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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
15章 眷属を作って遊ぼう

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247話 群馬での指導

 群馬へと入った防衛隊は500人程度。急遽集めたために、そこまでの人数は集まらなかったが、輸送用トラックや装甲車などの車両群で充実した装備をしながらの移動である。


 空中にはポニーがパカランパカランと飛んでおり、出世魚たちが乗っている。名称だけで呼ぶと混沌とした世界になりそうな空中バイクとパワードスーツの空騎兵隊だ。間抜けなことこの上ないので、防衛隊は空騎兵と呼んで、ポニーとモジャコの名前は封印していた。


 そして群馬を見て呆然ともしていた面々である。


「なんだこれは? ここは群馬ではないのか? 人の住む町だったとは思えないぞ」


 百地は意外な地形となっている目の前の風景に疑問の叫び声をあげた。


 周りの防衛隊の面々も予想外の風景にどよめいている。それも当然だろう。雑草が生え始めて、ボロボロとなったとはいえ、まだまだアスファルト舗装は現役だったはずだ。現にアスファルト舗装の道路を移動していたのだ。


 しかし群馬に入った途端に道は途切れ、アスファルトは姿形も無くなり、巨木が生い茂る森林や平原が広がり、離れた場所には岩だらけの山肌が見えている見事に人の手が入っていない世界と化していたのだから。


 そこには街のあともない。壊れたビルも朽ちた家々も文明と呼ばれる物は見えなかった。


「なんだ、エリアが改変された地域を見るのは始めてか?」


 野太い声音が聞こえるので、そちらを見ると同じく装甲車から降りてきたゴップとかいう大樹の軍人が声をかけてきていた。


「東京の中心が同じように砂漠となっていたが………。それ以外は初めてだな。いや、あとは水中とかいうのもあったか、あれはほとんどよくわからなかったが。ここまではっきりと自分の目で見たのは東京以外では初だな。北海道には錆びついた街があったが、あれは街の外観を保っていたからな」


 呻くように答える俺に、ゴップは考え込むように顔を少しだけ俯ける。


「ふむ……。そうか……。エリア改変はこの崩壊した世界を表す独特のものだ。力を持ったオリジナルが自分に合った世界へと改変をしている。倒せば元に戻る時もあるが、大抵はおとなしめな自然界へと戻る」


「こちらはお偉い科学者さんがいないもんでな。そういった情報は入ってこないんだ」


「あの小娘は戦闘要員だからな。専門的な内容は知らんはずだ。他の外部にでている者たちも詳しくは知るまい。知っているのはナナシだけだろうが、あいつは無駄な情報は流さないだろう」


 どうやらナナシは知っているらしい。当然の話だろうがあいつは秘密主義だから、そんなことを親切には言わないだろう。


「今までの防衛隊は指示されるままに、比較的安全だと思われている地域を制圧させられていたんだな? 群馬には行くなと言われていなかったか?」


「チッ! そのとおりだ。群馬は大樹の兵士だけで攻め落とすと言われていた」


 あっという間に俺たちの情報を推測しやがるとは、さすが大樹といったところか。こちらの状況を前もって調べていたのかは知らないが。


 ふんっと鼻で笑うゴップは、ムカつく表情を浮かべて、こちらを見ながら話を続ける。


「だいぶ大事に守られていたようだな。だからこそエリア概念の基本を知らないのだろう。少し過保護過ぎるとも儂は思うがな。危険な場所を知らなければ、敵の脅威度から撤退を選ぶこともできん」


「あ〜。俺たちはたしかに危険すぎる場所には行かないようには言われていたな。ナナシは過保護過ぎるってわけか?」


 頭を抱えガリガリとかきながら、ナナシのことを過保護だという話の内容を考える。たしかに人死にが出ないように安全な戦闘をさせられているとは感じていたが過保護と呼ばれるとは思わなかった。


