312話 くノ一朧の変幻戦闘
無数の残像を残して高速にて鞭が朧へと向かい斬り刻む。ローブが斬り刻まれて鮮血が空中に飛び散る。
その威力を喰らい、朧は吹き飛び闘技場の壁を巻き込みその瓦礫の中へと消えるのであった。
クレムリオンはフッと笑い、周りへと声をかける。
「早く援軍に行きなさい。他のレジスタンスが大勢いるはずなんだからね」
生き残りの狼男たちはお互いの顔を見合せて頷き牙を見せながら叫び足を進め始める。
「てめえらっ、チャンスだぞ! 突撃~!」
チャンスとばかりに狼男たちは闘技場に入ろうとする。しかし入り口近くに行った瞬間に何かが飛んできて頭を貫く。
「がふっ」
貫かれた仲間を見て、歩みを止める狼男。仲間の頭にはクナイが深く刺さっており、脳を破壊された狼男たちは白目を剥いて倒れ伏す。
「なんだ? ま、まだこいつ生きていやがった!」
クレムリオンの無数の鞭による攻撃で死んだと思われたレジスタンスを見て驚く。
狼男たちの驚きの視線の先、瓦礫からは手が突き出されておりクナイを投げたのがその人物だと見てとれた。
瓦礫が崩れ始め、傷だらけながらも朧は立ち上がる。
「ケホッ。やりますね、まさかそんなギミックつきの武器を使うとは思いもしませんでした。油断大敵ですねニンニン」
まだニンニンという余裕を見せながらも、咳の中に血が混じり込みダメージが大きい朧。
その姿を見て、クレムリオンは自身の優位は揺るがないと考えて呆れた風に声をかける。
「生きていたなら瓦礫の中に隠れていれば良かったのに。人間の矜持というやつかしら? ふふっ、貴女では私に勝てないわよ?」
その言葉に朧はニヤリと悪戯めいた笑みを浮かべて、ウィンドウを開きながらクレムリオンへと教えるように言う。
「確かに残念ながら、今の私では敵わないでしょう、ですが、これならどうでしょうか?」
ハッタリかと目を細めるクレムリオン。だがハッタリにしては態度に嘘がないと警戒する中で、朧が大きく叫んだ。
「小梅! 支援要請、トンビと油揚げ!」
ウィンドウに映っていたのは、自分の眷属ドライな幼女、小梅であった。にこやかに微笑んでボタンを押すような身振りを見せる。
「りょーかいでつ! トンビと油揚げ発進!」
その言葉と共に、空中から紫電が走り
「ピーヒョロロ〜」
とトンビの鳴き声が聞こえてくる。
「なんだ?」
「空を見ろ!」
「でかい鳥だ!」
「いや、あれは機械だぞ!」
鳴き声を聞いた狼男たちや、離れたところで様子を見ている人々が上空を仰ぐと、高速で近づいてくる3メートル程の機械でできたトンビらしきものが飛行してきていた。嘴には油揚げみたいに見えるものを咥えていた。
その姿を確認した朧はとうっと大きく飛翔して再び叫ぶ。
「忍装! 変幻の鎧!」
合図となった掛け声と共にトンビはバラバラの細かい部品へと分かたれて、ガションガションと万歳をした朧を包む鎧となっていく。
ジャキコンと全ての部品が装着された朧は崩れた瓦礫の中でも一番高い場所に立って、腕をビシッと伸ばして格好をつける。
「武装くノ一朧、見参!」
ジャキン 右手を伸ばして
シャキーン 左足を地につける
ビシッ 全体的にはいポーズ。
と、特撮ヒーローの格好をしたバイザーが未来的でピンクと緑の配色のパワードアーマーを着込んだ厨二病患者が立ってポーズを決めていた。もはや完治はできないだろう。医者は手遅れですと匙を投げると思われるのであった。
ウィンドウの片隅でサクヤが立派になりましたね、朧。と嘘泣きをしながらハンカチを目元にあてているのが見えるので唆した犯人は確定だ。
サクヤと朧、そして小梅が知恵を出し合い作り上げた支援パワーアーマー変形型戦闘機トンビと油揚げ。名称については諦めてもらいたい。作れる一覧を見て、かっこいいのを選んで改修して作り上げた戦闘機である。サクヤが知恵を出した時点でアホな結果は間違いなしであった。
パワーアーマーはくノ一の意匠っぽくなっており、わざわざ装甲が網タイツの模様になっていたり、ミニスカートがヒラヒラとしている。両肩には大型荷電砲、両腕にはガトリングガンが背中のランドセルパックからロボットアームが伸びて備え付けてある。
