23話 おっさん少女のダンジョンアタック
駅前はでかい通りとなっている。2車線の直線道路と周りには様々な店がある。最近は大きな駅では必ずあるどでかい駅ビルが終点だ。
そんな駅ビルに向かう道の前に可愛い少女が立っていた。鉄パイプを担ぎ装甲を張り付けたブレザー。平和な時代なら何のアニメのコスプレですか? とカメラ小僧が寄ってくるだろう服装のショートカットの眠たい目をした美少女。名はレキという。
その中身は残念なおっさんである名は遥と言った。おっさんの名前はいらないかもしれない。
「サクヤさん、なんだか駅前の空間が歪んでいるような感じがするんだけど? 入るの怖いんだけど? 致死系の罠とか初見殺しの地形とかないよね?」
ダンジョン前でヘタるおっさん少女であった。ゲームでも小説でもそういう理不尽な罠がある話があったのだ。警戒心マックスな遥である。
「ダンジョン内は異界化されています。歪んだ空間内は迷宮化していると推測します」
ウィンドウに映った銀髪美女が返答する。
「安心してください。致死系の罠、及び地形は存在しません。そのような致命的な罠などをしかけることができるほどのミュータントならば、迷宮などの罠に力を使わず自分自身の力として使用しているでしょう」
なるほどと納得する遥。言われてみれば当たり前だ。そんなすごい力があるのならば自分自身のために使う。敵が会敵した瞬間に1000万トンの建物を創造し押しつぶしてしまえばよいのだ。1000マンパワーの敵は強敵なのだ。ハリケーンでミキサーにされるかもしれないのだ。
そしてもっとイージーである内容をサクヤが語る。
「また、ダンジョンは迷宮化しておりますが、ご主人様なら壁を破壊して突き進むことも可能です。出る時も勿論壁を破壊して脱出可能です」
1階から無限ピッケルで壁を破壊しながら突き進めるらしい。おっさん少女にとって優しい仕様である。
「そもそもダンジョンの壁も主の力の余波でできているのです。余波ごときではご主人様の力を上回ることなどできません」
なので、安心してくださいね。とニコリと微笑むサクヤである。きわめてできるメイドに見えて遥も少し安心する。
「なので飛んだり跳ねたり建物の上を移動しながら主のところまで移動することを推奨します。もちろんカメラドローンはご主人様が跳んでる下からベストアングルで撮影をします」
変態的な言動を聞いて、できるメイドに見えたのは錯覚だったようだと遥はがっかりした。
「また、主を倒すことによりその周りも徐々に浄化されていくことになります。なので主を倒したらダンジョンは一週間ほどで消え、通常の地形に戻ります」
ほうほうと遥が聞いていると一番気になっていたことを最後に教えてくれる。
「ダンジョンとはいえ、敵は再POPしません。宝箱も同様に中身が復活したりはしないので注意してください」
どうやら、なんどもレアボスを倒したり、宝箱を開けたりできないみたいである。まぁ仕方ないかと遥は納得する。
同じ場所にでてくる経験値が美味いゴーストを何百回も倒して、1階で全ての魔法を使えるようにキャラのレベルを上げるのを基本戦術としている石橋を壊して鉄橋を建ててすすむおっさんは残念に思った。
「その内容なら安心そうだな。さて入ってみますか」
サクヤの内容から、不安が多少薄れて中に入っていくおっさん少女であった。
遥が歪んだ空間をくぐると駅前の道に入る。入った先は直線通りになって駅ビルまで一直線のはずだが、すぐにT字路となっており、ぐねぐねとねじ曲がっていることがわかった。
ジャンプジャンプとベストアングルで何を撮るのかわからないサクヤの声が聞こえるが幻聴である。
車で渋滞している車道をおっさん少女はテクテクと歩いていく。
建物の上を飛んで移動などはしないし、壁を壊して突き進むことをする気もない。
ダンジョンの宝箱は絶対にすべて取るのだ。盗賊の鼻は必須なおっさん少女なのである。
現実では盗賊の鼻系のスキルは持っていなかったので、隅々まで探索して宝箱を全て開けていくことを誓う遥であった。
入ってすぐに車の陰からゾンビが2体現れた。
すぐに身構える遥であるが、いつもとは違うゾンビであることに気づいた。
腐っているのは相変わらずだが、2体とも警官だったのである。
しかも短銃を装備している。
ふらふらと歩きながらこちらに向けて銃を構える警官ゾンビ。
「いきなり銃かよ!」
レキぼでぃは、銃の射線をすぐに判断し、ジグザグに回避を始めた。
アスファルトが壊れる勢いで足を踏み出して高速で移動する遥。
「うぉぉぉ」
叫び声を上げて、パンパンと意外と乾いた音がして警官ゾンビが撃ってくる。
だが、かすることすら許さずに警官ゾンビに接敵する。
「そこは逮捕しますというところでは」
余計なことを言いながら、鉄パイプで1体目を横薙ぎする。そのままスルスルと2体目まで近づいて、あっさりと切り裂いて倒したのだった。
