249話 もぐら叩きをするおっさん少女
数日後、群馬森林地帯を解放したが、群馬全体はまだまだ解放はされていない。そのために防衛隊は次に平原の敵を退治しに来ており行軍している。
今回は前回とは違い、兵を集めたので大勢が武器を構えて平原へと進軍しながら、遠距離攻撃をしていた。その手にあるグレネードランチャーから撃ち出されるのは静香から仕入れた新型弾丸だ。主に煙幕系であり宝樹が開発した新型煙幕弾、ライトマテリアルの力がこめられており、微妙なるダメージを煙幕により与える弾である。
今回はダメージを与えることがメインではなく隠れているだろう敵を炙り出すために攻撃をしているのであった。静香は急に新型をどんどん商品として並べ始めて、その効果も今までとは違うのである。
ダメージを受けると同時に低レベルの隠蔽は外れて、空中にまるで緞帳でもかけてあったように、平原は風景を変えて、そこには熊がなぜか鉄条網を体に巻いて、その口は裂けて分厚い身体を覆う毛皮のところどころは抉れて腐った肉が覗いていた。
「あ、くまだ!」
鈴を鳴らすような奇麗な声音で誰かが叫ぶ。
「あれはデビルベアーと名付けよう! 力がある癖に獲物を捕まえるためにその姿を隠蔽する悪魔のような熊だからな!」
最初の叫び声をなくすかのように大声で怒鳴るゴップ。それを木は見守っていた。
「地面にも気をつけろ! 穴がそこかしこに見えるぞ!」
その言葉通りに穴からぴょこんとモグラが頭を出す。もちろんただのモグラではなく、口の端から火をチロチロと見せていた。
数メートルはある大きさの通常ではないモグラである。
「火モグラ! 君に決めた!」
またもや少女のような可愛らしい声が聞こえるが無視をして、新たなる名付けをするゴップ。どうやら名付けに対抗している謎の声。謎でもなんでもないでしょうというツッコミは謎なのでなしである。
「火モグラにしよう! わかりやすい名前だ!」
鉄の意思をもっているのか、ゴップはそのまま指揮を続けて、冷凍弾や硫酸弾、浄化弾などを使用するように命令をして敵の弱点を探しつつ倒していくのであった。
防衛隊はこの男の指揮により、かなりの戦術を変えて練度を上げていた。その姿を安心したように木は見ている。
皆が的確に敵を倒しており、以前とはひと味もふた味も違う戦士たちへと早変わりしている。
装甲車を本部にして、作戦机を置き、地図を見ながら駒を動かして作戦指示を出していくゴップと昼行灯に百地。そして参謀が周りを取り囲み、作戦を立てている。
そんな緊張感溢れて、士気高く、キビキビと動く男臭い作戦室を木が優しく見守っていた。
「攻撃方法は多面的に行うのだ。宝樹は多様なる弾丸を完成させているからな」
「どうやら火に弱いようだな。見ろ、毛皮がボロボロに消えて肉体を露出させているぞ」
久しぶりの宝樹設定に、なんだろうと思い出すまで苦労した木はなるほどね、様々な武器を静香さんは用意しちゃいましたかと頷く。
そうすると、目の前の豪族はわなわなと身体を震わして、後ろというか木を見ながら顔を真っ赤にして怒鳴る。
「さっきからうろちょろすると思えば………なんだ。それは姫様?」
豪族が振り向く先には小柄な木が生えていた。普通の木に見えるがよくよくみると普通の木ではなかった。もっとよく見ると、ゴム製であり、キグルミであった。
穴が空いており、そこから美少女の顔が突き出されて、両手には小枝を持っている。ようやく豪族がツッコミを入れたかと安心して、顔をつき出す。
「木です。人々を見守る木、癒やしを与える木、気になる木です」
むふふとようやく言えたと満足するおっさん少女がそこにいた。木のぬいぐるみを着込み、両手に小枝をボンボンのようにもって、ブンブン振り回しながら楽しそうに返すのであった。
「はぁ、なんで木なんだ?」
「酷いんです、皆が危険な群馬に行くと聞いたので、私もお手伝いに行こうとしたら、レキは行かなくても良いと上から指示が出されたんです。ゴップさんの護衛もしなくてはいけないのに、包帯グルグル巻きのゴップさんも護衛は終了したので、行かなくても良いと言われました」
「だろうな。俺たちは何度か大樹からの群馬侵攻中止命令を無視している。当然、大樹もなんらかのペナルティを負わせようとするのだろう」
豪族が嫌な内容なのに、楽しそうな笑顔で告げてくるので、遥はスッと目を細めて警告する。
「駄目ですよ、敵が物凄い強い場合もありますからね。今回は大丈夫だと思いますが、本当に危険なときは行かせませんからね?」
その本気度を悟った豪族が口元を曲げて凄みを見せながら言ってくる。