「特撮ヒーローだ!」
「コスプレヒーローだ!」
「機械とわかっていても、パンチラがエロい感じがする!」
周囲が驚きの声を上げる中で、更に朧は手を振り上げてポーズを取りながら叫ぶ。
「万雷のモード!」
シャコンと間抜けな格好とは別に、両肩のキャノンやロボットアームに備え付けてあるガトリングガンが周りを狙うべく動き始めるのをクレムリオンは見てとった。
「全員下がるのよ!」
「遅い! フルバースト」
朧の視界にはバイザーから、全ての狼男とクレムリオンをロックしたとの表示がされていたのだ。フッと笑いながら、朧は攻撃を開始する。
ランドセルパックから小型ミサイルが、両肩から荷電砲が、両腕からはガトリングガンが銃弾を吐き出し、一気に一人軍隊と化した朧が一斉射撃を開始する。
ドライの小梅が支援をする万雷モードは砲撃をメインとした装備だ。その攻撃は一人で軍隊を相手にできるほどである。
あと、最近流行りの換装タイプでもあったり。あれは機体の名前とシリーズが違うだけでみんな同じ性能だと思うのだが。
その攻撃により闘技場入り口は埋め尽くされる。無数のミサイルが狼男を吹き飛ばし、銃弾が敵を肉片へと変えていく。しかもただの銃弾ではない。一発でも受ければ、狼男など即死するレベルの質量変化弾であった。
「ぎゃはっ!」
「ぐえっ!」
「かもっ!」
狼男たちは通常弾ならば耐えられるだろうと考えていた。愚かにもその考えが違うと理解したのは、自分たちが使う銃とは銃弾の速度がまったく違い視認ができない。そして一発でも喰らったら、ビルの解体用ハンマーでも受けたように体が凹み粉砕されていったからであった。
「チッ! 人間は随分面白い武器を作り上げたのね」
クレムリオンは狼男たちが全滅するのを横目で見ながら、迫り来る銃弾の嵐が回避できないと悟る。受けたら自分でもただでは済まないとも理解した。
だが、それだけだと見下しながらニヤリと悪魔のように嗤う。
「私の本気も見せてあげるわ」
鞭を捨てて、腰に小さくして隠していた竪琴を元の大きさに戻して手に収める。
「弦の調律!」
その怪しくも美しい指で、弦を奏でると自らの周りに音のバリアが生み出される。
銃弾の嵐はそのバリアに阻まれて弾かれて、ミサイルは全て爆発して爆風すらもクレムリオンには届かない。
「ふふっ、所詮人間の作った物。魔人には敵わないようねっ!」
自分の周りで爆発していくミサイルを見ながら、多少は焦ったとクレムリオンは内心で思ったが、それをおくびにも出さずに朧へと告げる。
朧は銃弾の攻撃が無効化されたことを確認して、モードを変えることにする。
「換装! 変幻の朧モード!」
カションと部品が再び離れてランドセルパックから新たな部品が飛び出して朧を包む。
今度は羽衣のような物を装備して、武装は片手刀のみである。腰に手裏剣が備え付けられているので遠距離攻撃も一応可能だ。全体的に装備が簡素化されており、もちろん装甲の色は青である。芸が細かいがその部分を他の頑張りにまわすことはできなかったのであろうか。
「服装が多少変わっても無駄よ、火炎の旋律!」
クレムリオンが竪琴をバラランと鳴らすと同時に竜のブレスのような灼熱の炎が朧へと襲いかかる。
朧を包み込み、あっという間に焼き尽くす。
「ふふっ、残念だったわね、その程度じゃ私を倒すことはできないわよ?」
挑発的に微笑みながら燃えていく朧を見るクレムリオンだが、眉を顰めて飛び退る。
飛び退ったあとに手裏剣がカカカと投擲されるのをクレムリオンは確認して舌打ちをして周りを見渡す。
いつの間にか離れた場所に朧は立っており、羽衣をフヨフヨと漂わせつつ、刀を構えていた。
「無駄かどうかはわかりません。この変幻のモードは私の姿を隠すのですから」
そう言う朧を羽衣が包み込み透明となっていく。残る羽衣がホログラ厶を映写して朧の偽物を映し出す。
「小細工をっ! 氷雪の旋律!」
憎々しげに口元を曲げて、クレムリオンが竪琴を鳴らすと、音が無数の氷の礫へと変わり朧がいると思わしき場所へと向かう。
