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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
14章 北海道に行こう

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231話 おっさん少女は雪中戦闘を行う

 洞窟を抜けると雪国だったという小説を遥は思い出していた。古い有名な小説だと思っていたが、よくよく思い出してみるとトンネルだったかもしれないかも。虚ろなる記憶をサルベージしてみたが、よくよく思い出してみると、その小説は読んだことがなくて、サビのフレーズだけなにかで聞いたんだねと、故障したハードディスクとタメを張るおっさん少女が立っていた。


 どこに立っているのかというと、北海道大ダンジョンの空間結界を超えた先。


 すなわち、ダンジョン攻略に乗り込んだおっさん少女である。


 意気揚々とダンジョンに入り込んで、宝箱を漁ろうと小説の冒険者みたいな考えをした遥は中に入り込んで絶句して、先程の小説だかの内容を思い出していたのだ。


「ねぇ、サクヤ? あと一月待てば、夏になるし、この景色は変わるかなぁ? 日本晴れに変わるかなぁ?」


 目の前を見ながら、微粒子レベルの期待を持ってサクヤに困った表情で問いかけるおっさん少女。


「ご主人様、残念ながら氷雪吹きすさぶ凍土エリアに入りました。雪耐性のない者への継続ダメージ、ステータス大幅ダウン、移動力大幅ダウンですね。ちょっとしゃれにならないエリアかと」


 少し不安げな表情で、新エリアの存在を告げてくる銀髪メイドなので、遥もサクヤの表情を見て不安になる。なにせ、真面目な表情以上に滅多に見せない表情なのだから。


「この寒さに耐えるために着込んでしまうと、ご主人様の可愛さがカメラに写りません。これは致死的エリアですね」


「うん。不安になった私の思いをドブに捨ててくるね、この銀髪メイドは」


 不安げな表情は、このエリアでぶくぶくにおっさん少女が着込んでしまうのを恐れていたサクヤ内の問題であるからして、なんでこんなに残念極まりないメイドなんだろうと、遥は大きくため息をつく。


「まぁ、でも着込まないと駄目そうなエリアではあるよね」


 ウィンドウから目をそらして、前方を見渡すと、一面銀世界であり吹雪となっていた。


 氷雪エリアに遂に入り込んだと思われる。かなりの気合いをボスは入れて、ペナルティの大きいエリア作成したのだろう。もうこの先には進ませないという執念が目の前の吹雪から感じられた。


 放置していたのは失敗だったかもと一瞬思うが、最初からこんなエリアだったかもしれない。いや、きっとそうだったんだ、私は悪くありませんと自己弁護をして、放置していた責任は取りたくないおっさん少女である。


 吹雪を観察すると、そこまで雪は多くはなく、遠くまでなんとか見れているが、曇天は消えることはなさそうなので、解放しない限り、永遠に吹雪が発生する場所だ。


 まるで雲の上からかき氷機で氷を削っているように舞い散る粉雪はレキの子供のような温かい皮膚に触れると簡単に溶けて冷たい水となり、身体に痺れるように纏わりつく。


 通常の雪ならば、たとえ豪雪でも凍りつくどころか、裸でも風邪もひかない健康少女というか、超常少女だ。裸になると変態メイドが興奮して、倒れるかもしれないが。なのに寒さを感じて、皮膚が痺れるように寒いということは、この雪は氷の超能力攻撃だとわかる。


 継続ダメージになるほどには体温は奪われそうにないが、それでもちょっと寒さは面倒だ。外は梅雨となり来月には夏に入るのに。まぁ、ステータスダウンは効かないから気にしないが。


 面倒だなぁ、放置していたのは、全部昼行灯が悪いんです、謎の避難民生活を楽しんでいた私のせいじゃないもんと、子供っぽく唇を尖らせるが、それで状況が変わる訳でもないので


