274話 おっさん少女の艦隊戦
幽霊船連合艦隊な感じの敵艦隊である。空中に浮いているのはゴーストシップだからだろう。300メートルはある大型戦艦は凶悪な長大な赤錆びた砲門をこちらへと向けてくる。ガレオン船もチューンしてあるのだろう、砲が骨でできているロングカノンだ。
そしてその後方には大量の幽霊ゼロ戦、そして空母がみえる。ゼロ戦にはスケルトンが搭乗しており操作をしていた。
対するレキたちは全長3キロの空中戦艦である。100隻ちかい幽霊船と対峙してもまったく見劣りをしない威容を誇る。
ブリッジで敵を確認しながら、レキは素早く指示を出す。
「移動開始。回避運動をしながら、敵を叩きます」
そしてカタパルトを稼働させてハッチを開くと、フォトン戦闘機ウミネコが映し出される。
「こちら戦闘機ウミネコ隊、日向出ます!」
モニターに戦闘機ウミネコ隊リーダー日向が映し出される。
「発進どうぞ! ご武運を」
オペレーターが指示を出して、ウミネコ隊がカタパルトの急加速をうけて火花を甲板に散らしながら出撃する。続けてどうぞ! とオペレーターの指示の元、次々とウミネコ隊が発艦していく。
「続いて、ウモウ隊、サクヤいきま~す」
司令席に座るレキの側に移動して、その耳にふ~と息を吹きかかけて無人戦闘機ウモウを発艦させるサクヤ。ゲシッと蹴りを入れられて、サクヤの椅子まで蹴り飛ばされる。遥と違ってレキは容赦はないらしい。遥だと美女に蹴りを入れるのはねと手加減をするのだが。
あいたた、ご主人様の時ではないと命がたりないですねと呟いて、遥の時だけにしか悪戯をするのはやめようと思いながらウモウを操るサクヤ。
全機発進したことを確認したレキに、ふたたび声がかかる。
「司令。敵艦隊、エネルギー凝集。凝集光きます!」
敵は物理砲弾ではなく、エネルギー砲を使用するらしい。姿格好と違い近未来的な兵器だ。
艦隊はその砲門をこちらへと向ける。次々とエネルギー凝集光がスズメダッシュに着弾して、フィールドを張っているにもかかわらず、艦がゆらゆらと衝撃で揺れる。
がくがくと揺られながらも、その動きに支障を見せずに皆は自分の割り当てられた仕事をこなしていく。
「シールド減少率8%! なおも敵は攻撃中!」
空中戦艦を打ち砕かんと艦から次々と発射されてくる凝集光だがスズメダッシュはその攻撃に耐える。耐えたことを確認したレキはすぐに砲門を起動させる。
超弩級の砲門がぐいぃーんと轟音をたてて動き出す。全てを一撃で倒せる大きさの超弩級のフォトンカノンだ。この一撃は街すらも吹き飛ばすことは間違いない。
砲門に白い光の粒子がみるみるうちに集まり、周辺を照らしていく。そうして空中戦艦から超弩級のフォトン砲が発射されて、敵のエネルギー凝集光へと見事に命中する。
その威力は圧倒的であり、細い光のビーム光を巨大な白光があっさりと飲み込んでいき、かき消していく。
空間にて電光をまき散らし、空気を震わしその光る粒子は死を運び、敵の細いエネルギー凝集光へと正確に命中して、貫通しながらかき消していき、そのまま貫通して敵の艦へと命中する。
大型艦といってもこちらの10分の1の大きさである。白光は敵艦を包み込んで、その攻撃はあっさりと鉄の船体を溶かして吹き飛ばしていく。
「接近します。逃げられないように全て撃破していきますので」
レキはその巨大なる艦を前進させて敵が撃ち込んでくる砲をかき消し、あるいはフィールドに防がせながら突き進む。敵艦は空中戦艦を包囲するように移動して攻撃をしてくるが、レキは素早くシールドを命中しそうな場所に集中させて、フィールドの耐久力を下げずに完璧に防御をしていく。
