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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
19章 西日本に行ってみよう

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308話 おっさん少女はレジスタンスと合流する

 次の日、まだ太陽は昇っておらず周りは暗い状況であるが、サラは懐中電灯を持って瓦礫の中を進んでいた。


 瓦礫の中から、地下へと続く通路へと迷わずに入りながら、こちらへと声をかけてくる。


「この地下道から進むわ。懐中電灯は大丈夫?」


 ついてきているのはおっさん少女と朧だけで、霞は子供たちを守るために残った。そして二人とも懐中電灯を持たずにてこてこと小石に躓くこともなく平気な顔で歩いているのでサラはその様子が気になり声をかけてきたのだ。


「大丈夫ですよ、私たちは暗い中でも行動できる謎の放浪者なので。放浪者はこれぐらいの暗さでも移動できるんです」


 フンスと息を吐いて、胸をはるおっさん少女である。ゲーム仕様であるので暗闇は意図的な超常パワーの暗闇以外は暗闇とならない二人だ。たんに暗いなぁと思うだけである。


 その答えに苦笑を浮かべて、この娘たちは鍛えられていると考えるサラ。勘違いも甚だしいが強いので問題ないだろう。


 でも本当に鍛えられているのかしらとサラはレキを見て思う。


 朧と霞は鍛えられているとわかる娘たちであったが、このレキという娘は大丈夫なのかしらと。


 なぜならば先程から段ボール片手に歩いていて、角道や瓦礫で道の先が見えない場所に来ると、ササッとわざわざ口で呟いて段ボール箱を被るのだ。そうして、ちょこっと可愛らしい顔を出して辺りを確認してからまた歩き出す。


 どう見てもその姿格好からして、子供が遊んでいるようにしか見えない。そんな子供が驚きの叫び声をあげる。


「きゃー! ゾンビが罠に引っかかっています!」


 地下通路は外部との通路が多々ある。その通路はできるだけ自然に見えるように瓦礫などで塞いでいるが、それでも入ってくるゾンビはいる。


 そんなゾンビたちを倒すように仕掛けてあった罠の一つ、重りが天井から落ちてきて相手を潰す罠にゾンビが引っかかっており、それでもなお不死身のタフネスさを見せて暗闇の中でうめき声をあげて、手足をバタバタとさせていた。


 その不気味さを見て、レキと呼ばれた少女は小さく叫んで、てててと歩いて朧の腰にぎゅぅとしがみつく。


 恐怖でぶるぶると身体を震わせている様子なので、先程の奇行と合わせてメンタルも弱いらしい。


 いつの間にかテーブル下に段ボール箱が置いてあったのはびっくりしたが、たぶん朧と霞が仕込んでいたのだろう。


 レキはきっと囮で本物は他に潜入しているのだろうと、評価を下げて嘆息するサラであった。


 遊びながら歩くそのアホさに評価をただの幼げな子供にされてしまったおっさん少女である。


 それでもレジスタンスに会わせようと考えるのだからサラは立派な人だ。まぁ、朧たちがいなかったら、たんに子供たちと一緒に暮らさせてレジスタンスには会わせないルートであったりしたが。


 朧と霞、大活躍である。




 遥たちはてこてこと暗闇の地下通路の中を歩く。


 周りには砕けたガラス、壊れて動かない自動ドア、血だらけの店内と通路脇には多数あり、さらにはそこかしこから不気味なうめき声が聞こえてくるときた。


 かなり怖いシチュエーションだ。ホラーゲームならば銃を構えながら移動するし、映画であれば目を瞑って、細めになりながら、もう化物でた? まだ出ない?と怖がりながら見ているだろう。


 そんなヘタレなおっさん少女は、顔はウキウキとアトラクションを楽しむ嬉しそうな表情を浮かべていたので、暗闇でなければその様子にサラは疑問に思ったであろう。それか恐怖で狂ったのかと。