「過保護は終わりだ。そろそろ外にハイハイしに行かないといけないはず。俺たちもそろそろ肩を並べて戦うときがきたんだよ、姫様」
「そう言うと想像してました。だから、レキはだめだと言われても、木なら良いと考えてこのキグルミを着て作戦に参加しました。レキと木って似てますよね?」
そう答えて、むふふと移動しようとしてコテンとその自重に負けて仰向けに倒れる木。
ばだばたと手を動かして、助けを求める。
「倒れちゃいました。誰か助け起こしてください。気になる木が倒れていますよ〜」
「役に立つ木なんだろうな? はぁ〜、どんな強敵よりも疲れるぞ……」
アホの木を見て、緊張感がなくなるのを感じて、頭痛がする豪族であった。意外とノリも良かったりした。
実は豚は舞い踊るの脚本に、レキの出番がなかったので、木なら普通でしょうと書き込んだおっさん少女。
きっと平原の戦いを見届けるのは木であったとか、静かになった世界には木だけが残っていたとかいう感じに脚本を書き込んでも問題ないでしょうと、問題だらけになる方式を考えたおっさん少女であった。なので木として出演したのだ。木の役には自信があるので。おっさんに木の役をやらせたら、誰も気がつかないぐらいにただの木として認識されるのだ。路傍の石とタメを張ると得意げだが、全然自慢にならない。
火モグラと呼ばれたミュータントは狡猾だ。常に地下に隠れており、敵が通りかかったら、高速での噛みつきや、炎のブレスで殺していく。
敵が攻撃しようとしても、既にその時は地下にいるのだから。完全無欠の防御に近いので、自分の力に増長してきていた。
既に過去形となり、隠れていた穴から次々と火モグラはとびだしてきている。
なぜならば穴に水流が入り込み、火モグラは慌てふためき出てきていたからだ。
なぜ雨も降っていないのに水流が穴に入りこんでくるかはわからないが脱出しなければ死ぬことはわかりきっているのだ。急いで這い出てきたところで
「あ、また出てきましたね。とやっ!」
なんだか小柄な木が刀を振り下ろしてくるのが、火モグラの見た最後の光景であった。
出てきた火モグラを倒したあとに、遥は木ぐるみを着込んだまま、周りを見渡す。
「これが流体水流弾ですか。なんともまぁ、静香さんは多種多様なおもしろコレクションを作ることに成功したんですね」
モミジのようなちっこいおてての手のひらには火炎弾や雷撃弾、風圧弾など様々な弾丸があった。その中でも流体水流弾はその名の通り放水したような水へと変化する不思議な弾丸である。
それらを駆使しながら戦う防衛隊。今までとはまた少し変わった戦闘方法だ。ゲームでいえば、ようやく弱点属性を探るレベルに防衛隊がなってきた証拠でもある。まるでゲームの説明書をようやく読んだプレイヤーみたいな感じもするが木のせいである。
「なかなか楽しそうな弾丸が揃ってきましたが、どうなんでしょうね、命の危険なく戦ってもらえたら木にならないんですが」
んしょんしょと木グルミで再び移動をしながら呟く遥。まぁ、過保護かもしれないけれど仕方ないのだ。
ちらりと視線を向けると、包帯でぐるぐる巻きとなっているゴップが教本に書いておけと怒鳴りながら指揮のあれこれを教えている。
おっさん少女も謎の教官になりたかったが、サクヤたちに笑顔で却下されたのである。ならばコントローラーを貸してください、私もやるねとお願いしたが、あっという間に壊しちゃいそうで駄目と説得されてしまった。
というか、あのゴップ人形はよくできている。死にかけたというか、壊れかけたときは、ナインの誘惑を振り切って、やっぱり心配だからとついてきた結果、そばにいたのだ。決してお風呂でナインのアピールにヘタれて逃げてきたわけではない。
そして、ゴップは治癒は効かないので修復薬を刺しただけである。まぁ、周りはいつもの傷薬と思ったのであろう、まったく疑われることはなかった。予定ではこれでゴップ人形は大樹に呼び戻されていなくなるのだが……。
豪族たちは先生に教わるみたいに真面目にゴップ人形の授業を受けているようだ。あれだけ傲慢に振る舞っているのに。
「う〜ん、あれは本当に中身がないんですか? サクヤは凄すぎですね、さすがはおっさんドールマスターサクヤ」
感心しながらニヤニヤと笑って呟く遥に、ブーブーと文句をつけるサクヤ。
「ドールマスターにしておきましょう。なんでわざわざおっさんを入れるんですか!」
「まぁ、まぁ、これなら映画化もあり得るよ。おっさんドールマスターサクヤ! とかね」
「多分その映画の観客動員数には期待できませんね。あとで水増しするしかないです。あと名付けを先にするのは禁止です! 私がしますので名付けはしないでください! 次に名付けをしたら耳をペロペロの刑にしますからね!」
