282話 忍者部隊頑張る
木々が日差しを遮る中で、鬱蒼と茂った雑草の中でネズミがちょろちょろ走っていた。ネズミにしては恐ろしく走る速度が速い。時速100キロはでているだろう。
ありえない速度で、自身にぶつかる枝葉などびくともしないで走り抜ける。100キロの速度を出して、その小さなネズミの身体で小枝にぶつかれば、傷つくのは当たり前であるのに、その毛皮は傷一つなく走る速度も変わらない。
本来ならばネズミを捕食している蛇たちはその速度に自身の縄張りに入ったことも気づかずに通過させてしまう。
異常な力を持つネズミは一直線に食事もとらずに移動をしている。何故ならば、このネズミはルセルカが倒されたときに生み出したメッセンジャーたる分体であるからだ。
小さな身体とはいえ、その力は強大でありそこらの生物にも負けはしない。その異常なるネズミはルセルカの主へと伝言を伝えるために高速で移動をしていたのである。
ルセルカをあっさりと退治した戦士。人間が生み出したとされる超常の力をもつ戦士の情報を伝えるために。
そんな高速で移動をしているネズミを、同じく高速で移動をしながら追跡している人間がいた。
隠蔽、偽装などで姿を隠しつつ人間にはあり得ない速度で追跡しているのは3人の美少女であった。
3人共背中に刀を下げて、ピンク色の半そで短パンのくノ一の服を着こみ、網タイツをして追跡していた。
忍ぶものであるのに、ピンク色である。アニメや小説ではおなじみだが目立ってしょうがない服装だ。隠れることは普通はできない。というか、忍者という名称をぶち壊すのがくノ一装束である。なぜくノ一の服装はエロ可愛い目立つ服装なのだろうか。
現実では隠蔽を使用しながらではないと、追跡することも不可能であることは間違いない。無駄にスキルを頼る服装であるが、某銀髪碧眼美女がご主人様はきっとこの姿を気に入りますと悪魔の囁きをした結果である。それとアニメとかで情報を集めたら、黒装束の目立たない服装をくノ一は誰もしていないので、こういうものかと思ったこともある。
走りながら、先頭にいたシノブが朧と霞へと声をかける。
「かなり走りますね。予想よりも南下しています」
「ニンニンですね、ニンニン」
意味がわからない言葉を放つ朧。
「うきーですね。うきー」
ござるを少しもじったら、うきーになっちゃったと霞が答える。
3人はサクヤに騙された被害者同盟。もとい、サクヤの教えを受けた忍者軍団である。間違っているだろう服装とキャラだての言葉を振りかざされて、その話に詐欺師に騙されてるが如くくノ一へと変わった三人である。シノブが手裏剣の髪留めを頭の片側につけているが、朧は頭の両側につけており、肩までかからない髪の毛の長さで右側のサイドテール。そしてなぜか髪の毛を緑に変えている。霞も同じく髪留めを両側にしており、髪の長さは朧と同じ。左側のサイドテール。なぜか髪の毛は金髪である。
二人で一人とかわけのわからないことをキャラだてには必要ですとサクヤに言われて、髪型を合わせた二人であった。たぶんツヴァイの中でもアホそうなのをサクヤに見抜かれたのだと思われる。
なにしろ知力の項目はツヴァイたちにもないのだ。全員頭の良さが密かに違うのであった。
ネズミが草木を踏み分けながら移動するのを、3人は同じように草木を踏み分けながら移動するが、その動きは滑らかであり雑草は踏まれた後もすぐに元に戻り、秋の森林に積み重なった枯れ葉は踏み入れる脚の衝撃で舞い上がることもしない。
ただ静かに、森林内で静寂を持って移動する超常の忍者部隊である。
「岩手県からすでに県境を超えて、すでに福島へと入ったみたいでござるな」
シノブの言葉に頷いて、朧も前方を見渡す。
「そうですね、これほどまで南下するとは………。ルセルカの主はすでに移動をしていたということですかニンニン」