だがその攻撃は外れて空中を通り抜けるのみであり、悪徳ドームの壁を凍らせるのみ。すでに敵が移動しており命中することはなかった。
「たあっ!」
すぐにクレムリオンの目の前に空中から湧き出てきた朧が刀での攻撃を入れようとする。だが音波のバリアが刀での攻撃を押し止めてしまう。
「無駄よ! 弦の旋律は一定時間消えない絶対防御壁! 貴女では打ち破れない。雷鳴の旋律!」
不敵に笑うクレムリオンがさらなる音律を生み出すとドームの天井を破り、天から落雷が落ちて朧へと向かう。
雷鳴轟く一撃が朧へと命中するかと思われたが、羽衣が漂い雷撃を防ぐ避雷針となり、地面へと雷は散らばっていく。
「てやっ! 羽衣縛り!」
朧が羽衣を駆使してクレムリオンを捕えようとするが、音のバリアにより防がれて、その効果範囲の球体バリアを巻くようになる。それはクレムリオンを中心に3メートルばかり離れて作られた球体バリアであった。
「だるい攻撃、お疲れ様っ! 竜巻の旋律!」
ジャジャーンと竪琴をかき鳴らすクレムリオン。バリアを覆っていた羽衣がクレムリオンを中心に発生した竜巻により斬り刻まれていく。そのまま竜巻は一気に膨れ上がり刃となって朧を吹き飛ばす。
ガシャンと金属音が響き、装甲を傷つけられ倒れ伏す朧。それを見ながら余裕の表情でクレムリオンは竪琴を構えて告げる。
「残念ね? 面白い武器だったけど所詮は人間が作った武器。これまでよ」
数歩近づきトドメを刺さんとするクレムリオン。だが朧はその言葉を聞いて、微笑みを浮かべながらよろよろと立ち上がる。
「私の忍法はまだ使っていません。存分に見てから感想をいってください」
むぅとその態度に疑問に思うクレムリオンを前に朧は印を組んで忍法を発動させる。
「忍法雷蜘蛛糸縛り!」
「なっ?」
クレムリオンが動揺を見せる。なぜならばバリア内に入っていた羽衣の破片が雷を纏う無数の糸となり、クレムリオンを襲いその動きを封じたからだ。
「ギャァァァァ!」
紫電がクレムリオンの体を走り、その痛みで悲鳴をあげる。
クレムリオンの苦しむ姿を見て、冷酷な目つきでネタバラシをする朧。
「そのバリアは確かに強力です、私では生半可な攻撃では撃ち破ることはできないでしょう。ですが、そのバリアは敵の攻撃に対するオートカウンターでは? と私は考えました」
「ば、馬鹿な、羽衣を斬り裂かせたのはわざとなのっ?」
途切れ途切れで言葉を吐くクレムリオンに頷く朧。
「変幻なる私の羽衣は流体記憶合金なんです。わからなかったでしょう? 私のコマンドワード一つで多様な形へと変わるのです。そう今の蜘蛛糸縛りのように。その蜘蛛糸はダークミュータントを封じる強力な光の糸です。王手ですね、クレムリオン」
ふふっと笑う朧を見て、力を込めて叫ぶクレムリオン。
「これで勝ったと思うつもりっ? こんな糸すぐに破って」
力を入れる程に蜘蛛糸はブチブチとひきちがれるが、それは朧の予想通りであった。
「もちろん次の攻撃は貴女のバリアを撃ち破る必殺技です」
そう伝えると、再びとうっと飛翔して叫ぶ朧。
「換装閃光モード!」
ガションガションと再びにして最後の変身モードが朧を覆う。それはランドセルパックが変形して戦闘機につけるような大型のエンジンとなり、朧の手足にもブースターがついた姿であった。
閃光モードはプラズマエンジンにて敵を突破する高機動型装備である。後ろ手に腰から組立て式の刀を抜くと、馬すらも一太刀で切れそうな斬馬刀となる。
その巨大な刀を持ち、身構える朧。装甲は何も言わずとも赤色である。逆に赤以外の選択肢はないと言えよう。
特撮物とアニメをたくさん見た朧には隙がないのだ。大真面目にやっているので、そこがおっさん少女と違うところなのだ。アドバイザーは大真面目ではなき可能性はあるが。
「プラズマソード! リミットブレイク!」
「了解でつ! プラズマエンジン180%! 装甲融解まで残り10びょー」
舌足らずな可愛らしい声で忠告をしてくる笑顔でノリノリな小梅。
斬馬刀を掲げて、鋭い声音で超常の力を発動させる朧。
「はァァァァ! エンチャントサンダー!」
