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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
18章 国を建設してみよう

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295話 おっさん少女と竜牙兵

 金山ダンジョン。もうその名前だけで大金が稼げそうな響きを感じて、心がわくわくとして、心臓がドキドキするだろうとおっさん少女は思う。


 金山ダンジョンといっても、どうやら観光用に作られた通路を主としているらしく、コンクリートに包まれた通路となっており、天井から落下防止用のネットに覆われた蛍光灯が仄かに光っている。


 なんとなく金山ダンジョン観光用とかそんな感じだよねと多少のがっかり感を感じながらてこてこと一行は歩き続けた。


 観光用の通路をダンジョンにしたためであろう。人形が各所に置いてあり、鉱山内でどんな作業が行われていたかの看板も置いてあるが、ダンジョン化したために複数の箇所で同じ人形や看板が置いてあるのがシュールであった。


「あ~、たしか佐渡の金山観光って金のインゴットに触れるんだよな? アタシ、崩壊前に佐渡に旅行にきたことがあるんだ。ガラスケースの中に入っていてさ、触ってみたんだけどたんに重いんだなぁとしか思わなかったよ、綺麗かっていうとぼんやりとしたくすんだ色で本当に金なのかってことも考えたよ」


 通路を歩きながら真琴が蛍光灯がついているため、無駄になった懐中電灯を手で弄びながら言う。


「フヒヒ………私は北海道以外は旅行に行ったことがなかった………。いいなぁ~。私も旅行に行ってみたかった………」


 ディーが真琴の言ったことを羨ましそうに返事をする。カメラを持ちながら、きょろきょろと良い映像が撮れないかなと確認しながら。


「金のインゴットですか。私は何個か持っているので見せても良いですよ? 今度触ってみます?」


 金のインゴットは何十本か持っているのでそう問いかける。インゴットなんて結構見つかるのだよと。


「か~! 金持ちは違うねっ! 今度触らしてくれよ、あ、小判とかの方がいいなぁ。たしか大判小判も展示されていたような気がするぞ。佐渡って江戸時代は大判小判をここで鋳造していたらしいんだよ。たしかそんな記憶がある」