不正から入ろうとする駄目な銀髪メイドであった。そしてさり気なく要求事項がせこい。
そんなコントをしているうちにも、防衛隊は次々と火モグラや、デビルベアーを倒していく。通常攻撃も通用する敵には苦戦もせずに防衛隊は侵攻をするのであった。
日が落ちる時間には平原の敵は殲滅が終わり、あとは残党を片付けるのみとなった。
暗くなった平原で遥は呟く。
「この木ぐるみは暑いです。ずっと着込む必要はないかもしれません」
夏なので汗だくですと、少しお疲れなおっさん少女。木のまま敵を倒し続けたので、暑かった。脱げば良いのだが、脱がないアホな少女はゴップの前に歩いていき、軽く頭を下げた。
ばさりと頭の木の枝が木の葉と共にゴップにぶつかる。バッサバッサと当たるので、ブハァと木の葉に溺れるゴップ人形。苦しむ姿もリアルであり、演技が凝っているねと感心する。
「これで群馬の殆どは制圧できましたか? 私の護衛は終了でゴップさんは本部に一度戻ってくるようにとのことですが?」
「ふむ………少しやりすぎたか。山裾の敵はどうする? 平原のオリジナルは撃破したが」
いつの間にかサクサクと敵を倒していた防衛隊である。ゴップは懇切丁寧に教えすぎた様子。
「それなら問題はありません。アインたちが制圧に向かうので」
もう戦術の基礎知識は教え込んだし、防衛隊もこれらの知識を活用していくだろう。また、ゴップはこれからはたまに顔を出すので問題ない。使わないときは物置にしまっておけば良い。どこかのおっさんと同じかもしれない扱いだ。
そんな話をしている中でも、空中に軌跡を残しながら、アインたちパワードアーマー隊が飛んでいく。
山側を撃破して、いよいよ制圧終了であるからして。
数時間後には山裾制圧の報告が入り、ここに来てようやく観光が、できる場所になったねと、喜ぶおっさん少女であった。
何気に木のせいではなく、防衛隊の中でも撃墜数は断トツに一番多いエースなおっさん少女である。戦いながら、釘を刺しておかないとと考えていた内容を防衛隊の面々を見渡して話し始める。
「本日の戦闘お疲れ様でした。見事なる戦いに木はびっくりです。木の葉をサワサワさせちゃいます」
周りの面々が嬉しそうな表情になるので、少し真面目に告げる。
「今回はです。本来はもっと大樹の支援をされつつ行動してください。大樹の機動兵器で敵を崩壊させて、皆さんで叩く。それが正しい戦闘方法だと思います。そこのゴップさんもそのような戦いをしてきて、今回は機動兵器がなかったから、それに準じた戦術をとっただけにすぎません」
この言葉に不愉快な表情になり、俺らはやれるという感情をもつ人がいるのは確実だ。
しかし、それは危険な考えであり、そういった慢心から死ぬことも多々あるだろうから。
だからおっさん少女は言葉を重ねて説得する。死なないように、鬱展開はいりませんと説得する。
「強い武器を使うのは当たり前なんです。旧型だけど使い慣れている武器だからとか、低価格の武器でもやれるんだとか、そういうのはいらないです。死んじゃったらおしまいですから」
そうして、びしっとゴップへと指差す。
「ゴップさんは、工夫を凝らして戦っているみたいなことを話しているようですが、この人の持ち味は最新型を潰しながら、その分死者を少なくして戦うことで有名なんです。そのために経理からは使い捨てのゴップと揶揄されていたんですから」
ブフっと、そのあだ名を聞いて吹き出す人々。
「最後は儂が使い捨てにされたが、その木は間違っておらん。儂は常日頃から新型を探しては使ってきたからな」
「左遷された理由って、それじゃあなかろうな、おい?」
自信満々にゴップが言うので、疑わしい表示をとる豪族たち。
「はっ! 武器など使い捨てぐらいで丁度よい。命を掛け金に戦っているのだからな!」
悪びれないゴップに、たしかに言われてみるとそうかもと納得をし始めた面々。
「お金が掛かりそうな戦い方だよね。加減を気をつけないと大変なことになっちゃう」
いつの間にか、木の横に来ていた木こりのナナが木ぐるみを回収しながら苦笑いをする。
「寄らば大樹の影というわけで、大樹の兵隊さんと力を合わせて戦ってください。きっと申請を出せば戦ってくれるはずです」
ナナの肩に担がれて、あ〜れ〜と薪になったおっさん少女の言葉を締めとして、頷く防衛隊なので監視が必要だけど、そこまでは無茶苦茶やらないだろうと、内心で胸を撫で下ろす。
そうして、防衛隊はこれでしばらくは大丈夫と思いながら、次は何をしようかなぁと考えるおっさん少女であった。




