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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
15章 眷属を作って遊ぼう

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245話 おっさん少女は傲慢なる人形を眺める

 若木シティの宴会用に作った公民館。旅館にも似ており、いつもいつも会議室での宴会は華がないでしょうと、わざわざ遥が建設した建物である。


 何十畳もの大勢が入れる宴会場で、今はワイワイと若木シティの職員が座っている。雇い入れたバイトさんたちが、料理を次々と並べていく中で、上席にはゴップ人形が座って酒を飲んでいるフリをしている。


 ちょっと離れた場所にはゴールドファイターたちが座っているが、本当に全員操れるのか心配でチラチラと視線を向けてしまう。


 だが、ゴールドファイターたちもお喋りをそれぞれしているので、どういうことかなと僅かに小首を傾げると、ウィンドウ越しにナインがこっそりと教えてくれた。


「さすがに個々の会話は不可能だと姉さんは気づいて、ツヴァイたちにお願いしたんです」


 ウィンドウ越しにナインの後ろを見ると、マイクをそれぞれ持ったツヴァイたちが声優よろしくマイクに向かって会話をしていたので呆れてしまうおっさん少女だった。だから10人なんて操れないと思ったのに案の定である。


 なんの話をしているのかしらんと、耳をそばだてると、なぜかツヴァイたち美少女の声が聞こえてくる。


「司令とのお風呂一緒にはいる券を貰いました」

「私は添い寝券です」

「私は生写真セットと撮影した映像セットです」

「それはコピーしてください。私も欲しいです」


 どうやら会話は周りに聞こえないようにしている模様。なぜならば今の会話は副音声となっており、普通に会話をしているようにダブって他の会話が聞こえてくるのだ。


 恐らくは超能力が関係しており、抵抗に失敗すると副音声は聞こえないとかそんな感じなのだろう。無駄に凄い装備をしていると思われる。仕方ないなぁとため息をついて、先程のツヴァイたちの会話を記憶からデリートして、あとで人身売買の罪でサクヤは、お仕置きだと決意する遥であった。


 ちなみに男性の声音での会話だったりしたら、音声禁止ねと言っていたところである。人形だしツヴァイたちの声音だからこそ、会話内容にまだ我慢ができるのだ。


 上席に座るゴップ人形は極めて機嫌が良さそうに豪族と会話をしているように見える。


「ようやく安全なシティが完成したという話になったのでね、私が本当に安全かを確認しに来たのだよ。戦術室長の私が直々にね」


 グハハハと悪党にしか見えないゴップが高笑いをして、豪族はニコリとも笑わずに隣でそれを聞いていた。ちょっとは愛想良くしたらどうなんだろうか。まぁ、豪族には無理であろうが。


「若木シティは以前からだいぶ安全であると、俺は思っていたが間違いだったのかな?」


 豪族の厳しいツッコミに、フンと鼻を鳴らしてゴップは答える。


「安全が確実でなければならないのだ。新システムの浄化フィールドによりもはや関東圏はミュータントが立ち入れなくなった。まだ群馬は制圧していないから対象外だが、他の地域は安全だ。だが本当にそうなったかは現地調査をしなければわからん」


