表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
16章 バイオなゲームを楽しもう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

261/579

260話 信じる者たち

 薄汚れてはいるが、辛うじて汚くはない。ちょっと服を洗っていないだけのように見える人々。このエリアはそんな人たちが極めて多い。


 荒須ナナは新たなコミュニティを見渡して、つくづくそう感じた。


 疲れた表情で座り込んでいるが、最低限ぎりぎりの生活をしており、身だしなみも整えようとすれば、すぐに綺麗になるかもしれない。ただ疲れ切っているだけであり、お腹が空いたら嫌々外に食料を取りに行くのだろう。


 戦う力を持たない人々は、手にしたハンドガンを持ち恐怖を抑えながらゾンビが徘徊する暗い世界を探索するのだ。


 そうして手にいれた食料も泥のような味しかしない。脱出しようにも、周りに潜んでいるゾンビ犬に食い殺されるのがオチなのである。


 私的には脱出できた人間は少ないだろうがいると思う。大勢で逃げれば、それだけでゾンビ犬をあしらうことができるのだから。


 命をかけて、そうやって脱出した人は外の世界を見て、どう思っただろう。ゲームの世界に巻き込まれたと思って、命をかけて脱出したのに、外の世界は既に崩壊していたのだから。


 その絶望感を感じて、寒くもない夏の季節なのに私はブルリと身体を震わせた。考えようもない恐怖を感じたからだ。そして、今いる人たちを見渡す。


 彼らは信じている……この世界がゲームであると。目が覚めればいつもの生活に戻れるのだと、盲目的に信じていた。

 

 信じているからこそ、最低限の身だしなみをとり、最低限の行動で食べ物を集めてくるのだ。


 絶望の中に、いつかはヒーローが現れて、こんな世界から救ってくれると希望を持っている。


 偽りの希望の光を胸に大切に抱いて生きている人々。これが、崩壊した世界の生存者なら、もっと極端かもしれない。自殺した人も大勢いただろう、生き抜くために足掻く人も大勢いただろうと予測するが、このエリアが解放された時に、彼らは今の崩壊した世界を生き抜いていけるのだろうかと、不安に思うのであった。


「どうした? 荒須隊……、おっと、荒須さん」


 蝶野さんがいつもの癖で隊員と呼ぼうとして、慌てて言い直すのを聞いて、気を取り直す。


「いえ、この人たちはこのエリアが解放されても大丈夫なのかなぁって思いまして」


 私の言葉に少しだけ顔を顰める蝶野さん。私の言いたいことを理解したのだ。


「………そうだな、調べる限りこのエリアには皮肉にも大勢の人々が生き残っている。未だに行商人をしていると言っている者たちから聞いた話を統合しても3万人は生き残っていそうだ」


 ふぅ、と疲れた様子で周りを見渡して話を続ける。周りにはちらほらとこちらを伺っている人々が見えた。たぶん、私たちを見て、なにかの変化を感じた目敏い人々だ。


「正直に言うと、答えはわからないだ。関東のように大樹に早々に救われた訳でもなく、北海道のように生きながら昆布になっていくという地獄の世界を生き抜いてきたわけではない人々だ。救われたらどうなるかは本人次第だろう」


