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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
17章 ホラーな世界を楽しもう

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268話 おっさんは会食を開く

 カチャカチャと僅かに金属音が響き、上品そうな談笑が耳に入ってくる。食器にナイフやフォークが当たる音だ。


 現在もおっさんぼでぃの遥は本日は会食をしていた。10万人を遂に超えた若木シティ。多少高級感があるレストランもお客を見込めるようになり作られた。


 まぁ、あくまでも多少だ。崩壊前の高級レストランと比べると劣るだろう。おっさんはこれでも小金を持っていたので、高級レストランもたびたび行っていた。嘘です、たまに同じ独身の友人と行っていた。


 まぁ、それでも行ったことはあるので、上品な内装、明かりや綺麗で一見高そうなテーブルクロス、丁寧な物腰の店員に至るまでが多少の高級感があるレストランレベルだと感じられたが、未来はわからない。このまま人口が増えて儲けていけば本当の高級レストランとなるかもしれない。


 そんなレストランでおっさんがなにをしているのかというと、銀行員との会食である。


 なにしろ銀行といっても、利息がつかないどころか利用料を取るなんちゃって銀行であるが、その便利さ故に既に市民カードとしても使われている。しかもライバル銀行はいないために独占禁止法がないこの世界では負けることがない。


 大樹が経営しているために、安心すぎる銀行。そしておっさんは頭取。頭取なのだ。辞めたいです、辞職したいです、もう退職金を貰っていれば自宅に引き篭もりたいおっさんであるが、そうもいかないので、今夜は会食である。


 メンバーは玲奈を含む本社メンバー。支店長たちも顔を出している。まぁ、支店長はツヴァイたちなので気にしないが。


 支店長、そう支店を作ったのであるからして。人口が増えすぎてさすがに本店だけでは厳しくなってきたのだ。なので、北海道の牧場コミュニティから、各港街と水無月シティ、若木シティにも追加で作り、若木シティには数店舗の支店を作っていた。


 ちなみに人手不足というか、ツヴァイ不足なので、ツヴァイ一人で数店舗を兼任していたり。ツヴァイたちにはツヴァイを増やそうよと言っているのだが、ツヴァイ労働組合がいつの間にか結成されており、増やすのは嫌です、もっと司令との触れ合い時間をとサクヤを先頭にプラカードを持って、デモをしてくるので諦めている。


 というか、サクヤは絶対に遊んでいるので、常にお仕置きをしなければならないが、そろそろご飯抜きも頬をむにーんの刑もパターンになってきたので、新しいお仕置きを考えないといけない遥であったり。くすぐりなどどうであろうか?くすぐりは少しエッチかな?


 おっさんが座る長テーブルには、その支店長と玲奈が座っているので力関係がわかる感じ。そして、皆、有能なので、おっさんは隅っこのテーブルに存在を消して座っていたい。


 他にも上昇志向の人間が、すぐ近くの長テーブルで少しばかりギラついた目の人も座って話している。どうやらありがちだが、一番が本店配属らしい。そして兼任なので空いている支店長の席に座ろうとも画策している人も多そうだ。


 その中でも、支店にはランク付けがされているらしい……。すべて四季に教えて貰った前情報である。知らない間に変わるもんだと聞いたときは苦笑いを浮かべたものだ。


 僅か一年半で、人々は生活を取り戻し、なおかつ、いつの間にかランク付けなどしているのだから。人とは業の深いものである。ゲームの力でのんべんだらりと暮らしているおっさんが一番業が深いのかもしれない。


 ちらりと近くのテーブルに座る椎菜たちが、緊張した表情でコソコソと結花と話している姿があった。そうだよね、つまらないよね、帰りたいよね、一緒に帰らないとおっさんは同調する。


 だが帰ることは許されない。今回の会食の目的はねぎらいなのだ。


 うぅ、嫌だなぁと思いながらもワインを片手に玲奈へと和やかな雰囲気を出しつつ声をかける。和やかな雰囲気出しているよね?


「日位君。今回はよくやってくれた。青森の生存者たちにたいしての仕事の斡旋と融資、その両方を成すことができるとは君を課長にした価値があるというものだ」


 その言葉に仄かに頬を染めて、玲奈は胸を多少はって返答する。


「ありがとうございます。来年の春には農園を開始できるように教育を実施したいと思いますわ。短期での収穫が見込めるものから始めたいと思います」


 その声音は自信に満ちている、これぞエリートだねと遥が感心する態度であった。演技スキルがなければ、遥では逆立ちしてもできないだろう。そもそも逆立ちを素でできないおっさんではあるが。


 劇場から始まり、様々なお店、食料品店から雑貨屋、床屋に至るまで融資を細かくして稼ぎまくった玲奈の手腕には舌を巻いていたが、その上に今度は青森の生存者たちへ農園をするように融資を持ちかけて成功したのであるから。


 まぁ、崩壊前ならこんな融資は担保もないし、違法とかで訴えられそうだが、今の資金のない生存者たちには担保なんかないし、お金のことは確実に銀行カードを使う以上は取りはぐれがないので、バンバン融資しなさいの普通なら破綻間違い無しの銀行であった。


