26話 おっさん少女はパーティを組む
再会した女警官を見てみる。薄汚れた警官の制服、防刃ジャケット、サスマタ片手に短銃装備のちょっと臭い、たしか名前は荒須ナナと言っていたと遥は思った。
さすがにゼイゼイと息を荒らげて疲労を回復している。顔は汗だくだし、顔も手もそこかしこに生傷がある。長時間戦っていたのだろう苦労した感じだ。
「大丈夫ですか? ナナさん」
友好的に軽い口調で話してみる遥。警官姿はどうも苦手ではあるがせっかく助けた相手だ。何か見えないところに大怪我をしていても困る。
「大丈夫大丈夫。レキちゃんこそ大丈夫? 助けてくれてありがとう」
疲れた顔をしながらもニコリと微笑んでこちらにお礼を言うナナ。
なかなかできた人だなと遥は思った。こんな状況だ。パニックになっていてもおかしくないのである。これは警官だからという訳なだけではないだろう。最初から心が強い人だとわかる。
何しろ初期のパニックでゾンビにあっさり食われたおっさんもいたのだ。がぶがぶと食われたおっさんの名前は朝倉遥という。ぺちという軽い音でゾンビを殴ってひるませること無く食われてゲームオーバーとなった。レキぼでぃが無ければ、そこらへんでうぁ~と叫びながらゾンビになっていたはずである。
「レキちゃんはここで何をしているの?」
と質問をしてくるナナ。当たり前だ。こんな危険なダンジョンに女子高生がいるわけがない。
だが、遥は誰か他にいるのかな? と思った。仲間がまだいるのかなと。
このキャラがレキという名であり。自分が呼ばれているとは全然思わなかった知力のステータスを上げられないおっさんであった。
「もしも~し?」
前に会った時と同じように、こちらを呼ぶナナ。
「ご主人様。ご主人様のことです」
とサクヤがウィンドウから注意をくれた。
ようやく自分が呼ばれているのだと理解した遥である。
「はい。散歩をしていました。何か買いたいものでもあるかなぁと」
ウィンドウショッピングですね。とニコリと微笑み、もはやフォローのしようがない返答をするおっさんである。平時なら気の利いた答えかもしれなかった遥の気を心配される返答であった。
「あぁ、ここらへんは良いものを売っているものね。わかるよ」
ちょっと棒読みなナナである。
この間と同じく心の壊れた子扱いに戻ってしまった遥である。これからのナナからの普通の対応は諦めるしかなさそうだ。
ここには物資調達に来たらしい。ナナはいつものゾンビ誘導後の探索活動だったみたいである。
「でも、ここのゾンビは誘導されていなかったみたいなんだよ。驚いちゃった」
ナナが駅前ダンジョンに着いたら、即警官ゾンビと邂逅したらしい。じゃんじゃか銃を撃たれて右往左往しながら奥に奥にと移動をしていったらしい。
そこで行き止まりであるロータリーに行きついて、デカ警官ゾンビが現れてさっきの状況となったらしい。
なるほどなるほどと、遥はロータリーを見てみる。
バスのロータリーを利用した大部屋っぽい場所である。今は倒した警官ゾンビやデカ警官ゾンビで埋まっている。デカ警官ゾンビとの戦いでバスやら車も吹き飛んだりしていてすごい状況だ。
だが、遥は隅にある物を見つけた。
水晶だ。宝箱だ。やったなおっさんである。
水晶をじろじろと見て思い出した。さっきの部屋の水晶を開けていない!すぐ戻らないと、と焦る遥。
オンラインゲームでは宝箱は開けたもの勝ちなのだ。何時間も宝箱が湧くのを待っていてトイレに行っている間にちょっと宝箱が湧いているか見に来た他人に取られた経験のあるおっさんは焦った。
でも、ここの宝箱はナナのだよね。欲しいけど諦めるか。でもお礼としてくれないかなとチラチラと水晶を見て、私これが欲しいんですアピールをしてみる可愛い少女の姿をした詐欺なおっさん。
「何かあるの?」
と、見ている方向を見て不思議な顔をするナナ。
え?と思わず声に出しそうな遥である。一生懸命に平然とした顔になるように頑張ってみる。まぁ、ビクリと体は震えてしまい、動揺の為ポカンとした顔になっている可能性の高いおっさん少女であるが。
「ご主人様、微小なる結晶は普通の人間には見えません。安心してください」
嬉しいことを言ってくるサクヤ。
やったぜとばかりに、ふらふらとあれ何かあるかな? という態度で中身を回収するべく水晶まで近づいていく遥。どう見ても不自然な行動ではあった。何もない部屋の隅っこに移動するからして。
しかし物欲のため、それを無視するおっさんであった。宝箱は俺の物である。
水晶にそっと手のひらを掲げて触れるとふわりと光を発して水晶が遥に吸収された。中身は見たことが無いものであった。
ライトクリスタル(小)
「ライトクリスタル? マテリアルじゃないのか?」
