258話 おっさん少女は謎解きを開始する
警察署といってよいのだろうかと、この警察署に入ってから遥はずっと思っていた。だって洋風建築で元は美術館を利用した建物らしい。小部屋に置いてあったパンフレットからそれが判明したのだが、たぶんパンフレットを見なくても想像はできた。
というか、驚愕の真実に気づいたので、信じられない思いで呟く。
「元美術館なら、物凄く広くないとおかしいんですよね。ここは広すぎですが、それでもバイオ的リベ2の警察署は狭すぎたんですね」
実にどうでも良いことで驚愕するおっさん少女であった。たしかに考えてみると、あそこまで立派な美術館なら、あの倍は広くないとおかしくないのだと、今の状況よりも昔やったゲームを思い出すのであった。アホな発言しかしないので、そろそろレキと交代が必要なのに、このエリアでは交代できないのが口惜しい。おっさんもマネキンかなにかで美術館の物置に置いておけば良いのに。
「なにか余計なことを考えているでしょ? お嬢様」
そんな遥の意識をガラクタ置き場の記憶から、静香が呼び起こす。テヘッと舌を可愛らしくだして、遥は笑顔で誤魔化す。美少女ならではの回避方法だ。おっさんが同じことをしたら、その舌を千切ってやるぜとワイルドなシーンと化すだろう。
「ちょっとこの警察署について考えていたんです。謎解きをしないとなぁと思いまして。蝶野さんとナナさんが他のコミュニティを見に行ってますしね。その間にこのエリアをクリアしたいものですが」
翌日になり、遥たちは2グループに別れて行動することにしたのだ。ナナと蝶野は他のコミュニティを見に行って生き残りの把握。
そして、レキと静香はこの警察署の謎解き。プラス綾も遥たちと一緒にいる。
ふんふんと探偵帽子と呼ばれる帽子をかぶり、シャーロックホームズの格好をしているおっさん少女がここにいた。玩具のパイプも口にくわえて、やる気満々である。常に名探偵になる準備をしていた順番万端な遥である。余計なところで準備万端なおっさん少女だ。
今はメインホールにて真ん中に置いてある女神像を確かめるべく集まっている遥たち。女神像の台座にはメダルを嵌める穴がある。ゲームのように綾たちは苦労してメダルを探したのだが、一つも見つからなかったそうな。
「さて、どうするんだい? メダル集めはこの一年半、皆が探したが、欠片も見つからなかったんだよ」
「ここはドームレベルで広すぎですが、それでも数千人が調べても見つからなかったということは、元々このメダルを嵌める窪みはフェイクか………」
フンスと鼻息荒くスキルを発動させる遥。鍵解除と罠解除の二つを使用して女神像を調べる。遥かなる過去に死にスキルと化した二つのスキルである。だって鍵はこじ開ければよいし、罠は踏み潰せばよかったのであるからして。
だが、力が制限されたこのエリアでは極めて役に立つスキルだ。内心でやったぁと小躍りしながら、先程、実際にウキウキと子猫を思わせる小柄な愛らしい身体で小躍りしたので、レキちゃんはいつも可愛らしいねとナナが満面の笑みで頭を撫でてきた。そして、ウィンドウ越しにサクヤが幸せ一杯の笑顔で見つめていたので、さすがにその時は照れた遥である。
「見つけました。一応、解除させるつもりはあったんですね。名探偵にはズバッと丸わかりです」
ふふふと可愛く口元を笑いに変えてスキルのおかげで全てのヒントなどをスキップして謎の正体に気づく名探偵レキ。レキで名称は良いだろう、おっさんはそこらへんで驚くぽんこつ警部の役に当てはめておこうと思う。
メダルを嵌め込むだろう窪みを強く押すと僅かに窪みが押し下がるので、そのままクルクルと回転させていく。鋭敏なる聴覚で、回転中に僅かにカチリと音がするので、全ての窪みをクルクルと金庫のように回転させて音がする時に止める。