無理やりニンニンを語尾に持ってくるお茶目すぎる朧。
小声で話しながら、移動をしているとネズミは鳥居のある山の入り口へと入っていく。そうして鳥居の奥の階段を勢いよく登っていった。
「ふむふむ。この先には何かがありそうでですね。うっきー」
無理やりすぎるのでそろそろ語尾にうっきーは持ってくるのはやめた方がいいと思われる霞。
植物が生えて、消え去りそうな鳥居を眺めて、すっと看板へと指さす。
朧と霞はその指先にある看板を見て
「稲荷神社………。狐の使者?」
コテンと不思議そうに首を傾げて朧が口にするのを聞いて、かぶりをふるシノブ。
「いえ、神社というのは間違いないですが、狐が奥にいるとは限りません。私たちも急いで追いましょう」
「わかりました。ボスが何者か確認が必要ですからね」
「うっきーな気分だね! うっきー!」
朧が静かな声音で答えて、無邪気そうに霞が返事をする。そうして、三人もかなりの段数がある階段を登っていく。
シュタタタと忍者走りで移動する三人が頂上へと到達しそうなときであった。三人は足を止めて、ネズミが階段上にある鳥居を潜り抜けていくのを見送る。
そのまま難しそうな声音で朧が囁くようにシノブへと言う。
「罠がありそうですね。ここはシノブに任せました。私はネズミを追跡しますので」
「………その場合はリーダーの私が追跡をするのではないでござるか?」
鋭く目を朧へと向けて、尋ねてくるが朧は平然と言う。
「ボスを見つけて教えた方が、司令の覚えが良くなりそうなので。あと、シノブはリーダーですが、私はキャプテン、霞は委員長です。差はないでしょう」
シノブをリーダーとは認めていませんよと、ここに来て仲が良すぎる姿を見せるシノブと朧である。バチバチと火花が散りそうな目をお互いがしていく中で、霞が口を挟む。
「ちょっと、ちょっと、遊んでいる場合じゃないよ。急がないとネズミを見失うよ? 朧、ここは私たちがシノブに功は譲ってあそこの狛犬の相手をしよう。たぶん動くと思うから」
うっきーとは言わずに真面目な表情で提案をする霞。譲歩するなんてと朧は霞へと鋭い視線を向けるが、すぐに頷いてシノブへと言う。
「仕方ないですね。シノブは先に行っていてください。あの狛犬は私たちが相手をしますので」
狛犬、狛犬というが鳥居脇には狛犬が置いてある。片方は普通の狛犬の石像で、もう片方は6メートルはある大きさの頭が3つある狛犬の石像であった。敵は隠す気があるのであろうか?
あれは動くよねと看破でも確認済みで呆れる三人である。ちょっと雑すぎる罠だ。
シノブは譲ってくれた二人へと軽く頭を下げて感謝の意を示して、足に力を入れて、爆発するように地面を蹴り、突風を巻き起こし鳥居を潜り抜けていく。残像も残らぬ速さでシノブが鳥居を通過すると、その瞬間片方の狛犬がグググと動き始めて、生身へと石の身体を戻して吠える。
「うぉぉん」
三つの頭が目の前の少女へと素早く足を踏み出して、勢いよく噛みつこうと恐ろし気な牙が光る口を開くが
「はっ!」
「おりゃ」
次の瞬間、その場を四つ足で地面を踏み砕き、破片が舞い散る中で高速で後ろに下がる。砕かれた地面には無数の弾丸が当たり、小さな穴を高熱で溶かして作っていく。
タタタタと連続射撃にて撃ちこんだ朧と霞。その手には腰に下げていたサブマシンガンを引き抜き構えていた。
「二人とも聞きなさい。あれはコマベロス。鳥居を守る番犬コマベロスですね」
ウィンドウが開き、サクヤがアホな名づけをしてくる。たしかに犬の頭は狛犬である。大きさも変わり三つの頭があるが。
コマベロスは3つの口を開けて、口内に炎を生み出す。
「ぐぉぉぉ~」
一気に辺りを燃やすように炎のブレスが吹き荒れる。舐めるように地面を燃やしながら、二人へと近づいてくる炎のブレスを見て、トンッと消えるような速さで地面を蹴って離れる。