 そんなことは聞いていないぞと、豪族がおっさん少女へと視線を向けるので、コクリとちっこい首を縦に振る。


「本当です。入れるミュータントもいる可能性はありますが、その場合は吸血鬼が太陽の光にさらされるように、常にダメージを負いながらの侵入となるでしょう」


 おっさん少女は豪族たちには言ってなかったっけと、ちろりと舌を出して誤魔化そうとするが


「そんな話は聞いていないぞ? なぜそんな重要なことを伝えなかったんだ、姫様? ナナシだってそうだ、なぜ教えなかった?」


「う〜ん、今と変わらないんじゃないかなぁと思います。結局関東圏内は防衛隊で守ってますし、ナナシさんは言わなくても良いと考えたのでは?」


 ふむと豪族は考え込む。たしかにあまり変わらないかもしれない。一生懸命に生きていればよいのだ。


「フフン! たしかに既に制圧が終わっている場所なら問題はないだろうが、このフィールドがなければ安全が確実だとは上は思わん!」


 ゴップがグラスを荒々しく置きながら言う。そしてこちらをギロリと睨んでくる。


「ここまで兵器開発は進んでいる。それは人の知恵であり、決して一人の英雄の力などでは無い!」


 むぅとサクヤの演技に鼻白む遥。このままだと、またぞろ私は必要ないので解放しろキャンペーンが始まりそうである。


 それにもっと重要なこともあるので、ゴップを見つめ返しながら告げる。


「お酒しか飲みませんよね? そのお膳貰っても良いでしょうか?」


 だって、お膳にはアワビの刺身やら、和牛のステーキやらが配膳されており、極めて美味しそうなのだ。人形内のストマック焼却炉で燃やさせるのはもったいない。


 全てをぶち壊す可能性のあるクラッシャー遥であるが、忌々しそうにゴップはご膳をこっちにずらす。


「チッ! いつも決まった栄養食がメインだから、意地汚いんだ。ほら、食うと良い!」


 わ〜いとご膳ごと自分の前に持っていく遥である。それを意外そうに豪族は見て、ゴップへと声をかける。


「良いのですかな? 代わりを持ってきましょうか?」


「いや、別に良い。酒があれば充分だ」


 ついっとお猪口を外国人風な見かけなのに、綺麗な飲み方で口にするゴップ。


「そういえば、姫様、いや、朝倉レキさんとは昔からの知り合いなのですかな?」


 ゴップを探るように尋ねる豪族に対して、冷たい視線をおっさん少女へと向けて答える。


「……成長タイプはあれだけだな……。まさか、海の物とも山のものともわからん実験が上手くいくとは考えもしなかった……」


「成長タイプ? レキさんが成長タイプというのですか?」


 豪族にレキさんと呼ばれると、なんだかムズムズするねと遥は思いながらも、耳をそばだてて話の内容を聞く。サクヤたちはどんな作戦なのかしらん。教えてほしいとクラッシャー遥は懲りずに思っていた。


 豪族の問いかけに、苦々しい表情となりゴップは答えた。


「あれは唯一の成長タイプの戦闘用超能力者だな。初期は極めて脆弱で……最初は成長タイプだとも思われなかった。成長タイプなど役に立たないとも思われていた。あの馬鹿が守らなければ……いや、なんでもない」


 その言葉にピンときた豪族は押し黙る。


「戦闘用超能力者は極めて数が少ない。そして通常は失敗か固定された力しか持たん。そんな偶然を必要とする存在を頼りにするより、兵器群を開発していった方がよっぽど合理的だ」


「同感ですな。ならばなぜそれをしていかないのですか?」


 戦闘用超能力者とはすなわち改造されている人間を示している。それを悟った豪族の問いかけに対して、一気に酒を煽るゴップ。


「その答えが儂だな。戦術室長があとから来るだろう幹部連中のための安全確認を目的とした現地調査の真似事など……。儂は主流派から弾かれた。儂の戦隊は今やたった9人しかおらん」