「レキ。敵を倒しつつ、宝箱を回収して柔軟なる臨機応変な行動をとっていこう」


 とっていこうというが、遥が身体を操作するつもりは毛頭ない。作戦でもなんでもない無茶ぶりをした遥へと素直にコクリと頷く良い子なレキ。


「では、この雪上を移動できるか試してみま」


 ズボンと身体をほとんど雪の中に入れるレキ。


 東京砂漠のように、すぐにこのエリアに適応するために足を踏み出したが、一歩目で予想外にも身体を埋めてしまう。


 少しだけ綺麗で細い眉をピクリと動かして、動揺の表情を浮かべる。体術スキルは9レベルであり、こんな無様に雪に潜り込むことなどありえない。


 肩から上しか雪からのぞいていない、子供が積もった新雪に入っちゃった状態のレキは、駄々をこねるように、バタバタと可愛らしく手を動かす。


 パラパラと積もった雪がレキの前に舞い散るのを、ジッと確認して、鋭く突風を巻き起こすように手を突き出すと、ブワッと眼前の雪は吹き飛び消えていく。


 グーパーと紅葉のようなちっこいおててをしながら、今の感触を確かめる。


「旦那様、この雪は感触が変です。まるで積雪された雪は抵抗感がありませんし、舞い散る雪も感触が冷たさしか感じませんでした」


「ん〜? それはどういうこと? 幻影ということなの?」


「いえ、超能力による移動制限をかける雪ですね。本物でありながら、物理抵抗を感じさせないので、積雪に踏み込むと空気のようにすり抜けながら、雪による抵抗感が潜ると発生します。なかなか考えられた超能力ですね」


 へ〜、さすがはレキ、僅か一歩で敵の考えを見抜くなんて、名探偵みたいで凄いと感心する、まったく今の行動の意味を考えなかった遥。潜って寒いなぁ、珍しくレキは失敗したのかなとしか思わなかった、たぶん探偵が話している間寝ているだろう駄目なおっさんである。


「そして、どうやら敵はこの地形に合わせた武装のミュータントというわけね」


 ぴょこんと雪から覗かした頭を前方に向けると、ホバークラフトであろう脚部に装甲をつけて、バーニアらしき突風を噴出しながら、白い毛皮の敵がこちらへと雪原を移動しながら近づいていた。


 雪原を滑るように、雪を蹴散らしながらホバー移動で近寄って来るのは体格は3メートルほど、白き毛のけむくじゃらな猿であった。骨組みだけの装甲を着込んでおり、アサルトライフルらしき物を持っている。


 雪原のあちらこちらから、レキへと向かってくる数は数百はいるだろう。ダンジョンに入ってすぐに迎撃に来るところを見ると、かなりの敵の本気度がわかった。


 こちらは雪に潜ってしまい、ほとんど身動きできないし、できてもノロノロと動くことしか普通ならできないけど……。


 眠そうな目を敵軍に向けて、小さく小首を傾げて苦笑いを浮かべて


「……どうやら、ここのボスはまったく情報をヨク=オトースから貰っていなかったんだね。いつ頃の情報を最新だと思っているやら」


 情弱とは軍にとって致命的なんだなぁと、相手に同情心すら感じられて、薬指をソッと掲げる。


「恐らくは私たちがダンジョンにいた時の戦闘方法しか知らないのでしょう。優れたスキルを持っていても、崩れた知力では猫に小判ですね」


「そうだね、私たちの知力の高さを見せてあげよう」


 自信満々に告げる遥だが、その場合はレキの知力の高さを見せることになるのではなかろうか。なにしろステータスの項目に知力の項目はないのであるからして。


「了解しました、旦那様。ヴァルキュリアアーマー展開」


 その言葉を合図に、閃光弾のようにカッと眩い光が生み出される。レキを中心にその光は周辺まで広がり、その光の中で戦乙女のアーマーへと変身するレキ。


 その言葉を合図に、レキを中心にカメラドローンを素早くベストアングルで撮影させるべく移動させるよだれを垂らしそうなサクヤ。そろそろサクヤは通報してもいいかもしれない。