 そして、それに見事に適応したのが玲奈である。詐欺師にもなれる勢いで、融資を取り付けたのであるから。きっとおっさんが青森の生存者ならば、その融資にのっていただろう。


「融資条件は共同経営の形にして、銀行側にも権利をもたせるか……。企業相手では当たり前の手法だが、個人でやるとはな」


 頬に白魚のような手をそえて、上品さを魅せながら玲奈は展望を語る。


「これからも生存者たちは増えるでしょう。そして、安全とされた土地で農園をやって大成功をする人間も必ずいると思われます。そのための布石として、今から手を打っておこうと思ったのです」


「なるほどな。土地が狭いと言われていたのは、崩壊前の話だ。いまや土地は…大規模農園になる可能性もあるか……。諸外国からの横槍ももはや入ることもあるまいしな」


 フンフンと偉そうに頷くおっさんである。大規模農園かぁ、私の基地に余りまくっている作物はもはや出せないかもと思いながら。


 一日で種植えから収穫できるなど卑怯極まりない。これがバレたら誰も農園をしないだろう。


 大樹の力はあらゆる場所に広がっている。まぁ、最初からそうだったでしょと言われればそうなんだけどね。それでも、人々が作物を自力で収穫できるようになり、衣服などや食料の加工品も作るようになっている。そこに大樹はあんまりかかわっていない。精々、トラクターなどの機械類を貸し出して、マテリアルで補充したハイパワーバッテリーを売るぐらいだ。あとは砂糖や香辛料だが、それも自分たちで作れないかと試行錯誤を始めたので、いつまでこの優位が続くかはわからない。


 武力においては完全に掌握しているし、物資だって絶対に日本では手に入らないものも多い。基幹を支配しているのだから問題は無いと思うが、それでもこのような融資において支配力を広げているのは極めて都合が良い。


 おっさんはまだまだシムなゲームを楽しみたいのだ。なのでトップを譲る気はさらさらない。トップというか、その上、街を俯瞰して育成していく立場をだが。


「この融資方法を聞いて、これまでの農家の方たちも同様の融資に切り替えてきております。大樹の力を信じている方ばかりで嬉しい限りですわ」


 上手い言い回しだねと感心しながら、豆腐すらもたぶん切れるような鋭い眼光で玲奈を見て頷く。


「うむ。これからも日位君には期待をしている。この若木シティに大きく根をはることができるのは喜ばしい限りだ」


「ありがとうございます。頭取」


 そのあとも何人かの突出した人間を褒めたり、出世をほのめかしたりする。まぁ、まだ1年だ。係長を多くすればいいだろう。随分雇用している人間も増えたし。


 椎菜たちを課長にしようかなと一瞬思うが、さすがに可哀そうだ。若いし、能力も普通。受付でニコニコ笑顔で応対してくれるほうが、遥としても嬉しいし、椎菜も課長なんて嫌だろうから、それは自重する。


 しばらくの談笑をしている中で、内心は疲れたなぁと思いながらウィンドウへと目をやる。


 宵闇の不死なる街の解放でexp65000報酬箱庭の宝珠、世界へと糸を張ろうとするモノ、アトラク=ナクアを撃破せよ。exp80000報酬神石を手に入れたのだ。これでレベルは54とへ上がっていた。3レベルアップしてスキルポイントも大量にある。


 ちらちらと談笑している周りを気にしながら、難しい表情を作る。秘技、なんか難しい表情をしているとなにか考えているんだなと周りが気をつかって声をかけにくいの術。名前が長い。


 そして酔っ払いには通じないが、とりあえず酔っ払いはいなさそうなので、こそこそとモニターでスキルを取得する。会食がつまらないからと密かにスマフォでアプリゲームをするおっさんに近い。


 微かな口パクでサクヤへと声をかけて確かめる遥。要望は聞いてはいたが、念には念をいれる用心深さを見せる。


「で、機械操作、運転と電子操作、気配感知と空間把握をレベル9にすればいいんだっけ?」


「その通りです、ご主人様。それらがあるとはないとでは、戦闘が大違いですので」


 う~んと考え込む。正直信じられない。あれほどの戦闘をこなしておいて、まだ駄目だと言うのだから。


 たしかに運転は機械操作を上回る。その違いがサクヤは気に入らないらしい。ゲーマーでもよくきっちりとアイテム整理したり、スキル構成をかっちりと取る人間がいるが、サクヤはそのタイプなのだろう。


 機械操作に加えて電子操作、運転があると機動兵器の動きに差がでるらしい。まぁ、所詮は機械操作は運転専門スキルではないのだから仕方ないかと嘆息してスキルを取る。

 

 ちなみに、微かなる口パクなので誰も気づかない。というか玲奈が話しかけてくるので適当に相槌をうつおっさんである。もちろん話の中身は頭に入っていない。


 ぽちぽちと思考でスキルを取得していく。以下のスキルを取得した。


 機械操作lv8→lv9、電子操作lv2→lv5、運転新規取得lv9、空間把握lv1→lv5


 これで残りスキルポイントは48になった。さすがに全てをレベル9にするのは嫌だったのだ。なので最低限のスキル上げにしておいた。気配感知はレベル5で良いでしょう。そして以下も上げておいた。