 最初からおっさん少女は狂っている可能性があるんじゃというツッコミはなしの方向で。


 そんな一行はしばらく歩いていくが、遥はその行き先に驚きで舌を巻く。


「どうやらいくつもの空間結界の境界線が重なり合った場所を移動していますね。これだと相手を追うことができません」


 どうやってこの場所を選んだのだろうと疑問に思うが、空間結界は僅かに境界線の空間が歪んでいるのが特徴だ。苦労して調べたのであろう。物凄い危険で大変な労力なはずと遥は感心する。


 遥では絶対に無理な探索方法だ。宝箱もないのにオートマッピングももちろんないだろうに隅々まで調べるような労力をかけたくない。攻略サイトを作る人たちはこういう風に頑張っているのだろうなぁと斜め方向に感心するおっさん少女であった。


「命懸けでレジスタンスをしているから当たり前よ。この貴女たちが空間結界と呼んでいるものを利用しないと私たちは生き残れなかったわ」


 遥の呟きを拾い、サラがこちらを見ながら悲しげな表情となる。どれだけの人々が死んでいったのか想像もつかないと思う。


「さて、ここがレジスタンスの拠点の一つ。ようやく到着したわね」


 壊れたバーらしきものの前で立ち止まるサラ。


 だがバーはドアの前に瓦礫が落ちており塞がっているので、遥は首を傾げてしまう。入り口はどこかな?


 その様子を見てクスリと笑い、サラはバーの上にある大きめな空気取りの窓へ指さす。


「わかりやすい入り口はないの。敵に見つからないように、ゾンビたちが入り込まないように大変だけどそこの窓から入っているのよ」


 そう言って、暗闇の中から隠されていた窓からぶら下がるロープを取り出すのであった。


 んしょんしょとロープにしがみついて窓から入ろうとする遥であったが、ジタバタと足を振って苦労して登っている様子を見せる。


「お尻を押して〜。押し上げてください〜」


 わざわざ苦労して登っている様子を見せる小細工が好きなおっさん少女であった。朧はニコニコと笑顔でんしょと押し上げて窓から美少女を押し入れる。


 む〜む〜と唸りながら、一生懸命に窓から入る遥は疲れたように言う。


「ちょっと窓の位置が高すぎます。私の背丈だと大変じゃないですか。踏み台を要求します」


 プンプンと可愛く口を尖らせて怒る風に意見を言うが、窓の前にこれみよがしに踏み台があったら怪しくて仕方ないことは間違いない。


 シュタンと窓から中へと飛び降りる遥。間髪いわずに朧も入ってくる。一息で壁を蹴り軽やかに入る凄腕ぶりだ。


 指をちっこいお口に咥えて、自分も凄腕スタイルにしたほうが良かったかしらと朧を眺めて思うほどの羨ましさだ。


 そうして二人共部屋に入ったところで、熱烈歓迎を受ける。


 周りには銃を構えた人間たちがいて、二人を囲むのであった。


「動くなっ! 一応身体検査を受けてもらう」


 リーダーらしきガタイの良い男性がショットガン片手にこちらへと凄みのある視線を向ける。


「おぉ〜! かっこいいです、なんだか自分たちが危険なミッションを受ける凄腕エージェントみたいに見えちゃいます」


 キャッキャッと喜びで花咲くような満面の笑顔になりおっさん少女がまったく緊張感のない発言をする。だって銃を持った人々に警戒されて囲まれるなんて映画でしか見たことないし。


 なので映画の主人公らしくかっこよくセリフを返さないとねと頭をひねるおっさん少女である。極めてやらないほうが良いとは簡単に想像できる様子であり、朧はアホな美少女を止めたほうが良いだろう。


「ちょっと待ってくださいね、今、タバコっぽいものを探しますから。タバコ、タバコ、タバコっぽいもの……」


 やっぱり咥えタバコで周りを睥睨するのが主人公でしょうと考える謎の放浪者。でも、タバコなんて持っていない。煙からして大嫌いであるので仕方ない。


 周りがその発言に戸惑いながらお互いの顔を見合わせるなかで


「へい、とんだ歓迎だな。いつもこんなふうな歓迎なのかい?」


 身体を半身にして、ニヤリと笑うダンディに見せたいおっさん少女。


 口にはマカロンが咥えられていた。細いタバコっぽいものがなかったので、仕方なくマカロンを口に咥えたのだ。本当に仕方ないのかは不明だ。おっさん少女の中では仕方なかったのだろう。


