すぐにモニターへと通信を通すと、兵士の顔が映し出された。ようやくバングル型通信機が一定の兵士たちへと配備されたので、これまで以上にやり取りが楽になったのだ。


 兵士は緊張の面持ちで軽く敬礼してから報告をするべく口を開く。


「第八小隊甘中少尉より報告。トレント及び敵戦力を確認。複数の檻もいつもどおり発見しました」


「よろしい。第三大隊への合流を目指し帰還せよ。トレントへの攻撃は禁じる」


「了解しました。偵察を終了し帰還致します」


 モニターの兵士が了解の意を示し消える。それを確認したあとに蝶野は新たなる制圧戦を始めるべく指示を出すのであった。




 通信を終えた甘中少尉は双眼鏡を覗いていた仲間へと声をかける。


「どうだ天文? 結構多い?」


 天文と呼ばれた男性は苦虫を噛んだような表情で、双眼鏡を覗くのをやめて首へとぶら下げる。


「会長、敵の数はトレント1に檻がざっと50、彷徨いているキノコゾンビたちは300はいるな。デカゾンビも複数見えるから強敵だよ」


「そっか……。それじゃ、大隊へと帰還する。これで偵察は終わりだ」


 甘中は嘆息して、軽く息を吐く。ムシムシした熱気を伴う空気が肺に入り疲れを誘う。


「あ〜、檻が無けりゃあ爆撃でも砲撃でもして安全に戦えるのにな」


 アサルトライフルを肩に背負いながら、苛立つように陸上が言う。


「敵も考えているってことだろ。人間なら非道だと言われても、奴らはそもそも人食いの化け物だからな。そんなことは関係ないってことさ」


 空手が言いながら、踵を返し退却を始めるべく帰り道を注意して確認していく。その姿はもう手慣れた様子だ。


「檻か……奴らの悪知恵だな」


 甘中もちらりと遠くに見える敵の拠点へと視線を向けて呟く。


 檻……それはこの地域に存在するトレントが使う異形の植物だ。木の中に大きい半透明の実のような物が生っており、その中には緑色の水に入った人間がいる。


 その人間たちは信じられないことに生きているのだ。どうやら生かし続けていることで、なんらかの栄養を取っているらしい。しかもトレントを囲み、射線が通らないようにその檻は生えていた。そしてその周りをキノコを体の各所から生やしたゾンビたちが警備している。しかも銃を持ちながら。


 なおかつ通常ゾンビやグール、デカゾンビたちも存在するのがこの地域であった。


 敵の防衛網は全てこのような形になっており、兵器群での攻撃は檻を傷つけない様に戦うしかなくなった。周りのゾンビたちを排除、そして檻を破壊して人々を救助、最後にトレントを撃破というのが現状の作戦である。


 そのため、制圧作戦は極めてゆっくりとした進軍をとらざるをえなかった。熱帯雨林であることも含めて、兵士たちの気力をこそぎ取っている原因だ。


 しかも敵はあれだけではないのだから神経をかなり使うのだ。


 まぁ、今日の偵察は終わりだ。あとはゆっくりと休養をとろうと甘中は考えた。湿地とも思える地面を踏みしめながら、そんな自分の境遇の変わりように苦笑いをする。


「どした、会長? なにかあったか?」


 それに気づいた天文がこっちへと訝しげに声をかける。なぜ苦笑したのか気になったのだろう。


 手をヒラヒラとさせて、今の苦笑の意味を答える。


「いや、2年前は俺は生徒会長とかやってたんだなぁと思って。昔の俺が今の俺を見たらどう思うかな」


「そりゃ、決まってるだろ。サバゲーをやってるなんて大学生活でなにかあったのかって聞かれるに決まってる」


 陸上がニヤリと笑い


「そうそう。しかも未だに高校の仲間とつるんで、しかも部活名で呼び合ったりして、真面目なお前がどうしたんだってな」


 小さな声で吹奏が笑う。確かにそのとおりだと甘中も笑う。まさか未だに会長呼ばわりされているとは思わないだろう。しかも兵士になって泥だらけで行動しているなんて。


「なんだい、あんたらは高校からの仲間なのかい?」


 少し年上の女兵士が尋ねてくる。大柄でこの間の再編成で加わった仲間だ。あだ名は何にしようかと考えて、吹奏が女ゴリラと言って殴られていた。なので、リングと名付けたものだ。