「ノーヒントで、金庫並みの回転数合わせ……クリアさせるつもりはないのであろうに謎解き要素を残していたとは恐れ入ります」
鍵解除にてイカサマな解除を行った遥。最期の謎は女神像に隠されているボタンを押下すれば台座下が開くと予想できた。ありえないことにノーヒントなクリアなわけだが。ゲームマスターが禁止にしそうなスキルであるからして仕方ない。ノーヒントだけど謎を解くねと456サイコロをプレイヤーが振って成功以外には出さない感じだ。ゲームマスターは泣いても良いだろう。
「待って、お嬢様。このまま開けるのは危険よ? どうやらこのエリアのボスはバイオ的なゲームのファンみたいだしね。6で同じように開けたときになにが起こったのか知ってる?」
「ふふふ、私は全てのバイオ的なゲームをやっています。メイドさんがあらゆる古今東西のゲームを用意してくれたので。なので、静香さんの言いたいことがわかります」
ふむんと胸をはって、子供特有の無邪気なドヤ顔を見せる可愛らしい美少女。たしかに6では謎を解いて先に進むかと思ったら驚愕のボス戦となったことを覚えている。
答えたあとにメインホールを見渡すと、かなりの人数が疲れたように座り込んでいるのが見える。
「凄いじゃないか! 私たちの一年半を無にする活躍だ! 早く開けてみよう」
興奮気味で顔を紅潮させて、綾が掴みかからん勢いで遥へと言ってくる。進展した謎解きに興奮しきりだとわかる。
「まぁまぁ、待ってください。メインホールの人々を避難させてから開けましょう。もしかしたら、戦いがあるかもしれないし」
綾をちっこいおててで抑えて止める。もしかしたらゾンビに人を変えちゃう毒を撒くボスが現れるかもしれない。6では初見ではなにが起こったのかさっぱりわからずに謎を解いた場所が2階だったので、1階に現れるとは愚かなボスよ、そのまま遠距離での銃攻撃で撃破だねと余裕ぶって、時間をかけてボスと戦っていたら、なぜかゾンビがじゃんじゃん増えていき、にっちもさっちもいかずに、ゲームオーバーになった覚えがある。そのボスは毒をまき散らしていて、周りの人間をゾンビに変えていたのだが全く気付かなかった迂闊なるおっさんだったのだ。なにか緑の毒を撒き散らしているが離れていれば大丈夫だよねと、離れていたからまったく気づかなかったのであるからして。
「むぅ、開けてからでは駄目なのかい? 第一の謎解きをした者として当然の権利だよ」
そわそわと身体を揺すって綾は不満そうに、頬を膨らます。すぐにでも開ける気満々な感じ。でも、このままだと第一犠牲者は綾だよと内心で苦笑する。遥と静香は効くことはないだろう、ただ結界が抵抗時の力に反応してエリアから押し出してくるだろうけど。
「むふふ、私は謎解きのその先を予想するのです。まるで名探偵の如く! 名探偵レキ、真実はいつも私が作る!」
ビシッと名探偵がしてはいけないことを堂々と叫ぶアホな美少女がそこにいた。
「ほら、無駄話をして無駄に遊ばないようにしなさい、お嬢様」
「はぁ〜い。ではでは皆さんをメインホールから避難させますね。名探偵レキの華麗なる作戦により!」
静香の言葉に頷いて、メインホールの皆に声が届くように叫ぶ。
「皆さん、只今からメインホールは虫を退治するためにバルな酸を撒きますので避難をお願い申しあげます」
相変わらずの雑すぎる作戦を堂々と叫ぶおっさん少女であった。メインホールには大勢の人々が疲れた表情で戸惑った表情となる。なので、鈴が鳴るような可愛らしい声音で大声をさらにあげる。
「飴ちゃん。飴ちゃんをメインホールから出ていった方にはもれなく1個プレゼントします。私がここに来る前にもっていたものですよ~」
