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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
19章 西日本に行ってみよう

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317話 おっさん少女は貴族を眺める

 悪徳ビル。この崩壊した世界で、大樹保護下ではない場所なのに、ピカピカとガラスは光を照り返して、壁は新築のように綺麗な壁だ。中階の窓越しに見えるのはレストランなのだろうか?崩壊前なら当たり前であった世界。綺麗な白いテーブルに洒落た椅子。そしてその椅子に座りながらこちらを馬鹿にするように睥睨しながら、料理を楽しむ異形のモノ。即ちダークミュータントである。


 人間のウェイトレスが運ぶ料理を口にしながら、レジスタンスを見てなにかを話しながら、愉快そうに笑っていた。


 レジスタンスたちは戦車を手に入れたのだ。敵の生命線ともいえる戦車をあっさりと敵の人間たちの裏切りで手に入れたレジスタンスたちは、やはり最後は人間たちの結束力が異形を倒すのだと、鼻息荒く意気軒昂と悪徳ビルへと向かった。


 だが、その様子には暗雲が立ち込めていた。慌てないで笑う窓越しの中の異形。いくら砲弾を撃ち込んでも破壊できないガラスにしか見えないドアや窓。本当に勝てるのかと疑いが首をもたげてきたところに、三匹の異形が玄関ドアから普通に出てきたのを見てとったのである。


 それはタキシードと蝶ネクタイ、シルクハットを被った赤い目をして牙を口から覗かせている肌が青白い男であり、象が二本足で立って中東風の服を着た動物であり、真っ赤な色の三メートルは身長があるイソギンチャクであった。


 レジスタンスのリーダーは戦車の屋根に乗りながら、声をはりあげる。


「こ、降伏の使者か? 話し合おうという訳か?」


 自分でも話し合いにこの異形は来たのではないのだと、直感的に理解をしていた。邪悪の塊に見えるその敵は本能が逃げろと叫んでもいた。


 だが人類はそんな敵を倒してきたのだ。虎しかり、狼しかり、鮫とかでも良い。倒せない敵はいないのだと勇気を奮って声をかけたのだ。


 その声を耳に入れて異形たちは顔を見合わせて、ケラケラと笑い始める。


 笑い声を不気味だと、聞いてはいけないと恐怖に襲われながらもさらに声を張り上げる。


「な、なんだと言うんだ! 貴様らの切り札は手に入れた。もはや逃げようもないぞ!」


 たとえ素早くとも命がけで足止めを仲間がして、戦車砲で倒す。強い決意、このコミュニティを救うのだという正義感から異形を睨む。


「クククク、あぁ、申し訳ない。なにか勘違いをしているようなのでね。戦車砲が切り札? なるほど希望の乗り物というわけだ?」


 余裕を崩さない敵の姿に動揺しつつ、リーダーが倒れたら瓦解すると理解しているリーダーはそっと戦車内へと合図を送る。


「油断しているうちに倒すぞ。全機一斉射撃の用意だ」


 通信が使えないので、近くの味方にハンドサインを送る。それを他の仲間へとハンドサインでさらに伝える仲間たち。連携のとれた二年が活きていると感じ、その頼もしさに心を強くする。


 バッと手を広げてタキシードの異形は楽しそうに、これからなにかのショーを始めるように叫ぶ。


「希望の光! 良いでしょう、奇術師と呼ばれたこの呪われた男にその光を投げてご覧なさい! さぁ、さぁ、さぁ!」


 ムッと眉を怒らせて、リーダーは号令を出す。


「人類の団結力を見ろっ! 人類の力は世界一ぃぃっ!」


 その合図と共に一斉にレジスタンスは異形を狙い撃ち始める。

 

 轟音と硝煙、耳が聞こえなくなる程の火力が異形へと向かい、大爆発と炸裂音が響き渡る。


 しばらくしてから、爆煙が薄れ消えていく。


「玄関ドアが破壊できたかを確認しろっ!」


 リーダーが周りに指示を出す。もはや異形は倒れただろうと確認もせずに。


 しかしそこへと、からかうように嘲笑うように声が聞こえてくるのであった。


「おやおや、敵を倒したかも確認せずに玄関ドアの破壊を確認しようとするとは呆れますね」


「なっ! 馬鹿なっ!」


 声のした玄関ドア。そこには3体の異形が傷もつかずに佇んでおり余裕の姿を表していた。


 どよめくレジスタンスたちを睥睨しながら、タキシードの男は気障なおじぎをして見せる。


「あぁ〜、残念だったな、人間共。人間を辞めて高位の存在となった私に敵うと少しでも思っていたのか? 極めて残念だ。この呪われた男の奇術で慰めようではないか。精々楽しみながら」