 装備作成lv8→lv9、建設lv8→lv9


 これで残りスキルポイントは30である。それに各ステータスに10ずつ振り分けて置いて残りステータスポイントは20にしておく。


 これでひとまずの機動兵器の操作には問題はないだろうとサクヤへと視線を見ると頷いて満足げにしている。


「これで激しさを増す戦闘内でもカメラドローンを素早く移動させることができます。ふぅ~。良かったです、最近はご主人様のパンチラが動きが速すぎて撮影できなかったんです」


 汗を拭うふりをして、飄々とスキルを取得した後に、アホなことをのたまう銀髪メイドである。どうやら騙されたらしい。サポートキャラではない可能性は極めて大きくなってきた。


 こんにゃろ~。帰宅したら覚えていろよと憤るおっさんである。


「頭取、頭取?」


 怒っており、玲奈へと適当な相槌も忘れていた遥は、このことを記憶しておくからねと視線でサクヤへと牽制をしてから視線を向ける。


「あぁ、すまない。考えことをしていた。なんだろうか、日位君?」


「本当に中学までを義務教育にして良かったのでしょうか? それも生存者で中学を卒業していない人間も改めて編入させるという形にして」


 そのことねと頷いて、手をひらひらと振って答える。


「もうそれに耐えうる人口まで回復したと私は考えている。ご、百地代表たちも強く進言してきているしな。それに飛び級制度をつけたんだ。すぐに卒業をする人間もいるだろう。それに合わせて高等学校を建設、これはかなり高い学力が必要になるがな」


 昔々、私は高等学校を卒業していますのでと、威張れる時代。そんな時代まで逆行しているが、それは容赦して欲しい。


 もっと人口が増えたら、また高等学校の価値も変わるだろうが、今はそれでいいだろう。


「最低限の礼節を学ぶためにも子供たちには学校が必要だという話だ………。まぁ、気持ちはわかるからな」


「なるほど、さすがは頭取です。この若木シティを導く存在ですわ」


「お世辞はいらん。働いているのは君たちであり、百地代表たちだ。私はその事前の準備をしているだけだからな」


 なにしろ今の大樹名義で供給している物資は低レベル品なので作成はツヴァイたちに担当させているのだ。そしてマテリアルは溢れかえっている。実際おっさんはなにもしていない。働いているのは本当におっさん以外なのであるからして。


 最近知ったのだが、善なる大樹は僅かながらに資源用のマテリアルも生み出しているらしい。僅かながらといいながら、若木シティの需要を簡単に賄えるぐらいに生み出しているらしいが。どれぐらいの量が僅かな量とされているのかが気になるが。


「ふふ。そう思われているのは頭取のみですわ。皆は感謝をしていますよ」


 玲奈はこちらへとそっと手を伸ばして、遥の手を握ろうとするので、そっと躱す。会食時にそんなことをされたら、困るのではないでしょうか? そして椎菜さんや、叶得ちゃんへ伝えないとと言う呟きは私の耳に聞こえてきているからね? やめてください、本当に。


 猛獣バトルはツヴァイたちで見飽きているのだ。


 コホンと咳ばらいをして、場の空気をかえて遥は皆を見渡す。


「今年の冬のボーナスは期待してくれて良い。皆、これまで通りに頑張ってくれたまえ」


 不思議と、よく通る声で周りへと告げると、皆は頷き返すのであった。




 しばらくしてから、会食は終了となり、面倒だけど、締めの挨拶をして終わらせる。


 お開き、おひらき~と、スキップをしながら機嫌よく帰りたいおっさんは、実際はスキップができないので謎のステップへと変えて帰ろうとする。


「頭取、よろしかったらこのあとにお酒を飲みに行きませんか? これからのこともお話ししたいですし」


 玲奈がキラリと目を光らせて言ってくるので、素早くお断りの言葉を考える。思考よ加速せよ。未知なる世界へと私をつれていってくれ。


 そしていい考えだと、お断りの内容を口にする。


「すまない。これから支店長たちと飲みに行く予定があってね」


 その言葉に帰ろうとしていたツヴァイたちがピクリと耳を動かして、喜色満面な笑顔で寄ってくる。


「そうですね。これからが本番です」

「いいお店を知っています。おでんが美味しいのです」

「もう朝帰りは決定ですね」


 ノリノリで話に乗ってくるツヴァイたちなので、失敗したかと慄くおっさん。策士策に溺れる。溺れて海岸に打ち上げられていそうなおっさんである。


 ワイワイとツヴァイたちに囲まれて、グイグイと腕を引っ張られるので仕方ないなぁと苦笑をするが、玲奈も負けてはいなかった。


「どうでしょう。私も連れて行ってくれませんか? これからの事業を考えるためにも私も加わった方がよいと思いますが」


 ライバルはここにもいたのねと、目からバチバチと火花を散らす玲奈。ツヴァイたちも火花をバチバチと散らして、おっさんはその火花でパチパチと燃え尽きるのであった。


 結局全員でもう一軒回りました。大変でした。何が大変だったかは秘密である。

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