 真琴が遥を見ながら、インゴットより小判の方がいいなぁと呟くように言う。


「なるほど、まさしく宝の山という訳ですね。というか静香さんの叫び声は聞こえますが、どこまで進んでいるのでしょうか? 全然合流できないですね」


 眠そうな目で通路の先を見つめて、遥はいつまでたっても合流できない静香に呆れる。


 叫び声は聞こえるのだ、叫び声は。


「ヒャッハー! 怪しい壁を見つけたわっ! ここを掘るのよっ!」


 ガンガンガンガンと壁を打ち壊す音も響くので、いつものクールなハードボイルドな静香はいない模様。


 どこかのアホな美少女と同じような行動をとるのは、きっとアホな少女の眷属になった影響ではないと信じたい今日この頃です。


 まぁ、奥に行くまでには合流できるでしょと、諦めるおっさん少女は気配感知で近づいてくる敵を待ち構える。


「真琴さん、新たなる敵が来ましたよ。またスケルトンです」


 カシャカシャと軽い足音をたてて、通路の曲がり角からでてくるのはスケルトンであった。シミターを右手に持ち、左手は丸盾、カチカチと頭蓋骨の口が歩くたびに鳴っている。


「シーン18! 巫女真琴、骨を浄化する! フヒヒ、真琴上手く演技してね」


 ディーが真琴へとカメラを構えて伝えると、コクリと緊張した表情で頷き真琴は床に跪き、両手を合わせて綺麗な声音で詠唱をする。


「悪しき魂よ、神の名においてその魂を浄化せよ。ターンアンデット!」


 その言葉と共にピカーッと真琴が輝き、その光でスケルトンたちは灰へと返る。


 な、わけはなかった。詠唱が終わったら、すたこらさっさっと朧たちの後ろへと退避する真琴。


「撮れた? 撮れたかっ? 巫女のあたしのターンアンデット」


「フヒヒ………撮れました。これは撮れ高が高いですよ。あとは編集して倒したように見せかけましょう」


 ディーが親指をグッとたてて真琴を褒めるが


「なんというか………ノンフィクション冒険と私はお聞きしたのですが………ニンニン」


「アハハ、これあれだねっ、剣と魔法の世界の神官さんだよね、うっきー」


 朧があきれ果てたように真琴たちを眺めて、腹を抱えて霞がケラケラと楽しそうに笑う。


「ノンフィクション冒険だから問題ないですよ。誰も今の詠唱で倒したなんてセリフを入れなければいいんです。倒した画面だけ編集して撮影しておくだけです。観客が勘違いしようともそれはこちらの責任ではないですね」


 詐欺師なディーがそこにいた。フヒヒと怪しく笑うので確信犯だろう。どうも普通に撮影するより色々とやったほうがいいと台本を変更したらしい。というか台本を持っている所を見たことがないが、まさかの即興での撮影なのだろうか。


 呆れながらも、遥はそのカモシカのような脚を軽やかに動かして、蛍光灯がついていても薄暗い通路を駆けだす。


 小柄なる体躯でてってと走りスケルトンまで接近すると、スケルトンたちは身構えて、その姿からは想像できない程滑らかに鋭くシミターを繰り出してくる。


 完全なる振り下ろしではなく、頭まで上げてからの牽制ともとれる振り下ろしからの剣撃が遥へと迫る。


 脚を止めて、僅かに身体を後ろへと反らしてその振り下ろしを避ける遥。振り下ろされたシミターが眼前を通過していく。完全に振り下ろされたら反撃だと思った遥だが、スケルトンは振り下ろしを中途で止めてゆらりと足を踏み込み、腕を僅かに引き寄せて突きを繰り出してきた。


 ヒュッと風切り音がその鋭い突きにより生み出されて向かってくるのを冷静に動揺も見せずに親指と人差し指で突き出されたシミターの先端を掴む遥。


 スケルトンは突きが防がれたことと判断して、すぐにシミターを引き戻そうとするがたった2本の指で捕まれているにもかかわらず、びくともしなかった。


 その脆弱そうな子供にも見える美少女の力に敵わず、一瞬動きが止まるスケルトンへと左足をしなやかに振りその頭蓋骨へと叩きこむ遥。


 パカンと頭蓋骨が砕かれてバラバラになるスケルトンだが、後ろから他のスケルトンたちが交互にシミターによる斬り裂きをかけてくる。袈裟斬りを仕掛けてきた2体のスケルトンを摺り足で前へと踏み込み、その袈裟斬りよりも早くスケルトンの横を通り過ぎる。


 振り返りざま、鞭のように回転蹴りを加えようとする遥であったが、スケルトンたちは盾を身構えてその蹴りを防ぎ、しかして力負けをして僅かに押し戻されていく。


 だが、すぐさまシミターをひらりと繰り出してくるスケルトン。命を持たない剣は踏み込みに恐怖がなくそのために鋭く恐ろしい。


 そのシミターの前にひらひらと手を泳がすように突き出して、舞うように全てを受け流す遥。


「す、すげえ! これぞ、戦いってやつだな! かっこいい!」


 真琴が感心したように遥とスケルトンの戦いを見て呟く。その姿はまさしく熟練した戦士たちの戦いだとわかったからだ。


「フヒヒ………しっかりと撮影する。真琴、あそこに混ざってきて」


 平気な顔で鬼畜なことを言うディーである。カメラ越しに見ると現実感を失くすのだろうか。ゾンビ映画で同じようにカメラ越しに撮影した内容のものがあったが、それも主人公はカメラ越しに撮影して現実感を感じさせなかった。