 丸っこい外側はサクサク、中はフカフカで美味しいねと思いながらキメ顔で周りを睥睨しちゃう。


「マカロンは美味しいです。チョコ味が好きなんですよね」


 誰も聞いていないのに味の感想を口にする遥である。マカロンは高いんだよ?作るのも大変なんですよというアピールも入れようか考えてもいた。


 周りで緊張感を持って囲んでいたレジスタンスの面々は思った。


 一斉にサラへと視線を向けて、なんでこんなアホの娘を連れてきたのと。しかもよりによってレジスタンスの拠点へと。


 その視線を受けて顔を羞恥で赤くして俯くサラであった。



 仕切り直しというか緊張感がなくなり、どことなくもうこの娘は危険人物じゃないでしょ、たんなる迷子じゃね?という空気になってしまったので、レジスタンスのリーダーはため息を吐き諦めた。


「……ようこそレジスタンスの拠点に。俺たちは……なぁ、本当にこの娘が東日本からのエージェントなのか?」


 キメ顔で語るべきシーンであるはずなのに、どっかと椅子に座ったリーダーはどことなく不安げにサラへと尋ねる。


 無理もないだろう、おっさん少女はシリアスな場面を粉々にしてミルクをかけて食べる勢いだ。


「えぇ……少なくとも朧ちゃんは凄腕よ。見たこともない技術を持っているし」


 サラはあえて遥を見ないようにしてリーダーへと肯定の返事をする。極めて頭の良い判断だった。


「ふむ……、お前がエージェントか。東日本はどうなっているんだ? 平和なのか? 食料は足りているのか?」


 リーダーは朧を見ながら、どことなく縋るような目つきとなる。他の面々も回答を聞きたそうだ。生き残るのに必死なのだから。


 その縋るような視線は朧を向いているので、間に立ちはだかる大人げない遥。フンスと鼻息荒く愛らしい姿を存分に使い、腕をブンブンと振り回して自慢げに微笑む。


「ふふふ、もう東日本は平和ですよ。街の外にはゾンビがいますけど、働かないと食べていけませんけど、普通に暮らしています。食料だってたーくさんありますよ」


 腕を振り上げながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねる子供がそこにいた。


 愛らしく話すので、見る人は癒されるがその言葉は不安を煽るようにしか感じない。


 だって子供がそんなことを言ってもなぁ、でも反対に子供だからこそ真実味があるのか? いやいや、なんでそんな子供がこんな危険な都市に来ているんだよと顔を見合せて話し合う。


「ここよりは穏やかに暮らせていける場所です。暴力が支配する世界ではないと私は思います」


 朧が穏やかな顔つきで言うので、ようやく不安気に話し合う人々は大丈夫かと考えるのであった。


「そうか………そんな君たちは何しに来たんだ?」

 

 リーダーが尋ねてくるのは当たり前の疑問だ。こんな崩壊した世界だ、なぜ平和な都市を出て危険な都市へと来るのであろうと。


 そんなリーダーに安心するように遥が口を挟む。挟まなくても良いのに挟む。止める人間はいないので口を挟むのだ。


「それはこの都市と交易をしたいからです。謎の放浪者は常に交易相手を探しているのです。そしてこんな危険な都市だと交易もなにもないので、是非平和な都市となって交易相手に相応しくなって欲しいのです。お手伝いしますよ? この都市を解放するのでしょう」


 正義感には満ち満ちていない楽しそうな表情であるが、その表情の奥にある人を助けようとする光をリーダーたちは見たのかもしれない。もしくはたんに暗闇に照らされる灯りの反射かもしれない。たぶん後者だろう。