 いつもの戦乙女の装甲服を着込んだレキへと近づいていた敵が銃を構えて叫びと共に撃ち出す。


「モンキー!」

「モモンキー!」

「スノーモンキー!」


 タタタと軽い銃声音と共に、超高速で弾丸が撃ち出されて、吹雪の中を舞い散る雪を吹き飛ばしながらレキへと向かってくる。


「ヴァルキュリアウィング展開」


 シュワッと空気を抜くような音がして、背中から神々しい光の翼がレキの装甲から生み出されて、雪を舞い散らしながら、レキは上空へと素早く離脱する。


 レキがちょこんと埋まっていた場所に爆発音が鳴り響き、雪の中に、クレータが作られたが、既にもぬけの殻である。


 空中へと飛び出しながら、舞い散る吹雪の圧を感じ、高機動にて直角に移動し鋭角に空へ光の軌跡を残して移動する。そうして移動しながらフォトンライフルを構えるレキ。


「たしかにダンジョンでは飛ばなかったけど、う〜ん、せっかくかなりのリソースを食って作られたと思われる雪原の概念を無駄にして、正直お疲れ様でしたという感じだよね」


 ホバー移動していた猿たちが、敵が空へと逃れられて動揺の姿を見せる。やはり空中を飛行できるのは想定外であった模様。根底から敵の作戦が覆ったのである。ゲームならば、ここで空を飛べれば簡単にクリアできるのにと歯噛みするシーンで実際に空を飛んでしまうレキであったので、飛行不可の概念も必要であった模様。


「ご主人様! 敵の名前はスノーモンキーと名付けました! イエティとどちらにしようか迷ったんですが、私の優れたネーミングセンスがスノーモンキーと決めたんです!」


 フンフンと鼻息荒く得意げな表情のサクヤであるが、敵の叫び声を聞いてから決めたよねとジト目で見つめてしまう。そんな視線はサクヤにはご褒美にしかならないので、そのまま嬉しそうな表情へ変わり、話を続けてきた。


「あと、あちらの山裾らしき場所に待機しているのが、オスクネータンク、身体を丸めて擬態しているつもりな雪玉っぽいのが、キャノンシロクマ、所々雪の中に隠れているつもりなのがスライムゾンビと名付けました!」


 一気に名付けをして、今日は凄い嬉しいですと頬を紅潮させて幸せそうな銀髪メイドがそこにいた。


 少しの沈黙を持って、遥は嘆息しつつサクヤへとねぎらいの言葉をかける。


「うん、気配感知で全部モロバレだもんね、奇襲攻撃をしようとしても無駄だから、先に名付けしてくれてありがとう。でも、一応は、うわっ! 雪の中からスライムを表皮にしたゾンビが現れた! とか、驚こうと思ったんだけど? ネタバレすぎる感じもするんだけど?」


 Oh〜と肩をすくめかぶりをふるサクヤ。なんとなく頭を叩きたい苛つきを覚える遥にドヤ顔で言う。


「だって、驚く前に必ず全滅させてしまいますよね? 私の名付けが勝ちました」


 どうやら名付けることもできずに、敵が全滅するのを恐れていた模様。


 たしかにレキなら全滅させるだろうから、むぐぅと反論できずに口を封じられる遥であった。


「旦那様、キャノンシロクマはオーブ付きですので、フォトンは通じませんが他は問題ないです」


 レキの言葉に頷いて、遥も推察したことを言う。


「この間の反攻作戦は在庫一掃セールだったのかもね。全てを新型に変えるときに、旧型を全て廃棄する人って、たまにいるんだよ、私はやったことないけど」


 たとえ一角獣が活躍する時代でも旧型は使えるんだよと、もったいない精神な遥である。


「では、その新型も無意味であると知らしめましょう」


 タタタと軽い音がして、現代の銃ではありえない超高速の弾丸の嵐が飛来してくるが、嵐の隙間を的確に見抜き、レキはその隙間に小柄で愛らしい体躯を滑り込ませながら反撃する。弾幕ゲームでも当たらないと豪語する少女なので、スノーモンキーの攻撃などは簡単に回避する。