「ふざけんな! アタシに死ねというのかよ。あれはどう見ても戦いに加われないぞ? たぶん棒きれで叩きにいっても、盾で受け流されてシミターで斬られて終わりだよっ!」


 ディーへと無茶ぶりだと怒鳴る真琴であるが、たしかにその通りだろう。熟練した戦士のように見えるスケルトンたちだ。


 その様子に顎に手をあてて霞が目を細める。


「なんかおっかしいね~? あれ本当にスケルトンなのかな? なんか違う存在のような感じがするよ? うっきー」


 明るく快活なアホの少女に見えるが、内実は頭が良い霞が疑問の表情で口を開く。


「スケルトンウォーリアとか言うやつではないのですか、霞?」


 あ、ニンニンと言い忘れたと思いながらも、朧が霞へと視線を向ける。


「う~ん、スケルトンウォーリアなら、あんなに熟練した戦士のようには戦えないはずだよ。たんに武器をもったスケルトンでそんなに強いはずはないと思うよ?」


 うっきーっていうの面倒くさいよねと言うのを止めた霞が朧へと告げる。


 その会話は戦闘中の遥の耳へも届いていた。


 シミターを受け流しながら、牽制の突きを繰り出すと丸盾で防がれるので、すぐさま身体を屈めて隙ができた下半身へと足払いを繰り出して砕く。


 もう片方のスケルトンがシミターを骨だけの身体なのに力強く身体を屈めた遥へと振り下ろしてくるのを、半歩だけ横へと身体をずらして華麗に回避してから、トンッと床を蹴り身体を捻り回転させながらサマーソルトキックをスケルトンの頭へと蹴り下ろして砕くのであった。


 バラバラとなるスケルトンたちを見やりながら、遥も今の霞の発言を軽く腕を組んで考え込む。


「ねぇ、サクヤ。たしかにこいつらは変だよ、こんなに熟練した戦士のように動くスケルトンはいないと思う。というか、この装備で熟練した戦士のように動く骨に私は思い当たることがあるんだよね」


 ウィンドウ越しにコテンと小首を可愛らしく傾げながら尋ねる遥へとサクヤも頷く。


「あれは竜牙兵。竜の牙から生み出された戦士レベル3の敵ですね。竜牙兵と名付けました! ゴーレムの一種です。私は最初から気づいていましたよ? 本当ですよ? もう一目見たときから」


 早口で誤魔化そうとする銀髪メイドである。真琴もそうだが、なんで銀髪は残念仕様なのだろうと哀れみの視線を向けてしまう遥であった。


「ご主人様! なんですか、その目は! 私は気づいていましたって! そしてこのダンジョンの敵ボスも推測できましたよ。たぶん魔法使いです。失われた古代魔法の使い手ですね」


 テーブルであそぶゲームの設定を口にして推測を言うサクヤに、ふむんと遥も推測する。


 竜牙兵を使う魔法使い。たしかにわかりやすい敵だ。だが、正体に気づいたときには発生するはずのミッションがない。ここのボスは単体での力は弱いからミッション発生がないのであろうか? 


 それともボスが違うのであろうか?


「魔法使いねぇ………現代で魔法使いになるのって難しいよね。風俗もあるし、恋人も作れるだろうし」


 おっさんも昔は恋人がいたのだ。数年で別れることを繰り返してしまったが。あの時は若かったと遠い目をする。別れた理由は自分のことに金を使いたかったからである。今はお金に困っていなかったが、昔は普通の勤め人だったのだ。なので、お金をデートとかに使うことに躊躇いを覚えてしまう時点でもうだめだったとケチなおっさんは記憶を思い出していた。


 だがここでは30過ぎたおっさんが魔法使いになったのだろうかと、失礼なことを考える遥である。


「魔法使いとなると不思議パワーが使えるのかもしれないね。静香さん大丈夫かなぁ?」


 ちょっと心配になるが、ここの敵はそこまで強くないから大丈夫かなとも考える。


 通路の奥から再び竜牙兵が現れるのを確認しながら、ちらりとディーへと視線を向ける。


「ディーさん、撮れました? もう撮影用の素材が必要ないでしょうか?」


「フヒヒ………もう充分、あとは他の場所を撮影する。金があるところが希望」


 ディーがカメラを降ろしてコクリと頷くのを見て


「では、もう撮影用の戦闘はおしまいです。さようなら竜牙兵さん」


 ふふっと可憐に口元を笑みへと変えて、ぞろぞろと現れた竜牙兵へと、まだ距離があるにもかかわらず拳を軽く突き出す。


 軽く突き出した拳であるが、通路を覆うように突風が巻き起こり5体はいたであろう竜牙兵はその突風に隠された視認できない速度での拳撃に盾を構える暇もなくバラバラになっていくのであった。