 ニヤリと邪悪なる笑みで言う。


「死んでくれ。私たちの糧として」


 パッとシルクハットを手にとり、呪われた男は不気味なる超常の力を発動させる。


「食い意地のはったリスのパレード!」


 シルクハットからキキッと赤い目をしたリスたちが無数にでてきて、一気にレジスタンスたちへと走ってくる。可愛らしさなどなく、邪悪なる食欲に満ちた飢えたるリスだ。


「うぉぉぉ! 銃で対抗しろっ!」


 タタタとアサルトライフルで狙い撃つレジスタンスであるが


「だ、駄目です! 銃弾が弾かれるっ! なんて硬さだ!」


「せ、戦車砲で狙い撃つんだ! 早く!」


「あんな小さなリスを狙い撃つなんて無理ですっ」


 うわぁっと叫ぶ人間たちの姿を見て呪われた男、ヴァンパイアのカーズマンはほくそ笑む。


 偽りの希望に満ちたレジスタンス。それを倒すことによる絶望はこの都市に広がり大きな力となるだろうと。


 だが、ほくそ笑むカーズマンに戸惑ったような声音の野太い声がかけられる。


「カーズマン。あれを見ろ……なんだあれは?」 


「あん? 私のリスたちがなにか問題を?」


 答えてレジスタンスの様子を見るカーズマンはぽかんと口を開けて眺めてしまう。


「な、なんだ、あれは?」


 恐怖を与え、レジスタンスを貪り食うリス。銃弾を弾き、装甲を食い破り侵入する無数のリス。カーズマン得意の技であるが。


「チュウチュウ、チュウチュウ」


 ジャンガリアンハムスターがリスを殴っていた。


 なぜか二本足で立ち上がり、シュッシュッと軽やかなるリズムで無数のリスを、これまた無数のジャンガリアンハムスターが殴っていた。


 あっという間に倒されてしまうリス。


「なんだ、ジャンガリアンハムスターに負ける小動物だったか」


 無数のジャンガリアンハムスターの群れの存在は無視して、胸をなでおろし、安心するレジスタンスたち。人それを現実逃避とも呼ぶ。


「お、おのれっ! 私の奇術を!」

  

 恥をかいたと怒気を纏い、カーズマンは必殺の力を使うことにする。シリアスな雰囲気が好きなのに、あのジャンガリアンハムスターのおかげでシリアルな雰囲気となってしまったのだからして。


 シルクハットを腕の上で回すように転がして、バァ〜ンと謎の立ち方をする。なんだか身体をひねるようにして見せる姿はどこかの吸血鬼漫画を思い出す。


「な、なんだあれは? シルクハットの鍔が光っている!」


 レジスタンスがシルクハットを見て、指さして驚く。


「クククッ! この鍔の周りは細かいチェーンソーとなっている! 名付けて奇術葛藤のモード!」


 ぱくりだとわかった瞬間であった。どうやら某吸血鬼漫画を信仰していたミュータントだった模様。たしかにシルクハットの鍔には細かい刃が高速で動いている。


「さぁ、全員斬り裂いてくれるわっ!」


 シュインと手を振ると、回転をしたシルクハットは勢いよく飛んでゆく。すでに人間の目には残像しか映らない。


 シュインシュインとビルを抜けて瓦礫を飛び越えて残像を残しながら、全ての車両を通りすぎるシルクハット。


 瞬きをするつかの間にシルクハットはカーズマンの手から離れて、また自分の手に戻したのだ。


「な、なにが?」

「風が通り抜けた?」

「変な金属音が?」


 呆然として、なにが起こったか理解できないレジスタンス。だがすぐに理解した。なぜならば車両が全て分割されて、ゴロンゴロンと転がっていったからだ。


「うわぁ! 車両が!」


「つ、使える車両は?」


 慌てて戦車から飛び降りたリーダーは、分割される戦車を見て、周りを確認するが、その全ては斬られており使い物にはならなくなっている。


「こ、これが貴族の力!」


 驚きで声を失うレジスタンスたち。もはや絶望が周囲を覆う中で、カーズマンだけは黙して身体を震わす。


「今のは人間ごと斬り裂く予定だった……。なんで、車両だけが斬られる? わ、私の武器の軌道を変えやがったやつがいるなあぁぁ!」


 シルクハットは銃弾で穴だらけとなっていた。それは銃弾があり得ない速度で正確にシルクハットを撃ち抜きその軌道を変えて、車両だけを斬り裂くような軌道で動いたことを示していた。