メラメラと地面が扇上に燃え盛る中で、朧と霞はコマベロスの両脇へと移動をして、サブマシンガンの引き金をひく。
タタタタと先程と同じように銃弾が撃ちだされるが、コマベロスは銃弾が吐き出された瞬間に、ダンッと地面を蹴り、神社の周りにある木を蹴りながら高速移動をする。
すかさず、朧が手で印を組み超能力を発動させる。
「忍法綱手縛り!」
サイキックウェポンにて、念動の鎖を無数に生み出して、その鎖をコマベロスへと向かわせる。忍法というのは伊達であり、サクヤが超能力を発動させるときに、適当に忍法といっておけば忍法に見えますよと適当なアドバイスをしたせいである。さすがサクヤ。もはやツヴァイたちにとっては害悪以外の何物でもないかもしれない。
そして糸使いのスキルを持っていないので、単に絡ませるだけであり速攻抜け出るというか絡ますこともむりな鎖であったが、それはコマベロスにはわからない。きっと鎖が胴体に当たると縛るように動くのだろうと先読みをして、再びその四つ足を踏み出して、ババッと身を翻して後ろへと下がっていく。
まぁ、まさかたんなる威嚇にしか使えないとは普通思わない。朧の作戦勝ちである。
後ろに下がったコマベロスであったが、追撃に霞が既に刀を抜いて飛び込んでいた。
「ほいほいさっと。変抜刀うっきー斬り~」
滑らかにその太刀筋を見せて、斬り裂こうとするのを見て、コマベロスはもこもこと身体を膨らませて爆発をしてしまう。爆発と共に砂煙が巻き起こり敵の姿が消える。
驚きで瞠目する霞と朧へと爆発したと思われる肉塊が飛んでくるので、身体を翻そうとするが、爆発の力が加わっているのだろう。恐ろしい速さであり、二人はその突進に当たってしまい吹き飛ぶ。
「ぐっ!」
「あうっ!」
地面へと勢いよく叩きつけられて、ごろごろと土まみれになり吹き飛ぶ二人。
「なんと、3体へと分裂できるのですか」
朧が痛みをこらえて、敵へと視線を向けるとコマベロスは身体を二回りほど小さくさせて、3体へと分裂していた。もちろん頭は一つずつとなっている。
「あう~。かなり痛かったよ~」
霞が腕を抑えて立ちあがるが、霞の方に2体が向かったのであろう。腕から血が流れてフラフラとなっている。
ガルルルルと唸りながら、3体が隙ができた霞へと一気に噛みつかんと駆け寄っていく。舞い散る砂煙を打ち消して、その速度で突風を巻き起こしながら食いついてくるコマベロス。霞はフラフラとなっており、躱すことはできない。
「がうっ」
一頭は霞の頭を食いちぎり、もう二頭はそれぞれ霞の脇腹と足をかみ砕いて通り過ぎていく。
どさりと倒れる霞を見やり、残りの敵を倒さんとコマベロスは朧へと向き直ろうとするが
「わう?」
食いちぎったはずの霞の頭からは血が流れず。倒れた身体もユラユラと空気を歪めて消えいくのを見て、不思議そうに見つめる。たしかに倒した感触があったはずだと。なぜ消えていくのだろうと。
「ふふふふ」
コマベロスの周りでたった今倒したはずの少女の声が聞こえてくる。
スタッとコマベロスを囲むように霞が何人も現れて楽し気に笑う。
「忍法霞分身。貴方にどれが本物かわかるかなっ?」
それぞれの霞がぱちりと可愛くウィンクをして笑い、周辺に霧が巻き起こり始める。
「忍法霧隠れです。もはやわんちゃんは私たちの領域に嵌りました。抜け出る事は不可能ですよ」
深く濃く立ち込める濃霧のために霞と朧の姿が陰でしか判断できなくなる。
匂いで敵の姿を確認しようと鼻をひくひくと動かすが、濃密な霧は二人の匂いすらも拡散してその痕跡を残さない。
「朧月夜に霞となりて、黄泉への案内を務めましょう」
二人の声が被るように聞こえてきて、コマベロスはすぐに元の姿へと合体をして身構える。敵の必殺攻撃がくると考えたからだ。鋭い野生の勘を働かせて、周りへと注意を向ける。