アイテムポーチから飴の袋を何袋も取り出して、ぶんぶんと振りかざすと生存者たちの顔色が変わる。その声に立ちあがり、ゾンビのようにこちらへとやってくる。いや、こちらにやってきたら困るんだけど。
「ちゃんと説明しないからよ。順をおって説明した後に飴ちゃんを人々に配りましょう」
ふふっと妖しい笑みで肩をすくめた静香が言うので、仕方なく説明を開始するおっさん少女であった。
「おいおい、本当に飴だよ。ありがとうな、嬢ちゃん」
「あまーい。おかあさん、甘いよ」
「本当に久しぶりの甘味だわ………。ありがとうね、娘さん」
「謎解きを楽しみにしているぜ」
「お嬢ちゃんを舐めたい」
最後の発言者を通報しないとねと探すが、皆が嬉しそうに飴を舐めながらメインホールを出ていくので諦める遥。
しばらくして、メインホールから人々がいなくなる。メインホールから出ていった人々だったが、飴を貰えるという噂を聞いてきたのだろう他の部屋からも人々が集まってくるので、袋ごと置いていった雑なおっさん少女である。喧嘩が起きるかもしれないがもう知らないですよと、メインホールにて女神像の前に立つ。
ガシャコンとアサルトライフルを構えて、かなり女神像から離れた場所で静香が微笑む。
「準備はOKよ、お嬢様。いつもでどうぞ」
こくりと頷く遥。
「わ、私も離れた場所なら見学しても良いだろう? 2階から見ているよ」
綾が絶対に見ていくと言い張るので、仕方なくこくりと頷く遥。
「ご主人様、万が一の衣服が破れながらのいや~んな戦いになることを考えて、カメラドローンの配置もばっちりです」
変態銀髪メイドの発言はこくりと頷けない遥。もうカメラドローンは破壊したいと思うがちょろちょろと移動して絶対に破壊はされないように行動をしているので悔しい限りだ。
「では、いきます。名探偵レキ、真実はいつも私が作る! っと、ポチッとな」
女神像のわかりにくい脚の横にあるボタンをポチッと押す。
台座がこれでぐぐっと下がって、ドアが現れるんだねとワクワクしながら見つめる。こういうギミックは大好きである。敵を倒すために使用するギミックは嫌いだが。
ゴゴゴゴゴと大きな音がして、台座が震え女神像が揺れ始める。
ん?想像と違うねと首を傾げて不思議な表情で遥が思ったら、女神像が下から勢いよく爆発したように吹き飛ばされる。大きな力で天井までバラバラになりながら吹き飛んでいく。
轟音と共に遥のいた場所も下から吹き飛ばされてしまう。もちろん遥も吹き飛ばされてしまうが、空中で華麗に回転をして、手を地面につけて回転しながら、トントンと床を蹴り、軽やかに後ろに下がる。
「なんですか? ちょっと予想と違うみたいなんですけど」
「そうね、お嬢様。懐かしい相手が出てきたみたいね」
遥の戸惑いに静香が答えて、女神像があった場所を見つめる。噴煙が収まらずにいるが、それでもちらほらとその巨体が見えた。
「………懐かしいですね。でも、今回はあの時よりも敵は強そうで私たちは弱いです」
自らが作りだした瓦礫を崩しながら現れたのは、上半身がくたびれた痩せこけたサラリーマンで、下半身が蜘蛛でできているオスクネーであった。しかもサラリーマンの上半身には頭が二つある。その口元は緑色の煙が纏わりついていた。
「サービスざぁんぎょぅ~、きん~し~」
「かろぉ~し~」
世界を呪うようなというか、会社を呪うような叫び声をあげるオスクネー。
「ご主人様! あいつらの名前はツインヘッドオスクネー。略して、ツクネと名付けました!」
「はいはい。略したらおでんの具になるから再考をお願いします。サクヤさん」
サクヤがふんふんと鼻息荒く名付けてくるが、さすがにツクネはないでしょうとツッコミを入れてしまうおっさん少女である。
「仕方ないですね………。ならばツインクネーにしておきます」
むぅと不満そうにサクヤが唇を尖らせて変更してくるので、それでいいやと適当に頷いて、ツインクネーへと身構える。