 腕を組んで、重々しく声にするが、それでもフッと口元を微かに笑いに変え


「だが、まぁ、なんとかなるだろう。私たちの生き抜くパワーを見せれば良いのだ。この世界でも生き抜けるというパワーをな。それに……あの少女も頑張るだろうからな」


 誰のことを言っているかはすぐにわかる。私の大好きな娘のことだから。だから両手を握りしめて、強く言葉にする。言葉にすれば信じられると思って。


「そうですよね。きっとレキちゃんなら、ここの人たちを解放したあとも救おうと頑張るはずです。だから、まずはこのエリアを解放することを頑張らないとですよね!」


 気合の入った私を見て、優しい目をして強く蝶野さんも頷くのであった。だが、すぐにその目を鋭く変えて、視線を他へと向ける。


 何に対して視線を向けたかはすぐにわかった。のんきで爽やかな感じを見せようとする亜久那という男が近づいてきたのだ。


「この周辺のことはわかったかな? どこにも脱出口なんてないことがさ。僕も頑張って探したんだけどね、こればっかりはルールにないみたいだ」


 フフンと澄ました表情で告げてきながら、周りを見渡して肩をすくめてみせる。


 どうにもこうにも怪しさしか感じない相手だ。静香さんも殺してみようと過激なことをいうぐらいには怪しい。


 私も怪しいと思うが、この男の怪しさは作られた感じがするから決断できない。なにしろここ周辺のリーダーをやっているから、倒してみて間違いでしたではすまないだろうし。


「色々とわかったことはある。ここらへんに怪しい場所は無いのだろうか? あるならば教えて欲しいのだが」


 蝶野さんが、ゆったりと立ちながら亜久那に尋ねる。


 亜久那はつまらなそうにその問いに口元を曲げて答えてくる。なにか腹黒いことを考えていそうな感じ。


 なんとなく嫌な感じだなぁと私が不安に思う中で


「怪しい場所ね。知ってはいるけど、危険すぎて誰も近寄らないよ? 君みたいな自分に自信がある人間が探索しに行って二度と帰らないんだ」


 そう言って、小馬鹿にしたような表情をとる亜久那。


「ルールの中でも、もっとも守らなければならないルール。危険な場所には近づかない、だ」


 クックックと含み笑いをする亜久那だが、その言葉に怒ることもせずに蝶野さんは平然とした声音で尋ねる。


「ルールブックには載せられないルールというものが、現実にはあるんだ。教えてもらおうか?」


 その表情を見て、苦々しい表情を浮かべる亜久那だったので、ベーだと内心で私は舌を出すのであった。




 カンカンと鉄を踏みしめる足音が地下通路に響き渡る。ぴちょんぴちょんと水滴が天井から落ちてきて、夏なのに肌寒く感じる中で私たちは亜久那の案内でマンホールの下、下水道が本来はある場所へと来ていた。


「ここは最初に仲間が気づいた場所だ。ゲームではありがちなだけあり、しかもわかりやすいことに、大通りに一つしかマンホールはなかったからね」


 大通りには無数のゾンビがいたが、亜久那の仲間が音をたてて誘引してくれた隙に、中に入ったのである。


 懐中電灯を照らして、暗闇の先を見渡す。下水道なのに、水は流れていなく、臭くもない。ただ映画で見たような地下神殿のような通路が続いている。


「ん〜、怪しいと思うけど、どうして調べなかったんですか? 危険だからと言ってましたけど、先に進めないほどなんですか?」


 私が尋ねるとかぶりを振って亜久那は嫌そうな顔をして、前へと指さした。なんだろうと首を傾げて私は疑問に思う。


 なにかあるのかなと、目を細めるとキラリと懐中電灯の明かりで光る糸が見えた。


「ワイヤー並みに強靭で、カミソリのように切れ味が鋭い糸だよ。首や足首、ちょうど人が嫌がる場所に張ってあってね。仲間がこれで随分やられたよ」


 たしかに暗闇の中で、この糸が張られていたら危険だろう。でも勢いよく走らなければ、そこまでのダメージは負わないはずだけど?


 その疑問はすぐにわかった。通路の奥からひたひたと足音が聞こえてくるからだった。


「化け物はそこら中にいる。もちろんこの通路にも。わかっただろう? 危ないから早く帰ろう」


 そう言って亜久那はハシゴに手をかけて登ろうとしているが、ここで帰ってはなんのために来たのかがわからないよね?