通常ならばありえない運転である。機械操作ではここまでの精密な行動はとれなかった。運転スキルの凄さを改めて感じるレキ。
「司令、敵戦闘機隊、ウミネコ隊を通過して接近中!」
200機ちかい敵の戦闘機、いくらプロペラ機といえど多すぎる。ウミネコ隊は全てを防ぐことは不可能である。次々とウモウと共に高速で飛行をしていき、鋭角なる飛行をしていき、敵をそのビームで破壊していく。プロペラ機なのだ。所詮プロペラ機なのだとわかるように次々とあっさりと撃破していく。まるでシューティングゲームの最初にでてくる敵雑魚の如くに撃破していく。
しかしながら、さすがに敵の通過を防ぐことは無理であった。80機程度の幽霊ゼロ戦が接近してくるのをレキが見つめるとナインが警告が入る。
「レキさん、相手の所持している爆弾は強力そうです。あれを受けるとスズメダッシュもダメージを負うでしょう」
「了解しました。ですが、あの程度の数ではこちらへと接近することも不可能です」
そのまま自分の身体同然となったスズメダッシュの対空砲へと意識を移す。艦隊の隅々まで自分の手足となることを確認して、600門ちかい対空砲を一斉に撃ち始めさせる。近寄ってくる戦闘機へと狙いすまして射撃を開始していった。
幽霊ゼロ戦はそれをみて、回避をはじめる。ゆらゆらと木の葉のように動いて、分身するように残像を生み出して。残像は力を持って、まるで存在するように飛行を始める。
「敵ゼロ戦、レーダーにて無数に分裂した事を感知! こ、これはあの戦闘機は分身をする?」
驚いた表情をして報告をしてくるオペレーター。ノリノリである。楽しくって仕方ないとうきうきとした声音なので、驚いた表情の説得力はゼロである。
80機が500機ぐらいに分身を生み出してゼロ戦は空を埋める。
ぞろりと揃った敵ゼロ戦の威容は素晴らしい。どんな戦闘機でも撃破していくという勢いを感じる。そうしてゼロ戦は突撃してくるが、対空砲は正確にそのフォトンビームで狙い撃ち始める。
空中戦艦があらゆる方向から対空砲を撃ちだしていき、なにかのパレードのごとく粒子の光線を繰り出しす。前進しながらの対空砲の攻撃である。
普通は命中しないだろうとわかる対空砲の攻撃なのに、正確に対空砲の攻撃はゼロ戦へと命中していく。
ドカンドカンと戦闘機は破壊されていき、カトンボのように墜落していく。回避しようとしても、未来射撃をされているため、すぐにロールにてその場を離れるが、その時には次なる未来射撃がきているのであった。
すでに敵の動きは見切り、自らの手の平の上であるとレキはふふっと可愛らしく口元を微笑みに変える。
「フォトンカノン連続射撃開始!」
全ての戦闘機が墜落したことを確認して、どんどん接近してくる艦隊へと照準を合わす。
「ふふっ。残念ながら大艦巨砲主義な旦那様の勝ちですね。戦いは質が全てなのです」
接近してくるスズメダッシュを見て、慌てて回避運動をとる幽霊船艦隊。なにしろこちらの攻撃は敵砲により相殺されていくのだ。小さい砲撃も全て信じれないことに対空砲の攻撃で撃ち落とされていく。
ここにきて、敵艦は巨大だけではなく、その力も巨大な船体にあると考えて逃走を選び始める。
レキは楽しそうに敵艦隊を見つめて呟く。
「遅いです。貴方たちは私に出会った時点で撤退を選ばないといけなかったんです。援軍まで呼んでしまってお疲れさまでした」
100隻ちかい艦隊に援軍の空母群。いくら巨大艦でも勝てはしないと思っていたのは明らかだ。普通なら勝利するかもしれない。
だがレキに対峙していた時点で終わっていたのだ。なにしろ超越的な力を振るう美少女なので。
敵艦隊の中央まで迫った時に遥がエンチャントサイキックをスズメダッシュへとかける。