 ギロリと目を凝らして銃弾が飛んできた方向を睨む。


 そこには瓦礫の中でちょこんとスナイパーライフルだろう銃身が見てとれた。


「ば、馬鹿にしやがって! うぉぉぉ! 肩の骨を外し、攻撃範囲を伸ばす! カメラズームパァンチ!」


 肩の骨を外しただけではそこまで飛ばないよという距離。500メートルは離れている瓦礫までゴキゴキと肩の骨を外して繰り出され一気に飛んでいくパンチ。


「古いです。今はゴムのパンチとかいうらしいですよ?」


 小声で呟き、スナイパーライフルを掴んでいた遥はそのパンチへと銃弾を叩き込む。


 銃弾が叩き込まれて速さを失い、フラフラと距離が離れているせいで勢いを無くし、ぽてんと落ちるパンチ。再生能力付きなのだろう。あっという間に腕は男の元へと戻っていく。


 だが、その様子を冷静に見てとった遥はガシャンとスナイパーライフルを肩にかけて瑠奈へと声をかける。


「陽動は充分です。私たちは別口でビルへと侵入しましょう」


 神業ともいえる銃の腕を見せる少女を感心しながら驚いていた瑠奈はいきなりのレキの発言に驚く。


「別口? 陽動? なんだなんなんだ?」


「実は私は頑張って敵の拠点へと華麗に侵入して多くの犠牲を出しながら、このカードを手に入れました。このVIPカードを!」


 ドドーンとカードを見せてドヤ顔になる遥である。無論犠牲とはコインのことだ。そんなことは言わないけど。しかも手に入れた方法はイカサマである。


「な、なるほど! これでどうするんだ?」


 緊迫した雰囲気に押し負ける狼少女。そこは押し負けないでよく聞いたほうが詐欺に騙されないと思うが。


「私の調べた限りでは悪徳ビルは地下駐車場から入れるみたいです。行きましょう!」


 グッと手を掴んで、強い目力を瑠奈へと見せちゃう。


「あ、あぁ。だけど、あの敵たちはどうするんだ?」


 手品師みたいな奴と他二名。あいつらは凶悪な敵のはずだ。放置してよいのかと。


「大丈夫です。蜜柑愚連隊参謀が東日本の軍隊に救援を求めました。すぐに味方が来るはずです」


 先程、拠点内で蜜柑愚連隊参謀6歳の大暮咲ちゃん、あだ名はさっちゃんが、霞との会談で


「さっちゃん、遊び相手ほしい? いっぱいお菓子ももってくるよ〜」


「ほちい〜」


 と、バンザ〜イと笑顔で答えて、その聡明で鮮やかな策で援軍をこのナイスタイミングでさっちゃんは呼んだのである。東日本との合意がとれた非公式であるが最初の話し合いであったとか。異論は認めないそうな。


 なのでまったく問題はない。車両も残念ながら敵に破壊されたし、通常の人間では勝てないと敵の強さもわかっただろうし。問題ないったら無いのだ。頭痛の種であった車両が破壊されたからもはや遠慮は不要なのだ。目指せ人々の救援という感じ。常におっさん少女は正義のために邁進しています。