似ている名前だけど、効果は違うのであろうかと右ウィンドウを開いて待機しているサクヤに聞いてみる。
左ウィンドウが開いて可愛い笑顔を見せながらナインが答えてくれた。
「それは大型の装備や車両を作成するための物です。マテリアルより純度が高いのです」
大型か。武器パックでも作れるのかなと帰ってから作成一覧を見るのが楽しみだと思う遥。
「大丈夫?」
さっきから空中に手を掲げて空中に話しかけて見えるレキぼでぃのおでこに手をつけて心配しはじめたナナ。
嬉しくない心配をされたおっさん少女である。
「いえいえ、ちょっと疲れまして、疲労を治す民間療法をしてみたんです」
よせばいいのに、余計なことを言うおっさん。もはや心が壊れた女の子扱いを超えるかもしれない。
民間療法ってなんだよというツッコミもなくナナは優しい笑顔で言ってきた。
「そうなの。それじゃ、私の拠点にきて休もうか?」
もう逃さないとばかりに、レキぼでぃの腕を掴みながら優しすぎることを言ってくるナナである。
逃げてもまわりこまれそうだと遥は思った。
しかし、さっきの部屋の水晶も絶対に確保したいおっさんである。
「いえいえ、私はもう少し買い物をしていくので、また今度で」
もうこの阿呆な言動で突き進むしかないと決めた遥である。
「それじゃ、私も付き合うよ? 一人より楽しいでしょう?」
やはり逃げてもまわりこまれたおっさん少女であった。
遥はナナを仲間にした!
テクテクと迷宮の車道を歩く二人。路上の車を避けながら敵がいないか注意しながら移動である。
きょろきょろと車の陰や横にある店内を覗きながら移動する二人。
物凄い時間がかかっている。
だが、気配感知でわかりますとも言えない遥はナナの行動を真似るしかなかった。
きょろきょろと可愛い顔をあちこちに向けて探索である。その姿も可愛いレキぼでぃである。ちょっとホンワカしてしまう感じでもある。
因みにおっさんがきょろきょろとしていたら、職質間違いなしである。営業の一環で周辺サーチをしていましたと営業マンの真似をして逃げ切るしかないのである。
この進み方だとかなり時間がかかるなぁと、こっそり溜息をつきながらナナの姿を目に入れる。
ナナは警戒行動に慣れているのだろう。サスマタを構えつつ、さっと車の陰に隠れながら最低限の動きで周りを確認して移動している。どこかのスパイなんだろうか。
おっさん少女はさっと車の陰に隠れながらきょろきょろと私警戒していますアピールをしながら無駄に時間をかけて移動していた。
レキぼでぃは探索系のスキルは気配感知と物理看破しかないのだ。警戒行動などのスニークミッションは酷く不器用となってしまうのであった。
ようやくさっきの場所まで戻ってきた遥たち。
水晶はそのままだったので、良かった良かったとさりげなくない行動をまたもやしてみて、水晶に触れて中を回収した。
もう他人からの目は無視するしかないと開き直ったおっさん少女である。
ふわりと先ほどと同じ光がでてきて中身は回収された。残念ながら中身はさっきと一緒だったが。
そこで遥は気づいた。周りを見ると、ここもロータリーっぽいのだ。しかも行き止まり。部屋っぽい感じなのである。
あぁ、こことかゲームで言う固定モンスターが生まれる玄室であったかと、気づいたおっさんであった。そりゃ強めのモンスターもいるよねと。
再POPするなら、玄室は固定狩場確定であったのにと残念がるおっさんであった。
「何かあった?」
というナナに何も買いたいものはありませんでした。そろそろ帰りましょうと答える遥。
「それじゃ、私についてきて。ここら辺は何か変だよ。まるで迷宮みたい」
鋭いナナである。まぁ道がジグザグ周りの店も同じようなパターンで存在しているのであれば、迷宮じゃね? とゲームをしたことがある人間は思うだろうから当たり前のはなしであるが。
ただ、現実となると受け入れがたい内容ではある。友人に異界化したダンジョンを発見したとか絶対に言えない内容である。
う~ん、どうしようと迷う遥。ここでナナを放置して帰ると、また玄室に入ったりして死んじゃうかもしれない。でも拠点にはいきたくないなぁとも思っている。
迷っている遥の腕を取り、女警官はずるずると引きずっていこうとする。かなりの力だ。レキぼでぃはずるずると引きずられそうになる。
どうにかして別れることができないかなと迷う遥であるが、予想外のことが起きた。
先ほど、超術看破が必要と言われていたのに、油断してしまった。
まぁ、スキル依存のおっさんなので常に油断しているのだが。
今回もスキルは発動しなかった。
迷宮の壁からずるりと巨大な手が出てきて、殴りかかってきたのだ。
何とかして連れていこうと、レキぼでぃの腕をもってずるずると引きずっていたナナに向かって。