 超高速の弾丸は吹雪の中で、粉雪を蹴散らしながら、空気に穴を空けるように飛来するのだが、まるで銃弾が発生させている突風に煽られる羽毛が如く、フワリと身体を躱し、目の前数センチを銃弾が通過していっても、恐怖に駆られることも、動揺をすることもなく、眠たそうな目で銃弾が通り過ぎることを確認すると、フォトンライフルの引き金をひく。


 銃口から発射された銃弾はすぐに白き光のエネルギーへと変換されて、ホバーにてジグザグに高速移動をしているスノーモンキーの頭を確実に、まるで敵から当たりに行っているが如く次々と命中させて、ただの一撃で撃破していくのである。


 技巧の極地に入るレキの美しさすら感じる芸術的射撃であった。


「むぅ、前回の失敗をしっかり反映させているな。敵が少しずつ少しずつ出てくるね」


「そうですね、旦那様。どうやら大群では超能力で一気に撃滅されると学んだのでしょう。本来の戦場では少しずつ兵をだすのは愚策ですが、私たち夫婦だけですから疲労や力が尽きるのを狙っていると思われます」


 なんとも忌々しい限りだが、たしかに効果的かもしれないと遥は思った。だけど、こちらは戦闘民族であるし


「回復薬も一ダース持ってきているからなぁ。奴ら回復されるという考えはないのかしらん?」


「ダンジョンで回復薬を使ったことはありませんでしたし、どうやらここのボスはダンジョンの中だけしか情報を持っていないのでは?」


「あ〜、たしかにそうかも。ダンジョンアタックをいきなり高レベルのプレイヤーがやってきたら、ダンジョンマスターは困ってしまう感じか」


 なるほどなるほどと納得して頷く遥。たしかにダンジョンアタックは最初は弱いプレイヤーがしてこないと困るだろうし、どんな攻撃をしてくるのか確認して対応を考えるタイプなら力を見せないで戦うおっさん少女は相性が悪すぎる。


「まぁ、しょうがないか。現実ではダンジョンマスターは経験値を稼げる冒険者はいませんでしたとかいう感じかな」


 小説が書けそうな名前だが、たぶん3話ぐらいで、ダンジョンマスターが死ぬか共存を選んで終わってしまいそう。


 そんないつも通りのくだらないことを考えていたら、レキは身体をブレるように超加速を行い、今までいた空間から移動する。


 そして、今までいた空間が大爆発を起こすのを見て、のんびりと語ってきた。


「どうやら対生物用近接信管も搭載されたミサイルを配備されたようですね。ですが、少し敵の様子が変です、旦那様」


 珍しく戸惑いの声をあげるレキに遥が聞き返す。


「ん? なにが変なの? なにか凄い武器がありそうだとか?」


「いえ、敵の一部が変なんです」


 ついっと可愛らしいちっこい人差し指をスノーモンキーの一部に指差すレキ。なんだなんだ、もしかしてレアミュータントが混じっているのかなと遥はそのスノーモンキーに注目するが


「なにあれ?」


 なぜかスノーモンキーは身体を雪の中に潜らせて、雪を掻き分けながら緩慢に歩いていた。小柄なレキの体躯と違い、巨体なスノーモンキーは足が埋まる程度だが、それでも全然動けていないので、あっさりフォトンの銃弾で撃ち抜き倒す。


「はぁ? 敵がこのようなエリアを作ったんでしょう? ん〜、もしかしてもしかするとこのエリアの概念はヨク=オトースが生きていた頃に作ったのかな? いや、たぶん絶対にそうだ!」


「ヨク=オトースが生きていたら、状況が変わったんですか?」


 銃弾の嵐を物ともせずに回避しながら、フォトンライフルを撃ちまくるレキが可愛らしく小首を傾げて尋ねてくる。


「うん。たぶんこのエリアはヨク=オトースがいてこその概念だったんだな。恐らくは敵もヨク=オトースが死んでからしばらく経過したあとに、弱点に気づいたんだと思うけど、もはや完成させてしまったので、変更が無理なんだろうね」


 ふふっと、小さく桜のような可憐な笑みを浮かべて


「私の計算どおりといったところかな」


 フンスと息を吐き、ドヤ顔になるおっさん少女であった。

 

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