 瑠奈の手を掴んで気配感知と偵察ビットによりマップを確認したおっさん少女はとてててと走り始める。


 連れて行くか迷ったのだが……たぶん父親と決着をつけたいだろうと考えたのだ。なんだかシリアスめいた感じであったし。


 それを打ち壊す可能性がある人物が瑠奈の目の前にいるかもしれないが。


「あぁ! それじゃ行こうぜ!」


 瑠奈は手を引っ張る遥を追い抜かして勢いよく走り始める。


「道を知っているんですか〜?」


「悪い。案内してくれ」


 立ち止まる主人公な瑠奈。


 そうして二人はとてててと地下駐車場まで向かうのであった。




 カーズマンは離れていく敵を生命感知して、怒りの表情で声を放つ。


「ここまでコケにされて、逃げれるとでも思っているのか! 逃さんっ!」


 ズンと地面を蹴り、一気に廃墟まで向かおうと飛翔する。あれぐらいの距離など一息だ。この体ではあっという間だと。


 前方しか見ておらず極めて無防備に。


 地を蹴り、その高い身体能力にて飛翔するように廃墟のビルまで向かおうとするカーズマン。その身体に上空から影がさし声が響く。


「プラズマブレードッ!」


 ジュインと掲げた光の刃を振り下ろし、その身体を斬り裂いて通り過ぎる。


 斬られたままに身体は焼き尽くされて落ちていくカーズマンを見ながら、プラズマブレードを構えるのはくノ一朧であった。


 すでに武装くノ一へと忍装している。二回目からは変身シーンは不要なのだ。ちなみに閃光モードであったりもする。


「おおっ! 特撮ヒーローだ!」

「いや、特撮ヒロインだろ!」

「サインください!」


 レジスタンスの喜びの声を聞きながら、朧はサインは事務所を通してくださいと答えつつ、残りの二体へと向き直る。


「ちっ! 油断しすぎだぜ手品師よぉ〜!」


 バチバチと燃えるカーズマンは再生する様子もなく消えていくのを見て象が舌打ちして自分の名を叫ぶ。


「俺の名はエレファント! このシャボンボムで死ねぇ!」


 象の鼻からポンポンとシャボン玉が吐き出されて、朧へと向かう。エレファントが使うシャボン玉の爆弾である。というか、名前が安直すぎる敵だ。


 フヨフヨと浮かぶ無数のシャボン玉。ゆっくりと朧へと向かうので、簡単に避けれると思いきや、エレファントはさらなる力を発動させる。ひゅうと息を吸い込み、高圧の風を吐き出そうと構えて笑う。

 

「喰らえっ!、風のトルネ」


 エレファントが全てを言う前に、キランと光り輝き白光となったビーム砲がエレファントを貫く。その超高熱のエネルギーに焼かれ、必殺の名前も言うことができずにボロボロと崩れ落ちるエレファント。


 赤いイソギンチャクがその様子を見て、光の出処へと身体を向けると


「あ〜、ようやく出番か……なんというか強くなるのも考えものだよな」


 白銀のゴツい重装鎧のようなパワーアーマーを着込んだアインがブースターを吹かせつつ降りてくる。その手には大口径フォトンライフルが見える。周りにも何体もの青いパワーアーマーを着たツヴァイたちが武器を構えていた。


「げ……げ、触手からの高熱の」


 最後のイソギンチャクもどきが、触手から全てを燃やす高熱の粘液を敵と見える装甲兵へと向けようとするが


「ドッカーン! 忍法氷蝶」


 イソギンチャクの口に氷を纏わせた人形が飛び込み、内部でハラハラとアイスレイン改造版、氷の粒子を蝶へと変えて爆発して凍らせる。


 シュタンと地面へと悪戯っ子の霞が舞い降りて、ビシっと構えるのであった。


「な、何者だ? なんだその装備は?」


 戦車砲でも倒せなかった異形をあっさりと倒した兵士たち。朧の姿も見えることから予想はつくが、それでも一応尋ねるリーダー。


 その言葉を待ってましたとアインはニカッと元気よく笑い、親指を立てて、クイッと自分たちの所属を伝える。


「アタシたちは東日本から来た企業国家大樹の軍隊だ! 蜜柑愚連隊の援軍要請を受けて今来たところだ!」


 グッとその勢いのある言葉に圧されるリーダー。自分たちはすでに戦車も無く、その武器も効かないと理解しているからこそ、大樹と呼ばれる東日本の技術に驚嘆していた。


「今からこのビルの制圧を始める! まさか文句はないよな?」


「くっ……悔しいが助けてもらおう。制圧を開始しろっ!」


 リーダーは苦渋に満ちた表情となるが貴族たちが自分たちでは倒せないと理解しているだけあり素直に頷く。まずは悪徳ビルの制圧が先なのだ。考えるのは後で良いと。大体そんなことを考えて行動するとひどい目に合う可能性が高いのだが。


「おし、お前ら! 一気に敵を倒してご褒美をもらうぞ! 朧と霞に負けるなよっ!」


「お〜!」

「倒す!」

「ついでに朧たちも?」


 不穏かもしれない雰囲気を纏わせつつ、ツヴァイたちとアインは中へと突入していく。最近贔屓されすぎじゃない?と朧と霞は他のツヴァイたちに睨まれていたりなんかして。


 あっさりと仲間が殺られたその様子を窓越しに眺めていた貴族たちは慌てて戦闘準備をするために離れていくのが見えた。


 おっさん少女たちは地下駐車場へと向かい、その上でアインやツヴァイたちの激しい戦闘が行われるのであった。

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