 重々しくリーダーは頷いて口を開く。


「わかった。ならばとりあえずの同盟関係ということでどうだろう? この都市を解放した暁にはお礼は存分にしたいと思う。どのような支援をしてくれるのだろうか?」


 その言葉にきょとんした顔になる遥。ちょっと想定外の言葉だからだ。


「おっと、驚きの言葉ですね、同盟相手ならば対等でないといけないです、いきなり支援要請はいただけませんよ。まずは自分たちで頑張って頂かないと、この都市を解放しても誰もついてはこないですよ?」


 ニコニコと無邪気そうな笑顔でありながら、眼光を鋭くして辛辣な言葉を言う子供に、それまでのアホな様子と違う雰囲気を感じてごくりと周囲の人は息を飲みこむ。


 先程と違い、得体の知れない威圧感をこの子供といってもよい可愛らしい少女から感じ取ったのだ。


 苦渋の表情でリーダーは言葉を紡ぐ。


「………君の言う通りだ………。自分たちで頑張ることを止めてはこの2年頑張ってきた仲間に顔向けができないな」


 その言葉を聞いて、くるくると楽し気に小柄な身体を回転させて、着ているローブをふわりと花のようにたなびかせておっさん少女は踊る。


「今の私たちは貴方たちの仲間。それで行きましょう。これで生きましょう」


 不思議な雰囲気を出しながら歌うように遥は言いながら、ぴたりと体を停止させてリーダーへと挑戦的な視線を向ける。


「なので、まずはレジスタンスの活動を見せてください。きっと私たちは役に立ちますよ」


 そうしてビシッと片手を振り上げて自慢げにする。


「この段ボール箱と共に!」


 常に段ボール箱を推しにするおっさん少女である。


 おぉ~と朧がパチパチと拍手をしていたが、他の面々はさっきの圧力は気のせいであったかと、苦笑をして考えたのであった。すぐに空気を崩壊させることが得意なおっさん少女であったりした。


「ならばまずはドームに潜入しようと思う。あそこは無秩序に銃や弾丸を配られている、武器類を確保して次の作戦へのステップとする」


 リーダーが周りを見ながらそう伝えると、周囲の人々は力強く頷く。


「では朧君が一緒に来てくれ。俺たちの活動を目の当たりにして欲しい。危険な任務なので拒否は可能だが」


 朧を見ながらキリリとしたキメ顔で参加を求めるリーダー。すでにサラから見たこともない技術で作られたアイテムの数々を使うと聞いているからだ。


「わかりました。謎の放浪者はその任務についていきましょう」


 朧の前に再び立ちはだかるおっさん少女である。そんな楽しそうな任務についていかないという選択肢はないのであるからして。


「あのだな………。これは危険な任務なんだ。君みたいな子供がついていくと危険極まりない。残念だが、君は留守番だ」


「えぇ~………。それは残念です………、では朧、頑張ってきてくださいね」


 朧は意外なことを言う指令を見て少し驚きの表情となる。絶対についていくと言い張ると考えていたのに、どうしたのだろう? お腹でも痛いのでしょうかと不安気な考えも首をもたげたりする。


 だが、素直に言うことを聞いた遥を見て、ほっと安心の息を吐くリーダーは仲間を6人程連れて行くことにする。


「ドームまでは地下道を通りながら注意していく。ついてきてくれ」


 そう言ってしばらく後に準備を終えて歩き出すレジスタンスたちであった。


「では行ってきます。レキ様もお気を付けて」


 遥に挨拶をして朧もその集団について暗闇の中を歩いていく。


「いってらっしゃーい、お土産は味噌カツがいいです。名古屋の名物って多いって聞きますけど手羽先でもいいですよ~」


 ブンブンと手を振って送り出す遥。そうしてみんなの姿が見えなくなりサラがレキを安心させようと言葉をかける。


「大丈夫よ、何度もやっていることだからあんまり危険なことにならな………あら、レキちゃん?」


 いつの間にか目の前にいた少女がいなくなり、きょろきょろと探すが杳としてレキの姿は見えないのであった。


 その横を地面に置いてある段ボール箱が車もかくやという速さで動いていくのは誰も気づかなかった。

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