全長3キロ。エンチャントにもほどがあるとツッコミがありそうなほどの巨大な艦隊なのに、遥はその力をあっさりと行使させて、その巨大な艦は空気を歪ませて超常の力を纏わせるのであった。
以心伝心な旦那様の援護を受けて、レキはすぐに超常の技を発動させる。
「超技全方位ホーミングフォトンレーザー」
そうしてうねりをあげるスズメダッシュはチュンチュンと鳴くように、全方位へ凶悪なその砲の力を無数に分散させて、周囲の敵艦隊に向けて一斉に攻撃を開始していく。それは雨のようなレーザーへ変換されていき、空をしなる鞭のように動きながら斬り裂くように突き進む。
回避運動をしていた敵艦はグネグネとレーザーにあるまじきホーミング性能にて空を泳いでみせるフォトンレーザーに命中していき、木の葉の如く斬り裂かれていき、爆発をしていくのであった。
一斉に100隻ちかい敵艦隊を粉砕したレキはそのまま前進するのをやめずに指令をだす。
「フォトンラム準備! つっつきラム準備!」
「了解! フォトンエネルギー船首に収束開始。フォトンラムエネルギー収束開始!」
ハカリがウサギリボンをぶんぶんと可愛く振って、叫ぶとオペレーターたちが準備を開始する。うぃーんと船首にくちばしことラムが生えてくる。
そしてくちばしに轟々と空気を揺るがし、空を照らしながら、光の粒子が集まる。
数分後、ハカリが再び叫ぶ。
「チャージ完了! 司令、準備完了しました」
スズメダッシュの船首にはビームラムが光っていた。巨大な艦にふさわしくないラムであった。まるでスズメのくちばしのようであった。そして、そのくちばしにてつつき突撃にてぬりかべを倒しちゃおう作戦である。
おっさんなら、突撃すると確実に耐久力減るでしょ?と使わない必殺武器である。なにしろ超接近戦をしなければならないのだ。ゲームではそんな武器があっても絶対につかわないだろう。たぶん使う前に撃破されちゃう可能性が高いし。
レキはそんなことは気にしない。船首のラムにて敵を撃破、巨大な艦がその質量とラムの力にて敵を粉砕するのだ。
すぅ~と息を吸い込んで、一気に息を吐き叫ぶレキ。
「つっつきラムあた~っく!」
右手を勢いよく振り下ろして必殺を叫ぶレキ。………子供っぽい必殺技名を叫ぶ………さりげなく遥が一瞬だけ主導権を貰ったのかもしれない。アホな発言で絶対に中身がわかるかもしれないが、素晴らしい旦那様なので、まさか必殺技を叫ぶためだけに主導権をとらないだろう。きっとそうだと信じたい。
空中にてゲーム仕様なので、多少に風を巻き起こしながら、巨大なスズメのくちばしがぬりかべへと命中して、みしみしという音と共に破壊していく。スズメダッシュのフィールドも発動して、衝突した威力を抑えていく。
命中したつっつきラムにより、ぬりかべの土くれでできた壁など、バリバリと音をたてて、紙のように破壊していき、ぬりかべが断末魔のさけびをあげる。
数舜後、ぬりかべは身体を破壊されて消えていくのであった。
「運転スキルの凄さはよくわかりました。体術の兵器版が運転なのですね」
これなら、今までよりも軽やかに思い通りに機体を動かせるだろうとレキは思いながら眠りにつく。
バラバラと土くれが空中に散っていく中で、ようやくスズメダッシュは停止する。
敵の生き残りもウミネコやクイーンビーにより次々と撃破されていく。
「やりましたね、ご主人様。眠れぬ朧の船を鎮魂せよ! exp60000、報酬朧の珠 ですね」
サクヤがクリアしたことを教えてくれるので隠れキャラもないだろう。戦闘は終了したのである。レキはすっと目を閉じると、遥へと入れ替わる。