 その先の推測からは、あの馬鹿は俺たちを守るために危険な場所へ姫様を向かわせていたことにも繋がる。それは娘を守るために行動する男にとっては皮肉なことだった。


「だが、武器のレベルを考えると妥当なのかもしれんな………。それでもこの程度のエリア改変をする敵とは戦わせて良いはずだ。所詮軍人ではないやつの運用ということか」


 顔を持ち上げてニヤリと腹黒そうな笑いを見せて、ゴップは話を続ける。


「よろしい。教えようじゃないか。エリア改変はオリジナルの強さにより変動する。異常なエリアならば足を踏み入れない方が良い。まぁ、一概に全てがそれに当てはまるというわけではないが。この程度の改変ならひと当てして、敵の強さ、ギミックのある無しを調査してから戦闘を開始すると良いだろう」


 そうして、数枚のクリスタル製のバングルを渡してくる。


「これは儂らの通信機だ。トラックに備え付けられている通信機しかないのだろう? 儂らと共に戦うのであれば、お前らに渡しておいた方が良いだろう。その代わりに指揮に口出しをさせてもらうがな」


 この野郎、弱みにつけ込みやがってとは思うが、通信機が手に入るのは有り難い。仕方なくその提案を俺は了承する。まぁ、この戦術室長とかいう男の力を見るちょうどいいチャンスでもある。


 俺は手渡されたバングルを各隊長へと配りながら、そう考えるのであった。




 森林と平原、どちらを進軍しようかと考えたところで、ゴップは森林を選択した。見渡しの良い平原ではなく、森林を。


 当然の疑問にゴップへ俺は尋ねる。


「平原の方が見渡しが良く進軍に相応しいのではないか? オリジナルとやらを撃破して敵の弱体化を狙うんだろう?」


「うむ……そこからか。では箱庭で戦っていた新米兵士を教育してやろう」


 嫌味な言い方で、口元を曲げて笑うゴップ。だが、こいつは前線で戦ってきたようなので、我慢をして聞いてやることにする。


 ゴップは平原へと指を指して、真剣な表情となり教えてくる。


「見ろ。あの平原には敵が一匹も見えん。おかしいと思わんか? ゾンビすらも見えん」


 たしかに見渡しが良いはずの平原には徘徊しているゾンビすらも見えなかった。敵が彷徨いて当たり前の場所なのにだ。


 こちらの表情から、理解したと判断したのだろう。ゴップは話を続ける。


「わかりやすい罠だ。隠蔽状態の敵がいるのだろう。罠と見える森林だが、あちらを先に偵察した方が良い」


「ふむ……。敵が森林にも隠れている可能性はあるぞ?」


「もちろんだ。確かめるのならば森林の方が早いだけだ。さっさと森林の偵察を行うぞ」


 了解の頷きを返して、いつものように偵察員を送ろうと俺が部下に声をかけようとしたところ、ゴップが手を振り止めてくる。


「違う、そうじゃない。崩壊後の世界での偵察はもっと簡単で安全確実な方法がある」


「あん? そんな便利な機械があるのか?」


「あるだろ、そこに」


 指差す先には1台の装甲車が置いてあった。



 


 森林へと1台の装甲車が突進していくのを、かなり離れた場所から俺たちは見送っていた。中に突進していく装甲車には誰もおらず、自動運転で森林の中に入っていく。


「本当に装甲車を餌にするのか?」


 信じられん思いで、ゴップを見るが平然とした表情で中に入っていく装甲車を見ていた。


「教本に書いておけ。ミュータントは単純な奴らが多い。そして強力な奴らもな」


 見ている最中に、装甲車が森林に入り、中に入った異物を排除しようとミュータントが飛び出してきた。


「馬?」


「うむ……不気味なる馬。人面なる顔をもつ軍魔と名付けよう」


「ネーミングセンス最悪だな。あいつ等も最悪だが」


 森林から出てきたのは、人の顔を持つ5メートル程の馬であった。人の顔は崩れており、白目を剥いた血を流すゾンビであった。馬体は血に塗れたような暗い赤色であった。蹄はなく骨が突き出したような四つ足である。


 ドスドスと地面に杭を刺すように足を踏みしめながら突撃してきて、異物たる装甲車へと足を踏みつけ始めた。


 しかし不可視のフィールドが働き、その攻撃を弾いていく。


「ガウッ」

 