 なんとそんな設定に! ちょっと脚本見せてくださいとウィンドウ越しにサクヤへと視線を向けるが、サクヤはマイクの前で脚本をガン見しながら、声を吹き込んでいた。


 脚本を指さしながら、この漢字なんて読むんです?とナインに尋ねてもいるので、ハラハラしてしまう遥である。


「今や科学者どもは成長タイプを作ろうとしているが、仮想シミュレーションでも作れんようだ。フン! 馬鹿なことに金をかけおって!」


 ちらりとこちらを見るゴップ。憎しみの中に、なぜかいたわりを感じるという極めて巧みな演技をしてくる。


「え? もしかしてもしかしなくても、レキと遥、両方のスキルを共有して使えるわけ? サクヤとナイン!」


 演技スキルの力を感じて、すぐにその可能性を思いついたので、視線でその推測を送ると、ニヤッとサクヤは笑って親指を立てて見せるのであった。


 なにそれ! チート! チートだよ、ずるいよとチートの塊であるおっさん少女が内心で絶叫している中でも、ゴップたちの会話は続いていた。


「普通の軍人なら、兵器群の開発に力を入れるのでは?」


 当然な豪族の問いかけに


「レキは力を見せつけすぎた。成長タイプの戦闘用超能力者がどれだけの力を持つかを、人々に見せつけすぎたのだ。誤った選択を上が取ると決めてしまうぐらいにな」


 ゴップは会話を続ける。遥は有名なセリフをもじっていたゴップの会話に驚愕する。成長タイプの超能力者は戦争の道具なんかじゃないって、叫びたくて内心でゴロゴロしてしまう。実際に内心ではなくて、畳の上で小柄なる子猫を思わせる可愛らしい体躯でゴロゴロもしちゃう。


 ゴロゴロしちゃう可愛らしいレキへと皆が注目して、キャッキャッと周りの人々が笑顔になり、ゴップたちへの注目がことさら離れる中でも会話は続く。


「まだ他の成長タイプは現れんし、現れても本当にレキと同じように強いのかなどわからん! なによりも平凡なる人間の手で復興は成し遂げねばならん。上はそれが……。いや、なんでもない。どうやら飲みすぎたようだな」


 自分で酒を注いで、またもや一気に酒を煽るゴップ。


「まぁ、儂も軍人の端くれだ。しっかりと命じられたことはこなすつもりだ。関東圏内の安全確認をしっかりとやってやろうではないか」


 そのあとは、今の発言を忘れたようにゴップは傲慢そうに、挨拶にくる相手と雑談をして宴会は終わったのだった。


 豪族だけは厳しい表情で酒を飲んでいたのが印象深い感じではあったが。

 



 夏も真っ盛り、まだまだ日も昇らない朝早く。おっさん少女はナナに拉致されており、むにゃむにゃと夢の世界にいた。ナナの豪邸のベッドは相変わらず柔らかいねとすやすやとおネムな美少女。


 寝室のドアをそっと開けて、ナナが美少女レキの寝姿を確認して、またそっとドアを閉めて出ていく。


「いってきま〜す、レキちゃん」


 小声でそんな挨拶をしながら。


 ナナが去っていくのを感じて、遥はパチクリと目を開ける。


「どこに行くんでしょうか? 私はついていっては行けないのでしょうか?」


 呟くように言う遥へと、サクヤがウィンドウ越しにナイトキャップの先についているボンボンを揺らしながら、眠そうに返事をする。


「ご主人様、仕方ないんです。最近のご主人様の人気っぷりから一人の英雄に頼ろうという他人任せな依存はやめようというキャンペーンなので」


「なにがなんだかわからないので、そちらへと飛びますね。ファストトラベル発動!」


 ベッドから、むくりと起き上がり自宅に飛ぶ遥。そうして、今回の作戦内容をたぶん知るのであった。恐らく、たぶん、メイビー。




 朝露が畑の野菜の葉から流れ落ちるのを見ながら、朝早くにゴップは外に出ていた。


 超電導装甲車の屋根に登り、平和な周りを見渡していた。


「知っとるか? ここは大勢の人間が復興させた街なんだそうだ」


 装甲車の前に佇んでいるゴールドファイターたちへと声をかける。


「知っていますよ。レキ嬢が少し手伝ったようですが、あの男が舵をとって復興させたようですな」


 ゴールドファイターの一人が肩をすくめて返事をするのを満足げに受け止めるゴップ。


「人の手でこそ、復興はなし得る。英雄ではなくて、平凡な人間たちが頑張って復興というものはできるのだ。そこに英雄は必要ないと思わんか?」


「今の大樹じゃ、そんな戯言と言われますよ、室長」


「ふ、そうだな……。英雄創生プロジェクト反対派の頭であった儂も力を失い、今や大勢いた戦隊も解散されて、お前たちのみ……。よくこんな肥えた男についてくるもんだ」


 クククと悪そうに笑うゴップを見て、また他のゴールドファイターがニヤリと笑いながら言う。


「そりぁ、軍人ですからね。英雄嫌いの上司でもついていかないといけないでしょ」


「そのとおりだ。儂は英雄が嫌いだ。希少な英雄とやらを作ろうとする今の大樹は間違っている。これがドローンなどの機械ならば儂は諸手をあげて賛成しただろうがな。だが、子供の命を消費する英雄などいらん!」