遥はステータスを見ながらレベル55になったことを確認して喜ぶ。スキルポイントを大量に消費したのでスキルポイントを増やしたかったのだ。
「上陸部隊、敵殲滅に成功。再度の上陸を行ってください!」
「あいよっ。再度の上陸を開始するっ。なんでアタシらが揚陸艇に乗っている時に戦闘になるんだよ。次はあたしたちも活躍するからなっ!」
アインがブーブー言うのを、ふふっと可愛らしく微笑み遥は頷く。
「上陸地点でも戦闘があるかもしれないですからね、それじゃ、サクヤ、ナイン、私たちもアメンボで上陸を開始します。四季、ハカリ、ここは任せました」
私も上陸したいんですと遥はふんふんと鼻息荒くブリッジから出ていく。
「待ってください~。私もいきますよ~」
サクヤもぴょんと椅子から飛び降りて移動を開始する。
「おやつの準備も問題ありません。マスター、今日のおやつはマカロンですよ」
甘やかしちゃうナインもてこてこと歩き始める。
そうして三人もアメンボで上陸を開始するのであった。
どしゅ~とアメンボのバーニアから粒子を噴出させて移動を開始する遥たち。
上陸地点にはすでに戦車が多数展開されており、アインたちがベースを作っている。
こちらのアメンボの姿を見て、お~いと手を振っている。
「どうやら上陸地点には敵影はないみたいですね」
ナインがレーダーをチェックしながら伝えてくるが、う~んと細い腕を組んで遥は考えたことを口に出す。
「ねぇねぇ、あいつら空中転移をしていたよね? ということは気配感知外からきてもおかしくない?」
「マスター、恐らくはそうなるかもしれません。フィールドを張っている兵器内には転移はできませんが、基本、他のところにはどこでもいけるでしょう」
ぐで~と深く背もたれに倒れこみ、疲れた声音を出す。
「う~ん、これは少しまずいね、なんとかならない?」
転移されて攻撃が一番困る。魔術師のダンジョンでも転移魔法は最高だったのだ。どこにでも行けるので。
だが、遥の不安をすぐにナインは解消してくれる。
「転移はよほど強い力ではないと、防ぐのは簡単です。テレポートジャマーは簡単に作れますし、その影響範囲は広いですし」
ふんふんと頷き、さすがナインだねと、背伸びをしてナインの頭に手を伸ばしてなでなでをする。
「転移は強い力だと無理やり入ってくることもあります。まぁ、その際には凄い力を失うんですが。なのでテレポートを無理やりやろうとする敵は少ないでしょうね」
サクヤが席から降りて、こちらの頬にぐりぐりと自分の頭をつけながら言ってくるので、なでなでしろよアピールなのだろう。アホすぎる行動であるが。
しょうがないなぁとこめかみをぐりぐりとグーの拳でナデナデしてあげる遥。
「痛い、痛いですよ、ご主人様! それはなでなでではないです。 単なるお仕置きです」
「いやいや、サクヤならこれもなでなでの一種に入るでしょう?」
鬼畜な事をいう遥であった。だが、頬を紅潮させて、はぁはぁと息を荒げるサクヤなのであながちおかしくないかもしれない。このメイドは何個新しい世界をもっているのだろうと冷や汗をかくおっさん少女であった。
「まぁ、とりあえずは探索を開始するとしますか」
気を取り直して探索を開始しようと遥は目の前のモニターを見る。
人気のない砂浜にはツヴァイたちやドライたちがベースを作っており、探索準備完了な感じだ。
正直ベースはいらないと思うのだが………空中戦艦だけでよくない? と思うがアインたちが一度やってみたいとおねだりをしてくるので許可をだした適当極まる指揮官である。
目の前は長閑な感じで森林が見える。果たして、この先には何があるのかと胸を期待に膨らませるおっさん少女であった。