 軍魔の上に乗っていたのだろう。小さい犬が上に乗っており牙をたてて装甲車へと噛み付いてきた。やはり人面の犬であり、肉体は筋肉が見えており、毛皮は見えない。


 そしてもう一匹も現れた。やはり軍魔に乗っており、山アラシのような毛皮を持つ人面の猫であった。


「ニャア」

 

 異形の猫も同じように装甲車へと噛み付くが不可視のシールドにて防がれる。


 だが、次から次へと軍魔たちはあらわれて、装甲車へと群がっていく。


「よし、狙撃班に攻撃させろ。銃撃が効くか試すんだ」


 ゴップが化物たちに群がられて見えなくなった装甲車を気にせずに指示を出してくる。


「了解だ。狙撃班、攻撃を開始しろ」


「了解。攻撃を開始します」


 その言葉と共に、遠距離からの狙撃が開始される。遠距離からの攻撃は群がる軍魔たちに正確に命中して、次々と銃撃を受けた化物たちは地面に倒れ伏していく。


「マッスルドックにニードルキャットと名付けようではないか。狙撃で倒せるところを見るとどうやらそこまでの力を持っていないようだな」


「だが、装甲車はボロボロになっちまうぞ? 部隊を展開しながら進んだ方が良かったんじゃないか?」


 オスクネーが木の上から現れて、ガンガンと装甲車を叩きつけてくるのを眺めながら質問をすると、ゴップは肩をすくめて答えてくる。


「装甲車の1台や2台安いものだ。教本に書いておけ、崩壊前と崩壊後では戦術は大幅に変わったと」


 ゴップは狙撃に気づいた少数の敵がノロノロとこちらへと移動してくるのを眺めて言う。


「崩壊前は数がいれば問題はなかった。だがな……今は装甲車すら一撃で引き裂く敵がいるんだ。そのような敵がいるかどうかを確かめるためにも、餌が必要だ」


「装甲車を引き裂く敵が出てきた場合はどうするんだ?」


「そんな敵でも倒せる兵器で攻撃をする。それか、撤退だな。偵察兵では初見で死ぬ場合が極めて多い。そして部隊を展開させていた場合は被害が酷くなるのだ。それに気づくまでにだいぶ部下を失ったが……」


 沈痛な表情を浮かべてくるので、こいつの戦隊がどれだけの被害を出して戦ってきたのかを想像して苦々しく思う。


「最近は戦車を偵察で潰しながら戦っていたからな。経理がいつも嫌味を言ってきたものよ」


 グハハと笑いながら、ゴップは次の戦術を指示に出す。


「装甲車も倒せぬこの程度ならば問題はあるまい。装甲車を前に出して敵を殲滅する。空中のバイカーたちには木に登っているオスクネーを狙わせて、他は部隊を展開させるんだな。ただし、オリジナルを狙うので道を作るように展開させるんだ」


「分かった。で、次はどうするんだ?」


 その問いかけにニヤリと笑いながら、ゴップは答えた。


「儂は少数でのオリジナル撃破を狙っていたからな。次の行動は決まっている」


 ガチャリと装甲車から、パワードスーツを着ていないと持てないだろう重量がありそうな超大型のライフルのような物を抱え持つ。


「プラズマクラスターだ。持続性のあるプラズマビームを撃ち出して、大群を撃破する」


 そのまま、装甲車の屋根に登り、発進させて前線へと向かうゴップを見て呆れる。


「指揮官が前線に出るなんざ、失格だな、あいつは」


 そう言って、俺もツインガトリング砲を持ち上げてトラックの荷台に乗り込む。


「俺も人のことは言えないがな! よし、前進させろ。敵を殲滅していこうじゃないか。あの男に負けないようにな! 以降の指示は飯田、任せたぞ!」


「やれやれ、難しい人がまた増えたようですね。了解しました、百地隊長」


 飯田が苦笑交じりに敬礼をしてくるのを見ながら笑う。


「仕方あるまい! あいつにここで死んでもらっては困るからな。あいつの言う教本を見せて貰わんと困る!」


 そうして、血煙があがる前線へと俺も向かうのであった。




 狙撃による攻撃が終わり、突出してきた敵は撃破を終えていた。既に囮として使っていた装甲車に群がる敵は殲滅済み。確かに知能のない敵ならば効果的な戦術だ。サルモンキーが相手でも、まず敵が攻撃してくれば、攻撃力を確認できるというものだ。