警官ゾンビは、うずくまることもなく、普通に倒せたのだった。サイレンが鳴ると復活をするかもしれないと思っていたおっさん少女は、それをみて安心した。倒した証拠はドロップアイテムが入手できたことからだ。
倒した警官ゾンビが落とした短銃を拾ってみる。
リボルバー式短銃である。中身を見ると4発装填されていた。
どうやら、ダークマテリアルも装備作成ができるらしい。
ダークマテリアル産短銃でも、普通の武器と変わりはない。遥は装備することとした。
「ゾンビを倒して拳銃ゲット! 弾丸も手に入ったよ!」
ちょっと銃刀法違反が怖いがダンジョンなら誰にも見られないだろうと思う遥。
手に入れた短銃に素直に喜んだ。もうスナイパーライフルは使う気ゼロである。後は拾った弾丸を使っていこう作戦である。
さすがおっさんである。現実でも消耗品を抑える優れた思考であった。ちなみにマグナムの弾丸なら拾っても使いません。
ただ、現実ではマグナム弾は普通の軍用ライフルより強いということはないはずだから、やっぱり使うかもしれないと思うおっさん少女である。
2丁を装備して中の弾丸を確認する。もう一丁の銃も4発あった。
遥はレキぼでぃで可愛く首を傾げてみる。
首を傾げた真横を銃弾が通っていった。
前を見るとおかわりがやってきていた。またもや警官ゾンビたちである。うぉ~うぉ~言いながら足を引きずりやってくる。勿論、気配感知に引っかかっていたので余裕をもって回避した。素晴らしい高性能美少女ボディである。
「警官ゾンビばかり? おかしくない?」
疑問を持つ遥にサクヤがあっさり教えてくれる。
「恐らく主の力ですね。縄張り内のゾンビが変異していると思われます」
なるほどなるほどと、縄張り内の主以外のミュータントは主の傾向によるんだろうと推測する遥。
ますますゲームじみている。後、弾丸ストックし放題だとほくそ笑むおっさん少女である。
後、ゾンビだから仲間にはできないねと、遥は異界化している所だから仲間にできる敵がいるかもと期待を密かにしていたのだった。その場合は悪魔を使役できるプログラムが必須であるが。
勿論、仲間にするのは女性キャラばかりにするつもりである。リリスとサキュバスは確定だ。次点でピクシーと雪女。
戦闘中もしょうもないことを考えるおっさん少女であるが、すぐに装備した短銃で警官ゾンビを撃つ。
有り余る器用度で全弾ヘッドショットだ、サイトが絞り込むのを待つまでもない。と遥は撃ったが予想外のことが起きた。
全弾ありえない外れ方をしたのである。ちゃんと狙ったはずなのにと、再度撃つが、撃つ反動のせいなのかまたもや外れたおっさん少女のショットである。
銃で攻撃するのは止めて、縮地がごとく移動を開始する遥。
レキぼでぃはアスファルトを蹴り砕きながら、接敵してあっさり警官ゾンビを切り裂いた。
戦闘終了後に遥はなぜ外したのか考察する。サイキックブリッツは軽く命中するのだ。銃も同じ狙い方で大丈夫なはずであった。
嫌な予感が遥の頭を走る。
嫌な予感だけは当たるおっさんである。
「サクヤ、なぜ銃が当たらなかった? もしかして銃を扱う知識がないから?」
たしか銃術というスキルもあったことを確認していたが、スキルを取らなくてもレキぼでぃの器用度なら余裕で当たると考えていたのだ。何しろ銃は引き金を引くだけである。
後は精密機械のごとし器用度で敵を狙えばいいと思っていた。
だが、外れまくった現状を考えた遥がサクヤの解答を待つ。
「その通りです。銃を扱うには銃術スキルが必要ですね」
何を言っているのだ? という顔でサクヤが予想通りの答えをしてきた。
遥は気づく。レキぼでぃはレベルが上がるごとにスキルを割り振り強くなるゲームキャラなのだ。
反対に言うと、レベルが上がりスキルを割り振らないと強くならないぼでぃなのである。
おっさんぼでぃは、その点、行動による経験でスキルなどが取得できる性能を持っている。すなわち未知の技でも見ていれば、ステータスに従いある程度使えるのだろう。
レキぼでぃの意外な弱点であった。
これまでは体術と棒術で戦っていた。短剣術も取っている。恐らく体術は適用範囲がでかいのだ。回避も受け流しも移動も全て体術が関係するのだろう。
だから気づかなかったのだ。たぶん剣を使えばへろへろの素振りしかできないだろうと遥は確信した。
慌てて保留していたスキルポイントを使う。スキルポイントは9残っている。
「銃術LV3まで取得!」
6使い一気にレベル3まで上げる。
おっさんらしからぬ贅沢に使った理由は、銃は外すと銃弾が減るからである。
絶対に外したくないセコイおっさんは銃術を3まで上げたのであった。
「おめでとうございます。ご主人様、これで凄腕のガンマスターですね」
小声で貴重な弾丸を外して涙目になるご主人様を見たかったとサクヤが言っているのも聞こえた。
やはり敵は身近にいたかと遥は思いつつダンジョン探索を開始するのであった。