「さて、鬼が出るか、蛇が出るか試してみようじゃないか」


 蝶野さんが、アサルトライフルを構えて足音のする方に身構えるので、私もすぐに身構える。


「チッ! どこで手に入れたかは知らないけど、強そうな武器を持っているからって、調子に乗るなよゴリラ!」


 ついに爽やか青年をやめて、素だろう姿を見せる亜久那にニヤリと不敵に蝶野さんは笑う。


「あぁ、その方がお前には似合っているぞ? さっきまでの似非爽やか青年よりもな」


 そう答えると同時に奥からゾンビ犬が飛びかかってきた。勢いよく走ってきて、よだれを垂らしながらその凶暴な牙を剥き出しに。


「ようやくドーベルマンがきたか。悪いが手加減はしないぞ! 荒須た、さん、帰りも考えて火炎弾で倒していくぞ!」


 また隊員と呼ぼうとしているので苦笑をしながらも私は火炎弾へとマガジンを切り替えて狙い撃つ。なにげに一番持ってきているのが火炎弾なので準備は万端だ。


 アサルトライフルの引き金をひくと、マズルフラッシュと共に銃弾が放たれる。すぐにその銃弾が高熱の炎となりゾンビ犬へと命中していく。


 ギャンと断末魔をあげて、炎上していくゾンビ犬。広い通路なので、燃やしても問題はないだろう。


 乾いた銃声と倒れていくゾンビ犬。暗闇の中でゾンビ犬を倒しながら進んでいく。


「な、なんでそんな武器を持っているんだ? お前たちはどこから来たんだよ?」


 慌てふめく亜久那を放置して先に進む。


「細道は無視して大通りを移動するぞ」


「了解です!」


 二人でアサルトライフルを撃ちながら突き進む。細道はちらりと見た限りではハシゴがあり、どこかビル内に続いていると思う。驚いたことに、ショットガンを撃ちながら、亜久那もついてきていた。


「まずはこの大通りの奥になにがあるかを確認するぞ」


「危険だ! この奥にはワイヤーやゾンビ犬が配置されているんだ! 死ぬぞ!」


「大丈夫! これぐらいのトラップもゾンビ犬も敵じゃないから!」


 ゾンビレベルなら、もう私たちの相手ではない。グールなら気をつける必要があるのだろうが、以前よりも武器は充実しているのだから。


 ワイヤーは慌てずにコンバットナイフで斬っていき、ゾンビ犬は襲いかかる順番に倒していき、奥へと小走りで進む私たち。


 そうして進むと大きな広場へと辿り着く。幾本もの大きな柱が神殿のように立ち並んでおり、荘厳かといえばコンクリートでできているので、そうでもない。

 