「な、なんだい? メインホールの下にはこんな化け物がいたのかい? 私たちはここを安全地帯だと思っていたのに!」
綾が余裕をなくしてうろたえているが、スルーをして忠告する。
「ここから出ていってください、綾さん。私たちがこいつは倒しておきますので」
「あ、あぁ………。しかし二人では………。仲間を呼んでくる!」
慌てた様子でメインホールを抜けて外にでていく綾を見て嘆息する遥。
「ダメです! あいつは毒持ちですので、名探偵レキにお任せください! 最近の名探偵は戦えるんで問題ありませんよ」
走り去っていく綾へと声をかけるが、そのまま出ていったので聞こえたかなぁと不安だ。
「まぁまぁ、まずはオスクネーを撃破しましょう。あの娘が仲間を連れてくるまでの時限式ね。遅れたらゾンビを量産されると思うわ」
静香が腰だめにアサルトライフルを構えて、引き金をひく。タタタタと乾いた音をたててツインクネーへと銃弾が飛来する。しかも銃弾は炎の塊になっており、しっかりと敵を倒す気満々だ。
そして避難させた人々は結構離れた場所に移動させているが、綾が呼んで来るとしたら時間はそれほどないだろう。
静香の放った銃弾は瓦礫を崩し、雄たけびをあげているツインクネーへと命中して一瞬の間に炎で包みこみ、炎上ダメージで苦しみ始める。
「うぉぉ~」
だが、炎上ダメージは続かなかった。片方の頭が叫ぶとキラキラと白い糸がツインクネーを包み込むようにしてあっさりとその炎を消してしまう。
チッと舌打ちする静香。すぐさまリロードをして新たなマガジンへと変える。
遥も負けてはおらず、素早くツインクネーの横へと回り込むように移動しながらサブマシンガンを撃ちこむ。
床には放置された毛布や椅子やらテーブルがあるが、ぴょんぴょんと障害物競走のように上手く飛び跳ねながら躱して撃ち続ける。
ツインクネーの巨体では躱すことも難しいと思われたが、蜘蛛の脚を大きく踏み込んでツインクネーはジャンプして、30メートルはある吹き抜けの天井まで飛んで張り付く。
「なっ! こいつ高機動タイプですよ。普通のオスクネーより機動性が段違いです!」
その動きをみて驚きの声を遥があげる。驚きながらもサブマシンガンを撃ち続けるが、恐ろしいほどの速さでシャカシャカと多脚を動かして、回避していくツインクネー。数発は当たったが、それだけではたいしたダメージにはならないだろう。
「どうやら特殊ボスね。この地形に合った敵よ、相手も考えて配置したみたい」
静香もアサルトライフルを撃ち続けながら、メインホールを走り始める。
「ぐぇぇぇぇ」
片方の頭からツインクネーが緑色の毒を遥へと目掛けて吐いてくる。毒霧が直前にくるが、眠そうな目をツインクネーへと向けて動揺も見せずに周りにある毛布を脚でひっかけて、毒霧の前に盾のように広げて防ぐ。
毛布により毒霧が止まったのを確認してから、嫌そうな顔をするおっさん少女。
「私はギミックを使いながら敵を倒すの苦手なんですよね。静香さんは得意ですか?」
「ふふ、私は節約志向だから、ギミックを使って倒すのは得意よ」
椅子を持ち上げ、静香はツインクネーへと目掛けて勢いよく投げる。
投げられた椅子は、同時にツインクネーが吐いてきた斬糸によりバラバラとなるが、糸もふわふわとバラバラになりその勢いを失くす。
「車、車が必要ですよ。私は車を投げて倒したいんですが」
「そういえば、初めての共同戦闘もオスクネーだったわね!」
静香が楽しそうに微笑むので、にやりと悪戯そうに遥も笑顔で返す。
「支援と言って、以前は消えたと記憶にはありますが、今回は消えないでくださいよ?」
そう答えて、おっさん少女と武器商人はツインクネーを倒すべく戦いを継続するのであった。