「あぁ、そうなんだよ。結構波乱万丈な人生を歩んでいるんだぜ?」


 吹奏がニヤリと笑いながら答えるが、リングは肩をすくめてみせるだけであった。


「波乱万丈じゃない人間なんて、この世界じゃいないだろ。反対に平和な暮らしをしていますって人間に私は会いたいね」


 その言葉に同意するように吹奏が口を開く。


「違いない。俺は2年後は音楽家にって、うわぁぁぁぁ!」


 吹奏は言おうとした言葉を止めて叫ぶ。一気に足元に絡みついた蔦により木上へと吊り下げられたからだ。


「くそっ! トラップだ! 周りに敵が隠れているぞ!」


 陸上が素早くアサルトライフルを腰だめに構えて周りを確認しようとする。


 だが、次の瞬間、若木と思しき樹木が突如として手を伸ばして陸上へと襲いかかってきた。


「うおっ! 擬態してやがった!」


 ウッドマンだと判断するが、マウントを取られて倒れ込む陸上。ウッドマンは樹木のような肌で擬態すると木にしか見えないグールだ。しかもグールの力を持っているので、素早く強い。


 右左とその丸太にしか見えない手を振り上げて、ガンガンと陸上へと攻撃を加えて、あっという間にワッペンのフィールドが消えてなくなり、肩のワッペンが砂のように崩れていくのが目に入った。


「こいつ! 離れろ!」


 アサルトライフルを構えて陸上に当たらないように若干上向きに狙いを定めて引き金を引く。


 バララと銃弾が吐き出されて、ウッドマンへと向かいその上半身へと命中するが、僅かな障壁を作り、有効打とはならなかった。


 怯まずに豪腕を陸上へと振り下ろすウッドマン。ゴキリと骨が折れる音がして血が吹き出る陸上。


「むん!」


 リングがコンバットナイフをひと呼吸で手首のスナップだけで強く投げる。軽い形の投げ方であったのにグールの頭へとその投擲は命中し深く食い込んだ。凄い腕だ、あの大型ナイフをスナップだけで、しかも深く食い込むほどに敵へと投げるなんて俺にはできない。


 そのままズルリと倒れ込むウッドマンを空手が追いついてきて、蹴り飛ばし陸上から引き剥がす。


「大丈夫か? リング、天文! 吹奏を助けるんだ!」


 言いながらも自分は周りから敵が来ないか注意する。今の銃撃音で敵には確実に気づかれただろうから。


「こっちは大丈夫だ……いってぇ……」


 鎖骨が折れたのだろう。白い何かが肩から食い破ったように折れて出てきており、出血も激しく痛々しい様子だ。空手が慌てて傷薬を塗ると、出血だけは止まるが、他は治らなかった。出血が止まるだけでもあり得ない効能ではあるが。


 タタタと銃声が響き、吹奏を捕まえていた蔦を切り離す天文。


「うわぁぁぁぁ」


 ブツリと切れた蔦から逃れて、木の葉を撒き散らし真っ逆さまに落ちる吹奏だが、滑り込んできたリングがお姫様抱っこのカタチで受け止める。


「な、ナイスキャッチ、さすが女ゴリラ……」


「大丈夫そうだね、さっさと立ちな」


 照れ隠しに憎まれ口を叩く吹奏をそのまま落としながら、ニヤリと男前の笑顔で返すリング。


 ぐはっと、落とされて呻く吹奏にすぐさま指示を出す。遊んでいる暇はない。


「吹奏、敵の位置を調べろ!」


「あいよ〜。少し待ってくれ」


 首にかけたヘッドホンをつけて、目を瞑る。吹奏は周りの音を集めて解析を始めたのだ。


「でかい反応がふたつ……3つ! 会長、左右から挟んで一気にデカゾンビが3体来ているぞ! 正面から一気に撤退するしかない!」


「天文、救援隊要請だ! 近場の部隊に救援要請!」


 吹奏が確認した内容からすぐさま救援を求めるように指示を出す。恐らくは陸上を抱えながらでは追いつかれるはずだ。急いで援軍が来ないとまずい。


「了解! こちら第八小隊、敵と会敵しました! 救援を求む。繰り返す、こちら第八小隊、敵と会敵しました! 救援を求む!」


 すぐに通信機から周囲へと救援要請を敷く天文。それに合わせて、全員が銃撃をしながら正面突破を試みる。横にそれるとデカゾンビたちに出会うから急がないとならない。


 遠くの木の影からランナーゾンビが走り込んできているのが見える。やはりキノコで顔が半分覆われている派生タイプだ。敵の胞子に寄生されたのだろう。


「会長! 左後方からファンガスだ!」


 集音しながら吹奏が怒鳴る。その時には既に射撃範囲に入っていたのだろう。緑に光る不気味なバスケットボール大の木の実が勢いよく飛んできた。


 ゴロンと転がり、排除する前に木の実が割れて、ガスが噴出するように胞子が吹き荒れて目の前がまっ黄色になっていく。


 ゴホゴホと咳き込みながらも周りへと叫ぶ。


「胞子を吸い込むなよ! 自分もキノコになっちまうぞ!」


 ファンガス。体が半分溶けたような2メートル半はある巨人だ。でっぷりと太っており、体からキノコや瘤が生えている。その瘤を切り離して、こちらへと投げてくるが、その瘤から吹き出る胞子を喰らいながら死ぬと、死んだ相手もファンガスになってしまうのだ。恐ろしい敵である。