 そして狙撃により、銃撃による攻撃が効果があるのかも確認できる。北海道では銃撃が効かない敵がいたのだから、攻撃が効くか確認するのは当たり前だ。


 どうやら随分と甘やかされて闘っていたと痛感した。そして、これからの戦闘には、あの男の戦術を学ぶ必要があることも。


 あいつは人の身で、強力な化物たちと対峙してきたのだろう。そこには多くの犠牲があったはずだ。車両を潰しながら偵察を平然と行うぐらいに。


 俺らも姫様に頼らない戦いをするには、様々な戦術を学び強力な化物と対峙する必要がある。そしてそれは俺らに自信を持たせていくに違いない。


 ならばこそ、あいつには死んでもらっては困るのだ。大樹では左遷されたようだが、俺らにとっては幸運だ。最前線の指揮官から戦術を学べるからな。


「グハハハ! 悪いが俺は馬でも犬でも化物相手には容赦しねぇぞ!」


 パワードスーツの補正で軽々とツインガトリング砲を掲げながら撃ちまくる。


 五野の武器屋から買い込んだ流体硬化弾。撃ち出されて飛翔していく中で、弾丸が収縮されて貫通力があがるタイプだ。


 ガトリング砲との相性は抜群である。良い意味でも悪い意味でも。


 その貫通力により、多くの敵を屠ることができるが、その分大量の銃弾を吐き出すので金がかかる金食い虫だ。


 だが、化物たちは大体大群でやってくる。掃射をするには金のことは考えられない。


 まぁ、戦車や装甲車を使い潰す馬鹿者がいる世界となったのだ。気にする必要はあるまい。経理は嫌味を言ってくるだろうがな。


 引き金をひき、身体に発射による振動が襲うが、パワードスーツの力で抑え込む。


 銃弾の嵐を受けてバラバラと肉片となっていく軍魔たち。 


 撃ちながら先頭で戦う趣味の悪い金ピカのパワードスーツを着ているゴップたちへと追いつく。


「焼き尽くされよ、哀れなるミュータントたちよ!」


 ゴップの持つプラズマクラスターから、幾本ものプラズマビームが放たれて、敵は次々と身体を分かたれて焼き尽くされていく。


「随分良いのを持ってきてるじゃねぇか? 防衛隊に配備はされないのか? その武器は」


 俺が問いかけると、こちらへと視線を一瞬だけ向けて怒鳴るように答えた。


「知らんな! 儂は与えられた装備で戦うだけだ。まぁ、これは偶然にも研究室に置いてあった試作型と言っていたがな! 偶然にも儂は持ってきてしまっただけだ!」


「はん! 世の中には偶然ってのが多いんだな! そんな武器を持ってきて本当に死ぬ気だったのか?」


 俺もツインガトリング砲を撃ちまくりながら、銃声による轟音が響き渡る中で怒鳴る。


「最高の装備で戦う! 無駄死にする気はまったくなかったぞ! 死ぬ気ではあったが、勝つつもりでもあった! その場合は死ぬよりも良い結果となっただろうからな!」


「はっ! 戦術室長が聞いて呆れる! ただの兵士とかわらんじゃないか!」


「当たり前だ! 儂の今の配下は9人のみ。この場合は儂も戦闘に加わるのが戦術的に見て当たり前だ! それよりも司令官がここに来る方が信じられん! 貴様はアホなのか?」


「俺よりもずっと指揮が上手いやつがいるからな! ならばベテラン兵は前線で戦うのみだ!」


 ぎゃあぎゃあと言い争いながら、この男とは酒を呑めるかもと考えながら、百地は森林を突き進むのであった。

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