 一瞬で無数の拳撃を繰り出したのだ。この攻撃だと速すぎて撮影ができないので遅く戦っていたのである。


「では、先に行きましょう。おっと宝箱がありますね」


 紅葉のようにちっこいおててを掲げて、通路奥にあった宝箱も回収する。キラキラと粒子が舞い吸収されてゴールドマテリアルと表示されたことを確認する遥。


「まぁまぁ、良いマテリアルなのかな?」


「そうですね、鉱山なのでもしかしてミスリルマテリアルとかオリハルコンマテリアルとかもあるかもしれませんね。装備を作るのに良い素材ですよ」


 ウィンドウ越しにナインがにこにこと癒される微笑みで今の素材の内容を告げてくる。癒される微笑みだなぁと思いながら、ニコリと可愛らしく微笑みを返して


「なら、ボチボチとダンジョンを探索しながら行きますか。宝箱は全部回収しておかないとね」


 ルンルンとスキップしながら奥へと進む遥。ミスリル? オリハルコン? なんとロマンあふれる名前なのだろうとワクワクドキドキムネムネだ。


「私たちは死の匂いが立ち込めるダンジョンを一歩一歩、また一歩と進みます………。私は果たして生き残れるのでしょうか?」


 真琴がカメラの前で演技をしながら進み、その横を朧たちもポテポテと移動する。


 以前、アマゾンに探検に行くなんとか探検隊とかテレビでやっていたなぁと、その姿を見て思う遥。おっさんが子供の頃にやっていた感じがする。子供にはワクワクする内容であったが、よくよく考えると前人未到といいながら、なぜかカメラが主演の人より先行していたんだよねと思い出してしまう。


 あの路線で売り出すつもりなのかとディーを見るが、フヒヒと相変わらずの怪しい笑みで撮影しているのみだ。


「まぁ、いっか。あとで映画館で見ればいいんだし」


 私の出番もあるよねと思いながら奥へと進む。


 しばらくしたら、静香たちが小部屋で佇んでいた。


 いや、佇むだけではない。ガラスケースを外して中身を取ろうとする女武器商人と、ふよふよとその姿を呆れた感じでみているチビシリーズがいた。


 うぉ~とツルハシでガラスケースを叩いているが壊れる様子がない。


 汗だくでツルハシを夢中になって振っている間抜けな姿に哀れみしか感じない。


「ようやく合流できましたね、静香さん。どうです、金は回収できましたか?」


 遥へと気づいて、静香がツルハシ攻撃をやめて、くるりと振り返る。


「それがおかしいのよね。金脈って黒い筋が岩に見える中に眠っていますと、そこの看板に書いてあったのに、それらしい場所を掘っても金が出てこないの。だから、こうやってガラスケースの中に落ちている金のインゴットや小判を保護する方向に転換したんだけど、これ砕けないのよ? どうにかならない?」


 ツルハシでガラスケースをコンコンと叩きながら、悔しそうに言う静香へと遥は教えてあげる。


「これはボスを倒さない限り、解除されないタイプの結界ですよ。破壊するまでは背景画のままという以前にもあったタイプですね」


「くっ! やっぱりそうなのね。どうにかならない? 今の力は以前と違うでしょう?」


 期待に満ちた静香の問いに、なるほど、以前とは比べ物にならない力を私は持っていると考える。


「そうですね、砕けるか試してみましょうか」


 まずは物理攻撃でと、いつもの脳筋な考えを行動に移そうとする遥であったが。


「その必要はない、我が巣穴にようこそ生贄たちよ」


 声がおどろおどろしく部屋へと響き渡り、部屋の床が砕け散る。


「なっ! 落とし穴! いえ、床を砕いた?」


 罠ではなく物理的に床を破壊したのであろう。気づかなかったと落とし穴に落ちる面々を見ながらおっさん少女は叫ぶのであった。


 そうして全員はぽっかりと開いた暗き穴へと落ちていくのであった。


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