プラズマソードにさらなる雷を加えて超高熱の武器へと変幻させる。そして身構えると大型ブースターが赤く収束してゴゴゴと轟音をたてて融解まであと少しだと朧に理解させてくる。
クワッと目を見開いて、朧は必殺技を繰り出さんとする。
「朧月夜に黄泉への道。導きましょう、冥府まで! 必殺! 朧月夜の斬撃!」
「ちきしょぉ〜! 人間め!」
ブチブチと糸を斬りながらも次の一撃まで拘束が解けないと悟ったクレムリオンは自身の音のバリアの防御力を信じるしかない。
手足のブースターと光り輝き、赤き粒子。粉砕するほどの粒子を放ったブースターが光ったと思った瞬間。
ズシャンと砂煙をあげ、クレムリオンを一瞬で通り抜け刀を振り抜いた朧の姿があった。
「ま、まさか………!」
クレムリオンは一瞬の間に一太刀で体を、その絶対と思っていた音のバリアと共に横一文字で斬り裂かれており、上下バラバラに地面へとプラズマで燃えながら落ちていく。
「私の勝ちです、魔人クレムリオン」
きりっとキメ顔で口元は嬉しそうに、によによとしているのを隠すように決め台詞を呟くくノ一朧。
「融解点限界! アーマーパージでつ!」
小梅の言葉通りに、プシューと煙が装甲から吐き出されて、アーマーがパージされて地面へとガランガランと落ちていき、最後にはくノ一衣装の傷だらけの朧が佇むのであった。
「う、うぉぉぉぉ! ま、魔人を倒しやがった!」
「凄えぜ! 特撮ヒーローは本当にいたんだ!」
「俺たちの都市を取り戻すときだ!」
わぁぁぁぁと周りで戦いを見守っていたというか、巻き込まれないように隠れていた人々が飛び出てきて、両手を掲げて狂喜の喜びの声をあげる。
今までどんなに頑張っても魔人は倒せなかったのだ。頭が少しでもまわる人間は、銃で倒せる騎士たちがたんなる偽りの敵だとわかっていた。そして魔人は倒せないとなれば諦める日々しかなかったのだ。
それが今、目の前で、謎の武装をする少女に倒されたのである。それを見て真の希望ができたと喜びの声をあげるのであった。
「うぉぉぉぉ! ヒーローに続けぇ! 悪徳ドームを開放しろ〜!」
レジスタンスでない人々もその様子を見て勇気づけられて戦いに加わり始める。感情の揺れ幅が大きいので希望が生まれたら極限まで頑張ってしまうのだった。
わぁぁぁぁと叫び声と銃声が響く。
「お、俺もこんな格好やめだぁ!」
チンピラが両手を頭に当てるとスポンとモヒカンが脱げて、普通の髪型が出てくる。どうやらカツラだった模様。
こんなもんこんなもんとモヒカンのカツラを捨てて、肩パットを外し、レジスタンスに加わる。車両に乗っていた者たちも同様にあっという間に味方となり戦い始める。
悪徳ドーム周辺は一気に戦争の空気へと変わっていったのであった。
「ク、クフフフフ…」
朧が立ち去ろうと考えたところで倒したはずのクレムリオンがか細い声をあげる。サッと朧がクレムリオンへと振り向くと黒焦げになりながらも最後の言葉を言わんとしていた。
「見たわ、聞いたわ、その力を思い知ったわ……」
焦げながら、その身体を灰にしながらクレムリオンは言う。
「人間の希望……。魔人を倒せる機械……。クフフ、フ、私は情報屋……この声は世の噂となり、見たものは語り継がれる……、その力を我らが創造主もきっと知ることとなるでしょう……貴女たちではきっと……きっと勝てないわよ……脆弱な人間さん……」
不吉なる最後の言葉を放ち、完全に灰となり風に吹かれて消えていくクレムリオンを見ながら朧は決心する。
「やはり霞も武装くノ一になってもらうべきですね。そうですよね、サクヤ様」
「えぇ、その通りです。まずは決めポーズから考えましょう。かっこいいコンビのポーズを考えましょう。牛乳戦隊のポーズを参考にすると良いと思います」
グッと力強くコブシを握り、武装くノ一はなぜか嫌がる霞を思い次は説得しようと決心する朧。
それを煽る魔人よりも悪魔的な銀髪メイドであった。
クレムリオンの最後の言葉を誰も気にしないようであるので、少しは気にしてあげないと可哀想だと思うのは間違いなのだろうか。
「あ、ニンニン」