 そんな化け物がまだ200メートルは離れているのにもかかわらず、その筋肉で投げ込んでくるのが見えた。


「毒消しはここを脱出したあとだ!」


 今治しても胞子の散布範囲だ。しっかり範囲外に出ないとまずい。咳き込み苦しむ中でも、ランナーゾンビたちが次々と襲いかかってくるため、アサルトライフルで撃ち殺していく。


 全員が銃を乱射しながら突き進むが、だんだんと現れるゾンビたちの数が増えていき、内心で焦りを見せる。このままだとまずい、どこかで決断する必要があるだろう。


 死の足音が近づいてくる中で、痛さで脂汗をかきながら陸上が叫ぶ。


「ここは俺に任せて、先に行け!」


 囮となって、皆を守ろうと言うのだろうが


「ぶはっ、まさか現実でその言葉を聞けるとは思わなかったぜ!」


「フラグをたてないでくれよ、陸上」


「もうフラグはさっき吹奏がたてたからな」


 からかうように皆が言いながら、背中合わせに銃を構える。その顔つきは口ぶりとは別に決死の表情であった。誰も見捨てるつもりはないと態度で示して、短い付き合いのリングは肩をすくめるだけであった。


「アンカーを使うぞ!」


 甘中は偵察時の切り札として渡された鉄の杭のような物を大地に突き刺す。


 ドスンと意外と柔らかい土に三分の一ほどめり込んだあとに、光のラインが杭を走り抜け、花が咲くように先端が開き、一気に光の粒子が空中を舞っていく。


 その様子は美しい光景ながら、ミュータントにとっては致命的な毒素であった。100メートル程の範囲に散っていく粒子は胞子を浄化し、ゾンビたちを燃やし、近寄るファンガスたちを炎で包む。


「おおっ! すげえ!」


「やったな!」


 その凄さに喜びの声をあげる仲間たち。一時だが敵の動きが止まったのだ。


「だけど、この効果は1分しか持たないんだ。敵を弱体化させる効果的アイテムだけどその維持時間は凄い短いから、この間に態勢を立て直すんだ!」


 光の粒子は舞ったあとにすぐに地に落ちてしまう。効果的だが持続時間が短くなおかつ高価なアイテムだと言われて支給された。危機以外で使えば弁償してもらうぞと、悪戯そうに笑っていた大佐を思い出す。


「おう! 全員方円の陣だ! 敵を近寄らすなよ!」


 ひと息つけて、胞子の効果もなくなり落ち着いた面々は周りを警戒して見渡す。


 光の粒子が消える中で。ファンガスがドシンドシンと地面に大きな足あとをその重量で空けながら近寄ってきて、他方ではデカゾンビが邪魔な木を蹴散らしながら走ってきた。


 万事休すか……。俯き加減にそう思う甘中はアサルトライフルを強く握りしめるが後悔はしていなかった。ただリングに撤退を命じようと考えたところで


「きたきたきた〜!」


 その言葉で顔を上げて、そして目の前の光景に笑みを見せた。


「遅い救援だな……」


「私は早いと思うけどね。まぁ、陸上を無駄死にさせなくて良かったんじゃないか?」


 リングがそう言うが、たしかにこの時間なら無駄死にになっていたかもと安堵の息を吐く。


「へっ! 俺もいつかはあのバイクに乗ってみせるっての」


 空手がぼやくように羨ましそうに見る先にはファンガスたちへと突撃を仕掛けている空を駆けるバイク乗りたちの姿があった。

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― 新着の感想 ―
[一言] やはりレキ(おっさん)がいないと敵の搦め手で進軍が止まってしまうのでツラいですね。 サイキック一本釣りがどれだけ有効か分かります。 人質解放マッシーン欲しいですな。
[一言] キノコ人間。ラストオブアスかな? 生徒会長・・・最初は冒険者関連でイキっていたのに、忘れたころにやってくるとは、結構人気なのか? それにしてもコンバットばあちゃんチームが出てきてないよぁ。若…
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