「軍人あがったりですからな。英雄などに出てこられたら」


 肩をすくめて、皮肉げに言うゴールドファイターへの発言へ頷く。


「自らの命、生活、守るための戦いは己の力でもぎ取らなければならん! 哀れなる少ない英雄に頼る? 馬鹿馬鹿しい! レキのような者など必要ない!」


「そうですな、憎い憎いレキ嬢には頼れませんな。ご馳走を渡すぐらいに憎い少女には」


 皆が笑いながらゴップへと視線を向けるので、傲慢そうにゴップは配下を見渡す。


「ならばこそ! 我らは軍人としての務めを果たそうではないか! 無駄なあがきかもしれん。だが、平凡なる人間が命をかけてこそ守れるものがあるのだ! 那由多代表は儂の行動を読んでいる可能性は高い……」


 背中に背負っていた超電導アサルトライフルを手に持ち叫ぶ。


「見せてやろうではないか、軍人とは、平凡なる人間とはここまで戦えるとな! 恐らくは儂らは死ぬだろう。だからこそ言おう! 貴様らの命を儂にくれ!」


 ガシャンと装甲車の屋根に銃底を叩いてのゴップの宣言であった。


 ゴールドファイターたちは、その宣言を聞いてビシリと背筋を伸ばして敬礼する。


「ハッ! 我ら戦術室長配下、第五戦隊一同ついていきます! 精々華々しく散って見せようではないですか!」


「よろしい、儂についてくると決めた馬鹿者共! これより儂らは群馬制圧へと向かう! 命令どおりに関東圏内の全ての安全を確認しにな!」


 そうして、整然と用意してあった装甲車に乗り込み、ゴップたちは出発するのであった。


 だが、若木シティを通過して、群馬方面へと向かうところで停止した。陽射しが出てきて、薄暗かった周辺も明るくなる。多少あった靄が消えていく中で、装甲車は靄が晴れてきた道の先を見て停止した。


 靄が晴れてきた先には、装甲車やら兵員輸送トラックなどが停止していたからだ。


 その車両群から、豪族が歩み出てきて、ゴップたちが乗っている装甲車へと声をかける。


「お早い起床ですな? これからどこかへおでかけで?」


 屋根のハッチを開き、ゴップは身を乗り出して答える。


「これから安全確認をしにいくのだ。どきたまえ、百地代表」


 やれやれと首を横に振って豪族はゴップへと悪戯そうに視線をむける。


「どうもあれですな……大樹の本部からくる奴らはアホなお人好しばかりで困っちまいますな。関東圏内なら、案内人が必要でしょう? 俺らもついていきますよ」


「馬鹿め! お前たちはこのまま暮らしていけば良い! 馬鹿な行動は儂らだけで良いのだぞ!」


 ゴップの凄みをみせる怒鳴り声にも動じずに豪族は肩をすくめる。


「残念ながら、俺らも馬鹿な行動が大好きなので。平凡なる人間たちの手で頑張るのはそれ程酷いことだとは思わないのでね」


「レキは助けにはこんぞ? 那由多代表は儂が馬鹿な行動で死ぬことを望んでいるだろうから、決してレキへ救援命令は出すまい」


 脅しを含むゴップの返答に豪族は胸を張って答える。


「俺らが馬鹿な行動をするんだ。死んだら自業自得と諦めるぜ」


「チッ! 報告どおり、このシティはアホなお人好しばかりのようだな。良いだろう、死ぬことはやめだ! 英雄たる力を持たない人間の活躍ぶりを見せてやろうではないか」


「決まりだ! これから俺たちは群馬制圧に向かう! 戦車隊にも秘密な作戦だ! しくじるなよ!」


 お〜!と蝶野や仙崎にナナたちが気合を入れて腕を掲げて、防衛隊を含むゴップ戦隊は一路群馬へと向かうのだった。




「え? なに、この茶番?」


 自宅にて、この光景を見てオロオロとするおっさん少女がいたりもした。

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