目を凝らし、鼻をひくつかせ、耳をそばだてて来たる敵へと身構えるコマベロス。
頭上にて空気の震えを感じて、すぐに仰ぎ見ると二人の人影が襲い掛かってくるのが見える。
すぐに灼熱の炎を口内に貯めて、二頭が炎を噴き出す。轟々と全てを焼き尽くすはずの猛火は頭上の人影を炎で包み込む。
人影が燃える中で、後ろへと振り向くともう二人の人影が近づいてきたので、最後の頭から炎を吐く。
再び焼き尽くされる人影。残りの反応を探るが頭上で焼き尽くされて落ちてくる人影のみであったので、緊張を緩める。
後ろに回り込んでいた敵が本物だったのだろうと考えたコマベロスの頭上から焼き尽くされて落ちてきた人影から声が響く。
「超技朧霞の乱撃」
かぎ爪をした二人が焼き尽くされて消えていく人影の後ろから現れて、無数に拳を閃かせて舞い降りる。
緩やかにも見えるその軌道はコマベロスの分厚い合金の装甲も上回る毛皮をあっさりと斬り裂き、肉片と変えるのであった。
最初から分身の後ろにいた朧と霞であった。コマベロスは絶対に攻撃に気づくと考えて、分身の後ろに貼りついていたのである。
バラバラとなった強敵をみやって、ふっと朧は冷たく笑い、にぱっと霞は無邪気に笑い
「イエーイ!」
お互いの健闘を称えてパチリと手を叩くのであった。
「やりましたね、ニンニン。ニンニンって言うの面倒ですよね、これ?」
「上手くいったね、オボロン! 私の分身かっこよかった?」
きゃいきゃいと騒いでいる二人。ちなみに分身はサイキックウェポンで作成しており、人形作成をレベル8まで取得している霞は手足のように操る。朧はエンチャントファイアとエンチャントアイスを同時に使用して地面に密かに配置した水蒸気発生装置を濃霧へと変換させたのである。どうやって濃霧に変えるかは朧の秘密である。ただ地道に水蒸気発生装置にエンチャントをかけまくり、密かに幾つも配置していたらしい。手品がネタバレするとしらけるので。
地味に忍法らしくしようと考えた二人だ。どこかの脳筋さんな美少女とは戦い方が全然違う。
「でも、シノブへと功績を譲って良かったのですか? こんな敵を倒すよりも敵のボスの正体を調べた方がいいと思いますが」
朧が霞へと尋ねて、霞はちっちっちっと指を振って否定をする。
「それが違うんだなぁ~。あの速度でネズミが移動していたでしょう?」
「えぇ、それがなにか?」
不思議そうに尋ねる朧へと自分の推測を言う霞。
「あぁ、なるほど………。霞は意外と頭が良かったのですね」
「むぅ~。うっきーだよ、うっきー!」
頬を膨らませて怒ったフリをする霞。だが、すぐに笑みを浮かべて、うぅと腕を抑える。
まだ血が流れており、最初の攻撃のダメージは回復していないのだ。実際に最初の攻撃はやばかったのであった。もしかしたら初手で戦闘不能となるかもしれなかった。
「くっ! 司令に報告をしないと駄目だよね? 凄い痛いんだけど、司令に優しく看病をされないと重傷になりそうな予感がするんだけど」
おぉ!とその姿に感動する朧。見た目は朧の方が頭がよさそうだが、無邪気な風でも霞の方が頭が良かったりする。
「私たちの決死の戦いでシノブを先に行かせたと報告しましょう。添い寝も希望しないと駄目ですよね、これは? うぅ………。痛いです、ニンニン」
二人が盛大に痛がり、遥へと報告をしようとしていた、一方その頃のシノブはというと。
「むぅぅ~。あの二人、予想していたでござるな………。うぅぅ、私があそこに残るべきでした………」
南下しすぎて、関東圏内を通り抜けようとしたネズミはあっさりとダークミュータント進入禁止のエリアに入って溶けて消えてしまったのであった。
あとには功績がなにもなくなって、うぬぬと困るシノブだけが途上で唸っていたのであった。