 ただ物凄い広い広場であり、天井までの高さも50メートルはあり、奥行きも見えないぐらいに広がっていた。その天井付近に私たちはいた。


 広場へ行くには、通路から長いハシゴが下に向かっており、降りると広場へと行ける形となっている。


「こんなものがあるなんて……」


 亜久那は驚いているが、私はこの風景に見覚えがあった。


「蝶野さん、こんな風景を以前テレビで見たことあります。たしか雨水をためておくとか、排水用とか……よく覚えてませんけど」


「あぁ、俺も同じようにテレビで見たことあるな。だが、あれは関東にあったはずだ。ここにあるとは思えないが……。まぁ、なんでもありなんだろう」


 肩をすくめて呆れる蝶野さんだが、私も同意見である。エリア改変された場所は常識では考えれないからだ。


「まずは俺が下に降りる。降りている間、援護を頼む」


 蝶野さんがハシゴを掴んでこちらを見るので、頷いて降りている間に敵が来ないかを確認する。ハシゴを降りている間にミュータントが襲ってこないように。


「主人公のつもりかよっ。現実では違うとわからないのか」


 亜久那が悪態をつきながら、ハンドガンに武器を切り替えて周辺を警戒するので、一応仲間のつもりなんだねと予想外の行動に驚いてしまう。


 きっと悪態をつくだけで、警戒なんてしないだろうと思っていたからだ。


 カンカンとハシゴを降りる足音をたてて蝶野さんが無事に降り立つ。


「それじゃ、次は私が行くからね」


 アサルトライフルを肩に担ぎ直して、私もハシゴを降りる。同じようにハシゴを降り立つと、周辺を確認するが未だに敵はいない。


「静かすぎですね………」


「あぁ、嫌な予感がするな……。よし、亜久那君、降りてきて大丈夫だ」


 蝶野さんが周辺を警戒しながら上にいる亜久那に声をかける。


 だが亜久那から帰ってきた反応は焦った声であった。


「大変だ! ゾンビ犬が群れで来たぞ! 僕はなんとかここから脱出するから君たちも別の場所から脱出路を探してくれ!」


 そう叫び声が聞こえたあとに、ハシゴが崩れ落ちてくる。鉄の塊であるハシゴは当たればタダではすまない。素早く落ちてくるはしごから身を翻す。


 ガシャシャーンと轟音と共に、鉄のハシゴが地面に落ちてきて、跳ねて飛び散っていった。


「おいおい、怪しすぎるとは思っていたが降りる順番を間違えたな」


 ガンガンとショットガンを撃つ音が数発聞こえたが、すぐに止んで立ち去る足音が聞こえてくるのであった。


「すいません、蝶野さん! こうなることは予想できたのに………」


 私は慌てて頭を下げる。まさか、こんな方法をとるとは考えてもいなかった。


「いや、いい。怪しいことはわかっていたのに油断した俺も悪かった。すぐにこの場所から脱出して警察署にもど……いや、そうもいかないらしい」


 蝶野さんが広場の奥を睨むように見る。私もなにか異音が聴こえてきたことに身構える。


 シャラシャラとなにかを擦るような音。その擦るような音は大きく広場に響くので、巨体だとわかる。


 私たちが銃を向けて警戒する中でそれは現れた。


 シューシューと口から空気を吹くような音をたてて、舌をチロチロと出す大蛇が暗闇の中から現れたのであった。


 3メートルはある頭に赤く光る目、20メートルはある胴体は渦巻きのような縞模様が浮かんでいる大蛇であった。


 見かけによらす、地面を擦りながら素早くこちらへと近づいてくる。


「こいつがこのエリアのボスなんでしょうか?」


「どうだろうな? 倒さなくてはならないのは明らかだが」


 グレネードランチャーに武器を切り替えて、アサルトライフルは肩に担いで蝶野さんが言う。


「たしかにそうですね。倒してから考えましょう」


 私はアサルトライフルのマガジンを質量変化弾へと切り替えて、大蛇を狙う。


「まぁ、化物退治は慣れている。さっさと倒して進むとしよう」


 先制攻撃にグレネードランチャーを撃つと、その砲弾を見て大蛇はすぐに柱へとへばりついて登っていく。


 私もアサルトライフルを撃ち込み、質量変化弾はその小さな重量を鉄球もかくやという重さへと変化させて大蛇へと命中させる。


 いくら素早くても銃弾よりは速くない。だが命中したが、大蛇は僅かに身体を凹ませるだけで、隣の柱、さらにその次と軽々と飛び移り奥へと移動していく。


「グレネードランチャーだと、弾速の遅さから回避されるか……。仕方ない、ある程度はアサルトライフルでダメージを与えることにするか」


 すぐさまアサルトライフルへと切り替える蝶野さん。


「防衛隊は化け物との戦いに慣れている。それをやつに教えてあげるとするか」


「そうですね、レキちゃんがいないうちに謎解きをしちゃいますか」


 私たちはお互いがフォローできるように、バラけながらコンクリートを蹴って移動していく。


「さて、気をつけて倒していくぞ」


 ちらりと懐中電灯の明かりに照らされた天井を移動する大蛇へと銃弾を叩き込む蝶野さん。


 ビシビシと正確に大蛇の頭に命中していき、大きく凹ませるので、普通の生き物ならば、それで死んでいたのだろうが、大蛇はすぐに凹んだ頭を元に戻して天井から一気に頭から蝶野さん目掛けて落ちてくる。


 巨体が一気に落ちてくるが、蝶野さんは足に力を貯めて、一気に床を蹴り、飛び込むように床へと身体を投げ出してゴロゴロと転がり込み避けるのであった。


 落ちてきた大蛇はコンクリートを砕き大きな穴を開けていたが、その分動きを止めて鈍くなる。


「今です!」


 素早く雷撃弾へと切り替えて、撃ちまくる。動きを止めた大蛇は動きを鈍くしていたのか、全弾命中していき、大蛇は雷光に包まれる。


「まだまだ敵は余裕がありそうですね。ダメージを積み重ねてグレネードランチャーとは別に。貯まったらまた同じことをすれば良いのですし」


 大蛇がしっぽを振ると、大きな薙ぎ払いとなり、こちらへ向かってくるが、あっさりと私は回避して、他の柱を警戒する。


「倒し方を探さないといけませんよね?」


 そう言って、どの攻撃をしようかと考える。色とりどりな銃弾があるのでできれば敵の弱点を狙い撃ちにしたい。


 荒須ナナは緊張を取り戻して、銃弾を叩きこむべく身構えるのであった


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] うーん。変に自信付けちゃってるなぁ。 死ななきゃいいけど。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